鴉の4thホールワンマンの話
【鴉というバンドの4回目のホールワンマンライブについて振り返っているだけの雑文】
鴉という秋田のバンドを関西から追い回していたら、干支がひと回りしていた。
2026年8月11日、鴉が4回目となるホールワンマンを開催した。場所はお馴染み、あきた芸術劇場ミルハスの中ホール。
4回目ともなると客側も慣れたものだが、それだけに、今回はいったいどんなライブになるのだろう、どんな演出を見せてくれるのだろう、と期待が高まる。
各地のファン仲間と挨拶しあい、事前物販のTシャツタオルラババンで正装して席につく。秋田のイラストレーターさんが手掛けたというメンバーのイラストは可愛らしかった。個人的には過去イチ好きである。物販列に特大サイズで貼り出されていて、ちょっとした撮影スポットになっていたのが新鮮だった。
開演の少し前、場内アナウンスが流れた。ぼんやりと聞き流していたら、ギターボーカルの近野さんであることに気がついてはっとした。ミルハスは、もう始まっているのだ。
鴉はこの夏、わらび座という秋田の劇団とコラボレーションしてイメージソングを書いていた。
そのミュージカルの映像が紗幕に流れ、更にメインキャストが2人現れ挨拶するというサプライズ演出。ニクい。実に心憎い。
鴉が秋田と繋がっている、と思った。
鴉、ホールワンマンライブ2026「おかえりの在り処」。
開演。
紗幕にモノクロの映像が流れる。カラスが映り、ミルハスが映った。これまでのライブを音と映像で目まぐるしく駆け抜け、コラボ曲〈黒紙の魔術師〉のMVに繋がる。
静寂にひと声、カラスが鳴いた。
紗幕の向こうにメンバーが現れて、2026年のミルハスワンマンが始まった。
1曲目の〈僕達〉でいきなり涙腺が壊れた。
2019年の秋冬、「鴉より皆様へ」と題されたツアーで演奏し、東名阪秋田の各会場で特典として配られた、手焼きのCD。そのツアーファイナルで当時サポートだったベースの古谷さんが正式加入し、直後にコロナ禍でライブハウスが沈黙を強いられるようになった、あの、曲。
鴉メンバーとフロアをまるっと含めて指した「僕達」ということば。最後の「いつの日か訪れるさよならにただいまを渡そう」という歌詞は、このワンマンと新音源のタイトル「おかえりの在り処」の由来でもある。
ステージ奥のスクリーンに手書きの歌詞が流れた。頭が真っ白なのかいっぱいなのかわからないまま、釘付けにされていた。
「おかえり!」
近野さんが叫ぶ。
ここに来たあかしを残して! と続けた〈あかし〉でとどめを刺された。2曲目の私はずっと泣いていた。
ずんと沈んだベースから始まる〈花びら〉。Aメロの近野さんがいつもより色っぽく見えた。最初から飛ばすと宣言してぶちこんだ〈憧れ〉に、受けて立つと拳を突き上げた。
無理はしなくても良いが抑えつける必要もない、とMC。どこのライブでもよく言っているが、今日ばかりはいやに刺さった。全部放り出して暴れても良いのだと思った。
しかしそれにしても、「いろんな年代の人がいるから、上がる腕の角度には個人差がある」は余計である。私はまんまとムキになり、肩と肘から千切れるんじゃないかというほど腕を振り回す羽目になった。
新曲でコラボ曲の〈黒髪の魔術師〉。絶対にバチっと腕をあげたいと、MVで予習して臨んだ。曲と一体になれた気がして満足する。
再びベースから始まる〈転落劇〉。ベース始まりの楽曲はなんだってこう格好良いのだろう。サビの「真っ逆さまに」で近野さんがぐいっと叩きつけるように真下を指すのが見どころだが、「真っ赤な嘘」で歌舞伎のような大見得を切ってみせたのはちょっと笑ってしまった。
真夏にまさかの〈春〉。ラスサビ前のワンフレーズをドラムの千葉さんが歌うのがすっかりお決まりになった。それを近野さんと古谷さんが目立たせるように両端に寄るのが、またエモい。
バラード〈優しい歌〉でしんみりとしたあと、間髪入れずに〈劣等星〉でまたギアを上げる。夏が終わる前にと〈蛍〉で腕を回す。中ホールを揺らせと散々煽られた〈居場所〉では言われる前から飛び跳ねて、〈覚醒〉の超絶ギターを眼に焼き付ける。
最後の「あなたは目覚めたんだ」で古谷さんがぐるりと客席を指したのには痺れた。下手全部を使って動く表情豊かなベーシスト、良い。
ところで、ギターチェンジの間に珍しく突然喋り出した千葉さんが、今作の功労者であることが判明した。
この日、5曲入りのミニアルバム「おかえりの在り処」がリリースされた。その1曲目でこの日の1曲目でもあった〈僕達〉 は、千葉さん曰く「淳一さんが忘れてたから聴かせて思い出させた」ので「世に出せて感無量」とのこと。
グッジョブ、千葉さん。〈僕達〉は紛うことなき名曲です。
流れでほとんどの物販紹介をした古谷さんが、可愛いイラストを元に社会人コミュニケーションの難しさを語ったのには笑ってしまった。古谷さん、確実にだんだん話が面白くなっている。ジワるタイプのMCである。
その古谷さんが活躍するのが〈戦いの歌〉。Aメロ冒頭のベースが凄まじすぎるので必ず下手側を凝視する。ライブハウスでもホールでも、それは変わらない。
続く〈序章〉、Cメロの手拍子に「ウォーオー」というコール&レスポンス。近野さんが煽り、古谷さんが両耳に手を添える。最後に音を止めて、声だけがホールに響いた。
ひとつになれて、嬉しかった。
ギターを戻す間を繋いだのは、ドラムとサポートキーボード。サポートが入ったとはいえ、この組み合わせは珍しい。そして聞き慣れないコードだなと耳を澄ましていたら、ここで〈秋田県民歌〉。この曲が定番になるロックバンドなんて、日本中探しても鴉だけだと思う。かくいう私は1番をほぼ歌えるようになっていた。関西人のくせに。
誰からともなく、客席が腕をゆっくりと左右に振りはじめる。近野さんが「実ってる」と笑う。
定番曲〈巣立ち〉のコルレスでは、近野さんがなんとハンドマイクで中央に進み出てきたので色めき立った。ドロドロしたやつをぶつけていけだの、ロックバンドはストレスを解消しないといけないだの、ドスの効いた声で独特の煽り芸をかまし、何事もなかったかのように通常運転のギターボーカルに戻っていった。下手の古谷さんがそれを見てずっと笑っていた。
残り2曲、〈綱渡リサ〉で酔わせにかかる。次回のアルバムに入るというこの曲は、私が2019年の初披露からずっとリリースを待ち続けている大好きな曲である。バックスクリーンに流れた歌い出しの歌詞が「舞っていた」であることに気づきテンションが更に上がる。音だけ聞いて、「待っていた」だと思っていた。なんだか曲の世界が開けたような気がして、この妖しい音に深入りしたいような衝動で、なにもかもを忘れて踊り狂う。
本編最後は〈夢〉。場所に絡めて変わる歌詞は、「ここは、おかえりの在り処!」だった。
盛大な拍手の中、いつものラフさで3人がはけていく。
逃がしてたまるかとアンコールの手拍子。客席の興奮を映してか、心なしかテンポが速い。でも絶対に、緩めてなんかやるものかと思った。なにがなんでもこのままのテンポで迎えるんだと思った。意地だった。今日を待ち侘びたファンとしての。
戻ってきたメンバーはバンT姿に変わっていた。衣装は黒基調でかっちりしていることが多いので、毎度のことながらギャップにほっこりする。
アンコールは〈主題歌〉と〈黒髪ストレンジャー〉。2018年のイベントで限定販売され、満を持して今回の音源にも入った懐かしい曲。それから、何百回聴いてもいちばん好きな、鴉の定番曲。
ホールワンマンなのに協賛企業がない、と、近野さんは言った。だから、ファンが協賛みたいなものだと。
でも、と私は思った。劇団とコラボし、バスケチームに楽曲提供をし、CMソングに採用され、地域のお祭りで歌い、ホールワンマンで県民歌を歌い、鴉は秋田に住みながら根を張っている。そうやって地元と繋がっている。
しかしそれにしても、〈黒髪ストレンジャー〉の最後の歌詞を「スポンサーが、欲しい!」に変えてきたのはさすがに笑った。なんでやねん。
最後はもちろん、写真撮影。
撮影の掛け声をなににするかでコントが発生した。メンバーの「ただいま!」に客席が「おかえり!」と返すかとまとまりかけたところで、コンセプト的に逆じゃないかと申し立てがあり、「あ」の口になるがそれは良いのかと古谷さんが確認し、挙句近野さんが「なんでそんな難しいことを言うんだ」と嘆いたところで、「おかえり!」「ただいま!」に落ち着いた。どこまでいっても愉快なバンドである。ステージじゃあんなにバチバチで格好良いのに。
ただいま!
全員でそう笑って、4回目のホールワンマンが写真になった。
メンバーが、今度こそステージを後にする。古谷さんが去り際に言い残した。
「終わったらステージ撮っても良いですよ。なにか出るかもー」
そのままゆっくり幕が下りる。
そして紗幕に、メンバー3人のサインが映し出された。粋な演出に、客席がまた沸く。
最後の場内アナウンスは古谷さんだった。
かくして、終演。
並行して制作が進んでいるという、新しいアルバムが楽しみだ。
今年の冬に企画するという、名古屋大阪でのワンマンが楽しみだ。喜びすぎて、私は写真撮影のために広げかけていたタオルをそのまま頭上に掲げて飛び跳ねた。
いつだって、今がいちばん格好良い。
今年も最高のホールワンマンを、ありがとう!

《おまけ:過去の模様はこちら》
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