見出し画像

ルーシーショーの唐揚げと邪宗門のカプチーノ

「唐揚げにごはんって合わなくない?」

妹に散々そう言ったくせに、それを注文する私。

我ながら矛盾の塊だわ。


── お昼どこで食べよう?

勤め始めた会社の周りにはたくさんの飲食店が軒を連ねている。よりどりみどりというのは、実は困ったりもするものだ。

昼休みは一時間。
急がないと…。

とりあえず、会社の近くの小洒落たCAFEに入ってみる。

「いらっしゃいませ!」

ルーシーショーという店名と薄暗い店内、壁にはネオンサイン。

私には場違いな気がして少しドキドキする。その鼓動を気取られぬよう、わざとゆっくりと席に着く。

「ご注文が決まりましたら呼んでくださいね。」

そう言って置かれたのは、水の入った真っ赤なプラコップ。

思わず二度見する。

もう30年以上も前の話だ。

当時、私は、プラコップと言えば、幼い子どもが使うものと思っていた。

プラコップから飲む水は、ガラスのグラスで飲むのとは、なんとなく違うような気がした。

…気のせいか。

「お待たせいたしました。」

頼んだ唐揚げランチがテーブルに置かれた。


学生時代、お昼はお弁当だった。フルタイムで働く母が作るお弁当は、唐揚げとハンバーグが一日おきに入っている。

母の唐揚げは薄味で、冷めるとさらにそれが顕著になる。

母に伝えると、唐揚げの日は、白いご飯に海苔とおかかが乗るようになった。


そんなことを思い出しながら、揚げ立ての唐揚げを頬張り、立て続けにご飯を口に運ぶ。

ふうん…悪くないわ。

揚げ立てのうえに、しっかりとした味付け。白いご飯に合わないわけがない。

外食の経験が浅かった私には、この唐揚げもプラコップも、ちょっとした衝撃だった。


ああ、コーヒーも飲みたい。
美味しいやつ。

ルーシーショーを後にして、足早に向かった先は、邪宗門という喫茶店。

ここの珈琲が美味しいという上司の立ち話を聞き逃さなかった。

木製のドアから続く狭く急な階段を上がって二階へ。

いつもはコーヒーといえば、ブレンドをブラックで飲む。でもこの日は、店の独特の雰囲気に、何故か別のスイッチが入ってしまう。

── カプチーノを。

…カプチーノを頼むなんて。
唐揚げといい、
今日はホントどうかしているわ…。

そんなふうに思いながら、ひと息つくと、ぼやけていた店の中が視界に立ち上がってきた。

所狭しと並ぶ骨董品。
壁には、直に書かれた落書きと絵画が自然に共存している。

レトロと呼ぶのはあまりに軽く、広くない空間には、歴史の重みが詰まっているかのようだ。

ここに座っているとまるで時が止まったかのように錯覚する。

シナモンと珈琲。
甘く香り高い、邪宗門のカプチーノ。

そこに流れる濃密な時間を味わうには、当時の私には少しばかり大人な飲み物だった。

…いけない、時間だ。

いつまでも味わっていたい、あの店だけに流れる時間に無理矢理別れを告げて会社に戻る。

ふと、来た道を振り返る。
もしかしたら、もうその喫茶店が無いような気がして。

この日、私の中で何かがアップデートされた。




今回は、「#エッセイしりとり」企画のバトンが、仲良くさせていただいている青瞳さんから回ってきましたので、参加させていただきました😊

今回はエッセイということもあり、わたしとしては、しっかりと書きたいという思いもあって、少し時間をかけました。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

そして、すでに締め切り間近でもあるので、ここでバトンを静かに置きたいと思います。

ありがとうございました✨


そして、今回、サムネイル画像に、初めてnoteの「みんなのフォトギャラリー」を使いました。

自分の手持ちには、イメージに合う写真がなかったんです。

探しているうちに、とても素敵なお写真に出会いました✨

志乃嘉乃(しのよしの)さんのお写真を使わせていただきました。

ありがとうございました✨


#エッセイしりとり
#エッセイ
#昭和レトロ
#純喫茶
#喫茶店
#邪宗門
#ルーシーショー

いいなと思ったら応援しよう!

杜まひろ|Mahiro.Mori いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!