【第14話】あの4日間で、私たちは少しだけ遠くなった
楽しみにしていた再会なのに、
なぜかうまく噛み合わないことが
ある。
相手は何も変わっていない
はずなのに、
自分の感じ方だけが変わってしまったような、そんな感覚。
あのフランスでの4日間は、
まさにそんな時間だった。
イギリスから飛行機で約2時間。
私はシャルル・ド・ゴール空港に到着した。
本当は、
空港まで迎えに来てくれる「はず」
だった。
でも前日になって、
「学校が終わるのが遅いから、
オペラ座前でね!」
とメールが来ていた。
——もし、
あのメールを見ていなかったら。
私は、彼女に会えていなかったと思う。
繰り返しになるが、この頃はまだ
スマホなんてない。
イギリスで友達のパソコンを見ていなかったら、気づくこともなかった。
⸻
不安なまま、
バス乗り場を英語で聞いた。
でも返ってきたのはフランス語。
焦っていると、
たまたま日本人を見つけて
バス停を教えてもらった。
なんとかオペラ座までは辿り着いたけど——
彼女はいなかった。
「どうしよう…」
そう思った瞬間、さっきの日本人が別の友達と合流しているのが見えた。
思わず、その人に声をかけて
彼女に電話してもらった。
やっと、繋がった。
助かったはずなのに——
なぜか、少しだけモヤモヤしていた。
⸻
そのあと、彼女のアパート近くのカフェでお茶をした。
久しぶりの再会のはずなのに、
私は少しだけ気を使っていた。
会話の中で、
彼女は何度もこう言った。
「ここはね、私のお気に入りなの」
「フランスでは普通こうするの」
「このあとも、こっち行きたいな」
どれも、間違ってはいない。
でも——
私のことを気にかける言葉は、
ほとんどなかった。
長旅で疲れていないか、とか。
ちゃんと来られたか、とか。
そういう一言は、なかった。
⸻
翌日。
彼女は学校があるから、と
一枚のメモだけを残して、
早々に出ていった。
そこには、学校の名前と最寄駅だけが書かれていた。
「夕方、ここに来て」
それだけだった。
⸻
私はひとりで外に出た。
せっかくパリに来たんだから、と
ルーブル美術館へ向かった。
——はずだった。
でも、途中で何度も道に迷った。
駅も分からない。
切符の買い方も曖昧。
誰に英語で聞いても
フランス語で返ってくる。
不安だった。
彼女に電話しようと思った。
でも、
テレホンカードの買い方すら
分からない。
どこで買うのかも、
どう使うのかも分からない。
⸻
やっとの思いでカードを手に入れて、
電話をかけた。
繋がった先は、彼女じゃなくて——
日本だった。
思わず、彼に電話していた。
迷ったこと。
不安だったこと。
うまくいかないこと。
全部、吐き出した。
⸻
しばらく黙って聞いたあと、
彼はこう言った。
「ワーホリで、強くなったな」
「前やったら、泣いてたやろ」
⸻
その言葉を聞いたとき、
少しだけ、自分のことが分かった
気がした。
たしかに、泣いていなかった。
不安だったし、怖かったけど——
ちゃんと、自分でここまで来ていた。
⸻
そのあと、私はまた歩き出した。
観光バスに乗ろうと思って
チケット売り場で声をかけた。
フランス語で「英語は話せますか?」と聞くと、
「君の挑戦がよかったから、
ディスカウントね」
そう言って、
バス代を半額にしてくれた。
ひとりで乗った二階建てバス。
凱旋門、エッフェル塔、ノートルダム寺院。
どこを見ても、
ちゃんと“パリ”だった。
でも——
その景色を見ながら、
私は少しだけ思っていた。
本当は、誰と見たかったんだろう。
⸻
夕方、なんとか学校に辿り着いた。
無事に合流して、そのまま一緒に街へ出た。
彼女が「映画を見よう」
と言ってくれて、
『プラダを着た悪魔』を観た。
あの映画はフランスで大きな展開が起こる。舞台がフランスになった
時点で観客がフーと喜びの声を
上げていた。
その“同じ場所”に自分がいることが、
嬉しかった。
でも——
隣にいる彼女との距離は、
昨日より近づいた気がしなかった。
⸻
3日目も、ひとりだった。
ふらっと入ったパン屋で
大きなフィナンシェを買った。
びっくりするくらい美味しかった。
そのあと、マーケットで
洋服を売っているおばあちゃんに
声をかけられた。
フランス語で何か話しかけられて、
流れのまま試着をした。
たぶん、
褒めてくれていたんだと思う。
言葉は分からなくても、
なぜかちゃんと伝わってきた。
嬉しくて、その服を買うことにした。
するとおばあちゃんは、
ぎゅっとハグをしてくれた。
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言葉が通じなくても、
ちゃんと通じるものがある。
そんなことを、少しだけ思った。
⸻
夕方、彼女と合流して
家の近くのレストランへ行った。
出てきたサラダには、
強い香りのチーズが入っていた。
たぶんヤギのチーズ。
ひと口食べて、驚いた。
その後はただ、
息を止めてチーズを流し込んだ。
⸻
そのあと、彼女の友人が合流して
クラブへ行った。
音楽も、雰囲気も悪くなかった。
でも——
私は、全然楽しくなかった。
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ひとりで過ごしていた時間の方が、
ずっと心が軽かった。
そう思ってしまった時点で、
もう分かっていた気がする。
⸻
最終日。
フライトが早かったから、
まだ暗いうちに準備をして、
ふたりでバス停へ向かった。
特別な会話は、
ほとんどなかった。
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彼女が悪いわけじゃない。
平日に来た私が悪かったのだろう。
ホテルに泊まればよかった。
いっそ、ベルギーに行けばよかった。
そんなことを、ぼんやり考えていた。
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バスが来て、私は乗り込んだ。
小さく手を振って、別れた。
それだけだった。
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帰国してからも、
しばらく連絡は取っていた。
でも、
もう前のように戻ることはなかった。
⸻
あの4日間で、
私たちは少しだけ遠くなった。
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