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『アララトの風』(黄金を纏う少年王)…

風は、遥か西方の山から吹き始まった。その名はアララト山。

古き聖書の箱舟伝承が語る聖なる山、その地を人々は「ウララト(Urartu)」と呼んだ。

大洪水後の文明、鉄と神の記憶をたずさえた人々の出立の地、それは記憶から遠ざけられた古き王国。

第一章 ウラルトゥとイシン

紀元前12世紀、メソポタミアでは殷の本国、イシン帝国の都が滅び、バビロンが揺れ、祭祀者たちは聖宝を抱き抱えながら東へ、東へと逃れた。

天然の障壁、天山山脈を越えて辿り着いたのは青きイッシク湖の南岸。そこで箕子国(キシ・グク)が建国される。

同じ頃、鉄器文明を拓いたヒッタイト帝国が滅び、その混乱のなか、傘下のフルリ人・ハッティ人たちは散り、アララト山周辺に「ビバイナ(後のウラルトゥ)」を築く。

建国者はアラム王。彼はウラルトゥの主神であり太陽女神アラメアを祀り、自らを神と王の狭間に置いた神王。後にヴァン湖の畔にシャリアルディ神殿を築く。

紀元前7世紀、ウラルトゥの南ではメディア・バビロニア連合によってアッシリアの帝都ニネヴェが崩れ、北からは騎馬のスキタイが雪嶺を越えて迫りくる。

メディアの王は、神王アラムの末裔に服従を迫り、祭祀の塔は沈黙した。ヴァン湖の畔、シャリアルディ神殿の火が消え、王家の記録はリューサの代で絶える。

最後の王リューサは、メディアとスキタイの圧力の中で姿を消し、ウラルトゥの名は記録から静かに消えていった。

草原の彼方から現れた騎馬のスキタイ。鉄の弓矢と三翼鏃を持ち、ウラルトゥの神殿に矢を射た彼らは、神王の王統を風に散らす事となる。

神王アラムの血統は、この草原の民と混血され、やがて「匈奴」へと姿を変えていく。その象徴が、イッシク・クルガンに眠る「黄金の少年王」。

少年王と共に副葬された黄金の衣装と4000点を超える装飾品は、アルタイ・バクトリアの文物を併せ持つ「鉄・祭祀・黄金」の象徴。

かつて草原を支配したキンメリア・スキタイ・サルマートの記憶は、イッシク湖に眠る黄金の少年王に象徴される。そして匈奴はその文化と血脈を継ぐ者たち。

第二章 匈奴と金氏の誕生

時は紀元前2世紀、中国は漢、北方では匈奴が猛威を振るい互いに争いを起こす。このとき、匈奴の王族、休屠王の血を宿しながらも囚われの身となった一人の少年。

馬の手綱を握らされ、名も与えられぬ、その少年のもとに運命の裂け目が訪れる。

ある日、宮廷の危機に咄嗟に主君を救った馬上の青年は、漢皇帝から「金(キム)」の姓を授けられた。名は金日磾(イルチェ)。

金(キム)、その名は、草原に聳えた黄金像「金人」の神威を伝え、アララトの神殿を守護した祭祀王の血を引く、黄金の少年王の系譜を継ぐ者のしるし。

イルチェは漢帝国の外戚となり、その曾孫・金ダンに至るまで、金の名は宮廷に連なる神聖の証とされた。しかし運命の歯車は、やがて天をも焼き尽くす試練をもたらす。

西暦8年、王莽が漢を奪い、「新」なる帝国を掲げる。金イルチェの曾孫、金ダンは王莽の信任厚く、王家に連なる家として栄えた。

西暦23年、「新」は短命にして破れ、光武帝・劉秀の剣が皇帝王莽を討ち、長安の都は炎に沈められた。この時、脱出した幼子こそ、のちの金首露(キム・スロ)。

第三章 ナーガとの神婚

幼子だった金首露を連れた一族は奴隷船に乗り逃れ、18年の漂泊を経て、朝鮮半島南部、金海(キメ)に到達する。ここに建国されたのが、金官伽耶国(クムグァン・カラ)。

伝説によれば、海より舟に乗り訪れた、インドの神妃が五つの金の卵を携えていたという。


神妃は、古代インドより蛇を従える神婚の使者。彼女はアッシリアの石碑に刻まれるヴリトラ(ウラルトゥ)の山々から流れ出たナーガの記憶を再び齎した。

かつてメソポタミアにおいて、これをニンギジダと呼び、インダスではアスラがその血を継ぎ、アンコールの回廊には七頭蛇ナーガの石像が刻まれた。

七つの頭を持つ蛇、それは宇宙を織りなす七原理であり、王を顕現するための神聖なる五つの金の卵を携えていた。

五つの金の卵は、五部族・五王家・五神器を象徴し、金首露は神妃、許黄玉の携えた卵を受け入れる神婚によって「鉄と神の王」となった。

神婚、かつて伏羲と女媧が尾を絡ませたように、天地の交合を象徴。宇宙の理と王の血脈を一つに繋ぐ儀式。

その後、彼の子孫は、伽耶・任那から倭へと渡った。その中にあったのが、天日矛(アメノヒボコ)。

第四章 天日矛とニギハヤヒ

天日矛は、五つの神器を携え、但馬・播磨・近江へと渡る。彼の一族は「八尺瓊勾玉」「日鏡」「神剣」を持ち、後の三種の神器の原型となる。

イシンの聖宝、ウラルトゥの剣、ナーガの霊玉、それぞれの異なる王統を、太陽女神アラメアのもとに「王権の再統合」を果たした証、三種の神器。

アラメアとは、「Ar(光・神・母)」を表し、蛇(ナーガ)の体を持ち、太陽をその額に戴く、創造の母神。

これらの神器を受け入れたのが、出雲副王家のニギハヤヒ命。彼はインドの叙事詩「ラーマーヤナ」が語る都市ビバイナ(ウラルトゥ)王統以前、イシン帝国から分かれた、もう一つの神王。

天から舞い降りた「天神」それは、鉄と馬を奉じたバビロンの神王。滅びゆくカッシートの都より、巫女姫と神宝を伴い、蛇神と太陽の記憶を刻む、オリエント最後の王統。

彼のもとに嫁いだのが、播磨に渡った天日矛の姫君、つまり神婚の巫女王。その結合によって、十種神宝(とくさのかんだから)が編成される。

第五章 退かれた王統

扶余と公孫による婚儀連合の末王、崇神(神武)は九州から東征、熊野の峰より三輪の地へと至り、天日矛・ニギハヤヒの神婚の王統を退け、天の座を奪う。

崇神(神武)王朝により、その血脈は敦賀から海を渡り、辰韓十二国を併合し朝貢国、新羅を興す。

金閼智(キム・アルチ)を始祖とする新羅、慶州金氏は外戚、金庾信(キム・ユシン)を経て、八幡信仰のもとに「武の神格」として祀られる。

海と鉄の王・金首露の記憶、神格化された黄金の王統は、八幡信仰となり、やがて大王家統合の鍵、レガリアとして天皇家系譜、新羅王統の三姓交立系譜へと再編された。


終章 馬上の少年王

かつて炎に包まれた長安の都を逃れ、奴隷船に乗った幼子は、アラム王の裔にして、太陽女神アラメアの血を受け継ぐ者、その名は金首露。

アララトから吹き始まった風は、イシン(殷)の聖宝を護り、ナーガとの神婚によって霊なる玉を宿した。

そしてウラルトゥの鉄を受け継ぎ、その手で鍛えられた神罰の力、火の神剣は「剣璽等承継の儀」その神器となる。

大陸を横断したアララトの風は、黄金を纏い、火の神剣を携える馬上の少年王の伝説を運ぶ。

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