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sugerpowder
「目覚めると」|シロクマ文芸部|ショートショート
◆目覚めると,同居している父が,脚のたくさんある巨大な毒虫に変身していた。
妹も同じく,脚のたくさんある巨大な毒虫に変身していた。
どうやら世界中の人類が,一夜にして脚のたくさんある巨大な毒虫に変身してしまったようだった。
だが,彼ら自身はそれで特に何の支障もないらしく,世の中は円滑に回り続けているらしかった。
私は彼ら元人類の毒虫たちと,いっさいコミュニケーションを取ることができず,毒虫化した社会から,独り取り残された恰好となった。
その内に,自室の扉が外側から施錠され,私は父がいつまで経っても毒虫に変身しようとしない息子のことを世間に恥じて,私をこの部屋に軟禁することにしたのだと悟った。
毒虫には毒虫なりの世間体というものがあるらしいことを知った。
毒虫になった人間は,料理などということはしないらしく,私に供せられる食べ物は,赤や緑の林檎ばかりになってしまった。
私の書棚には「カフカ全集」があるのだが,こうなるともう手に取ってみる気がせず,私は自分の寝床の上でゴロゴロしながら,ひたすらP. G. ウッドハウスのお気楽なユーモア小説を読んでは,ときどき莫迦みたいに大笑いをする,という形で残りの人生を過ごすことに決めた。
笑うのと同じくらいの頻度で,ボロ泣きしてしまうかもしれないが。
それに,ときどきは『象は世界最大の昆虫である』あたりに浮気してしまうかもしれないが。
今の私のささやかな願いは,カフカの別の短篇に登場する,あの愉快な「オドラデク」が実体化して,私の部屋に現れ,この無聊を慰めてくれることだけである。
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◆kojuro さんの「シロクマ感想文」をいただきました。
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