【組織開発プロフェッショナルを目指す方へーVol.41】2.1-1 How People Learn(人はどのように学ぶのか)ーーーなぜ「理解したはず」の知識は、現場で使われないのか
なぜ書くか
様々な情報が飛び交う現代において、人事(HR)に求められる役割は年々高度化しています。一方で、日本に住む約1億人の多くが、グローバルでの最新のHRの取り組みやアカデミックな知見に体系的に触れる機会を十分に持てていないのが現状です。
Every Inc.では「日本のHRをもっとグローバルに」というビジョンを掲げ、グローバルな取り組みや学術的文献、先端企業の実践事例をもとに、HRに関する知見を発信しています。
本ブログでは、「日本ならでは」「日本では難しい」という枠組みではなく、“グローバルスタンダードとしてのHR・組織開発"を軸に、
なぜ今、その理論が重要なのか
組織で何が起きているのか
HRはどのような問いを立てるべきなのか
を整理していきます。本ブログでは、CPTDの能力要件を軸に、
組織開発を支える理論と実務をつなぐ視点を提供しています。
少しでもこの領域を楽しんでくださる方が増えたら嬉しいです。
※CPTDとは
ATD(Association for Talent Development)は、世界最大の人材開発(Talent Development)に特化したプロフェッショナル団体であり、個人・組織の能力開発に関する国際的な標準をリードしています。そのATDが提供するCPTD(Certified Professional in Talent Development)およびAPTD(Associate Professional in Talent Development)は、人材育成・組織開発・学習設計・パフォーマンス改善といった領域において、実践力と専門性を証明する世界有数の資格です。
本記事は、CPTDの能力要件に基づく
2.1 Learning Sciences の各論:How People Learn です。
1. 「学んだ」と「できる」は、まったく別物である
多くの学習施策は、次のような状態で評価されがちです。
分かりやすかった
参考になった
知識が増えた
しかし学習科学の視点では、
「理解した」ことと「行動として使える」ことの間には、大きな断絶がある
と考えます。この断絶を理解しないままでは、どれだけ研修を重ねても、現場は変わりません。
2. 学習とは「記憶」ではなく「再構成」である
Learning Sciences が示す重要な前提は、
学習とは、
新しい情報を足すことではなく、
既存の理解を書き換えるプロセス
だという点です。人は、
何も知らない状態
白紙の状態
から学ぶのではありません。
すでに持っている前提・経験・思い込みの上に、新しい理解を再構成する
のです。
3. なぜ誤解は「修正」されにくいのか
一度形成された理解は、簡単には書き換えられません。
自分なりにうまくいっていた
過去の成功体験がある
周囲も同じやり方をしている
こうした要因が、
誤った前提を、正しい前提よりも強固にする
ことがあります。そのため学習設計では、
「新しい答え」を教えるより、「今の前提」を揺さぶる
ことが重要になります。
4. 認知負荷理論(Cognitive Load Theory)
How People Learn を理解するうえで欠かせないのが、認知負荷理論(Cognitive Load Theory)です。
人のワーキングメモリには、明確な限界があります。
情報を詰め込みすぎる
一度に多くを求める
と、学習は起きません。CPTDでは、認知負荷を次の3つに分けて考えます。
Intrinsic Load(課題そのものの難しさ)
Extraneous Load(設計の悪さによる負荷)
Germane Load(理解を深めるための負荷)
HRが設計で減らすべきなのは、Extraneous Load です。
5. 転移(Transfer of Learning)が起きない理由
学習施策の最大の課題は、
学んだことが、実際の仕事に「転移」しない
ことです。転移が起きない理由は明確です。
学習の文脈と現場の文脈が違う
使うタイミングが設計されていない
周囲の環境が変わっていない
つまり、
学習単体では、行動は変わらない
のです。
6. 学習は「一回完結型」では成立しない
人は、
一度聞いて
一度やって
変わることはありません。Learning Sciences では、
学習は、時間をかけた反復とフィードバックによって定着する
と考えます。
間隔反復
実践
振り返り
これらがセットになって、初めて「使える知識」になります。
7. 社会的文脈が学習を左右する
人は、孤立して学びません。
上司はどう評価するか
周囲は使っているか
失敗しても大丈夫か
こうした社会的要因が、
学習したことを「使うかどうか」を決める
重要な条件になります。そのため学習設計は、
個人だけでなく、周囲の環境まで含めて考える
必要があります。
8. HR・組織開発にとっての示唆
How People Learn を理解することで、HRの役割は大きく変わります。
教える人 → 学習環境を設計する人
研修提供者 → 行動変化の支援者
CPTDが求めるのは、
「学ばせるHR」ではなく、「学びが起きる条件をつくるHR」
です。
9. 組織開発プロフェッショナルが立てるべき問い
How People Learn の視点から、HR・組織開発プロフェッショナルは次の問いを立てます。
何を「理解させたい」のではなく、何を「変えたい」のか
既存の前提は何か
認知負荷を増やしていないか
転移が起きる環境は整っているか
これらの問いが、学習施策をイベントから変化へと変えます。
10. 次につながる視点
人がどのように学ぶかを理解すると、次に必要になるのは、
「その学びを、どう設計するか」
という視点です。次回は、
2.1-2 Motivation, Engagement & Learning Design
として、
動機づけはどこから生まれるのか
エンゲージメントと学習の関係
強制ではなく参加を生む設計
を扱っていきます。
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執筆者紹介:松澤 勝充

神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供する Berkeley Hass Global Access Program にJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。
2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶHRBP講座などを展開している。
保有資格:
SHRM-SCP(SHRM)
CPTD(ATD)
Senior Professional in Human Resources – International (HRCI)
Global Professional in Human Resources (HRCI)
The Science of Happiness(UC Berkeley)他
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