見出し画像

コース料理の一皿ずつに提案されるティーカクテルで、茶の新たな魅力を発見(静岡市)|令和静岡茶紀行

茶葉からお茶を淹れる機会が減り、急須が家庭から消えつつあるいま、茶のあるくらしの愉しみを教えてもらおうと、新たなお茶の提案で、豊かなひとときを提供する人々のもとを訪ねました。(ひととき2025年9月号特集「令和静岡茶紀行」より一部抜粋)

「静岡では生活のなかにお茶が当たり前にありすぎて、わざわざお金を払って飲むという考えが薄い。だから最初、お茶を使ったカクテルをつくっても誰も注文してくれなかったんです。それなら付加価値をつけて振り向いてもらおう。ドリンクのプロとしてのチャレンジです」

 茶室をイメージした空間に、シェーカーやカクテルグラスが並ぶ。茶釜と薬研と隣りあう大きな鉄板で、「NO’ノンAGEエイジ concentréコンセントレ」亭主の井谷匡伯まさみちさんが静岡牛を調理する。大胆に、繊細に。和と洋、新と旧、さまざまなものが混在し調和する、不思議で居心地の良い場所だ。

亭主の井谷さん。季節やお客の年齢層、好みに合わせてカクテルの内容を変え、驚きの一杯で楽しませてくれる

 この店が特別なのは、前菜からデザートまでのコースディナーを楽しめることだ。「チャレンジ」というのはその一皿ずつに、井谷さんが提案するティーカクテルがペアリングされていること。爽やかさが重奏し、香ばしさが共鳴する。カクテルと料理が互いを引き立て合い、そして茶の新しい魅力を引き出す。

この日のメインは、浜松市の峯野牧場の牛赤身肉のロースト。フォンドボーや赤ワイン、芋焼酎、ウイスキー、山椒、鰹節を合わせた重層的な味わいのソースがかかる。ペアリングするのは、富士市のほうじ茶を使ったオリジナルのジン×ギネスビール×すだち×ミントのカクテル。爽やかな飲み口が、肉のうま味と深みあるソースを引き立てる。ノンアルコールに変更可能

 かつては料理人としての修業も積んでいた井谷さん。オーセンティックバーを20年以上経営した経験を発展させ、バーテンダーが茶を使ったカクテルやモクテル*に、本格的な料理を合わせて提供する世界のどこにもないこの店を開いた。

*ノンアルコールカクテルのこと

スペシャリテの「かつおの藁焼きステーキ風」と、プーアール茶×メスカル(メキシコ原産の蒸留酒)×ミョウガのカクテル。合わせるとほんのり、りんごのような風味を楽しめる

「今、『お茶の時代』が来ていると私は感じています。お茶は健康的だし、香りも良くておしゃれだと若いひとは受け止めていて、興味がとても高まっている。何もかもが便利な世の中になったからこそかえって、手間をかけてお茶を淹れたり、ゆっくり味わったりすることに注目が集まっているのかもしれません。私はバーテンダーとして長い経験があるからこそ、今のひとたちが求めるもの、例えば味わいの引き出し方、これからの可能性など、お茶の魅力を伝えられると思っています。そんなことができる、これからの時代が楽しみなんですよ」

1煎目はそのまま玉露を、2煎目をカクテルにした「玉露のウォッカマティーニ」

 亡くなった井谷さんの父は、静岡の茶農家に技術指導し、品質を高めるコンサルティングを仕事としていたそうだ。「もっと父にお茶のことを聞いておけばよかった」と井谷さんは笑う。だが父の茶への思いは、井谷さんのカクテルに今も満ちている。

文=瀬戸内みなみ 写真=須田卓馬

──この続きは本誌でお読みになれます。茶の都・静岡県で茶畑の風景を求めて幻の茶産地といわれる地域を巡り、茶のあるくらしのたのしみを教えてもらうため茶園やティースタンドを訪ねました。全国の作家のこだわりの茶器を集めたお店もご紹介しています。身近にある“お茶”の魅力を再発見する旅へ──。

▼ひととき2025年9月号をお求めの方はこちら

<目次>
[PART1]茶畑で芽吹くお茶への愛
[COLUMN]茶商に聞く、静岡のお茶
[PART2]お茶を愉しむ
 令和 静岡茶紀行〔案内図〕

NO'AGE concentré
☎054-253-6615 
[所]静岡市葵区鷹匠2-5-12
[時]ランチ12時一斉スタート(土・日曜限定/要予約)、ディナー18時一斉スタート 
*BARTIME火~日曜。ディナー予約がない場合は18時~24時(最終入店23時)、予約がある場合は21時~24時(最終入店23時)
[休]月曜、不定休あり
https://www.barnoage.com/

出典=ひととき2025年9月号

いいなと思ったら応援しよう!

ほんのひととき 最後までお読みいただきありがとうございます。いただいたサポートは、ウェブマガジン「ほんのひととき」の運営のために大切に使わせていただきます。