【インタビュー】庭から世界へ。カマキリと歩む(カマキリ写真作家 髙橋ユタカ・マキリ)
本記事は「虫撮り機材ガイド」のインタビュー編です。
十数年前の冬、家の壁にしがみつく一匹のオオカマキリ。その最期を見届けた体験をきっかけに「LIFE」をテーマに撮影を続けるカマキリ写真作家の髙橋ユタカ・マキリさん。命の輝きと儚さをカメラに刻み続け、フランスで写真本の出版や個展開催まで果たしたその歩みに迫りました!
髙橋ユタカ マキリ(Takahashi Yutakamakiri)

主な被写体はかまきり。
2020年フランスIKI出版よりカマキリ写真本「MantisReligiosa」を出版。
X : https://x.com/yutakamakiri
■主な撮影機材
RICOH PENTAX K-3,K-3II
smc PENTAX DFA MACRO 100㎜ WR
PENTAX HD DA 35㎜ MACRO Limited
――ドラマチックなお写真が多いですが、特別なフィールドで撮影されているんですか?
髙橋:ほとんどが庭か半径1㎞以内の近場なんです。24時間勤務なので休みの時に家の周りを徘...巡回しています。緑がたくさんあるので割と遭遇率は高いですね。
その時々で違う表情をとらえることができるので、1日に何回か、自宅近辺を時間をおいて見て回ります。
――お庭などで撮って、この壮大な世界観になるんですか…特に撮影する被写体は、やはり…!?
髙橋:カマキリ全般です。家の周りで見かけるのカマキリは多い順に①オオカマキリ②ハラビロカマキリ③チョウセンカマキリ④コカマキリですが、1度だけムネアカハラビロカマキリ(外来種)を見つけたことがありました。
――カマキリ大好きです!髙橋さんは、どこに魅かれますか?
髙橋:妙に人間臭いところがたまりません。それとちょっと猫っぽいところも魅力的です。でも一番の理由は身近であるがゆえに、命をつなぐ様子を見せてくれるところですね。

――愛用の撮影機材を教えてください。選んだ理由などもぜひ!
髙橋:
カメラ:RICOH PENTAX K-3とK-3II
レンズ:
smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WR
HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited
smc PENTAX-D FA MACRO 50mmF2.8
ストロボ:LEDハンドライトいろいろ
もともとは子供たちの成長記録用に、入門用のダブルズームキット(PENTAX K-x)を購入したのが始まりでした。
――はじめからカマキリ撮影をしていたわけではなかったんですね。マクロレンズを手に入れたきっかけは何だったのでしょうか?
髙橋:虫のためというよりはいろいろなレンズが欲しくて安い中古レンズをさがしていた時に花を撮るならマクロレンズがいいのかな?と興味を持って購入したのが35㎜でした。
虫を撮るためではなく、いろいろなレンズを試したいと思って安い中古レンズを探していました。そのときに「花を撮るならマクロがいいかも」と興味を持って手に入れたのが35㎜マクロですね。
――もし花にハマっていたら“ユタカマキリ”という異名も生まれなかったかもしれませんね(笑)。新機材はいまも探しているんですか。
髙橋:機材は10年以上使っているものばかりなので壊れたら新調したいですけど、お金のかかることなので、あるものを大切に使っていけたらと思います。
――堅実に使い込む姿勢はユタカさんらしいです。お持ちのマクロレンズは、どのように使い分けていますか?
髙橋:両方とも近接できるとはいえ、ボディは2台ありますのでそれぞれに35mmと100mmを装着して、まず100㎜からカマキリを驚かさないように撮り、そのあと35mmでひたすら寄ります。

設定は両方ともSS1/200、F5.6、ISO400
髙橋:同じように5~60cm離れたところから撮ると、35㎜では広い範囲がとれますが被写体は小さくなります。対して100㎜では大きくアップされて写ります。これはズームレンズで35㎜から100㎜に望遠ズームしたのと同じことなので理屈はわかりやすいですね。
私が最初に100㎜で撮ってそのあと35㎜で寄っていく手法なのは、より遠くから写せる100㎜で被写体を警戒させずに写してから徐々に距離を縮めたいからだったりします。威嚇写真を撮る時とか場合によってはわざと警戒させることもありますけど…

両方ともSS1/200、F5.6、ISO400
髙橋:被写体を同じくらいの大きさに撮った場合、左の35㎜では10㎝程まで近づいていますが右の100㎜では35㎝程離れて撮影することができます。
左の35㎜では背景が(割と)くっきり見えますが、右の100㎜ではぼやけて見えるのがおわかりでしょうか。
同じように、写る大きさを大体同じにして比較した写真が次の2枚になります。

両方とも SS1/200、F5.6、ISO100
髙橋:35㎜では背景の枝葉がくっきりと写っていますが、100㎜では背景の枝葉がぼやけて写ります。
深く考えすぎず、複数のレンズで撮った中から気に入ったものを作品化するというのが一連の流れになっていますね。割と結果オーライな感じではありますが偶然性も生まれやすく、時々自分でもびっくりするような写真が撮れていることもあります。
カマキリの作例が撮れたので…

SS1/200、F5.6、ISO250

SS1/200、F5.6、ISO250
髙橋:好みにもよるかと思いますが周囲の情景を含めた写真を撮りたい場合は35㎜に分がありますね。100㎜は小径って言わないとなんだかわからない感じです。
綿密に計画して撮っているわけではなく、割と曖昧に感覚で撮っている部分も多いですが参考になれば幸いです。どのやり方がよい、というのは答えが出ないことですし、撮影者の数だけやり方があると思います。人の写真を真似するのも勉強になるでしょうし、ただ模倣することに面白味を感じないなら、独自の路線を突っ走るというのもありだと思います。臆せずにどんどん撮っていってもらって自分の写真が一番好き!っていう気持ちになってもらえたら最高ですね!
――ストロボはLEDハンドライトを使っているとのことですが用途って?ライティングも気になります。
髙橋:夜間の足元照らし用(笑)でもありますが、夜間のメインライティングとして使っています。よりドラマチックな印象を得るための光の角度、当たり具合は気にしています。
――構図や背景など、撮影時に気をつけていることはありますか。
髙橋:ピントをどこに合わせるかが一番気になるところで、構図や明るさ、被写界深度なども考えます。順光よりも逆光や斜光が好きなので背景はあまり気にしません。
――背景はを気にしないのは衝撃の事実です。あの小さくも奥行きと壮大さを併せ持つドラマチックな雰囲気は「ユタカ流」だと思っていました。独特な世界観を表現するために、特別な撮影方法や工夫があるんですか?
髙橋:ごく一般的に手に入る機材しか使っていないので、これといった特殊な撮り方はありませんが、たくさんの道具をそろえて撮るよりは少ない機材で工夫して代用します。
ただ、壊れた三脚に自転車用のライトホルダーでLEDハンドライトを取り付けたりもしています。それと、木蔭などでのシルエット写真を撮るときは玉ボケの中に被写体が収まるようにしたりとか…背景はその時の気分で『これ面白いかも!』とか思いながらいろいろ試してます。計算とかとはちょっと違いますがそういった意味では背景、気にしてますね(笑)



――撮影時のピント合わせや、ブレを防ぐために意識していることはありますか?
髙橋:私はブレを最小限に抑えるためにも息をこらえて撮影します。呼吸しながらピントを合わせようとしたこともあるのですが、自分は息を止めたほうが集中できるので苦しいですけど頑張ります(笑)あと利用できるものは何でも使って手ブレしないようにも気を付けています。地面にはいつくばって肘をついたり、時にはカメラボディを地面につけて固定したりもします。(汚れや傷はついちゃいますけど…)
――手ブレとピンボケは虫撮影ではシビアですよね…RAW現像や写真の編集はしていますか?
髙橋:撮影時に全部決めるのは自分には無理なのでざっくりと撮影して、明るさなどはPCでRAW現像します。抽象的な表現も取り入れています。

――以前、フランスで写真本が出版されていました。夢のような話なんですが、制作経緯について教えてください。
髙橋:以前フランスのIKI出版から日本人写真家を対象とした猫の写真集作成プロジェクト(猫プロジェクト)の公募があったのですが、その内容が、30枚まで応募できて最低でも1枚以上掲載してもらえるという太っ腹企画。自分もあわよくば30枚…( ´艸`)なんて応募したものの結果は1枚だけ掲載。『そりゃそうだよなー、でも記念になったからいいや』なんて、届いた写真集を見ながらニマニマしていたら、アートディレクターのソフィー・カヴァリエロさんからメッセージが…
『猫プロジェクト参加ありがとう。ところで君のカマキリ写真いいね。私にいいアイディアがあるんだけど…写真本出すのはどうだろう?』
『まさか詐欺じゃないよね?』なんてほんの少し頭をよぎりましたが、信頼できる会社だと思っていたのでほぼ二つ返事でお願いさせてもらっちゃいました。


髙橋:きっかけはちょっとした挑戦。そこからアートディレクターの目にとまりフランスの出版社から写真本の出版が決まるというウソみたいなホントの話。人生何が起こるかわかりませんね。ただ、遠隔ということもあり、アートディレクションのほとんどをソフィーさんに依頼、一部通訳さんを介してのビデオ通話での打ち合わせとなりました。そのなかで、候補となるデザインを複数作成したりしてくれたのはソフィーさんで、私がしたことといえば候補の写真400作の提出とデザインの選定、あとはあとがきを書いたくらいです。
私自身の渡仏はかないませんでしたが、出版後もIKI出版のサポートでフランス国内での個展を3回開催してもらいまして、フランス国内での美術館等での販売や、イベント、そのほかの写真展での販売もしてもらっていますが、日本国内での出版にはまだ至っていないのでいつか出版したいと思っています。
――うわあー!すごいお話です。写真本を出してみて状況や心境で変わったことはありますか。
髙橋:写真本を出してもスタンスは変わらず、できる範囲で撮影、アウトプットする感じです。心境的には日本で出版したいという夢はありますので、出版社の公募に挑戦したりしていますが、まだお声かけは頂けていません。
――国内でも頻繁に写真展などに出展されていますよね。
髙橋:写真展出展を通しての横のつながり、時にはアートディレクター、ギャラリーオーナーとのつながりを得られることもあります。その方々からのアドバイス等もあり観てくださる人たちの立場で俯瞰できるような視点も少しずつ身についてきたように思います。
――今後、国内外で写真集や個展を出すご予定はありますか。
髙橋:国内では自分の予算がとれない以上出版社と交渉することは難しいので、自費出版という形になると思います。個展についても同様で、ハコ代、プリント代が用意できないので個展開催は道のりが遠そうです。でもやりたいとは思っています。
出版についてもフランスではIKI出版の企画本プロジェクトに乗っかる形での参加掲載はありました。詳細は不明ですが今後も何かしらのプロジェクトは考えてくれているとのことでした。
――楽しみです!ところで特に印象に残っている虫撮影のエピソードはありますか?
髙橋:十数年前の初冬、家の壁にしがみつくメスのオオカマキリに出逢い、そのいのち尽きるまでを撮影したことから、改めて『いのち』について考えるようになり、『LIFE』をテーマにカマキリを撮り続けています。


――たしかにユタカさんのお写真からはカマキリの生きざまが感じられます。カマキリ撮影を続ける中で、自分なりの「LIFE」の表現に変化はありましたか。
髙橋:前よりも『死』を写し表現するようになり、タブー視しなくなりました。以前は見たくない人もいるだろうからという気持ちが強く、SNSを含め表現し人に見せるうえでタブーだと感じていたからです。


――特に思い入れのある一枚についても教えていただけますか?
髙橋:夜、停車した自家用車のルーフにしがみついていたハラビロカマキリを手持ちのLEDハンドライトで照らしながら撮影したものがPENTAXのフォトコンテストで入賞、初めてのことだったのでとてもうれしく、ますますカマキリ撮影にはまっていきました。

――最後に、これから虫撮影を始める方へ。機材選びや心構えについてお願いします!
髙橋:身の丈に合った機材で楽しめばいいのではないでしょうか。新品、高機能にこだわらなくても十分に楽しめますよ~
また、機材にとことんこだわる、生き物の生態を忠実に記録していくのもいいですし、他にもフォトコンテスト入賞を目指したり、アートとして表現していくとか、いろんな楽しみ方があって当たり前、自分に合う楽しみ方を見つけるのも写真の醍醐味ですよね!

――ありがとうございました!
髙橋ユタカ マキリ(Takahashi Yutakamakiri)

主な被写体はかまきり。
2020年フランスIKI出版よりカマキリ写真本「MantisReligiosa」を出版。
X : https://x.com/yutakamakiri
Instagram:https://www.instagram.com/yutakamakiri/
facebook(カマキリ作品ギャラリー / 個人アカウント)
https://www.facebook.com/yutakathemantisphotographer
https://www.facebook.com/yutakamakiri
写真本(France)
https://ibashogallery.com/publications/314-mantis-religiosa-yutaka-takahashi/
