闇 651(デビルマン編)
闇 651(デビルマン編)

2026/08/23 sun
※多分この時代に岩上智一郎という人間がいたという証明をしたかったから、この作品を自分の為に書いているのだろう。
前回の章

二千二十四年四月十九日、金曜日赤口。
インカジ『レディ』の業務中も妙にハイテンションな俺。
何気ない若香との日々の積み重ねが、幸福度を上げる数値を増やしている。
「最近岩上さん、いつも上機嫌じゃないですか。何でいちも機嫌良さそうなんですか?」
同僚の佐藤ボンズが意地悪そうな笑みを浮かべながら話し掛けてきた。
コイツに状況を話すと、絶対に面白おかしく周りに言いふらすに違いない。
歩くスピーカーのような性格のボンズに、若香との事など絶対に話せるわけがなかった。
俺は誤魔化すようにUFOキャッチャーで取った戦利品を手に取りながら、「ダービー馬タスティエーラ! フライパンハンバーグ! 茄子の天ぷらゲット!」と見せて誤魔化す。
業務中の合間を見て、UFOキャッチャーで取った品をフェイスブックへアップする。
「……」
一体俺も、こんなものを集めて何をしたんだろうな……。
まあ若香が喜んでくれるから、それでいいか。
もうとっくに寝ているだろうけど、一応説明をしておこう。
『馬のぬいぐるみ、全部種類違うんですからね。 岩上3:46』
それにしても今日は早めに客が引いたので本当に暇だ。
深夜になってくる客は本当に少ない。
なので時間になるまで適当にスタッフと会話をして潰し、朝七時になると店を出た。
自称俳優マンションへ着き、ポストを確認すると、光熱費の請求書が入っていたので一緒に持って上がる。
『おはようございます。 岩上7:21』
戦利品を撮影し、彼女に見せた。
まだ眠っているよな。
『仕事を終え、部屋に戻ってきました。 岩上7:22』
早速昨夜のUFOキャッチャーの記事をブログに書いてみる。
日本ダービー馬タスティエーラ&リアルキッチンシリーズの茄子天ぷらとハンバーグ

昨日の戦利品です!
日本ダービー馬タスティエーラGET!!!

最初はこの片手フライパンハンバーグ取りました。

次に茄子の天ぷら取りました。
もうね、茄子は私が一番大好きな食べ物なんです。
これ見た瞬間、絶対に取らねばといった使命感を覚えましたね。

オマケに入荷したばかりのタスティエーラGET!
隣にいた外国人カップルが、俺がこの馬を三回で取ったのを見て、笑顔で拍手してくれました、ブイブイ。
近年の競走馬シリーズだと、大阪杯のジャックドールだけ余っていて、昨日付で無くなっていましたね……。

リアルキッチンシリーズもここまで増え。

競走馬コレクションは押し入れから覗いています。

遠目からも撮ってみましたよ。
これって五十二歳の独身男が書くような記事か?
結構ヤバい内容だぞ?
まあ他人の目などどうでもいい。
若香さえ喜んでくれれば、それで満足さ。
ベランダへ出てタバコを吸うと、俺は睡眠を取る事にした。
久しぶりに夢を見た。
神田と高円寺の手相占い師の元へ行った時の夢。
十年以上執筆をしていない俺が、また小説を書く?
印税も入らず、生活苦に陥り再び裏稼業へ戻った底辺の俺が?
「それと同時期…、うーん、もうちょっとあとかな。素敵な女性と知り合いますよ」
「いやいや、俺はもう五十ですよ? さすがに色恋沙汰はもう……」
一瞬池袋のちかの顔が浮かぶ。
いや、あの子は飲み屋の女に過ぎない。
それにこの先出会うと言っているので、彼女は該当しない。
「そういう普通の色恋ではなく、そうですね、あなたが真に尊敬できるような…、お互いを高め合うような異性と出会うでしょうね」
「やったじゃん、岩ヤン! いい女との出会いあるってさ」
「いや、だから神田、ちょっと黙ってて」
「つまり、これまでのあなたは停滞し命を失い掛けもしました。でも、今年でなく来年辺り…、五十二歳ぐらいから金銭的な芽が多方面から出てきて、五十三歳ぐらいですかね。素晴らしい異性と出会う。そんな結果が出ていますよ。あと長生きも入りますね」
異性…、前回神田が連れてきた渚の顔が浮かぶ。
いや、あの子も違う。
彼女は人妻なのだから。
「あと一年半後ぐらいから面白くなると? その女性って言うのは?」
「そうですね、歳はあなたより少し若くなるのかな? 十歳ぐらいの年齢差で、それでも外見というよりも、心を尊敬するような方ですね」
「……」
ちかはまだ二十代後半、渚は三十代だから、やはり該当していない。
そんな出会いがまだ俺に残っているというのだろうか?
ガバッと起き上がる。
「夢だよな、あの時の……」
あの占い師の言葉。
運命の女性とは、ちかでも渚でもなく、絶対若香のはず……。
携帯電話を見ると、若香から連絡が届いていた。
『来ました。イチローは寝ているはずだ。おやすみなさい。目覚めて若香に言った。 朱婧瑶9:12』

三時間ぐらいしか寝ていないから、眠りが浅くてあんな夢見たのかな?
『今起きたところです。目が半分しか開かない。また寝るかもです。 岩上11:22』
『イチローはもっと寝なさい。午後また若香に言います。今はまだ早すぎる。もし香もしばらく忙しいです。 朱婧瑶11:27』
彼女は仕事中だもんな。
俺から連絡して邪魔しても申し訳ない。
そうそう、新居の二ヶ月目の電気代はいくらだっけ?
中を見て愕然とする。
三千八百五十六円……。
これ、確実に前の河本マンションの大家、訴えてもいいよな?
どうやったら三万も四万もいくのか本当に不思議だったが、あの手書き請求書で俺から何倍の料金を毟り取りやがったんだ、あの台湾人共。
早速ブログにこの事を書き残しておく。
これ訴えてもいいよね、前のマンション。新居二ヶ月目の電気代3856円

新居二ヶ月目の電気代3856円。
本当に今のマンションへ引っ越して大正解でした。
2022/09に入居して、2024/01に出る事に決めた河本マンション。

2023年9月分 光熱費手書き請求書。
よくもまあ、毎月毎月光熱費をぼったくってくれたよな……。
ほんと訴えるぞ、強欲な台湾人河本夫婦。
今度不法投棄しているところを見つけたら、飛び出して背中へジャンボ鶴田師匠譲りのジャンピングニーを突き刺してやるか。
そんな事より、また若香に怒られそうだから、もうちょっと睡眠を取っておこう。
『若香さんに膝枕してもらいながら眠りたいでーす。 岩上11:45』
『「若香」は目が覚めましたね。イチローは一晩中寝てないからゆっくり休んでね。 朱婧瑶12:02』
また仕事の合間に余計な連絡をしてしまったな。
『ありがとうございます。 岩上12:04』
『これは若香がすべきことですね。イチローは夜出勤するのがこんなに疲れている。きっとゆっくり休む必要がありますね。 朱婧瑶12:06』
会った時、本当に言葉通り俺を癒しておくれ。
『いつも気遣ってくれてありがとうございます。仕事多忙のところごめんなさい。心配掛けないよう大人しく寝ますね。おやすみなさい。 岩上12:21』
『はい。イチローさん。午後目が覚めてから若香に伝えます。 朱婧瑶12:35』
目を覚ますとまだ一時半。
一時間ぐらいしか眠れない。
四時間ほど寝たのだ。
もう充分だろう。
買ってあった食パンの賞味期限も近くなっていたので、アメリカンクラブハウスサンドを作る。
『アメリカンクラブハウスサンド作りました 岩上14:23』
まずは写真を若香へ送ってから、料理ブログを書き出した。

いつもよりパン一枚増やしたデラックスアメリカンクラブハウスサンド。
…て、喰いづらくなっただけやんw。

食パン焼いて一枚目にサラダ乗せます。マヨネーズ簡単に引いてから。

トマト乗せます。塩胡椒降って。

簡単な卵焼き作って。

二枚目に卵焼き乗せます。裏表に軽くケチャップします。

三枚目、底にマヨネーズちょっと(剝がれないように)→ ハム。

チェダーチーズ引いて、ここでも上に軽くマヨネーズ。

最後の四枚目被せたら、切って完成。

更に盛り付けておしまい。

アレンジでちょい具を増やして、もう一つ作りました。

いつも作ってから後悔するのが、こんな食えねえよってw。

半分ずつにして俳優の若菜さんところあげに行こうw。
本音を言えば、龍平などにあげたところで何のメリットもないのだが、あの馬鹿のお袋さんは俺にセブンスターをワンカートンくれた恩義がある。
まさかお袋さんにあげて、ドラ息子の分は無いというのもおかしいから、ついでにあげているだけなのだ。
袋に入れて、二階の龍平ファミリーのドアノブに掛けておく。
いちいち連絡しないでも、俺のサンドイッチだと分かるはず。
部屋へ戻ると、若香からLINEが届いていた。
『うわー。いいですね。味が違いますね。イチローは全部食べてもいいですか? 朱婧瑶15:01』
味がって君は俺の料理を食べた事がないだろ……。
『半分はマンションの大家にあげました。いつも作り過ぎてしまうんですよね。 岩上15:02』
『そうだったのか。 家主は女性ですか? 朱婧瑶15:04』
あれ、何故そんな事をいちいち気にするんだ?
ちょっとしたヤキモチなのかな?
これはこれで嬉しい。

過去百合子のヤキモチ焼きに疲弊し、別れる原因になった俺が、歳を取ってヤキモチを焼かれる事に喜んでいる。
俺も老いた証拠だな……。
そんな気分を吹き飛ばすかのタイミングで自称俳優からLINEが届く。
『岩上さん! サンドありがとうございます、いつもすんません、頂きます。 若菜龍平』
相変わらずウゼーな、コイツ。
『どういたしまして。 岩上智一郎』
こんな馬鹿放っておいて、若香へ早く返事をしないと。
『俳優の若菜さんといって男性ですよ 岩上15:05』
『なるほど。イチローは家主と仲良くしていますよ。 朱婧瑶15:06』
ひょっとしたら、若香は縛るタイプなのかもしれないな。
まあそれはそれでもいいか。
『仲良くしていたほうが、トラブルは無いですからね。 岩上15:07』
龍平の顔を思い浮かべ、あの馬鹿のせいで梯子を外され何度も窮地に追い込まれた事を思い出す。
『仲良くというよりは、親切に接していたほうがですね。 岩上15:09』
『イチローは誰とでも仲良くなれると思いますよ。昼寝をしたらどうですか。 朱婧瑶15:10』
今日はもう充分寝たしなあ。
『まだ起きて間もないですよ。若香さん、俺に気にせず仕事に集中して下さいね。 岩上15:11』
ベランダへ出てセブンスターに火をつける。
河本マンションのメガネザル大家が外にいたので、卵でもぶつけてやろうかと思い、冷蔵庫まで行く。
しかしあんな人間に卵を一つ無駄にするのも勿体ないなあとやめておいた。
『午後はまだいくつかの資料があれば大丈夫です。明日も休みました。イチローは明日も休みます。 朱婧瑶15:42』
『明日は休みですよ。 岩上15:42』
遅番だからちゃんと休みに入る時間帯を説明しておかないと。
『今日の夜、仕事行って昼の十一時までやってから休みになります。 岩上15:43』
『午後、イチローは眠くなったらまた寝ます。夜は少し元気になります。明日の昼までにゆっくり休んでもいいですね。 朱婧瑶15:48』
早く会いたいなあ……。
『そうですね、眠くなったらそうします。お気遣いありがとうございます。 岩上15:49』
『これは若香がすべきことですね。イチローは今横になっていますか? 朱婧瑶15:56』
彼女が膝枕をしてくれているイメージを想像した。
『横にはなっていますよ。若香さんが心配しないよう、お利口さんにしてます。 岩上15:57』
『ずっと横になっているわけにもいかないでしょう。眠くなければ起きてテレビなどを見てもいいですね。部屋の中は寒いでしょう。 朱婧瑶16:00』
シンガポールは今、寒い時期なのかな?
『今は春だから気温はちょうどいいですよ。パソコンいじりながら、横になってます。 岩上16:01』
『これはいいですね。イチローは普段ゲームができますか? 朱婧瑶16:02』
中学生時代はゲームセンターの帝王と異名を取ったほどだが、最近はそうでもないな。
『ゲームしますよ。携帯だと、クラッシュロワイヤルやってます。 岩上16:04』
彼女も何かゲームをしているのかな?
『若香はゲームについてよく知らない。 電動で遊ぶことが少ないからです。 朱婧瑶16:05』
『若香さん、いつも忙しくしていますからね。日本に来たら、疲れを癒やしてあげたいです。 岩上16:07』
少し間が空いてから返信が届く。
『日本に行くのはリラックスして疲れを和らげるためですね。 朱婧瑶16:19』
やはり若香も忙しいのだろう。
邪魔してはいけない。
『イチローさんはもう寝たでしょう。もし香の午後の仕事ももう終わった。 朱婧瑶17:02』
『お疲れ様でした。俺も結局寝てて、今起きましたよ。 岩上17:19』
これから彼女とのやり取りが始まるので、心配掛けないよう嘘をつく。
『申し訳ございません。叔父から電話を受けたばかりで、三十分後に今日のXAUUSD取引が始まることを知らせました。それから時間になったら取引注文に行けばいいです。 朱婧瑶17:23』
え、せっかくこれから楽しみの時間だったのに……。
『行ってらっしゃい。頑張って下さいね。 岩上17:23』
『大丈夫ですよ。イチローは眠くなったらよく寝てね。疲れすぎてはいけませんよ。 朱婧瑶17:23』
まあ彼女の敬愛する叔父相手じゃ、何を言ったところでしょうがない。
『俺もあとちょっとしたら、食材の買い物行ってきますね。 岩上17:24』
『夜は何かおいしいものを作るつもりですか。 朱婧瑶17:29』
着替えを済ませてから、返信をした。
『昨日のクリームシチューとかもありますからね。何か適当に考えてはいます。 岩上17:36』
マンションを出たところで、若香からのLINEが届く。
『夜は肉の食べ物を食べるべきだ。これでタンパク質が提供されるのではないでしょうか。 朱婧瑶17:37』
『そうですね! 肉にしますか。 岩上17:43』
会った時、たっぷり俺の精子をこの女に掛けてやる。
それまでには精をたくさんつけておかないとね。
『取引が終わって、今日は八千百六十ドルを稼いで、百二十四万円ぐらいの収入に相当します。取引叔父は毎回事前に通知して、取引ごとに十五分から二十分で完成します。叔父がいる限り、若香は全く心配しなくてもいい。 朱婧瑶18:01』
若香はまた例のデータのスクリーンショットを送ってきた。
ぶっちゃけこの手の会話など、俺にはどうでもいいんだけどな。
『本当に凄い叔父さんを持ちましたね。おめでとうございます。 岩上18:02』
とりあえず機嫌を損ねないよう合わせておく。
『そうだな。だから若香は本当に叔父の助けに感謝していますね。今の大きな環境はこのようなものです。なぜ私は短期秒契約取引を選ぶのでしょうか? 資金引き出しは柔軟なので、取引の相場が終わった後、すべての資金を引き出して取引市場から退出し、資金が牢屋に入れられることはない。 朱婧瑶18:04』

よく分からないけど、適当に差しさわりない程度に返しておこう。
『そこは便利ですね 岩上18:05』
『国際外国為替金融市場は、一日あたりの取引額が数兆ドルで、市場の流動性が高いことを示している。また、資金に対する要求は敷居が低く、初心者の学習に最適で、数百ドルで操作でき、いつでも取引市場に進出したり退出したりできる。 朱婧瑶18:07』
また始まっちゃったか。
遠回しに遠慮しないと。
『日本に来た時、若香さんに教えてもらいますね。 岩上18:12』
『相場がずっと続くわけがない。イチローが本当に勉強したいなら。 イチローは私の日本の家族以外の最初の友達です。この方面にも興味があれば、勉強する心があります。時間がある時、叔父にこのことを教えてもいいです。叔父が同意すれば、あなたとデータを共有して、一緒に利益を得ることができます。叔父はあなたに多くの先進的な投資理念と技術を教えます。イチローは私の友達です。叔父もきっと喜んでイチローを助けてくれると思います。叔父はまじめに勉強する人が大好きです。 朱婧瑶18:19』
いやいや、こっちはそんな事微塵も望んでいないから。
プライベートはゆっくり過ごしたいの。
会った時、俺は君を抱きたいの。
一緒に勉強したい訳じゃない。
『やった事ないから、実際に若香さんと会ってその時教えてもらわないと理解できないと思うんです。数学で表現したら、九九も分からないのに、方程式をいきなり学ぶ感じです。 岩上18:27』
これだけ言えば理解してくれるだろう。
『イチローが勉強したいなら、若香と同じ国際取引口座を開設することができる。イチローが思ったほど複雑ではない。実際の操作は実は簡単です。若香はまずイチローに簡単な勉強を指導することができる。 朱婧瑶18:31』
『俺の事までいつも色々考えてくれてありがとうございます。 岩上18:32』
礼は形式的に伝えたが、これって火に油注いでいないか?
『私が知っている限り、日本地区の最低預金は五万円で実践操作に参加できる。国際取引所がどのように預金と出金をしているか分からないかもしれません。取引所は世界のどの国の通貨も受け取りますが、取引所の取引基盤通貨はドルです。例えば円預金では、専用の両替商が取引所のドル資産残高に変換して取引します。出金は当日のリアルタイム為替レートに従ってドル資産残高を日本円に変換して個人名義の銀行口座に送金します。 朱婧瑶18:34』
「……」
そういうのは嫌だと言っているつもりなんだけどな……。
『若香さん、あなたが日本に来るまで待ってほしいです。一生懸命説明してくれ感謝も覚えています。本能的に俺にとって為替とか取引は苦手分野なので、今まで一度もやってきた事がなかったのです。若香さんと実際に会ってる時なら理解できると思うんですね。 岩上18:46』
これで分かってくれよ、若香。
『イチローは最近の交流を通じて。もし香はあなたに長い間知り合った友達のようです。イチローは同じような分野に関わったことがありませんが。でもあなたは投資観念があると思います。しかし、いくつかの試みの勇気が欠けている。イチローさんはなぜ会うことを選んだのか試してみました。私も数ヶ月後にイチローと会うのを楽しみにしていますが。チャンスはとどまることなく誰を待つからです。私たちが会う日までに若香はすでに金市場を脱退したかもしれない。チャンスは準備のできる人に残しておくことですね。 朱婧瑶18:52』
だから俺はそこそこ稼ぎもあるし、不必要な事はしたくないんだって……。
投資などしたくもないし、余計な手間も掛けたくない。
ここまで言っているのにしつこいなら、今日は返事をするのはやめておこう。
腹が減ったので料理を始める。
見栄えのいいものを作ってもしょうがない。
今の若香に見せても、また投資話になったら面倒なだけ。
しょうが焼きを作り、それをブログへアップした。

手を抜いたい時は……。

生姜焼きに、昨日作ったクリームシチュー(笑)。
あー、本当に記事まで手抜きになってしまった。
若香からは、あれ以来返答がない。
俺の対応に怒ってしまったのかな。
複雑な心境もまま、インカジ『レディ』の出勤時間になり、新宿歌舞伎町へ向かう。
結局この日、夜になっても彼女からの連絡はないままだった。
二千二十四年四月二十日、土曜日先勝、穀雨。
仕事中も携帯電話を気にしながら、業務をこなす。
もう彼女は寝てしまっているだろう。
いや、ひょっとしたら急に返事をしなくなった俺に対し、色々考えて寝ていないのでは?
自惚れるなよ……。
五十二歳の俺の、どこら辺に男の魅力がある?
今はただの裏稼業で雇われている末端従業員に過ぎないんだぞ?
インターネットで調べれば、格闘家や作家の名目では出てくる。
しかしそんなものは過去の貯金でしかない。
もうリングに上がる事もなければ、小説だって十三年書いていないのだ。
そういえば若香って、フェイスブックはどうしているのだろう?
ふと彼女のページを見ると、驚愕の事実を発見してしまう。
え、誰?
この男?
俺が唯一の異性と言いながら、別の男ともコメントのやり取りをしているじゃん……。
足の髄まで電撃が走るようなショックを受け、裏切られたのかと実感した。
まだ一ヶ月経たないまでも、毎日細かい事まで色々話し込んできたつもり。
それはこれまでのやり取りを見返せば、俺だけではなかったはず。
それなのに何故、ここで他の男が出てくる?
ジェラシー?
ヤキモチ?
嫉妬心?
呼び方なんて何だっていい。
俺が異性に対し、このような感情を抱くなんて……。
女から縛られる事にうんざりして、ずっと一人で生きてきたんじゃないのか。
それを何故俺が、若香の動向を気にしている?
認めたくないみっともない感情。
これで嫌というほど自覚した。
俺は若香の顔や外見よりも、心の綺麗さを好きになっていたのだ。
誠心誠意時間を削りながら距離を縮めていたものが、俺の一方的な独りよがりだったのか?
今日…、いや昨日の夕方の若香は、これまでと明らかに違った。
まるで何かの投資話に俺を強引に参加させるかのような……。
いくら言っても話をやめないから、一旦距離を置いただけ。
それをこんな短時間で、他の男に鞍替え?
いやいや…、まだコメントのやり取りがあった程度だろ。
それでも唯一の異性という言葉を使いながら、それに対し裏切った事は確か。
「岩上さん、今日は元気ないじゃないですか。何かあったんですか?」
「うっせーよ。何でもねえって。俺の事は放っておけ」
佐藤ボンズが声を掛けてきたが、邪険に振り払う。
まだ三十歳の子に対し、大人気ない。
しかし精神的余裕もクソもなかった。
インカジ『レディ』の仕事を終え、マンションへ戻る。
こんな気分で休みに入るなんてな……。
十時手前に若香からLINEが届く。
『イチローさんこれは昨夜から今までずっと忙しいですね。 朱婧瑶(端木若香)9:58』
「……」
忙しいでなく、おまえを避けているんだよ。
どの口が言ってんだ?
ポッカリと空いた穴。
心に空洞ができたかのような状態。
まだ今日は休みだったから良かったのかもしれない。
こんな心境で仕事だったらと思うとゾッとした。
とりあえず昼まで睡眠を取った。
何の予定もないので、新宿歌舞伎町へ向かう。
行く宛てもなく歌舞伎町をフラフラ歩き、ゴジラホテルの一階に店舗を構える銀だこへ入る。

酒を飲みながらたこ焼きを食べて、風俗でも行って女を抱こうかなと徘徊した。
「……」
風俗店の入口まで来て、躊躇する俺。
別に若香がSNSで他の男とコメントしただけで、俺はもう他の女を金で抱こうとするのか?
離婚の原因が旦那の浮気で、ショックにより流産した彼女。
シンガポールと日本で分かりはしないが、俺は行動で同じ事をするのかよ?
「いらっしゃいませ!」
風俗の店員が俺の姿に気付き外へ出てくると、逃げるように店から離れた。
しっかりしろって。
ちょっとの事でブレ過ぎだ。
俺は彼女とどうしたんだよ?
ハッキリ問いただせばいいだけだろ?
あのフェイスブックの男は何なんだと。
携帯電話が鳴る。
若香からか?
画面を見て驚く。
初期横浜時代、初めてデートした女の麗美華からだった。
最後に会ったのはラッキーハウスで働いていた時期。
俺の誕生日を祝うと横浜で再会した彼女は、エグい女になっていた。
テーブルを見ると何故かグレンリベットのボトルが置いてある。
「何だよ、麗美華それ?」
「ちゃんと智ちんの好きなお酒、覚えていたんだよ。これが大好きなんでしょ?」
「まあそうだけどさ……」
「これ、私からだからさ、飲もう」
グレンリベットのコルクを開け、ショットグラスへ注がれる。
「ねえ、智ちん、私が好きなお酒のボトルも入れていい?」
「いいけど、本当寄りたい店あるから、すぐ出るからな」
だんだん酔いが回ってくるのを自覚した。
早めにこのキャバクラを出ないとヤバい。
そんな意識だけはある。
席を立とうとすると麗美華とヘルプ女は止め、酒を勧めてきた。
気付けば時計の針は翌日になっている。
「おい、麗美華! 行きたい店と言うか、横浜時代世話になって顔を出したい店があると言っただろ」
「じゃあさ、あとキリよくワンタイムでチェックしよ、ね?」
「そうやってズルズルとさ……」
「私も一緒に行くから、ね?」
「最後まで付き合えよ?」
「うん、だって智ちんの記念すべき日でしょ」
そう言って麗美華は俺の太腿の上に手を乗せてきた。
それにしても本当に暇な店だ。
俺が来てから客を一人しか見ていない。
この時間帯じゃ新宿へ帰れないし、今日は麗美華とホテルへ泊まるようか。
こうなったらここを出たら、キミノヤを始め、セックルやバンビーノにも顔を出してから、思う存分コイツを足腰立たなくなるほど攻めてやろう。
シアリスは未だ継続中。
股間はすでにスタンバイOKだ。
それにしてもこのヘルプ女、本当に邪魔だなあ……。
麗美華が俺の手を握り締めてくる。
考えている事が分かり、無言で制しているのだろう。
「智ちん、プリクラ切ってなかったからハサミ持ってくるね」
しっかりしろ。
酒にこれ以上飲まれるな。
俺は麗美華の後ろ姿を見ながら、懸命に意識を集中させる。
このあとあの尻を頂くんだろ?
シャキッとしろって。
俺は一旦トイレへ向かい、水で顔を洗った。
あの時を思い出しながら電話に出る。
「何の用だ?」
「え、麗美華、智ちんに電話しちゃいけなかった?」
「いや…、そんな事ないけど…。だいたいおまえはあの時酷かったじゃねえかよ」
あのデートのあと、一体いくら使ったんだっけ?
思い出すだけでもイライラしてくる。
鏡で自分の顔を見て確認する。
うん、顔を洗ったせいか、幾分スッキリした。
それにしても麗美華の店に何時間いるんだ?
インターコンチが七時だったから、九時頃までいて、この店で三時間ぐらい飲んでいる事になる。
会計いくら取られるんだよ?
財布の中を確認した。
十万円のズクが二つに数万円。
まあここまで必要なないにせよ、麗美華用のボトルを入れたし、ヘルプ女のあいつ何杯ドリンク飲んだんだ?
一時間指名料込みで一万円として、三時間で三万円。
ヘルプ女のドリンク代で一万だと想定し、麗美華のボトル代で一万から二万?
多く見積もって六万から七万ぐらいは請求されるよな……。
飛んだ誕生日になってしまった。
深い溜め息をつきながら席へ戻る。
「おかえりー、智ちん」
「もうそろそろチェックするから麗美華も出れる準備しろよ」
「え、でも……」
「俺は最初から顔を出したい店があると言っていたろ。別に来たくなきゃ来ないでいいよ。チェックだけして」
麗美華が黒服を連れてきて請求額を見る。
「……」
十四万五千円?
本当にキャバクラってくだらねえ場所だな……。
俺は財布からまず十万のズクを取り出してトレイの上へ放り投げる。
「智ちん、足りないよ?」
「今出すよ!」
どうやったらこんな額を涼しい顔して請求できるんだか。
頭かち割って脳みその皺を数えてやろうか、クソボケが。
一気にテンションが下がり、残りの金を置く。
まあうまく騙され利用された自分が悪いだけ。
背後で何か言っていたが、黙って店を出た。
嫌な誕生日になってしまったなあ……。
もうキャバクラ女は本当に懲りた。
金輪際関わるのを辞めよう。
セブンスターに火をつけながら東通りから仲通りへ入る。
平田のところにでも顔を出そう。
いい感じで酔いが回っていた。
西通りへ入ると因縁のラ・イマージュビルの前を通り過ぎ、左手にあるバーのキミノヤへ入る。
オーナーだけで平田の姿が見えない。
俺は会釈してカウンター席へ腰掛けた。
「あれ、今日平田はいないんですか?」
「彼は今フィリピン行っちゃってるんだよ」
「え、いつからです?」
「今日から」
タイミング悪いとはいえ、彼のフィリピン好きも筋金入りだ。
目の前にショットグラスが置かれ、グレンリベットが注がれる。
「良かったらマスターも一杯どうぞ」
「すみません、では頂きます」
乾杯を済ませ、タバコに火をつけた。
「最近見ないけど、もうこっちにはいないの?」
「ええ、今は地元の川越に戻って職場は新宿ですよ」
マスターは会話をしつつ、適当なつまみを出してくれる。
他愛ない世間話で盛り上がっていると、携帯電話が鳴る。
麗美華からだった。
「何だよ?」
素っ気ない対応になる俺。
「智ちん怒っているの?」
「あ? 別に……」
「何でそんな怒っているの? 今知り合いのお店?」
「そんなの関係ねえだろ」
「何で急にそんな風になるの?」
「……」
当たり前だ。
人の誕生日に何て真似をしてくれたと思っている。
「もう着替え終わったから、どこの店にいるのか教えて!」
「……。何だよ、急に……」
「智ちんと一緒にいたいの!」
惚れていた弱みなのか?
まだ俺はこの女を抱きたいと思っているのか?
いまいち強気にいけない。
不貞腐れながらも俺はキミノヤの場所を教えた。
「痴話喧嘩?」
マスターが笑いながら聞いてくる。
俺は答えずにセブンスターに火をつけた。
ドアが開く。
麗美華が後ろから抱きついてきた。
「智ちん…、何で急に怒っちゃったの?」
「……」
あんな会計を人の誕生日にしておいて、怒らない男がどこにいるんだよ。
キミノヤにいたので言葉を飲み込む。
「せっかく智ちんの誕生日だから、楽しく過ごしたかったのに……」
「そんなところ立っていないで、早く座れよ……」
「うん!」
本当に俺は甘い。
ここまで来るとただの馬鹿だな。
目の前にシャンパンのボトルが置かれる。
「早く言ってよ。誕生日だったの? これは私から」
「すみません……」
「わー、智ちん、いいお店だね」
麗美華が腕を組んでくる。
胸の感触が当たり、俺は無言で彼女の太腿へ手を置いた。
インターコンチで出されたシャンパンよりグレードは低いものの、とても旨く感じられた。
平田がいなくとも、十二分にノスタルジックな気分に浸れたキミノヤ。
俺たちは礼を言い、店をあとにした。
また俺の腕に絡ませてくる麗美華。
一体どういうつもりなのか?
俺は一旦立ち止まり、唇を奪った。
彼女は抵抗せず舌を絡ませてくる。
服の上から胸を強く揉んだ。
この辺だと東通りまで行かないとラブホテルはなかったか?
腰に腕を回し黙って歩いていくと、途中で「智ちん、どこ行くの?」と聞かれる。
「ホテルに決まってんだろ」
「もう一軒行きたいな。智ちん、バンビーノって知ってる?」
「知ってるも何も横浜時代年中行った店だ」
「え、それなら行ってみようよー。私もよくこのお店行くんだよ」
確かにインターコンチではほとんどの料理を麗美華へあげたので、腹が減っていた。
久しぶりにバンビーノのナポリタンやピザが食べたい。
ディスコの造りのような店内へ入り、カウンター席へ腰掛ける。
俺がこの店をよく利用していたのは二千十四年。
今では誰も俺の顔を知っている従業員はいなかった。
ジントニックを注文し、麗美華と乾杯する。
ピザとナポリタンを注文すると「ナポリタンはメニューに無いのですが」と言われた。
そんな事は知っていたが、前にいた従業員なら笑顔で作ってくれたけどな。
しかし常連でなくなった俺が無理強いを言うのは筋が違う。
笑顔で「ごめんね」と言い、ピザが焼けるのを待つ。
「智ちんて横浜で色々なお店に顔利くでしょ?」
「何で?」
「だってワンさんのお店でもワンさんが、前にスペシャルゲストとか智ちんの写真上げていたし。その時連絡したでしょ」
よく覚えていた。
あの元旦早々俺は一人で飲んでいた幸代を引っ掛け、そのままホテルで一緒に過ごしたのだから。
まさか今日麗美華を抱ける機会が来るなんてな……。
払った金は痛かったが、今日思う存分抱けるならそれはそれでいいか。
誰にも見えないようテーブルの下で俺の手を握ってくる麗美華。
ピザが焼き上がる。
「美味しそう! 私ももらっていい?」
「ああ、好きなだけ食いな。足りなきゃもっと頼めばいいだけだ」
俺たちの隣りに一人の男が座る。
「……」
何だ、この野郎。
他にスペース空いているんだから、もっと離れて座ればいいものを……。
先ほど不機嫌さを麗美華へ見せたばかりなので、とりあえず堪えた。
「智ちん、紹介するね。この人、私のお店の担当のボーイさんの織田さん」
何だ、偶然店が終わりここへ飲みに来たのか。
それなら麗美華の前だし格好つけておくか。
「おう、じゃあ一杯奢るから飲みなよ」
「すみません、頂きます」
空気読んで散れと思ったが、織田はずっと隣りに座ったまま。
さっきから性欲も限界だった。
俺は会計を済ますと、麗美華を促し外へ出る。
確か野毛へ向かう橋を渡ったところにもホテルあったよな?
「智ちん、どこ行くの?」
「ホテルだよ」
「えー、私もう一軒行きたいな」
「ふざけんなよ。おまえ、一体何がしたいの?」
「そんな怒らないでよ……」
黙ったまま橋を通り過ぎる。
このまま雰囲気のままホテルも確かに良くない。
一旦立ち止まりタバコへ火をつけた。
「何だ、あいつ?」
たまたま立ち止まったから気付いたのが、先ほどの織田が俺たちのあとをついてくるように立っているのが見えた。
何か気持ち悪い奴だな。
無性にイライラしてくる。
「おい、おまえ、一体何なんだよ?」
「いや…、あの…、特に用はなくて……」
「麗美華、行こう」
黙ったまま野毛を歩き、目的も関係無しに道を何度か曲がる。
それでも後ろを見るとついてくる織田。
人の誕生日にキャバクラで十四万以上の金を請求し、綺麗に払って揉めずにいるのに何がしたいんだ、コイツ……。
麗美華が織田に近付きこの辺で泊まれるホテルはないか白々しく聞いている。
そこで鈍い俺も何となく構図が理解できた。
おそらくバンビーノへ織田が来たのは偶然ではなく、麗美華がボディーガード代わりに呼んだのだ……。
イライラしながら道を歩き、気付けば関内駅の方向へ来ていた。
落ち着け、四十六になったばかりなんだぞ?
一人先に歩きながらゆっくり深呼吸をする。
「はぁー……」
大きく息を吐き出す。
うん、もう駄目だ。
俺は駅前に停めてあった自転車を片手で持ち上げると、振り回して織田へぶん投げた。
もちろん当てないよう方向は調整する。
「ちょ、ちょっと智ちん……」
「おまえは黙ってろ…。おい、小僧?」
「な、何ですか……」
「何ですかじゃねえよ? おまえ、何がしてんだよ、オラッ!」
「……」
「俺は大金使ってテメーの店で綺麗に遊んで飲んだよ? 何か文句あるのか?」
「い、いえ……」
「じゃあ、テメーが無言でずっとくっついてくる意味合いは何なんだよ、コラッ! 納得行くよう説明しろや、おいっ!」
「え、あの……」
「店の命令でやってんのか? だったら今すぐテメーの店のケツモチ呼べ。この辺だと〇〇会だろ? 誰でもいい。今すぐ呼べ。ヤクザ者の目の前でおまえ、半殺しにしてやっから」
久しぶりに感情の解放をしていた。
もちろんこんな屑に手を出すつもりはない。
しかしあまりにも人を舐めた行為が許せなかった。
近くの木を思い切り殴りつける。
何度も殴り、拳は血だらけになっていく。
それでも構わず殴り続け、織田へ恫喝した。
「おい、コラッ! ケツ呼べや! 全部ぶっ壊してやっからよ」
「……」
黙った腰を抜かす織田の胸倉をつかみ、木の根元へ叩きつける。
その状態のまま、すぐ上の部分の木をまた殴りつけた。
血が飛び散り、織田は小便を漏らしている。
「もう、やめてよーっ!」
悲痛な麗美華の叫び声。
俺は倒れている自転車を右手で持ち上げると、近くの木へ叩きつけた。
「いいか? おまえら新宿歌舞伎町の人間舐めてんじゃねえぞ? ふざけてっと、横浜なんぞぶっ潰すからな」
セブンスターを一口だけ吸い、火のついた状態のまま織田へ投げつけた。
あー、拳がいてー。
右手を払い、道路へ血をまき散らす。
俺は再びタバコに火をつけると、二人をそのまま置き去りにして福富町へ歩いて行った。
惨めな四十六歳の夜。
そう…、四十六歳の惨めな誕生日以来、俺はこの女と距離を置いたままなのだ。
「だって…、あの時担当の人がずっとついてくるなんて思わなかったから…、智ちんがあそこまで怒るとは思わなかったんだもん……」
「あんな真似されたら、誰だって怒るだろ! 一体今頃俺に何の用だ?」
「夜に新宿に来る用事あったから、智ちんの顔見たいなと思って…。迷惑だった?」
麗美華は俺が横浜に来て、初めて気に入った女だった。
俺はまだこの女を抱いていない……。
今日俺のところに来るなら、若香でなく麗美華でもいい。
「何時頃来るんだ?」
「えっとね…、買い物で代々木行くから、そのあとになるから九時ぐらいになっちゃうと思うんだけど? 智ちん会えないかな?」
シンガポールの若香とああなってしまったタイミングで、突然麗美華からの連絡。
これはこの女へ行けという啓示のように思えた。
「分かった。今日たまたま休みだったんだ。夜来るなら新宿へ来いよ」
「え、ほんと? 智ちんと会えるの?」
「……。ああ……」
「じゃあ新宿に来たら夜、電話入れるね」
まさかこんな状況で、麗美華と会う約束をするなんてな。
今日こそは俺の部屋へ連れ込んで、足腰立たなくなるほど抱いてやろう。
気付けば地下街のサブナードを歩いていた。
まだ時刻は夕方。
麗美華が来るまで時間はたっぷりある。
せっかくだから、洋食屋のバンビでも寄って行こう。

二番目に大好きなハンバーグを食べながら、以前身体を弄った麗美華の身体を思い出した。
向こうから会いに来るのだ。
今日こそはきっと……。
自称俳優マンションへ戻り、麗美華からの連絡を待つ。
ずっと横浜にいる彼女は、新宿など詳しくないから駅まで迎えに行くようになるだろう。
ED薬のカマグラゴールドを飲み、鬼に金棒状態にしておく。
夜になり麗美華からの連絡が入ると、新宿駅まで迎えに行った。
「何か食べたいものはないのか?」
「智ちんって元々新宿の人でしょ? よく智ちんが行くお店行きたいな」
俺は彼女をこなもんへ連れていく事にした。
突然若い女を連れてきた俺を見て、マスターは驚いている。
モダン焼きを注文し、柚子サワーと緑茶ハイを頼む。

「麗美華は?」
「智ちんと半分こしたいな」
「じゃあ、他にも色々頼むよ」
「そんな食べられないよー」
「俺が食うから問題ない」
店内はそこそこ客がいるので、マスターも忙しそうだ。
俺たちは出会った頃を懐かしみながら酒を飲む。

「ねえ、智ちん。イカ焼き食べたい」
「ああ、いいよ」
イカ焼きも注文し、酒を何度もお代わりする。

朝のLINE以来、若香からの連絡はないまま。
今は逆に来なくて良かった。
俺から何も返していないのだから、当然か。
今頃フェイスブックの新しい男と、お喋りをしているのだろうか?
想像するとイライラしてきたが、麗美華とこうして実際に会っている俺は何なのだろう?
店内が混み合ってきたので、会計を済ませ、外へ出た。
彼女を自分のマンションの前まで連れて行く。
「え、どこ行くの?」
「俺の部屋。今はここに住んでいるんだ」
その場で抱き寄せ、麗美華の唇を奪う。
薬のせいか、股間はギンギンにそそり立っていた。
「待って…、こんなところで……」
「じゃあ、俺の部屋へ来いよ。三階なんだ」
エレベーターの前まで手を繋いでボタンを押す。
いよいよ、この女を抱ける……。
ドアが開くと、「あ、岩上さん!」と声を掛けられた。
「……」
普段すれ違う事もないのに、何でこんなタイミングで若菜龍平が降りてくるんだ?
隣りにいる麗美華を見ると、また意味の無い話題を話し掛けてくる龍平。
「智ちんの知り合いの人?」
「あ、麗美華、彼は俳優業をしている若菜龍平さんって言うんだ」
俺の紹介の仕方が失敗したのか、龍平は上機嫌でペラペラ自分の活動を話し出す。
大人しい麗美華は愛想笑いをしながら話を聞く。
それが余計に拍車を掛けたのか、龍平の話は止まらない。
邪魔すんなよ、この馬鹿……。
サンドイッチをいつもタダであげているのに、少しは気を利かせろよ。
おまえのどうでもいいエキストラの話なんて、どうだっていいんだよ!
たまには役に立て、クソ俳優。
早く彼女を連れて部屋へ行き、セックスしたいのに、本当に余計な手間取らせんな。
「若菜さん! ごめんなさい。コイツとこのあと話あるんで、そろそろいいですか」
「あ、すみません、岩上さん」
龍平をようやく振り切り、三階へ向かう。
部屋へ入ろうとして、麗美華が口を開く。
「智ちん…、ごめんなさい。私、そろそろ帰らないと終電なくなっちゃう」
「え、泊まっていけよ」
「でも、私犬飼っているから、泊まりはちょっと無理なんだ……」
確かにここで強引に彼女を抱いたら、麗美華は間違いなく横浜へ帰れなくなってしまう。
新宿から横浜までのタクシー代なんて、いくら掛かるんだ?
そう考えると、仕方なく駅まで送る事にした。
俺のせいで愛犬に何かあったら、一生恨まれるだろうからな……。
新宿駅まで見送り、虚しさ全開で大久保へ戻る。
どうすんだよ、この滾った股間を……。
帰り道、リオのいる洗体エステ『ラブリーハート』へ入る事にした。
収まりつかなくて無性に女を抱きたかったのだ。
リオを指名して部屋へ入る。
「おじさん久しぶり。仕事忙しかったの?」
俺はシャワーも浴びず、リオを押し倒す。
乱暴に服を脱がせ、そのままセックスした。
麗美華の感じる姿を想像しながら顔に精子を掛けると、リオは身体にしてと言ったのにと怒っている。
こんな女の機嫌など、どうでもよかった。
部屋へ帰ると、今日行った店の記事をブログに書く。

銀だこ行ったけど、客が並んでいるのに、オープン11時半キッチリに店を開けるまではいい、しかしたこ焼き前もって焼いていたんだろうけど、冷めたたこ焼き出すのはやめたほうがいいと思う。
それならちょっと早めにでも客を中へ入れればいいのになあ。

このまま帰るのも何だし、サブナード歩いていて洋食屋のバンビ発見
行ってみるか。

何にしようかな。

結局ハンバーグとクリームコロッケのセットを注文。
エビフライとか食べられるけど、そこまで好まないものなので、クリームコロッケ二個のほうが個人的には嬉しいのである。
夜になって横浜時代初期に知り合った麗美華から新宿来ると連絡あったので、久しぶりに会う。
最初のデートが2013/04/06だから11年以上経っているのかw。
当時18歳だった彼女も来年で30歳になるようだ。
行きつけの店行きたいというので、こなもんへ。

山芋ミックスモダン焼き。

いかバター。

豚モダン焼き。
この記事を書き終え、アップしてから少しだけ罪悪感が出てきた。
若香は俺のブログを知っている。
返事もしなくなったままなので、彼女が俺の記事を見ている可能性もあるのだ……。
麗美華の事まで書いてしまったのは余計だったか……。
いやいや、バレたらバレたでしょうがない。
若香とはそれまでという事だ。
何だか飛んだ休みになってしまったな。
あー、龍平の奴、本当にいいところで邪魔しやがって。
リオにあれだけ出したのに、俺の股間は麗美華の事を想像すると、またギンギンになってくる。
先ほどキスしたばかりの麗美華の唇の感触を思い出しながら、マスターベーションをした。
逝く瞬間、若香の淫らな姿を想像しながら射精する。
何が誠心誠意だよ……。
一番薄汚れているのは俺じゃねえか。
酷く自虐的な気分になりながらベランダへ出ると、セブンスターに火をつけた。
頭の中でアニメの曲がこだましてくる。
あれは誰だ 誰だ 誰だ あれはデビル デビルマン デビルマン
裏切り者の 名を受けて すべてを捨てて たたかう男 デビルアローは 超音波 デビルイヤーは 地獄耳 デビルウィングは 空をとび デビルビームは 熱光線 悪魔の力 身につけた 正義のヒーロー デビルマン デビルマン
いやいや…、デビルマンほど格好良くないけど、裏切り者の名を受けているのは、俺そのものじゃないかよ……。
深く溜め息をつきながら、大きく煙を吐き出した。

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