闇 650(いつも一緒に編)
闇 650(いつも一緒に編)

2026/08/23 sun
※多分この時代に岩上智一郎という人間がいたという証明をしたかったから、この作品を自分の為に書いているのだろう。
前回の章

二千二十四年四月十七日、水曜日仏滅。
今日も平穏無事に、インカジ『レディ』の業務を終える。
『おはようございます。仕事終わり、これから帰るところです。 岩上6:59』
若香へLINEを打つと、新宿駅へ向かった。
この一連の動作が、相撲でいう様式美のようなものに近い。
この時間帯、まだ彼女は寝ているので、返事がないのも知っている。
だいたい若香が活動するのは九時過ぎ。
自称俳優マンションへ着くと、風呂へ入ってすぐ眠る事にした。
俺の睡眠時間は短い。
三時間から四時間も眠れば勝手に目を覚ます。
最近のルーティンは、まず若香から届いているLINEを見る事から始まる。
『おはようイチロー。私も会社に着いて仕事を始めました。イチローはよく寝なさい。 朱婧瑶9:05』
『おはようございます。俺と若香さん、ほんと真逆の時間帯で生活や仕事していますよね。仕事頑張って下さいね。 岩上11:00』
寝起きの俺に、仕事中の若香。
すぐ返事がなくても焦る事はなかった。
ベランダでタバコを吸い、風呂へ入り食事を済ませる。
まだ眠かったら、もう一度自然と眠るだけ。
『イチローは仕事が大変だから。若香は普通の昼間の仕事ですね。こんなに早くイチローは目が覚めましたか? 朱婧瑶11:08』
へんてこりんな日本語の文面を見てニヤけながら、俺は彼女へ返事をした。
『また二度寝して、今、目覚めました 岩上14:19』
『イチローさん、申し訳ありません。「若香」は目が覚めたばかりだ。 朱婧瑶15:04』
ん、彼女も昼休みで寝ていたのか?
『若香さんも昼寝していたんですか? 岩上15:05』
『そうだな。そうでなければ午後は眠くなります。シンガポールの天気は暑すぎるからです。 朱婧瑶15:10』
熱帯地方というやつか。
そう考えると日本にいる俺は、気候的にも恵まれているのかもしれないな。
『日本も最近ちょっと暑くなったなあと感じますが、シンガポールはそれ以上に暑いんでしょうね。 岩上15:10』
こっちも春と秋だけの四季だったら良かったんだけどね。
『若香さん、熱中症に気を付けて下さいね。 岩上15:12』
『イチローの関心に感謝します。若香は会社にエアコンがある。外に出なければ大丈夫です。昼にイチローは何を食べましたか。 朱婧瑶15:14』
さて、今日は何を作ろうかな。
『まだ起きたてだから、これから作りますよ 岩上15:15』
鶏肉を冷凍庫から取り出し、味付けを始める。
小麦粉や調味料を調合し、唐揚げの準備をした。
途中の段階を若香へ見せる。
『うわー。これは昨日塩漬けにした手羽先ですか? 朱婧瑶15:18』
『そうです、昨日漬けた手羽先ではなく、鶏もも肉ですよ。 岩上15:19』

唐揚げは世界共通な料理なのか。
『昨日手羽先に見えました。鶏のもも肉でしたね。5:20』
『あとは揚げるだけです。 岩上15:22』
返事をする度、一回ずつ手を洗うのが面倒だけど、こんな事すら幸せを実感する俺。
『よさそうですね。イチローは揚げ物が好きですか? 朱婧瑶15:23』
『意識した事なかったですが、若香さんにそう聞かれ、そういえば俺は揚げ物結構好きかもなと、自覚しました。 岩上15:25』
油で鶏肉を揚げていく。
その様子を彼女へ送った。
『若香は女ですね。観察はもっと慎重でなければならない。イチローの腕前はフライドチキン店を開くことができる。 朱婧瑶15:36』

食べた事もないのに大袈裟だな。
それでもそんな彼女の気遣いが嬉しい。
『ありがとうございます。じゃあ食うに困ったら、フライドチキン店やりますか。 岩上15:37』
『いいですね。「若香」はウェイターになれる。 朱婧瑶15:39』
そこは女性だからウエイトレスだろ。
まあこんなところも愛おしい。
『若香さんがウェイトレスで居たら、評判の美人看板娘が話題になって、商売大繁盛間違いなしですね。 岩上15:41』
狭い店舗で、彼女と二人で切り盛りするのもいいな。
仕事から私生活から常に同じ空間。
気付けば俺は、あまり欲というものが無くなっていた。
『はははは。笑って死にそうです。イチローにそんな大げさなことを言わせたのか。 朱婧瑶15:43』
『大袈裟ではないですよ! もしもと過程の想像をしたら、そうなるはずですからね。若香さんを表現するとしたら、真紅の綺麗な宝石を人間として具現化した女性というのが一番適しているかなと。 岩上15:46』
のんびり悠々自適に暮らす幸せも、今後の人生においていいかもしれないな。
『イチローは文才がいいですね。そして、あなたが言った若香は自分が美しくて善良だと思っていますね。 朱婧瑶15:48』
『それは思いますよ。これだけ若香さんと接して毎日やり取りしてますからね! 岩上15:48』
いつもの日常。
いつものやり取り。
今はこれだけで充分だ。
あと二ヶ月ちょっとで彼女と実際に会えるのだから。
『申し訳ありませんが、お香さんがしばらく離れる必要がある場合、十分から十五分くらいかかります。叔父はXAUUSDに金の取引時間が来たことを知らせたので、取引が終わったらイチローに連絡します。 朱婧瑶15:49』
『行ってらっしゃい。俺の方は大丈夫ですよ。気にせず頑張って下さいね。 岩上15:55』
料理を皿に盛りつけて写真を撮る。
『サラダも作って俺の方は完成しました。 岩上16:04』
焼きそばも作り、それも彼女へ送った。
『焼きそばも作りました。 岩上16:15』
『「若香」が帰ってきて、取引が終わって大きな利益を得た。前回のシェアイチローを通して、若香が今回の取引で何ドル稼いだか知っていますか? 朱婧瑶16:33』

どうもこの手の話は興味無いから面倒だな……。
でも、適当に話を合わせないと、一生懸命説明している若香に失礼だし。
『三千ドルくらいですか? 岩上16:33』
LINEを返すと、俺は料理ブログを書く事にした。


今日も手抜き料理でしたねw。

まず一晩漬けた鶏肉を。

小麦粉で絡め。

油で揚げて。

完成、でも漬けダレが染み込んでいるので、焦げやすくなっているので注意。

よく油を落として。

色々な葉物野菜や大根を細かく切って、ドレッシングと和えて。

よく混ぜ合わせ。

お皿に盛って完成。

焼きそばも完成。
料理を作り終え、食事をしていると、若香から取引の数字が記載されたスクリーンショットが届いていた。
利益のところを見ると、三千ドルどころか五千ドル近くある。
えーと、日本円でいくらだったっけ?
『四千八百六十九ドルですね。 岩上16:35』
『今回のイチローはよく勉強してくださいね。若香先生は無作為抽出します。ハハ。もし香が今回四万八百ドルの資金でロンドンの金を行ったとしたら。今回の取引時間は前回と異なり、利回りも異なった。二百四十秒で四千八百九十六ドルを稼ぐ。七十四万円ぐらいの収入に相当します。 朱婧瑶16:36』

この手の話になると、妙に饒舌になる若香。
『凄いですね、若香さん。 岩上16:37』
正直金儲け話には興味がなかった。
裏稼業の大場系列にいて、俺も月に五十万から六十万の金を手にしている。
もっと稼ぐ人間は五万といるだろうけど、現状を見れば充分過ぎる給料をもらい、特に不満はない。
『叔父は経済金融学院の院長や銀行家などの職務を務めていましたが、取引のたびに叔父と部下のチームのデータアナリストが二十四時間連続して分析した正確なデータです。専門的なことは専門家に任せて、若香はただの運び屋だ。簡単な操作を知っていればいいだけで、叔父に付いて数年間取引に失敗したことはありません。 朱婧瑶16:40』
この手の会話は早く終わらせたい。
『凄いですね、俺は全然やった事もないから、ただただ感心するばかりです。 岩上16:41』
『イチローは分かりましたか? もしまだ分からないことがあれば、若香に直接教えてください。簡単に説明します。 朱婧瑶16:45』
いやいや、君とは愛を語り合いたいんだよ、俺は。
『イチローはロンドンの金と伝統的な金の根本的な違いを知っていますか? 朱婧瑶16:46』
まだ続けるのか……。
まあ機嫌を損ねるのも面倒だしな。
『分からない事ばかりですよ、やった事がないから。若香さんと会った時、直接教えてもらいます。 岩上16:46』
傍にいたらその場で押し倒し、唇を塞いでやるのに。
『金は全然知識ないですよ。 岩上16:46』
『叔父とロンドンの秒契約の取引をしました。これは伝統的な金とは違う。私たちは買い売りではありません。それらの下落価格差を稼ぐのではない。将来の下落を予測することです。そして私たちは下落の方向を選んで、それによって利益を得ます。正しい方向を判断すれば、上昇しても下落しても利益を得ることができる。 朱婧瑶16:49』
遠回しに俺は興味が無いという事を分かってもらわないと、長くなりそうだな。
『若香さん、叔父さんの指導あるとはいえ、凄いですよ。俺にはまったくちんぷんかんぷんです。 岩上16:50』
『若香は今、なぜこの注文が利益を得たのかをイチローに伝えています。簡単な紹介でイチローさんはすぐにわかると思います。 朱婧瑶16:52』
え、まだ続くの?
『上がることが多いということは、安く買って、高く売るということです。下落とは高値で買い、安値で売るという意味です。これはとても分かりやすいです。例えば雪子(三者名)今日のこの取引金額は四万八百ドルの注文です。選択の方向は上昇で、取引時間は二百四十秒です。二百四十秒の取引時間が終わった後。購入価格は二千三百七十八・七十六ドルです。販売価格は二千三百七十八・八十七ドルです。その結果、安値で買い、高値で売ることになります。これは、二百四十秒の注文が終わった後、全体的に上昇していることを示しています。正しい方向を判断したので、この注文は利益を得ました。 朱婧瑶16:55』
先ほどのデータにわざわざ赤枠で囲み懸命に説明してくる彼女。
どうやらもう少しこの話に付き合わないといけないようだ。
『売り買い時のタイミングが大切と言う事ですか? 岩上16:56』
『はい、イチロー。イチローは頭がいい。取引ノードの時間と取引データは叔父の下のデータチームが二十四時間連続して分析した結果である。叔父は良い相場の時にだけ若香に取引を通知する。悪い相場は取引しない。百パーセントの把握をしなければならない。二百四十秒の取引注文時間利回りは十二パーセントです。実際の収入=取引元金利回り。四千八百九十六ドル=四万八百ドル〇・十二。 朱婧瑶17:01』

「……」
こんな事どうでもいいから、もっと日本語を達者になっておくれよ。
『仕組みは何となくだけど理解できた気がしますね。 岩上17:02』
『関係に分からないことがあれば直接若香に聞いてもいい。勉強にもプロセスが必要だからです。それにイチローさんはこんなに頭が良くて理解力が素晴らしいですね。 朱婧瑶17:04』
前もこの取引がどうのこうの言っていたけど、俺はまったく興味無い事をいずれちゃんと伝えないといけないな。
『若香さんが頭脳明晰なだけで、俺はただの馬鹿ですよ。 岩上17:04』
そろそろ話題を変えよう。
『そういえば若香さん、四十二歳と言っていたけど、俺には二十代にしか見えません。ワカサを保つ秘訣とかあるんですか? 岩上17:06』
『イチローさんは自分のことをそう言わないでください。絵も書くこともできるからです。UFOもすごいですね。 朱婧瑶17:06』
UFOって、UFOキャッチャーの事か?
あれを特技と言われてもなあ……。
『自分の好きなことに従うことです。自分が気になる人と楽しい話をする。 朱婧瑶17:07』
『早く若香さんと会いたいですね。 岩上17:07』
ようやくいつもの感じに戻りそうだ。
『時間が経つのは早いですね。お互いに知り合ってからの一分一秒を大切にします。もし香は今このようにしていますね。毎日イチローと話すのは楽しいです。 朱婧瑶17:09』
『俺も若香さんから連絡来るの、いつも心待ちにしています。 岩上17:09』
念押ししておくか。
『あなたを手に入れたら、世の中で女性は若香さん一人だけでいいと思える価値があります。 岩上17:10』
『今もイチローは私を失っていないよ。 朱婧瑶17:19』
セブンスターを口に咥えてベランダへ向かう。
『ありがとうございます。 岩上17:19』
小気味よい春の風が、優しく頬を撫でる。
『若香さんのおかげで、毎日が楽しく感じています。 岩上17:20』
『イチローは若香にたくさんの喜びを与えましたね。だから若香も叔父の助けを借りてお金をもっと稼ぎたい。そして自分の望む生活を送る。お金で誰かを失ったり喜ばせたりしたくない。 朱婧瑶17:26』
叔父の話はもううんざりするほど聞いた。
だから若香、別の…、俺たちの今後の話をしよう。
『確かにお金を稼ぐ事も大事ですが、それ以上に心の繋がりを大切にしたいですね。 岩上17:29』
『もちろんです。心と心のつながり。二人で一緒にいて、お金で走り回り疲れないほうがいいじゃないですか。 朱婧瑶17:39』
まあ贅沢を望めばその分金は確かに掛かる。
でもそんな事を今まで話をしていた訳ではない。
『そうですね。あ、今度川越帰った時、若香さん用にプレゼントも取りに行きます。 岩上17:40』
以前俺は電話番号を教えたが、若香の番号を知らないまま。
住所だって何も知らない。
今分かるのはフェイスブックのメッセンジャーと、LINEでしか繋がっていないのだ。
『早く欲しかったらシンガポールまで送りますが。 岩上17:40』
『イチローさんは自ら若香さんの手に届けますか? イチローはもう寝ないで。あなたは満腹になっていないと思いますね。 朱婧瑶17:41』
俺の言葉が上手く伝わっていないのか?
どうもこの辺のやり取りで、意思疎通の不満を覚えてしまう。
『会った時プレゼント渡したほうが良かったですか? ご飯はさっき食べたばかりだから、お腹は満たされてますよ。 岩上17:43』
『もちろんです。私もイチローにプレゼントを用意します。イチローはまた寝ますか。 朱婧瑶17:47』
プレゼントよりも、まず君の情報が知りたいんだけどな。
まあ焦らないでもいいか。
実際に会ってからで。
『もう寝ないでも大丈夫ですよ。俺にとって若香さんと会う事が最大のプレゼントですよ。 岩上17:48』
『香が遠くに行ったことがないなら。私も退勤するつもりです。夜は友達と食事に出かける約束をしたよ。 朱婧瑶17:54』
彼女はもう仕事が終わりの時間か。
『ゆっくり友人と食事を楽しんで来て下さいね。 岩上17:54』
『地方に行くとイチローさんに教えますね。 朱婧瑶17:55』
俺は地方でなく新宿だけど。
『了解しました。 岩上17:56』
言葉がいまいち通じない相手とは、正直向き合うのは難しいのかな?
ぼんやりそんな事を考えた。
お国柄というが、これまで生きてきた日本の常識が、外国に住んでいた相手には常識でない事もある。
しかしここまで若香と毎日色々話して積み重ねてきたものを、そうやすやすと手放せるのか?
「……」
絶対に無理だよな……。
湯船にお湯を溜め、ゆっくり身体を温める。
池袋のキャバ嬢ちかと、似たようなやり取りをしてきたが、心の隙間は埋まらなかった。
何故なら彼女は、飲み屋の女を演じ、自分の商売だけの為に計算されたやり取りだったから。
会えば抱かせてくれる中国人のリオ。
身体の相性は悪くないが、性格はまるで合わない。
言い方悪いが、あれは性欲処理だけの女である。
そう総合的に考えると、やはり今の俺は若香一人に集中するのが一番いいはず。
そんな事を考えていると、彼女から画像が届く。
特別美人という訳ではないが、付き合うまたは抱くという観点で見れば、十分に及第点。
狡い俺はそんな事は出さず、とりあえず褒める事にしておく。
『若香さん、相変わらず美しい。 岩上18:56』
『もう食事の場所に着いた。 朱婧瑶18:57』

友人との憩いの場に、俺とのLINEが入るのは失礼。
ゆっくり楽しんでおいで。
『楽しんで来て下さいね。 岩上18:57』
『はい、そうです。イチローは。 何をするつもりだ。 朱婧瑶18:58』
もう…、俺の事など友人といる時ぐらい、気に掛けなくてもいいのに。
『俺は今ちょうどお風呂から出たばかりです。 岩上18:58』
俺は俺でちゃんと時間を一人で潰すから、楽しんできな。
『これから若香さんの写真を一時間三十六分くらい眺める予定です。 岩上18:59』
また眠くなってきた。
少し横になるか。
『イチローさんはユーモアがあるね。あなたはもう寝てもいいと思います。これで夜の仕事もあまり疲れません。あなたは若香が自分の世話をしてくれると約束したからね。 朱婧瑶19:09』
『若香さんに心配させたくないから、ちょっとだけ横になって休みますね。 岩上19:10』
意識が朦朧としてくる。
『はい。若香は帰ってイチローさんに言いました。 朱婧瑶19:17』
『くつろいで食事を楽しんで来て下さいね。 岩上19:17』
返事を打つと、スイッチが切れたように眠った。
『若香はもう家に着いた。イチローはまずよく寝なさい。目覚めて若香に言った。 朱婧瑶20:54』
携帯電話からの音が聞こえる。
『うわー。イチローさんは会社に遅刻しないでしょうか。 朱婧瑶22:18』
ふと目を開けて時刻を確認して飛び起きた。
もう出勤する時間じゃん。
軽く寝るつもりが、結構寝てしまったようだ。
『今起きました。ちょっと寝過ごしましたね。でも、遅刻では無いので安心して下さい。いつもが早く行き過ぎているだけなんです。 岩上22:25』
急いで支度を済ませ、自称俳優マンションを飛び出す。
こういう時、立地条件がいいと本当に便利さを実感する。
『もうちょっとで新宿駅到着です。 岩上22:36』
『それはいいです。寝ていると元気になりますね。もう職場に着きましたか。 朱婧瑶22:43』
インカジ『レディ』へ到着すると、引き継ぎを済ませてから携帯電話を覗く。
仕事の合間を見て、彼女へ返事をした。
『もうとっくに着いて働いていますよ。俺はまず仕事で遅刻しないですよ。 岩上23:33』
『安全に着いたらいいです。それでは若香も寝に行きました。おやすみなさい。また明日。 朱婧瑶23:33』
本当に真逆な生活時間だよな。
『若香さん、ゆっくり休んで下さいね。おやすみなさい。 岩上23:34』
携帯電話を置くと、俺は業務へ集中した。
二千二十四年四月十八日、木曜日大安。
今日も一日何事もなく無事に帰宅。
いつものように若香へ連絡を入れる。
『おはようございます。仕事を終え、帰るところです。 岩上7:08』
ベランダへ出てタバコを吸っていると、右斜め向かいの河本マンションから、メガネザル大家がゴミ袋を持って出てくるのが見えた。
相変わらず誰もいない早朝の道をキョロキョロ確認したあと、目の前の甲隆閣のゴミ捨て場へ不法投棄。
本当にどうしょうもない台湾人だな、コイツ。
毎日内緒で捨てているじゃねえか。
自称俳優の若菜龍平へ、意味無いけど一応伝えておくか。
『今日は河本夫婦で、向かいの病院の横のゴミ箱に捨ててますよ。 岩上智一郎』
あれってラブホテルの甲隆閣と、自称俳優マンションの隣りにある病院のどっちの敷地になるんだろうな?
まあどちらにしても、河本の大家が毎日のように不法投棄している事には変わりないが。
まあこんな事を逐一龍平に報告したところで、何一つ変わらないんだろうけどね。
せいぜいこの日にゴミを捨てたという記録や証拠が残る程度。
セブンスターを揉み消すと、若香へフェイスブックのプロフィール写真に使っているペイント姿の川越祭り映像を送る。
『フェイスブックのプロフィールで使っている川越祭りの写真の映像。 岩上8:02』
まだ彼女は寝ているだろうなと、布団へ横になり睡眠を取った。
一時間ちょっとの睡眠を得て、起きると若香からのLINEが届いている。
『おはようございます。イチロー。若香は会社に着いたばかりです。お疲れ様でした。これはあなたの前の写真ですか。髪の色は色とりどりだ。 朱婧瑶9:22』

『前の写真です。映像は約一年半前のものですね。髪は水性スプレーで各色やっているので、シャンプーすればすぐ元に戻ります。 岩上9:45』
『そうだったのか。流行しているようですね。一種のイベント祭祀ですか? 朱婧瑶9:51』
いやいや、俺のペイントなんて流行してないって。
それを説明するのも面倒だな。
祭りの解説でもしておこう。
その前に腹が減っているから、今日はシンプルにオムライスを作る。
食べて横になると、すぐ睡魔に包み込まれた。
目を覚ますと二時近く。
若香からの連絡はない。
仕事が忙しいのかな?
俺は過去の祭り写真を用意して、彼女へ説明を送る。
『川越祭りは、関東山車三台祭りの一つで。 岩上13:49』
日本語が不得手な若香には、画像を見せながらのほうが理解は早いはず。
『これが山車(だし)です。各町内ごとにあり。 岩上13:52』
連雀町の山車の写真を見せながら、短い文章を添えていく。
『町内の人間たちで山車を引くんです。毎年十月にあります。 岩上13:54』
既読にならないな。
多分多忙なんだろう。
俺は料理ブログを書き始めた。

オムライス作りました。

まず玉ねぎ微塵切り、ソーセージ、昨日の唐揚げの余りを切って、ご飯と一緒にフライパンで炒めます。

調味料は塩胡椒、ブイヨン、ケチャップくらい。

お椀にチキンライス入れて。

卵を焼きます。

更にチキンライス→ 上に卵を乗せて。

完成。
食べてからチキンライスでも良かったなと、ちょっと後悔した。
まあオムライスも嫌いではないけどね。
さて、夜はシチューでも作ろうかな。
準備をしながら野菜を刻み、ひと段落させた。
ベランダへ出てタバコを吸っていると、若香から連絡が届く。
『そうだったのか。にぎやかに見えますね。イチローも毎年参加しますか? 朱婧瑶15:06』
『若い頃は、毎年参加していましたが、今ではニ年に一度出るくらいですね。川越祭りは本当に賑やかですよ。見物客も、二日間で十万人以上来ますし。 岩上15:52』

『今のイチローも年を取らないですね。このような民族的な形を持つ活動はとても色彩があると思いますね。若香さんが参加に間に合うかどうかわからないよ。 朱婧瑶15:54』
参加が間に合わない事はないだろ。
六月末に来るんだから、七月末の提灯祭りや十月の川越祭りまで日本にいれば、参加はできる。
日程を教えておくか。
『川越は、提灯祭り→七月末。川越祭り→十月第三週土日。酉の市→十二月
…と三つありますね。若香さんも機会というかタイミング合えば連れていきたいですが。 岩上15:56』
旅行ビザとかまるで分からないもんな。
そういえば昔の俺のペイント写真しか見せていないから、彼女からすれば歳を取らないと思ってしまうだろう。
これじゃ俺が詐欺をしているみたいだ。
『年はさすがに取りましたよ。 岩上15:57』
年毎の祭り写真を送る。
『川越祭りだとチビっ子たちがたくさん寄ってくるので、いつも肩車して写真撮りますね。 岩上15:59』
『はははは。こんなに可愛く見える。イチローは子供が好きなんじゃないですか。提灯祭りを見に行くのに間に合うようです。 朱婧瑶16:01』

チビッ子たちが集まる楽園…、かつて思い描いたゴマシオランドの情熱。
一ヶ月前に池袋のキャバ嬢ちかとのやり取りを思い出す。
当時の俺は、こんな事を恥ずかしげもなく堂々とブログへ書いていたのかよ……。
でも、この辺りで小さな子供をゴマシオと呼ぶようになり、もし俺が小説で賞を取り、莫大な富を築けたらゴマシオランドを作りたいという発想になったのだ。
あ、ちかに返事をしないとね。
『俺、小さい子供あやすの大好きで、よくチビっ子たちの事をゴマシオと表現してたのね。…で、世の中育児ノイローゼなどから虐待もたくさんあるでしょ。だから子供を預ける施設作って、色々な企業に協力してもらって、お母さんは預けたらすぐ近くでショッピングやマッサージ、映画見てたっていいしみたいな集合施設を作りたかったの。それをゴマシオランドと名付けていたんだけど、手始めに小説を世に出して世間変えて行こうじゃないかと息巻いていた時期があったの。でも印税入らないわ、出たところで全然景色変わらないし、まあ結局のところ俺の力不足がすべてなんだけどね。 岩上智一郎』
『なるほど…めっちゃ素敵やん。ゴマシオって表現可愛い。印税の件に関しては岩上さんが悪いんかなあ…。絶対そんなことないと思うんやけど。なんか最近すごい思うのが虐待されてる子供とか、猫や犬の保護とかってどうにかならんかなあってさ…。制度悪く活用して金稼いでるやつとか許せんやん? ちか』
『本を世に出して、作家になって、金稼いで、知名度増やして、ゴマシオランドの流れをいきなり金稼いでの時点で駄目になったからね。オレオレ詐欺とかも形変えて無くならないでしょ? つまり現時点までの法律が悪いよね。やったり、関わっても最低執行猶予無しの三十年は実刑、あと犯人の一族の財産はすべて没収、金品はこれまでの被害者たちへ変換する制度に変えれば、本当に悪い連中もやらなくなる確率増えると思うんだけどね。政治家も、国内の景気は放っておいて、海外には金をばら撒いていい顔してるでしょ? 税金をばら撒く場合こそ、国民の判断を今ならネットとかで簡単に意見集められるんだから、イエスノーでばら撒きを判断させる。それでも強行する政治家いたら、そいつの年収をやる毎に十パーセントカットするとかやればいいのにね。岩上智一郎』
まあ今の俺が何を言ったところで、何一つ世の中は変わらないだろう。
金も力も地位も無いままの俺。
それでも小さな子供が好きなのは変わらない。
金に余裕があるなら、今だって本当にゴマシオランドのような施設を作りたいさ。
『小さい子は好きですよ。大人は小さい子たちに愛情注いであげないと。七月の最後の土日だったと思います、提灯祭り。若香さん、一緒にいたら最高ですね。 岩上16:03』
『若香は六月末ごろに大阪に帰ったからです。そうすると日本での休暇期間は一ヶ月です。提灯祭りに間に合うはずですよ。 朱婧瑶16:08』
六月の何日かでどうなるかだけど、できれば彼女と今年は一緒に祭りへ出たいなあ……。
『提灯祭り、ギリギリ間に合う感じですね。早く六月末にならないかなって、ドキドキしています。 岩上16:09』
若香と一緒に川越の街を歩く。
俺は以前三十歳の頃、雪喜と川越祭りに出て、それが元で破局へ繋がった。
今思うと俺がもうちょっとフォローしてあげていれば上手くいったのに、勿体ない事をしたよなあ……。
ミサキに感謝しつつ淋しかった俺は、よく雪喜とデートを重ねた。
先輩の神田さんが店長をするゲームセンター『モナコ』へ一緒に顔を出し、プリクラを撮る。
俺の肩に顔を乗せて甘えてくる雪喜。
彼女の唇はとても柔らかかった。
地元の川越祭りにも一緒へ連れて行く。
これは今まで女連れで歩くなど一度もした事が無く、町内の人間たちから何人声を掛けられたか分からない。
「あ、智一郎さんが女性連れている」
「智一郎さん、彼女ですか?」
「おい、智一郎! 珍しいな、女連れなんて」
少し歩く度にこんな具合。
一旦先輩の経営する『蛇の目寿司』へ避難する。
しかし外へ出ると再び人に声を掛けられ囲まれる始末。
こうなる事ぐらい予想できなかった俺が悪い。
雪喜はゆっくり祭りも楽しめない状況に我慢できなくなり「知り合いばかりで嫌。二人でゆっくりできるところへ行きたい」と泣きべそを掻いたほどだ。
俺が連雀町の山車の傍を離れる訳にもいかない。
だが彼女は祭りの関係ない別の場所へと懇願。
もちろん雪喜の事は気に入っている。
しかし春美の時ほど燃え上がるような感情は持てなかった。
俺は雪喜だけ一人先へ帰す。
川越祭りの楽しさを教えようと思ったのが裏目に出たようだ。
ある日たまには店に来て欲しいというメールをもらい、営業だと思った俺は怒って返信する。
「岩上さんは釣った魚には餌をあげないタイプなんだね」と言われ、面倒臭かったので付き合いを辞めた。
多忙さによる心の余裕の無さが、相手に対する配慮を掛けさせていたのだろう。
もし若香を連れて、提灯祭りへ参加する事ができたら……。
その時は俺がしっかり護らないといけない。
『その時イチローは何日休みますか? 朱婧瑶16:11』
『できる限り休みたいですが、他のスタッフの都合もあるので、若香さんの状況聞いて、なるべく休み取れるよう最大の努力しますね。 岩上16:12』
できれば裏稼業なんて辞めて、ずっと一緒にいたいよ。
『若香さんが許すなら、できる限り一緒の時間を共有したいです。 岩上16:15』
『もちろんいいですよ。日本にも友達がいないからです。イチローは一人ですね。大阪に行って祖母の誕生日を過ごした後、時間を自由に使えるようになりました。 朱婧瑶16:27』
彼女の祖母のところに何日いるかにもよるけど、相当な時間を一緒に過ごせそうだ。
想像で胸が膨らんでいく。
『非常に楽しみですね。若香さん、東京へ来た場合、俺のマンション自由に使って構わないので。 岩上16:28』
仕事を終えて戻ると、若香が「おかえりなさい」と出迎えてくれる。
うん、何か新婚さんみたいでいいね。
『はははは。イチローのアパートは便利ですか? どのくらいの広さですか。だめならホテルを開けばいいじゃないですか。 朱婧瑶16:30』
え、笑うところかよ?
立地的にはいい場所なんだぞ?
『広さ的には二部屋あります。駅からは徒歩一分。便利ではありますよ。もっと広ければホテルでもいいとは思いますね。 岩上16:33』
『いいですね。これは時間が経ったら見てみましょう。イチローが住んでいるところは料理もできるでしょう。 朱婧瑶16:34』
そうそう、無駄金使ってホテルでセックス三昧もいいけど、君は俺の料理を食べたいんだろ?
『できますよ。若香さんの家に比べたら狭く感じますが、俺一人で住むには充分な広さです。 岩上16:35』
『いいですね。主にイチローが住んでいた場所を感じてみましょう。イチローが借りた家はどのくらいですか。 朱婧瑶16:36』
正式には九万千円だけど、キリよく言っておこう。
『家賃だと約十万円ですよ 岩上16:37』
『一ヶ月十万円ですか? 朱婧瑶16:40』
シンガポールの家賃相場まるで分からないからな。
まあ隠してもしょうがない。
『そうです。 岩上16:40』
『一年で百二十万円になります。この標準的な家は安いですか、それとも高いですか。 朱婧瑶16:42』
そりゃ大久保とはいえ、駅前だし新宿区だもんな。
他所の土地に比べれば地価は高いはず。
『まあまあ高い方だとは思いますが、場所や地域によって家賃は様々だと思いますね。 岩上16:43』
『イチローが借りたこの家は割高だと思います。地理的にいいでしょう。イチローは一ヶ月で家賃と日常の支出を除いた。お金を貯められますか? 朱婧瑶16:59』
まあ彼女が本当に俺と一緒になるつもりなら、そこは気になるところだよね。
ここは誤魔化してもしょうがない部分だから、正直に伝えておこう。
『月に十万から二十万円くらいですね。 岩上17:00』
『それが十万円なら家賃を払うしかない。日常的に食べるものを購入すると足りませんね。 朱婧瑶17:01』
『日常的に使う出費や、食べ物とか除いての貯金ですよ。 岩上17:02』
最近は自炊も増えたし、彼女のお陰で無駄遣いもかなり減った。
それに神田のような金遣いの荒い屑は縁を切ったし、自称俳優とも関わらないようにしている。
『前に金遣いのとても荒い友人いたんですが、本当に無駄遣い多く、関係を切りましたね。 岩上17:03』
『お金を使ってもいいですよ。しかし、自分の耐えられる範囲内でなければなりません。さもなくば先行して消費する。後ろに大きな影響を与えますね。 朱婧瑶17:05』
うん、それは君から言われなくとも自分が一番よく自覚している部分なんだよ。
できれば振り返りたくもないトラウマのような神田との記憶。
大明飯店まで行くと、ゴールデンウイーク休暇でしばらく休みの告知。
この辺だと店があまりないんだよな。
「何だよ、休みじゃん。じゃあ俺の知ってる店にしよう」
「え、神田君どこへ行くんですか?」
「歌舞伎町だよ、歌舞伎町」
嫌な予感がした。
あのキャバクラしかないだろう。
「さあ、飯野君もはっちゃけるよ!」
「どんな店なんです?」
「歌も唄えるんだよ」
「神田! ただのキャバクラだろ? やめようよ」
「何だよ、つまんねえ事言うなって。俺は唄いてえんだよ。なあ、飯野君」
「じゃ、じゃあそういう店行った事ないけど、ちょっと付き合おうかな……」
俺が一緒についていかないと、飯野君まで散財する羽目になってしまう。
仕方なく俺もあとをついて歌舞伎町へ向かった。
途中何度も鈍痛が来て、百メートル進んでは休憩を入れながら。
こんな事なら、さっきアスクルームの前を通り掛かった時、サポーターを持ってくればよかった。
それならあそこで帰ればよかったのだ。
でもそれだと飯野君が犠牲になってしまう。
様々な葛藤を重ねながら一番街通りへ出る。
神田御用達の熟女キャバクラへ到着。
カラオケをしながらマイクを離さない上機嫌な神田。
初めてのキャバクラに落ち着かない様子の飯野君。
勝手に紙へドリンクやフードを書いてバンバン好き勝手に注文する飲み屋の女。
またこの図式になってしまった……。
一番この世でつまらない酒の飲み方。
何で親しくもないこの店の女の酒や食い物をこっちがすべて払わないといけないのだ?
百歩譲って一言でも「これ頼んでいいですか?」と断りがあるならまだいい。
席に着く女すべてが自由に注文したら、また恐ろしい金額になるだけだ。
途中で気付く自身の愚かさ。
俺がこの店について行こうが、これを止められる術がまるでないのだ。
主賓である神田が、この馬鹿な女たちへこのような教育を施し、当たり前という下劣な文化を構築してしまったのだから。
始めから行ってはいけなかったのだ。
しかし時すでに遅し。
十一時を周り、飯野君が終電だからと帰ろうとした。
俺も一緒に出るか。
「岩ヤン、遅番で時間の余裕あるって言ってたじゃねえか。飯野君はしょうがないけど」
「僕、いくら払えばいいですか?」
「飯野君はいいよ。出しとくから」
「でも……」
「いいっていいって!」
「じゃあ次回は…。岩ヤン先にごめんね。また次で埋め合わせします」
結果キャバクラの会計金額三十七万円。
足りなかった俺は、また貯金をおろす羽目になった。
「神田さ…、本当にいい加減にしてくれ!」
「俺たちは馬鹿野郎だよ!」
酒に酔った神田には、俺の言葉などまるで届いていない。
この台詞を言いながら、自分で快感に酔いしれているだけ。
さすがにこのまま放置する訳にいかず、靖国通りでタクシーを捕まえ神田を放り込む。
一緒に乗るのも嫌だったので、俺は別のタクシーに乗ってアスクルームへ帰った。
またこれでふりだし。
明日から馬鹿げた節約生活が始まる。
あんな屑だと分かっていながら、何故俺は付き合いと長々と伸ばしてしまったのだろう?
中学時代の同級生だからといって、境界線をちゃんと引けなかった俺も悪い。
あんな馬鹿げた金の使い方など、二度とごめんだった。
『もちろんそうですよね! その辺はちゃんと考えて行動していますよ。 岩上17:09』
シチューがいい感じで煮込みあがったかな?
『今日はクリームシチューを作ろうと始めました。 岩上17:25』
若香へ料理の画像も一緒に送りつつ、やり取りをする。
『いいですね。 下はチーズだと思っていました。 朱婧瑶17:46』
『下は牛乳ですよ。コクのあるまろやかなシチューにします。 岩上17:47』

すぐ若香が既読にならないので、今の内に料理ブログを書いてしまおう。

クリームシチュー作りました。

人参、キャベツ、インゲン、コーン、ソーセージを炒めます。

ジャガイモ入れ忘れたので入れて一緒に炒めます。

香草のローズマリー、ダイム、オレガノ入れて、ブイヨン、アトランティスソルトを投入。

牛乳入れて。

しばらく煮込みましょう。

シチューの素も入れます。

これで完成。
一旦火を止めて、撮影してと……。
『煮込んで今は寝かしているところです。 岩上17:52』
彼女へ料理の画像を送る。
『とりあえず完成しました。 岩上18:03』
『イチローは夜にこれを食べます。どうやってお腹がいっぱいにならないと思いますか。肉を食べるべきですね。 朱婧瑶18:05』
俺がスープだけで胃袋足りる訳ないだろ。
先ほどのオムライスの写真も見せる。
『さっきオムライスも作って食べたんですよ。 岩上18:11』
『どうして簡単に食べられると思いますか? 朱婧瑶18:20』

うーんと…、どういう意味で聞いているのだろう?
日本語が少し変なだけかな?
『働いて金を稼ぎ、自由に料理する時間があるからじゃないでしょうか。 岩上18:21』
『イチローは夜の仕事だから。だからタンパク質の高い食べ物をたくさん食べます。これで夜は疲れませんね。 朱婧瑶18:25』
俺の栄養のバランスを気に掛けてくれていたのか。
『そうですね。若香さんにあまり心配掛けさせないよう気を付けていますよ。 岩上18:26』
『若香は先に車で家に帰ります。家に着いてイチローに言いました。 朱婧瑶18:36』
ちょっと間が空いたのは、彼女がまだ仕事中だったから。
俺の配慮が足りなかったね、反省。
『気を付けて帰って下さいね。 岩上18:37』
ベランダへ出てセブンスターに火をつける。
特に変化のない日々でも、好きな人とこうして連絡をやり取りできるだけで、こうも明るく幸せに過ごす事ができるのだ。
今はこれでいい。
節約しながら、若香との来る日へ備えて……。
『家に着きました。イチローはまた寝に行きますか? 朱婧瑶19:29』
『おかえりなさい。 岩上19:29』
もう今日は充分に睡眠を取っている。
『今日はもうちょっとしたらお風呂入って、くつろいでから仕事行きます。もう寝ないですよ。 岩上19:30』
『昨日の夜、寝ると元気になるんじゃないですか。 朱婧瑶19:31』
昨日は大幅に寝過ごしたから、彼女も心配してくれているのか。
『昨日若香さんが心配するほど、寝過ごしましたからね。今日はもう大丈夫ですよ。 岩上19:32』
『イチローの出勤時間を知っているからです。イチローさんはきっと遅刻したくないですね。 朱婧瑶19:40』
遅刻か…、俺が遅刻をしたのって、いつになるんだというレベルだ。
あの横浜のインカジ『ハッピー』時代の回りのだらしなさ。
ああいった連中に囲まれ、自分だけはしっかりしないとと責任感がより芽生えたような気がする。
俺の平均実働業務時間は一日十七、十八時間。
誰か一人の従業員が足を引っ張るだけなら、まだいい。
今日は雅は朝寝坊で遅れ、中村カズも一時間以上の遅刻、そして葵は当日欠勤、さらにカツは十一時出勤なのを勝手に九時に来て朝五時で上がる。
この場合どのようなカバーのローテーションになるかと言うと、夜七時前に出勤して、昼の一時頃までの勤務時間となった。
純粋に十八時間勤務で、一人ですべてハッピーを回さなければいけない時間帯はその内五時間。
何がハッピーだよ?
全然楽しくねえって……。
客が店内にいたら、トイレすらその時間帯へ行けないのだ。
まさかヤクザ者とヤクザ女と元キャバ嬢が、ここまで使えないとは想定できなかった。
俺一人気を吐けば、インカジの運営は何とかなると言いたいが…、昔テレビのCMでやっていたリゲインじゃあるまいし二十四時間働ける訳がない。
せめて一人だけでもいい…、いや、俺と対になるシフトの中村カズが育たないと話にならない。
それが二日に一度は大遅刻だもんなあ……。
朝九時五十八分。
まだカズは来ない。
また遅刻かよ。
暫定的に残業決定。
今日も四十分遅刻してきた雅は、眠いと客のいない個室で寝ている。
昼の十二時二十三分になって店の携帯電話が鳴った。
カズから。
「はい……」
あからさまに不機嫌そうな声で応対する。
「すみません、岩上さん! 今起きまして!」
「どのくらいで来れるの?」
「三十分以内には必ず!」
また今日も二時間の残業かよ……。
この店、俺が入って死にもの狂いで回しているからまだ何とかなっているけど、俺がいなかったらどうなっていたんだろうか?
これだけしてもみんなの給料の相場は同じ金額にしていた。
十二時間働いたら一万五千円。
八時間の人は一万円。
俺は今日十八時間働いたから、二万二千五百円が本日の日払い。
確かに必要以上に貯まる。
だって使う時間がほとんど無いのだから。
ただこんな状況でいつまで俺の身体が持つのか……。
昼の一時十五分に店のインターホンが鳴った。
ようやくカズの出勤。
全然三十分じゃないじゃねえか。
俺は二万三千円の金を店の財布から取り「すみません」と連呼するカズを無視してハッピーを出た。
「……」
あの時を振り返ると、いかに自分の指導や注意が甘かったのかを痛感してしまう。
遅刻したら罰金は当たり前で、尚且つその分の遅れた時間を普通に働かせればよかったのだ。
何故俺が全員の穴埋めをしようとしたのか?
確かに店を運営するという責任感からだけど、誰一人遅刻や無断欠勤癖を直せなかったのだ。
これについては俺の指導力に問題がある。
もうあんな四十四時間も通しで働かなきゃならない職場なんて、二度とごめんだけどね。
『遅刻はいい事じゃないですからね。あとあの人にも遅刻する事で、業務上迷惑掛けるので、俺はしないよう心掛けますね。 岩上19:47』
『だからイチローは素晴らしいですね。昨日はあなたが遅刻するのを本当に恐れていましたね。だからあなたに注意しますね。 朱婧瑶20:14』
遅刻をすれば、その分誰かに絶対迷惑は掛かる。
そういうのすら分からない人間は、どこへ行っても話にならないだろう。
『ギリギリの行動って何かあった時間に合わないので、普段は余裕持って行動するよう心掛けています。 岩上20:27』
『だからイチローは決して遅刻しない。早く着くだけでしょう。イチローは本当に自律的ですね。 朱婧瑶20:30』
俺が自律的などうかは分からないが、ずっと背中を見てきた人がいる。
見本となった人たちがいる。
『もう随分前に亡くなってしまったけど、俺には有名な師匠がいました。恩を返す事はもうできないけど、その人の教えを受けた俺がいい加減な行動していると、師匠の名まで汚してしまいます。なのでそこは細心の注意を払って生きていますね。 岩上20:33』
ジャンボ鶴田師匠の墓参り記事のURLを彼女へ見せた。
『亡くなって二十四年経ちますが、当時の俺の師匠です。 岩上20:34』
先輩の岡部さんと一緒に行った山梨県の塩山。
また何も無いあの土地へ、俺は行きたい。
窓の外から見える緑の山々をひたすら眺め、十五分ほどで慶徳寺へ到着。
辺りには俺たちしかいない。
でも目の前にはジャンボ鶴田師匠の墓が大きくそびえ立っているのが見える。
鶴田師匠の墓前にて、岩上智一郎二十三年ぶりの対面。
岡部さんが気を利かせてくれ、運転手に言ってタクシーを待たせてくれた。
「智一郎、写真撮らないでいいのか?」
「お願いします!」
かつて師匠が全日本プロレスのリングの上で何度も右腕を突き上げて「オー」とやったパフォーマンス。
俺も同じように自然と右腕を上げていた。
違うだろって。
こんな事をしにきたんじゃないって。
二千年からこれまでの報告だ。
師匠、まずね、二千二十一年の十月、コロナワクチン打ったら翌日心臓が痛くなり我慢したけど、一週間後また地獄の苦しみでのた打ち回り病院へ行った。
家から五分程度の距離を途中で三回も倒れ、さすがに「三回目は起きれない…、このまま朽ち果てるのか……」と思ったら、すごい強い力で起こされた。
あれって鶴田師匠ですよね?
この時ね、俺は少なくとも師匠が救ってくれたのかなって感じた。
死に掛けながらも病院へ着くと、この一週間で心筋梗塞を二度も起こしていると。
医者もよく生きていたと驚いていました。
でもね、師匠言っていたじゃないですか。
プロレスラーは何を食らっても壊れちゃいけないって。
何の取り柄も無い俺だけど、教えだけは守ってますよ。
今日はね、墓参りの為だけにここへ来たんですよ……。
俺の方が年上になっちゃったけど、二十三年もこんな時間空けてしまい、本当にすみませんでした鶴田師匠。
気付けば俺は墓前で跪き、自然と土下座をしていた。
「……」
師匠…、今度また行く時は、俺の大事な人も一緒に連れていきますからね……。
『この先生はイチローにたくさんのことを教えてくれたでしょう。イチローは毎年礼拝に行きますか? 川越にいますか? 朱婧瑶20:40』
うん、いつかきっと若香も一緒に連れて塩山へ。
『ジャンボ鶴田と言って、今でも過去最強のプロレスラーだと言われている人です。アマレスでオリンピックにも出て、当時若かった俺に、マンツーマンで身体を鍛えてもらい、精神論を教えてもらいました。この人は山梨県塩山というところにお墓があります。 岩上20:42』
山しかないところだけど、彼女は一緒に来てくれるかな?
『いつか若香さんも一緒に連れて、またお墓参り行きたいものですね。 岩上20:43』
『なるほど。それは彼がイチローに強さ、勇敢さ、引っ込みがつかないことを教えたのです。もちろんいいですよ。遠くないでしょう。 朱婧瑶20:54』
俺は師匠の墓参りの記事を読み返す。
新宿から特急かいじで、一時間二十分。
『新宿駅から山梨県塩山は、電車で約一時間半掛かりますね。本当コンビニエンスストアも無いくらい田舎ですけどね。 岩上20:56』
これで彼女が嫌がるなら、それはそれで仕方ない。
『本当ですね。それは本当に好きです。若香は田舎道の風景が好きだから。騒々しい都会から離れる。自然の美しさを感じる。 朱婧瑶20:58』
『温泉もあるんですよ、師匠のところ。あと旅館は古いけど、料理は豪華でしたね。 岩上20:59』
当時宿泊した宏池荘旅館の食事の画像を見せる。
『これがその時の夕食、朝食もついて一泊一万二千円くらいでしたね。 岩上21:03』
また自然しかないあの場所へ、俺はこの子と訪れたいものだ。
『うわー。なかなかよさそうですね。一万二千円もそんなに高くないですよ。このような食べ物が好きです。主にイチローと一緒にいると楽しいはずです。より安心感がある。 朱婧瑶21:05』
それはこっちの台詞だよ、若香ありがとう。

『俺も若香さんが近くにいたら、もうそれだけで満足して幸せですね。 岩上21:06』
『時間が経つと飽きてくるのではないでしょうか。男性は女性を愛し始めたようだからです。後ろにいるとうんざりします。 朱婧瑶21:11』
男女の付き合いは順風満帆という訳ではない。
どんなに愛していたところで、いずれどちらかが飽きが来る可能性もある。
若香からすれば、過去旦那に浮気され、ショックで流産してしまった暗い過去。
俺の役割は私利私欲に駆られず、彼女の心を大切に接する事を常に考えねばならない。
『若香さんが過去の辛い経験から、そう考えてしまうのも無理ありません。ならば俺は誠実に行動して若香さんへ接し、少しずつでも心の傷を癒そうと生きたいですね。 岩上21:19』
百合子と別れた岩上整体のクリスマスイブを思い出す。
少ししてから彼女の施術を始めると、整体のドアが開く。
見ると百合子だった。
後ろに娘の里帆と早紀もいる。
来ないと電話では言っていたのに、何故このタイミングで。
「ちょっと今、患者さんいるからさ……」
入口まで行き、小声で話す。
「白衣着て、先生なんて呼ばれて少し浮かれてんじゃないの?」
患者がいるのに何を抜かしてんだ、コイツ……。
「おい…、今患者がいるって……」
「ほんとあなたは自分に甘く、人には厳しいよね!」
「だから患者いるから止めてくれって……」
「いつも自分の事ばかりで……」
「いい加減にしろ! 今、患者さんがいるって、言ってるだろ!」
俺はドアを思い切り閉めた。
様子を見ていた患者は驚いている。
当たり前だよな。
俺は丁重にお詫びを伝え、施術料金を無料にした。
皮肉なもので、クリスマスイブ前日というのに患者はまだまだ続く。
休む暇もなく施術し、来た患者すべてをこなす。
終わったのは夜中の十二時を回っていた。
クリスマスイブか……。
携帯電話が鳴る。
百合子からだった。
先程の失礼な愚行に腹が立っていた俺は怒鳴りつける。
「あなたはいつもそう…。都合悪くなるとすぐ怒鳴る」
冷めた口調の百合子。
小説『忌み嫌われし子』をあそこまで罵倒され、今度は整体に娘まで連れて来て患者がいるのを知っていて大騒ぎ。
「里帆と早紀だって、あなたは怒り過ぎだって言ってたよ! あなたは自分の事ばかりで、イブだって正月の事だって仕事仕事で、私たちの事を何も考えていない。仕事って偉そうに言うけど、殿様商売で、患者なんか少ないくせに……」
さすがにコイツと付き合って行くのは無理だと感じた。
「もう別れよう……」
自然と言葉に出る。
まだ電話口の向こうでギャーギャー言うので、電話を切った。
俺は疲労感一杯で、そのまま診察ベッドへ倒れ込むように寝転んだ。
携帯電話が鳴る音で目が覚める。
あのまま整体で寝てしまったのか……。
起き上がると身体が怠い。
どうやら風邪を引いたようだ。
鳴り響くコール音。
時計を見ると、まだ朝の五時。
何だよ、こんな朝っぱらから百合子の奴……。
「別れる方向でいいんだよね?」
出た瞬間、怒鳴り声で百合子はまた罵ってくる。
もうウンザリだった。
あまりにもしつこいので、「おい…、喧嘩売ってんのかよ?」と静かに言うと「喧嘩売ってんだよ!」と喚き散らす。
もう本当に駄目だ……。
俺は携帯電話を切った。
少しして鳴る携帯電話。
放っておくと、切れてもまた掛かってくる。
俺は電源自体を落とし、通話不可能な状態にした。
約二年半……。
これで俺と百合子のつき合いは終了した。
三十五歳のクリスマスイブだった。
「……」
随分一人でいる時間を過ごしてきた。
俺も…、そろそろまた幸せを感じてもいいよな?
『俺は以前付き合っていた女性と別れたのが二千六年だから、もう十八年くらい一人で過ごしているんですよ。なのであまり他の女性を求めてとか無いんですよね。 岩上21:24』
久しぶりに心から欲する異性が現れたのだ。
指先が勝手に動き、彼女へ文章を打ち続ける。
『色々人に裏切られ、家族にも裏切られて、特に目的も無いまま今まで生きてきたんです。いつかまた小説書けばいいかくらいに。 岩上21:25』
『若香はイチローが責任のある、責任のあるいい男だと信じている。そして若香はイチローもかつて傷つけられたと思っていた。だからイチローの境遇と似ているとも思います。 朱婧瑶21:25』
似ているかどうかは分からない。
一つだけ分かっている事。
それはお互い心に大きな傷を負ったまま、これまで生きてきたという事実だけ。
『でも、このタイミングで若香さんと知り合い、今もこうやり取りしていて、楽しく感じている自分がいるんです。 岩上21:26』
せめて今は誠心誠意、心を込めて文字を打とう。
『若香さんが俺をそう信じているなら、その期待を裏切らないよう、心配掛けないよう俺は大切に接するまでです。 岩上21:27』
『イチローができると信じています。若香も小さな女の子ではない。イチローさんの誠実さも感じられます。 朱婧瑶21:29』
琴線に触れる言葉。
全身がブルッと短く震えた。
『今日仕事行って、明日は昼の十一時まで仕事して、それから休みになります。 岩上21:29』
『何しろ毎日時間をかけて付き合える人は大切にする価値があります。 朱婧瑶21:30』
文字だけのやり取りでこうなのだ。
実際彼女と会ったら、どんな化学反応が起きるのか。
幸せ過ぎて怖い気持ちもあった。
『若香さんより美しい女性いないのに、何故俺が他の女性に目を向けなければならないのか?と。そんな事する時間あるなら、その分若香さんを大切にしたほうが、より笑顔見せてくれるだろうし。 岩上21:31』
ちょっと文面が固いかな?
軽く冗談でも入れておこう。
『もし優しさというものが数値化できるのであれば……。例えば俺の優しさ百だとして、若香さんに九十九。それ以外の女性は一。こういう割合になります。 岩上21:33』
『はははは。イチローさんのたとえがぴったりです。そして言っていることも誠実な言葉です。もし香も簡単に人を受け入れる女性ではない。しかし、受け入れる以上、何の留保もつきません。 朱婧瑶21:40』
言うは易く行うは難し。
『あとは日々の行動しかないと思うんですよね。口先でいくらでも格好いい事は誰でも言える。でも行動となると、それに伴う事をできる人間は少ない。 岩上21:42』
『そうだな。これも最も現実的なことです。言うことがもっとうまいなら、作ったほうが現実に即している。そして、一人の思いは普段の返事やチャットから深く感じることができます。 朱婧瑶21:47』
要は基本的な心構え。
自身の姿勢が大事なのだ。
『俺の身体は一つしか無いし、時間だけはすべての人間に平等です。なので、俺は他の女性へ目移りする時間あるなら、若香さんに時間を使いたいです。 岩上21:48』
『今日はいつもよりちょっと早く出勤して、バーガーキングのハンバーガー買って行こうと思っています。 岩上21:50』
LINEを打ちながら着替え始める。
『いいですね。イチローは上手にできると信じています。私たちはもう子供ではありません。自分のしたことに責任を負う。このハンバーガーはよさそうですね。 朱婧瑶21:58』
バーガーキングはシンガポールにもあるのかな?
『モスバーガーが一番好きなんですが、新宿駅近くだとバーガーキングになるんですよね。 岩上21:58』
『若香は以前は食べるのが大好きだった。今はめったに食べません。主に太っているのが怖いです。 朱婧瑶22:01』
女性特有の細い身体か。
彼女も変わらないんだな。
『それではモバイルオーダーしたので、いつもよりちょっと早いけど、もう準備して出ますね。 岩上22:01』
俺は肉付きいい方が好きなんだけどな。
ガリガリの女より、多少むっちりしている身体のほうが、セックスした時小気味いい。
『若香さん、全然太ってないじゃないですか。痩せてますよ。 岩上22:01』
『先にハンバーガーを食べてもいいですよ。これで夜も空腹を感じなくなりました。 朱婧瑶22:02』
いつもこの子は俺の身体を気に掛けてくれている。
『それは若香が食事をコントロールしているからですね。 朱婧瑶22:03』
『そうですね。俺は幸せ者です。 岩上22:05』
本当に果報者だ。
早く六月にならないかな。
待ち遠しくて、心が苦しくなってくる。
『たまには自分の料理でなく、人の作ったものが食べたくなるんですよね。 岩上22:05』
『料理ができる人にはそういう考えがあるようです。自分で作った後、他の人が食べているのを見るのは達成感です。 朱婧瑶22:12』
確かに自分の作った料理を美味しいと食べてもらえるのが、俺は一番うれしい事かもしれない。
これはかつて小説を完成させ、作品を読んで感想を語ってくる読者との関係性と似通っている。
『イチローもそう感じますか? 朱婧瑶22:12』
『そうなんですよね。本当は作った料理、若香さんに食べてもらいたい。 岩上22:12』
そして彼女の日本語が上達したら、俺の小説も……。
『それで若香さんが喜んでくれたら、最高に嬉しいですね! 岩上22:14』
総武線に乗って一駅。
電車は新宿へ到着する。
駅構内の写真を撮り、彼女へ送った。
『いつもよりちょっと早く新宿駅到着。 岩上22:18』
『夜はまだ人が多いですね。夜は寒いでしょう。 朱婧瑶22:19』

東口から外へ出ると、ちょっとだけ雨が降っていた。
『小雨が降ってますね。気温はこのくらいがちょうどいいですね。 岩上22:20』
新宿駅前の様子をカメラに収める。
『今日はそう人多くは無いですね。 岩上22:21』
『イチローは夜にはもっと厚い服を着なければならない。さもないと寒いですね。 朱婧瑶22:24』

シンガポールと東京は違うんだよ、若香。
『スーツでちょうどいいくらいの気温ですよ。コートまで着ると暑過ぎます。 岩上22:25』
時間的にまだ余裕あったので、ゲームセンターへ入った。
『時間ちょっとあったので、リアルキッチンシリーズGETしました。 岩上22:30』
リアルキッチンシリーズの新しいものを取る。
そして競走馬のぬいぐるみも続いて取れた。
写真を撮り、すぐ若香へ見せる。
『これもGETしました! 岩上22:34』
『ハハ。これが好きです。 朱婧瑶22:35』

子供っぽく思われないかな?
『大好きですね。若香さんの次に。 岩上22:43』
『保留してください。私が行った時にまた送ってくれます。 朱婧瑶22:47』
会うまで我慢しろという意味合いかな?
『仕事前にいつも若香さんのおかげで、ハイテンションなのに、今日はより気分がハイテンションです。 岩上23:33』
インカジ『レディ』へ到着。
スタッフの佐藤ボンズがぬいぐるみを見て「また岩上さん、取ったんですか」と声を掛けてくる。
相手にせず若香へLINEを打った。
『今頃入浴中ですかね。ゆっくり休んで下さいね。おやすみなさい。 岩上23:44』
『もう横になった。寝る準備ができました。おやすみイチロー。また明日。 朱婧瑶23:45』
今日も楽しい有意義な一日が終わる。
最後に挨拶をしてから、仕事モードへ切り替えよう。
『おやすみなさい。 岩上23:46』
整髪料を使い、髪の毛をオールバックへたくし上げた。

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