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【組織開発プロフェッショナルを目指す方へーVol.71】3.2-1 Consulting & Business Partnering:HRは「依頼に応える」存在か、「問いを定義する」存在か


なぜ書くか

様々な情報が飛び交う現代において、人事(HR)に求められる役割は年々高度化しています。一方で、日本に住む約1億人の多くが、グローバルでの最新のHRの取り組みやアカデミックな知見に体系的に触れる機会を十分に持てていないのが現状です。

Every Inc.では「日本のHRをもっとグローバルに」というビジョンを掲げ、グローバルな取り組みや学術的文献、先端企業の実践事例をもとに、HRに関する知見を発信しています。

本ブログでは、「日本ならでは」「日本では難しい」という枠組みではなく、“グローバルスタンダードとしてのHR・組織開発"を軸に、

  • なぜ今、その理論が重要なのか

  • 組織で何が起きているのか

  • HRはどのような問いを立てるべきなのか

を整理していきます。本ブログでは、CPTDの能力要件を軸に、
組織開発を支える理論と実務をつなぐ視点を提供しています。
少しでもこの領域を楽しんでくださる方が増えたら嬉しいです。

※CPTDとは

ATD(Association for Talent Development)は、世界最大の人材開発(Talent Development)に特化したプロフェッショナル団体であり、個人・組織の能力開発に関する国際的な標準をリードしています。そのATDが提供するCPTD(Certified Professional in Talent Development)およびAPTD(Associate Professional in Talent Development)は、人材育成・組織開発・学習設計・パフォーマンス改善といった領域において、実践力と専門性を証明する世界有数の資格です。

本記事は、CPTD能力要件 "3.2 Consulting & Business Partnering" の各論①です。ここで問われるのは、HRは単なる「実施部門」なのか、それとも「戦略的パートナー」なのかという本質的な立ち位置です。


ケース:「若手の主体性が低い。研修をやってほしい」

ある事業部長がHRに駆け込んできました。 「最近の若手は指示待ちばかりで主体性が低いんだ。マインドセットを変える研修を企画してくれないか」

HRの立場で感じる「貢献への意欲」

「事業部の課題解決に貢献できるチャンスだ。すぐに最新のワークショップ形式の研修を企画しよう」と、HRはスピード感を持って実行に移します。参加者のアンケート満足度も高く、HRは手応えを感じます。

3ヶ月後の事業部長の「落胆」

ところが、事業部長の反応は冷ややかなものでした。 「研修は楽しかったみたいだが、結局現場は何一つ変わっていない。やっぱり研修なんて意味がないのかな」

HRは困惑します。一生懸命に応えたはずなのに、なぜ価値が認められなかったのでしょうか。


1. Consulting と Partnering の違い

CPTDでは、この2つの概念を次のように整理しています。

  • "Consulting(コンサルティング):" 明確な開始と終了を持つ「プロジェクト型」の支援プロセス。

  • "Partnering(パートナーリング):" 継続的な信頼関係の中で、共に価値を創り続ける役割。

つまり、コンサルティング・スキルを使って個別の問題を解決し、その積み重ねによってパートナーとしての関係性を築いていく。この両輪がHRBPには不可欠です。


2. コンサルティングの5フェーズ:なぜ解決策から始めてはいけないのか

ピーター・ブロックの理論を基に、CPTDでは以下の5段階を示します。

  1. "Assess the need"(ニーズ把握)

  2. "Understand the issue"(課題理解)

  3. "Present findings"(示唆提示)

  4. "Develop & implement solution"(解決策実行)

  5. "Evaluate results"(評価)

多くのHRが陥る罠は、①〜③を飛ばして、いきなり④の「研修という解決策」に飛びついてしまうことです。これを "Solution Jumping(解決策への飛躍)" と呼びます。


3. プロセス・コンサルティング:答えではなく「問い」を届ける

エドガー・シャインは、コンサルタントが「答え(研修など)」を一方的に持っていくのではなく、組織が自律的に問題を解決できる状態を支援する「プロセス・コンサルティング」の重要性を説きました。

研修を設計する前に、HRが問い直すべきだったのは、例えば以下のような構造的な要因です。

  • そもそも「主体性」とは、現場のどの行動を指しているのか?

  • 上司のマネジメントスタイルが、若手の思考を奪っていないか?

  • 失敗が許されない文化が、挑戦へのブレーキになっていないか?

  • 評価制度が、言われたことだけをやる人間を優遇していないか?

これらを確認せずに研修を実施しても、現場の「構造」が変わっていないため、行動は元に戻ってしまいます。


4. Trusted Advisor:耳の痛い問いを投げられるか

CPTDでは、HRを "Trusted Advisor(信頼される助言者)" と位置づけます。信頼を築くのは過去の成果やビジネス理解ですが、その真価が問われるのは「クライアントにとって耳の痛い真実を、適切なタイミングで投げられるか」という点にあります。

「研修をやる前に、マネジメント層の指示命令の出し方を見直しませんか?」

この一言を言えるかどうかが、実施部門とコンサルタントの分かれ道です。


5. まずHRは何をすべきか:御用聞きを卒業する3ステップ

事業部長からの依頼を「価値あるプロジェクト」に変えるためのアクションです。

ステップ1:依頼をそのまま受け取らず「深掘り」する

「研修をやりましょう」と言う前に、「なぜ今、それが必要だと思われたのですか?」と背景を徹底的にヒアリングします。

ステップ2:現場の「真の所有者(Owner)」を特定する

問題に困っているのは誰か、変化を望んでいるのは誰かを明確にします。HRが勝手に解決するのではなく、現場のリーダーを巻き込む設計にします。

ステップ3:スキルの問題か、構造の問題かを切り分ける

「できない(スキル不足)」のか、「やらない(動機・環境不足)」のか。もし後者であれば、解決策は研修ではなく、制度や文化への介入になります。


6. 組織開発プロフェッショナルが立てるべき問い

次回の面談で、ぜひ以下の問いを投げかけてみてください。

  1. 私たちは「表面的な事象」を扱っているのか、それとも「根本原因」を扱っているのか?

  2. この問題の真の所有者(オーナー)は誰ですか?

  3. 変化を阻害している「目に見えないシステム」は何ですか?

  4. これはスキルのギャップですか、それとも構造のギャップですか?

  5. もし「何もしない」という選択をした場合、何が起きますか?


本章の位置づけ:課題を「再定義」する存在へ

3.2 の導入編が示唆するのは、HRの介在価値は「研修の実施」にあるのではなく、課題を「正しく再定義すること」にあるという点です。

HRは、依頼に応える存在から、共に問いを定義する存在へ。 コンサルティング・プロセスを正しく踏むことで、HRは初めて事業の成果に責任を持つパートナーになれるのです。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。 次回は、"3.2-2 Influence & Stakeholder Management" ーーーなぜ正論では人は動かないのかを扱います。

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執筆者紹介:松澤 勝充

神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供する Berkeley Hass Global Access Program にJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。

2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶHRBP講座などを展開している。

保有資格:
SHRM-SCP(SHRM)
CPTD(ATD)
Senior Professional in Human Resources – International (HRCI)
Global Professional in Human Resources (HRCI)
The Science of Happiness(UC Berkeley)他

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