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正しいピボットを繰り返すと、最初のアイデアが消えていく

大企業で新規事業をやっていると、最初に考えていたものが、いつの間にか別のものになっていることがある。

温めていたアイデアを社内のアクセラレーターに相談する。

すると、

「もう少し市場を広く見た方がいい」
「こちらの顧客層の方が成立しやすい」
「この形なら事業計画にできます」

と、ピボットが続いていく。

もちろん、どれも間違ったアドバイスではない。

アクセラレーターにも役割がある。
事業を興したい人を支援し、実際に事業化につなげることが仕事だ。

だから本人が一番やりたかったことよりも、事業として成立しそうな形へと少しずつ整えられていく。

次に、社内稟議が始まる。

「何をやりたいのか」の後には、

いくら必要なのか。
いつまでに回収できるのか。
何年で黒字になるのか。

かなり細かく聞かれる。

そして筋が良さそうだとなれば、今度は、

「もっと予算を入れたら、どれくらい早くできる?」

という話になる。

経営と話をすればするほど、事業のクロック数は上がっていく。

これもまた当然だと思う。

会社のお金を使う以上、経営が事業性を確認するのは当たり前だし、可能性があるなら早く伸ばしたいと考えるのも自然だ。

そして、ようやく市場に出る。

最初の顧客が一社、あるいは一人だったりすると、その人の言葉はとても大きい。

「ここを変えてほしい」
「こういう機能が欲しい」

まだ顧客がほとんどいないからこそ、その声に真剣に向き合う。

それもまた、正しい。

こうして、アクセラレーターの意見を聞き、経営の問いに答え、最初の顧客に向き合う。

一つひとつは、事業を成功に近づけるための合理的な判断だ。

それなのに、正しい判断を積み重ねていくうちに、最初に自分がやりたかったものから少しずつ離れていくことがある。

この感じは、少し子育てにも似ている。

子どもが「これをやりたい」と言った時、周囲の大人はたいてい善意でアドバイスをする。

「こっちの方が将来役に立つよ」
「せっかくならもっと上を目指したら?」
「失敗しないように、まずこれをやった方がいい」

どれも間違いではない。
でも、正しさを重ねるうちに、本人の「やりたい」が薄くなってしまうことがある。

新規事業も同じなのかもしれない。

口を出さないのが正解でもない。
むしろ経験者の助言で、大きく前に進むこともある。

だからこそ、ときどき立ち返る場所だけは残しておいた方がいいのだと思う。

最初に書いた企画書でも、殴り書きのメモでもいい。

「そもそも、自分は何を変えたくてこれを始めたのか」

それを、どこかに置いておく。

ピボットするたびに元へ戻る必要はない。
ただ、ときどき現在地と原点を見比べる。

そのくらいの距離感が、ちょうどいいのかもしれない。