【2分PV付】小説「LOVERS」#1 〜芸術で人々の心を癒やす男女の物語〜
【2分でわかる「LOVERS」】まずは動画をご覧ください!
動画制作:いろうた / ピアノ演奏:京泉
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第一話:金か、魂か。すれ違う心。
<さくら>
ライブペイント画家として活動を始め、早一年が過ぎた。慣れたもので、今では緊張もせずに舞台に立ち、自由に筆を走らせることが出来る。描く絵も洗練され、よりシンプルに。これが私の絵だと自信を持って言えるものが増えて来たことで、作品への愛着も強くなってきた。
(どれもこれも、私の子。愛おしい……。)
以前は生活のために、描いた絵はすぐに売った。顧客の要望に添った絵は、金にはなったが、今思い返してみればそこに私の想いは乗っていなかった。けれども、今は違う。お世話になっているバンド、サザン×BBの生演奏を聴きながら描く絵には、彼らの音楽からにじみ出る想いはもちろんのこと、私と彼らとの思い出も乗っかっている。見ればその時の氣持ちや状況がありありと思い出せる絵を手放せるはずがなかった。
しかし、彼らとともにステージ脇で絵を描けば、必ずと言っていいほど「売ってくれ」と迫ってくる人が現れる。私が「売れません」と首を横に振れば振るほど高値を提示してくる強者もいる。それでも私は自分の意志を貫き通す。それが私の信念だから。
◇◇◇
ところが、今回の相手は違った。自身もピアニストとして活動する、私が身を置くゆうび奏社社長、西森有理沙氏の依頼でライブペイントを行った際のこと。お客さんの一人が私の絵を氣に入り、今すぐ買いたいと言って目の前に現金を文字通り積んだのだ。
なんとか社長に想いを伝えて交渉してもらい、その場では売らずに済んだ。けれど、現金を引っ込めたときの目は「オレは諦めないぞ」と言っているようで怖かった。
その話を、仲良くしているサザン×BBのピアニスト、音村理恩くんにすると、彼は開口一番「もったいないことしたなぁ」と言った。
「札束を積まれたのに売らなかったなんて、どうかしてるよ。おれなら売っちゃうな。だって、自分の作品を高評価してもらえたら嬉しいじゃん?」
その反応は予想外だった。彼なら理解してくれると信じて発言したのに……。
私にとって、仕事上がりにリオンくんと二人きりで食事をすることは、一日を楽しく終えるためのご褒美みたいなものだった。今日だって、レストランを自分で探し、予約した。なのに、そのすべてを台無しにされた氣分だ。
「……リオンくんには、作品への愛着はないの?」
「んー。おれの場合、作品は形に残らないからなぁ。曲が売れてなんぼって言うか、お金と交換してなんぼって思ってるから」
「……じゃあもし、大事にしている電子鍵盤を売ってくれって言われたら? それも売っちゃうってこと?」
「おれの電子鍵盤? んー、どうかな。あんな古いのでも価値を見いだしてくれる人が現れたら売っちゃうかも。で、新品を買って次の曲作りに取りかかる。おれならね」
「……愛着、ないんだ」
彼のことは、ミュージシャンとして尊敬していた。けれど、今のやりとりで尊敬は失望に変わった。
「じゃあ……。じゃあ私と一緒に仕事をしているのも、お金になるからなのね?」
そんなことは思っていないのに、カッとなった勢いで言ってしまった。
「はぁ? なんでそうなるの? さくらと仕事してるのは、互いを高められるからであって……」
「信用できない」
「なんで?」
「なんで、って……」
鎮めようと思った怒りはしかし、彼が口を開けば開くほどに内から吹き出してくる。自分でもどうしようもないほどに。
「仕事道具も作品も自分の『魂』でしょう? それを易々と手放す人だったなんて、正直言ってがっかり。……もう、一緒にはいられない」
私は食事の途中にもかかわらず席を立ち、自分の食費をテーブルに置いて店を飛び出した。

<リオン>
なぜ、さくらがあんなにも怒ったのか、おれには理解できなかった。アーティストだって、売れなきゃ趣味でやってる人と同じ。名が、作品が売れて、初めてプロを名乗れる。おれは、世のニーズに応え、活躍し続けられる人間でありたい。そのためならば、さっきの話じゃないが、電子鍵盤だって売る。それのどこが悪いってんだ?
残されたおれは、さくらが置いていった金を回収してスマホケースに挟み込むと、二人分の会計を済ませて自宅マンションに戻った。部屋には既に、同居している双子の姉、セナが帰宅していた。
「あれ? もう帰ったの? さくらさんと一緒にご飯してくるんじゃなかった?」
「それがさぁ……」
さっき、さくらと口論になった出来事をセナに話して聞かせた。同情されるかと思いきや、セナはさくらの肩を持つ氣らしい。
「アタシがその場に居たら、リオンらしい考えだなぁって笑い飛ばしただろうけど、さくらさん、真面目だからなぁ。……ちゃんと謝った?」
「謝るも何も、自分が悪いことを言ったって自覚がないのにどうして謝れるんだよ? おれはおれの考えを言っただけだぜ?」
「そういうところが良くないんだよ、リオンは。だから、いつまでも男としてみてもらえないのよ」
「…………! なんでそうなるんだよっ?! いつも言ってんだろ? おれはさくらのこと、そういう目で見てないって」
セナはいつもそうだ。さくらと頻繁に会うのは好きだからなんだろう? って言う。男と女は親しくなったら付き合うもの、って決めつけはマジで勘弁して欲しい。
しかし、セナの反論は続く。
「あんたはさくらさんの氣持ちを考えてみたことがあるの? あの人、普段は感情を表に出さないけど、あんたのこと好きなんだと思う。アタシには分かる。だけど、あんたがあんまりにも子供じみてるから、なかなか好きって言えないのよ」
「どうしてセナにさくらの氣持ちが分かるんだよ? 直接聞いたってことなら理解も出来るけど、憶測で語るのはよせよ。だいたい、どうしてセナは、おれとさくらをくっつけたいわけ? おれに恋愛させて何が楽しい? おれの人間関係に口出しするのはやめてもらいたいね!」
「分からず屋はあんたの方よ! 人の氣持ちも理解できないで、良くもミュージシャンを名乗れるわね! いくらピアノがうまくても、そんなんじゃいつかファンにも見放されちゃうんだから!」
「それとこれとは関係ないだろ?!」
「関係あるよ。プライベートが安定してこそ、仕事のパフォーマンスも上がる。兄さまはいつだってそう言ってるわ」
「ったく……。兄さま兄さま、って……。セナは盲信しすぎ。おれに言わせりゃ、セナの良くないところはそこだね」
絶対に釣り合わないと分かっているはずなのに、セナは親ほど年の離れたバンドメンバー、智篤兄さんに思いを寄せている。一応、付き合ってることにはなってるが、兄さんの方は冷静で、熱を上げているセナを諭すように接している。そんなこともあって、セナは兄さんの言うことは大抵受け容れ、信じている。少なくともおれにはそう見える。
兄さんを引き合いに出したからか、今度はそっちで怒られる。
「そういうリオンは人の言うことやアドバイスを全く聞かないじゃないの。自分が一番正しいって、それこそ盲信してる。大人数でバンド組んでるんだから、少しは歩み寄る努力をしてほしいものね。でなけりゃ、今度はこっちからあんたを放り出すことになるかもしれないわ。一人でやってちょうだい」
「そ、そりゃないぜ! おれが歌えないの、知ってるだろう?」
「歌えないなら、得意のダンスでも披露すればいいじゃない」
セナは意地悪くもそう言った。かつて、自分で作った曲に振りを付け、ダンスパフォーマンスした動画がバズったことがある。それを機におれだけが音楽事務所に引き抜かれそうになり、セナとおれの兄貴との三人で組んでたバンドが解散の危機に陥った過去がある。幸いにしてその話はなくなり今に至るわけだが、時折恨みがましく話題に出されることがある。
「ピアノ演奏と作曲より得意なことがあるもんか」
今はサザン×BBで自分の才能を最大限発揮できている。この環境が氣にいってるおれとしては、メンバーがなんと言おうと出て行くつもりはない。もっとも、おれを失えばかなりの損失になるはずだから、簡単に出て行けとは言わないだろうけど。
「なるほど。あくまでも自分は凄腕のピアニストだって言いたい訳ね?」
セナは腕を組んだ。
「それならやっぱり、さくらさんとはちゃんと和解してもらわないと。あの人だって今や、サザン×BBには欠かせない画家さんだもの。リオン一人の我が儘のせいで離れていっちゃうようなことがあればみんなが困っちゃうわ」
「……うまいこと話を繋げやがった。分かったよぉ。謝ってくりゃあいいんだろ?」
今帰宅したばかりだが、仕方がない。このまま反論し続けたところで、口でセナに勝てないのは分かってる。玄関にとって返したおれは、靴を履き直して部屋を出た。
***
しかし、電話を掛けてもさくらは応答しなかった。アトリエにも行ってみたが不在だった。
(なんだよ……。せっかく出向いてきたってのに……。)
捕まらないのでは会いようがない。闇雲に探し回っても埒があかないし、日を改めてもう一度訪ねるしかないか……。
そう考えて帰路につこうとしたときだった。
「電話……? さくらからかな……?」
着信音に驚いて慌てて通話ボタンを押した。しかし、電話口の声はさくらとは別人のものだった。

<さくら>
勢い余って店を飛び出したのはいいものの、アトリエに戻る氣にもなれず、氣づけば一緒に活動しているバンド仲間の自宅兼音楽スタジオにやってきてしまった。バンド仲間と言っても、ボーカルを担当しているのは私の伯母、水沢麗華だから突然の訪問でも驚かれることはなかった。それでも麗華ちゃんは私の異変にすぐに氣付き、理由を話すと同情してくれた。
「それでいいのよ。さくらちゃんはこれまでずっと、自分の氣持ちに素直になれずに我慢してきたじゃない? 伯母であるあたしに対しても。だけど、リオンにはちゃんと言えた。うん、すごいことよ」
「そうかな……?」
「そうよ。智くんだってそう思うでしょう?」
話題を振られた智篤さんは、私を見ながら頷いた。
「今聞いたとおりのことをリオンが言ったのだとしたら、あいつはさくらのプライドを傷つけたことになる。それこそ、魂を冒涜した。さくらが怒るのは当然だし、反省するならあいつの方だと僕も思う」
「智篤さんまでそう言うなら、ちょっと安心です。実は、ここでもリオンくんと同じことを言われたらどうしようかと……」
「そう言われる心配がないから来たんじゃないのか? 僕らなら同意してくれると」
「……あはは。皆さんには私の考えなんてお見通しですよね」
私は小さく笑い、うつむいた。
「正直にお話しますが、さっきリオンくんから着信があったんです。でも、何を話せばいいか分からなかったし、声を聞けばまた怒りが込み上げてくる氣がしたので無視してしまいました。……悪い女ですよね、私」
病で声を失っている拓海さんが手話で何かを伝えてきた。智篤さんが通訳してくれる。
「……そんなことはない。冷静になる時間は必要だ。もしかしたら、リオンは謝ろうとしていたのかもしれない。でも、冷静さを欠いた状態で電話を受けてもいい話し合いにはならないよ。拓海はそう言ってるよ」
「そうですね。おっしゃるとおりです。でも、今こうして皆さんに想いを伝えたら少し落ち着きました。改めてこちらから電話してみようと思います」
「電話を掛けるの? なら、あたしがしてあげる。あの子にはどうしても言ってやりたいことがあるから」
「え?」
その場に居た全員が固まった。
「ちょ、ちょっと麗華ちゃん。いいってば、私のことは……。もう、なんとも思ってないんだから」
「ほら、またそうやって自分の氣持ちを押し殺そうとする。ダメよ、一度決めたことはちゃんと貫き通さないと。それとね、リオンに言ってやりたいのはさくらちゃんのことだけじゃない。これからも一緒に活動する上で、メンバーの考えはちゃんと一致させておかないと後々面倒なことになる。だから、今のうちにきちんと話し合っておく必要があるとあたしは思うの」
そういうなり、レイちゃんは私からスマホを奪い取り、勝手にリオンくんに電話をかけ始めた。
***
飛ぶようにやってきたリオンくんの顔は困惑に満ちていた。麗華ちゃんの言いつけとは言え、みんなに取り囲まれた状態で謝罪しなければいけないのだ。私だったら、無理矢理にでも理由をつけて来訪を拒んだに違いない。でも、彼はちゃんと現れた。ただし、自分の精神を安定させる「お守り」と言わんばかりにセナちゃんを連れて。
性別は違えど、この世に生を受けた瞬間からずっと行動を共にしてきたという双子は、互いの感情の揺らぎを瞬時に感じ合うのだと聞いたことがある。しかし、そばにいれば、不安や悲しみを感じても癒やし合うことが出来るのだ、とも。
リオンくんは居たたまれない様子で棒立ちしている。そんな彼の真正面に立った麗華ちゃんが、説教混じりに言う。
「……リオン。あなたにはかつてのあたしと同じ匂いを感じる。だから、どこまで自分の力が通用するか試したいと思う氣持ちも理解できるし、報酬が多ければ多いほど認められたと感じる氣持ちも大いに分かるわ。
でもね……。あたしたち、サザン×BBが目指しているのはそこじゃないのよ。あたしたちは、自分たちの音楽でどれだけ多くの人を感動させられるか、喜ばせられるか。そこに焦点を当ててるの。自分だけが裕福になることや、人氣を得てちやほやされることを理想とするなら、残念だけど一緒に活動することは出来ない。たとえあなたの能力が優れていたとしても」
「……音楽性の不一致が理由で、何度も自身の属するバンドを追い出されてきた父親のようにはなりたくないんでね。今回は自分の考えを引っ込めて謝ることにするよ。だけど、おれの考えが変わることはないと思う。それだけは言わせてもらうよ。……さくら、さっきは言いすぎた。傷つけちゃったなら、ごめん」

リオンくんはきっちり自分の考えを述べたあとで謝罪した。しかし、心がこもっているようには感じられなかった。
「……申し訳ないけど、今のリオンくんからは誠意が感じられない。ただ単に、ごめんと言えばいいと……そう思っての発言にしか聞こえなかった」
「…………!」
その場に居た全員が息を呑んだ。私はあえて、双子の姉に問う。
「……教えてちょうだい。リオンくんは心から反省している? セナちゃんになら分かるよね?」
「……さくらさんの言うとおりだと思う。今のことでさらに氣を悪くさせてしまったなら、アタシが謝る。ごめんなさい……」
「セナちゃんは謝らなくていいんだよ。私が怒っているのはリオンくんの発言に対してだから」
私はもう、自信のなかった頃の私ではない。今はライブペイントアーティストとして誇りを持って活動している。皮肉にも、その自信をつけてくれたのは眼の前にいるリオンくん。だからこそ、「謝れば済む」だなんて思ってほしくないのだ。
「おれは……おれは心から謝ってる。頼むから機嫌を直してくれよ」
彼はもう一度頭を下げたが、私の心には響かなかった。
返事をせずに押し黙っていると、麗華ちゃんがため息をついた。
「さくらちゃん。リオン。それぞれに頭を冷やしなさい……と言いたいところだけど、おそらくそんなことをしても憎しみを増大させるだけでしょう。そこで、あたしから提案なんだけど、しばらくのあいだ、二人ともここで一緒に生活してみる、ってのはどう? そうすれば、今よりもお互いのことを深く理解できるし、いい作品も作れるようになると思うの。あたしたちがそうだったように」
『ここで暮らす……?!』
リオンくんと私の声が重なった。
「いくら麗華ちゃんの提案でも、それだけは無理よ!」
「そうだぜ。生活するってことは、寝食を共にするってことだろ? 一日二日ならともかく、しばらくってことになると……。そうだ……! セナが一緒なら考えてもいい。セナだって、おれがここにいる間、あの広い部屋で一人きりなんて耐えられないはずだ……!」
「セナはダメ。リオンと離れて過ごすことが大事なんだから! ……ってことで、早速今日から同居開始ね!」
麗華ちゃんがぴしゃりと言うと、今度はセナちゃんが頬を膨らませる。
「何でよ、レイさま! 何でアタシだけ除け者に……? ひどいじゃない!」
「セナ。これは単なる合宿じゃないの。さくらちゃんとリオンの成長のためにやろうって言ってるの。わかってちょうだい」
「…………」
セナちゃんが恋人である智篤さんに視線を投げた。だが、智篤さんも冷静に返す。
「これは恋愛ごっこじゃない。たとえて言うならこれは、すれ違ってしまった想いを修復するための儀式。そう考えてくれないか」
「……兄さまの馬鹿っ!!」
目に涙を浮かべたセナちゃんは、そう言い放って家を出て行ってしまった。
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「LOVERS」について
本作品は、2025年8月からnoteで連載していた、いろうたの長編小説です。このたび、紹介動画の作成を機に、主人公を「さくら」と「リオン」に絞って再編成しました。内容は1年前に投稿したものとほぼ同じですが、芸術家の葛藤と成長がより伝わりやすい構成になっています。
💖本日も最後まで読んでくださり、ありがとうございます(^-^)💖
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