闇 666(楽して儲かる仕事はない編)
闇 666(楽して儲かる仕事はない編)

2026/09/02 wed
※まず史実通りの広大な人生の一次プロット。これを書き切らないと、俺は次に進めない。
前回の章

二千二十四年五月四日、土曜日仏滅、みどりの日。
八卓の客が帰り、インカジ『レディ』の店内は暇になる。
もう夜中なのでこの時間帯に来る人はほとんどいない。
あとは朝までどう時間を潰すかだけ。
携帯電話でできる事など限られてしまうので、俺は昨日作ったアメリカンクラブハウスサンドの料理記事を書く事にした。

芸がないですが、アメリカンクラブハウスサンド(笑)。

この容器で持って行ったら、やはりサンドイッチ潰れました。

今回はクリームチーズを塗り。

レタス→ トマト→ キューリ。

ハムと卵焼き→ チーズ乗せて。

完成です。
やっぱパソコンで操作しないと書きづらいなあ。
残りの時間は過去自分が書いた小説を読み直す事にした。
●2004年執筆作品
新宿クレッシェンド 歌舞伎町小説 428枚
でっぱり 歌舞伎町小説 382枚
打突 歌舞伎町小説 777枚
フェイク 歌舞伎町小説 372枚
ゴリ伝説 コメディ 489枚
とれいん 歌舞伎町小説 352枚
●2005年執筆作品
(未完)はなっから穴の開いていた沈没船 歌舞伎町小説 ?枚
●2006年執筆作品
(未完)群馬の家 ホラー 152枚
ブランコで首を吊った男 ホラー 310枚 作品
鬼畜道 シリアス 357枚
コードネーム殺し屋 ホラー 191枚
デューク~指先にこの想いを乗せて~ 恋愛 355枚
かれーらいす 歌舞伎町小説 50枚
保険証 歌舞伎町小説 11枚
進化するストーカー女 ホラー 143枚
(未完)父の背中 シリアス 328枚
(未完)フルスイング 歌舞伎町小説 126枚
おじいちゃんのすいとん シリアス 21枚
めぐりあいワンピース シリアス 24枚
忌み嫌われし子 ホラー 282枚
(未完)ダークヒーロー ファンタジー 13枚
●2007年執筆作品
新宿プレリュード 歌舞伎町小説 402枚
お誕生日 コメディ 17枚
(未完)その先に見えるもの ホラー 94枚
(未完)天使の羽を持つ子 シリアス 1610枚
(未完)メルヘン コメディ 42枚
(未完)新宿クレッシェンド・セカンドストーリー 歌舞伎町小説 249枚
膝蹴り コメディ 178枚
酢女と王様 恋愛 23枚
(未完)運命を操る男 恋愛 19枚
(未完)擬似母 ホラー 141枚
(未完)危険な香りのする男 コメディ 31枚
(未完)新宿フォルテッシモ 歌舞伎町小説 318枚
パパンとママン コメディ 412枚
(未完)魅惑の媚薬 ホラー 43枚
(未完)キャバクラ純愛物語 恋愛 137枚
●2008年執筆作品
隠愛~いんあい~ 恋愛 80枚
スクラッチ コメディ 9枚
悲劇 恋愛 9枚
(未完)出会い系物語 恋愛 14枚
すっぽかされた女 ホラー 10枚
食を忘れた男 シリアス 30枚
北海道の雪 恋愛 175枚
(未完)人生はチャレンジだ ノンフィクション 141枚
(未完)先生と呼ばれて シリアス 253枚
(未完)悪魔との約束 ホラー
(未完)魔法を守る少女 ファンタジー
(未完)新宿リタルダンド 歌舞伎町
新宿プレリュード 歌舞伎町 402枚
動かざる視界 短編 18枚
●2009年執筆作品
新宿フォルテッシモ 歌舞伎町 440枚
新宿セレナーデ 歌舞伎町 605枚
ブランコで首を吊った男 ホラー 316枚
進化するストーカー女 ホラー 149枚
忌み嫌われし子 ミステリー 351枚
でっぱり 歌舞伎町 368枚
新宿リタルダンド 歌舞伎町 260枚
●2010年執筆作品
かれーらいす 歌舞伎町 66枚
(執筆中)鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~ ジャンルなし 現在5000枚以上
最終章 ノンフィクション 内68枚
真・進化するストーカー女編 ホラー 内465枚
一章 幼少編 ノンフィクション 内444枚
二章 中学編 ノンフィクション
初めて書かされたホラー小説 ホラー
始めの一歩 ノンフィクション
悪魔的思想 恋愛
ラジオ体操 ホラー 45枚
あなたと逢えて良かった ホラー ?枚
業務命令「世界で一番怖いホラー映画」を作れ ホラー 270枚
(執筆中)出会い系の白馬に乗った王子様 恋愛 ?枚
擬似母 ホラー 409枚
忌み嫌われし子 ホラー 366枚
(執筆中)高校生の救世主 ?枚
(執筆中)果てしなく長い物語【仮題】 ノンフィクション 枚
(執筆中)スリー ホラー 枚
新宿リタルダンド 歌舞伎町 260枚 作品
(執筆中)新宿コンチェルト 歌舞伎町 ?枚 作品
(執筆中)チンコ出した 恋愛 ?枚
●2011年執筆作品
(執筆中)古の着物 ホラー
初めて小説を書こうと始まった二千四年の新宿クレッシェンド。
それから二千十一年で止まったままの古の着物。
いや、この作品で止まった訳ではない。
新宿コンチェルトや、鬼畜道で停止したままなのだ。
十三年以上の空白の期間。
何度か書こうと努力してみたものの、自問自答の末、自分は作家でもなく小説家でもなかったという自虐的な答えだけが残ったまま。
過去の作品を適当に読んでみる。
うん、確かに書いていたのは小説そのものだ。
そもそも文学って何なのだろう?
小説とは何を指す?
文章を書かなくなった男が、突然何を考えているのだろうか。
裏稼業のインターネットカジノで働く五十二歳。
何度も人に騙されて、今回も百四十万を取り戻せるかどうかの瀬戸際。
自身の選択が今、深い谷底の這い上がれないところまで転げ落ちてしまっている。
本当に呆れるほど愚直で滑稽な人生。
セブンスターに火をつけ大きく煙を吐き出した。
変わっていないのは、このタバコを吸っているぐらいだな。
『仕事終わり、帰ります。 岩上6:59』
仕事を終えると、いつものように若香へLINEを送る。
もう演技なのか、素の反応なのかすら自分でも分からなくなっていた。
今日は斉藤龍顕先生と二時に会う。
昼ぐらいまでたっぷり睡眠を取っておかないと。
そのあとまた仕事が待っているのだから。
タイマーの音で目を覚ます。
若香から連絡が届いていた。
『おはようございます。イチロー。若香は起きたばかりだ。寝心地がいいですね。イチローはゆっくり休んでください。 朱婧瑶11:20』
教えてくれ。
君は詐欺師なのか?
それとも素でこのように連絡をしてくれているのか?
パスポートまで見せてくれた事が、俺を混乱させていた。
斉藤龍顕先生からのインスタグラムでメッセージに気付く。
『今日はお世話になります。よろしくお願いします。大久保駅、十四時でしたね。北口、南口どちらでしたっけ? 斉藤龍顕 12:41』
七時から十三時過ぎまで、六時間も俺は寝ていたのか。
『大久保駅から北口です。 岩上智一郎 13:30』
さて、先生にどの辺りから話をすればいいのか。
まさか前回会ってから、今回ロマンス詐欺に巻き込まれているなど知ったら、さぞかし驚くだろうな。
『わかりました。ありがとうございます。 斉藤龍顕 13:30』
あ、若香へ返事をしていなかった。
怪しまれないように…、いやいや、彼女は俺がまだ寝ているものだと思っているはず。
龍顕先生とこれから会う事を予め伝えておこう。
『おはようございます。俺は、今起きたところです。二時から食事行ってきますね。 岩上13:31』
これで若香へ頻繁な連絡をしないでもおかしくない。
ベランダでタバコを吸ってから、そろそろ時間なので外へ出る。
自称俳優マンションから徒歩一分。
何だか自分だけ楽をしているようで申し訳なくなる。
『大久保駅北口でお待ちしていますね。 岩上智一郎 13:52』
あの先生は確か町田から来るんだよね。
今まで行った事もないが、以前神田と熱海旅行へ行った時、途中で町田を経由したのを何となく覚えていた。
要は新宿からだと、ロマンスカーに乗らないと着かないような遠い場所というイメージしかない。
「お待たせしました、岩上さん」
「龍顕先生! 今日はこっちまでわざわざ来て頂き、本当にすみません」
龍顕先生と合流し、ゆっくり話ができる場所という事で前回同様新大久保駅前の喫茶店シュベールへ向かう。
ゴールデンウイークの影響か、かつてない込み具合の店内。
窓際に座りたかったが、奥の一テーブル席しか空いていなかった。
食いしん坊の俺は、ランチメニューでナポリタンとドリアのセット二つを頼む。
先生はコーヒーのみ。
もう食事は済ませてきたようだ。
「どうです岩上さん。小説のほうはもう書き始めたんですか?」
「いやあ、それがあれからいまいち執筆意欲…、まあ十三年も経ってそんな言い方も適切じゃないんですけど、どうも湧かないんですよね、不思議と」
「強制されて書くようなものではないので、それでいいんじゃないですかね」
「まあそれでも働いているのは相変わらず裏稼業のインカジですけどね」
カウンセリングで呼んだはずなのに、中々詐欺を切り出せない俺。
あんなものに百四十万も突っ込んだと知られる事が、恥ずかしいという意識があった。
『イチローは起きましたか? よく眠れましたか。 朱婧瑶14:58』
その詐欺師疑惑の若香からメッセージが届く。
俺は軽く一瞥だけすると、セブンスターに火をつける。
すぐ返す必要性もない。
現に今、知り合いとこうして会っている事は伝えているのだから。
料理がようやく運ばれてきた。
これだけの混み具合なのだ。
厨房も大忙しだろう。
『もう知り合いと会ってますよ。 岩上15:24』
料理の写真を撮り、彼女へ送る。
知人と会っているのが嘘ではない証拠を見せる為に。
『これを頼んで食べてます。 岩上15:24』
『出前を注文しますか。イチローが自分で作ったと思っていました。 朱婧瑶15:30』
何で出前でこんなものを注文するんだよ。
それにこの程度の料理、家だって簡単に作れるわ。

あ、喫茶店にいるというのを伝えていなかったからか。
龍顕先生がトイレに行ったので、店内を撮影。
あ、先生がいきなり振り返ったから写真に写ってしまったじゃないかよ。
まあ若香はただの客と思うはず。
問題はないだろう。
『出前じゃなくて、喫茶店の中ですよ。 岩上15:31』
『イチローは店で食べたのですね。まだ人が多いですね。 朱婧瑶15:32』
シュベール店内を見渡し、もう慣れ親しんだ店長も、天使の囀り声を持つ琴美の姿が見えない事に落胆する。
俺はかつてここの店長の人柄を気に入り、琴美の声を毎日のように聞きにきていた。
あれはアスクルームに住んでいた頃だから、二年ぐらいに前になるのかな?
仕事明け、たまにはシュベールへ行って、ドリアとミートソース食べながらシュべろうとささやかなご褒美を自分の為に与える事にした。
右脚の痺れ、左脚の鈍痛は変わらぬものの、人間の適応力とは恐ろしいものでどのぐらいのタイミングで身体を休めればいいか自然と理解するようになる。
痛みでその場へしゃがみ込むと目立つ。
だが事前にタバコを吸いながら普通に座れば、そうおかしくはない。
セブンスターを吸い終え、ゆっくり立ち上がると、横断歩道を渡った。
琴美の声が聞こえ、全身の細胞が歓喜の声をあげる。
でも両脚だけは変わらない。
ドリアを食べ、ミートソースも注文する。
「これ、良かったらお飲み下さい。いつもご来店ありがとうございます」

目の前にそっと置かれた一杯のホットコーヒー。
シュベール店長のちょっとした心遣いが憎い。
アスクルームを拠点にしているからこそ、成り立つ今の生活。
これが川越から新宿までの通いなら、心と身体はとうに挫けていただろう。
店長は多店舗へ移動し、もういない。
美しい声で出迎えてくれた琴美も、もう辞めてしまったのか。
彼女に関しては恥ずかしくて、店員に聞きようもなかった。
龍顕先生、トイレ長いな。
大のほうかな?
『休日のせいか、結構混んでいますね。 岩上15:37』
店内の混み具合を若香へ見せる為に、窓際を撮影。
『満席ですよ。 岩上15:38』
あれ、窓のところに随分巨漢が写っているぞ。
体格だけで見ると三倍分ぐらいあるんじゃないか?
あそこまで太るって、何かの病気なんだっけ?
プロレスラーのヘイスタックカールホーンを思い出した。

何でも心臓や身体…、特に足に掛かる負担が大きく寿命も短いんだよね。
まあどうでもいいか。

龍顕先生が席に戻っても、口から出るのは過去の出来事ばかり。
前にも聞いたが、群馬の先生の状況を聞くと、癌の進行が進み、今は人と会える状況ではない事を説明される。
末期癌だから、中々治癒も難しいようだ。
それでも生命がまだ続いている事にホッとした。
今の俺が群馬の先生へできる事は何一つない。
せいぜい良くなるよう祈るぐらいだった。
グループLINEへ若香の叔父から連絡が入る。
【グループLINE】
『叔父は週末が楽しい。午前中に若香は部屋を掃除した。午後は友達とデパートに出かける予定です。叔父は今日どうやって自分を手配しますか。 朱婧瑶 15:51』
叔父かと思ったら若香か。
また金取引が始まるのかと思った。
間際らしい事するなよな……。
続いてプライベートのLINEへ連絡が届く。
『うわー。本当にたくさんの人ですよ。天気もよさそうですね。この喫茶店はホテルのように改装されている。 朱婧瑶15:53』
シュベールのどこがホテルのようなんだ?
古き良き伝統的な喫茶というだけだろ。
『古い昔ながらの喫茶店ですけどね。俺はこういう雰囲気のお店、好きなんですよ。 岩上17:04』
『ヨーロッパ風の雰囲気が感じられます。基本的に午後に座ってもいいですか? 朱婧瑶17:09』
ヨーロッパの雰囲気って、こんな感じなのか?
まあどうでもいいや。
十何年前になるのだろうか。
斉藤龍顕先生と初めて邂逅をしたのは、百合子と付き合っていた頃だから、二千五年だったと思う。
当時群馬の先生から、百合子の実家自体にお祓いが必要だと龍顕先生を紹介。
祈祷や祓いの類いは五万掛かると言われ、インチキ霊媒師なら家まで来るのだから、もっと請求するだろうと百合子と笑ったあの頃。
彼女の家の事なので、俺は辞退しようとしたら、潜在的な力がとても強いので同席してほしいと言われ、お祓いへ出る事に決めた。
その時百合子の実家の一階で見た一枚の写真。
バツイチになる前の百合子と旦那、赤ちゃんだった里帆と早紀の家族写真が、額縁に入れられた状態で、彼女の両親の寝室に飾られていたのを見て、ショックを受けた。
働かずどうしょうもないとは聞いていたが、こんな色男と百合子は結婚していたのかと、少しばかりの嫉妬を覚えたのだ。
俺などただのお邪魔虫なだけじゃないか。
内心そう暗くなり黙っていると、娘の里帆が俺の手を引いて自分の部屋へ連れて行く。
自分で霊感があるという里帆は、友達の家に遊びに行った時の話をした。
思春期だった彼女が、まだ小学校高学年の時。
友達の部屋の洋服ダンスから、いつも変な音が聞こえる。
里帆が観音扉を開けると、体育座りで蹲る幼い子がいたらしい。
戦争で親と防空壕を歩いていたらはぐれてしまい、ずっとここにいると言う。
この話を聞いた時全身に鳥肌が立ったのは今でも鮮明に覚えていた。
当時の話を回想しながら先生と過去を語る。
おいおい、そんな事の為に大久保まで呼んだ訳じゃないだろ……。
コーヒーのお代わりを注文。
これで何杯目になるのだろう。
若香へそろそろ返事をしておくか。
『喫茶店ですからね。長時間利用してるから、何杯もコーヒー頼んでいますけどね。 岩上18:10』
相変わらず新大久保駅前は、人でごった返している。
俺はその様子を撮り、ついでに送った。
『店の目の前の駅は、人が凄いです。 岩上18:10』
初めて龍顕先生と会ったのは百合子の実家で。
次が今年の二月。
今回が三回目となるんだな。
群馬の先生ほど不思議な力は感じない。
それでも何でも話してしまい、それを受けてくれるような寛大さを覚える。
だったら早く詐欺の件を言わないと駄目だろ。
時間だけが過ぎていく。
『うわー。 人が多いですね。 これは駅ですか? 朱婧瑶19:09』
コイツはとりあえずどうでもいい。
よし、話してみよう。
そう思った時、グループLINEへ叔父からメッセージが届いた。
【グループLINE】
「ちょっと龍顕先生すみません」
俺は断って携帯電話を覗く。
『姪こんばんは。学生さんこんばんは。皆さんのご挨拶とご配慮に感謝します。週末はみんなゆっくりリラックスしてください。来週は二から三回の特別なデータノード取引があります。皆さんは事前に準備をして、毎回の機会をよく把握してください。 Zhu Min 19:16』
まあ元々土日は金取引がないと言っていたからな、この詐欺師。
とりあえずすぐ返事をしておいたほうが怪しまれないだろう。

『お知らせいつもありがとうございます。よろしくお願い致します。 岩上19:19』
若香のプライベートのほうにも返事をしておく。
『五月、私たちはまたいくつかの機会をつかむことができる。しかし、五月末以降、私たちは取引市場から撤退するかもしれない。だから皆さんはすべての機会をよく把握しなければならない。六月にFRBの対外政策が大きく変動するため、その時に金融市場にこんなに良いホットスポットはないだろう。 Zhu Min 19:20』
五月にここから撤退?
俺を焦らせて、借金させようとする詭弁にしか見えなかった。
『国際情勢が大きく変動するからです。その時も金融取引市場に振動するだろう。私たちが投資をするのはもともと機会をつかんでお金を稼ぐことなので、機会はすべて短いです。機会がある時は、君たちはしっかり把握しなければならない。この時代はもっとお金を稼いでこそ、自分の今後の生活を変えることができる。 Zhu Min 19:22』
貴様のような詐欺師が国際情勢?
本当にふざけているな。
結局言いたい事は収支、金を借りろと言っているだけじゃないか。

『了解致しました。 岩上19:23』
『はい。「若香」はきっとこのチャンスをつかむだろう。 朱婧瑶 19:23』
おい、若香……。
こういう風におまえまで煽るから、パスポートを見せようが詐欺の一味なんじゃないかと疑ってしまうんだからな。
『月曜日に友達のお金が少し届きます。「若香」は収益を最大化する。 朱婧瑶 19:24』
もう演技はいいって、本当に……。
『一人一人には一生に何度か機会がありますが、しっかり把握できることは非常に少ないです。機会はあなたたちに新しい可能性と運命を変える機会をもたらすことができる。機会があって、そして機会をつかむことで、あなたたちは自分の夢を実現して、人生の発展空間を広げることができます。 Zhu Min 19:25』
うん、確かに人生には機会が何度かあるよ。
俺は過去それを掴みそこなったから、こうしてインカジで働いている。
グループLINEと、プライベートの若香。
両方とやり取りしながら、うつけ者を演じ続けた。
『これにはあなたたち自身の努力が必要です。叔父はあなたたちに良いアドバイスと計画しかできません。叔父はあなたたちがチャンスを掴んでもっと富を作ることを望んでいますそうすれば、あなたたちの今後の人生も新しいものになります。 Zhu Min 19:27』
おまえの言う努力は借金しろというだけだろ。
薄っぺらいんだよ、人を説得するには。
せいぜい百四十万分ぐらいの価値しかなかったな。
きっと取り戻してやるけど。

『はい。叔父の関心と援助にいつも感謝しています。私たちはお金が好きだということではありません。ただ生活の中でそれを離れることができない。 朱婧瑶 19:28』
おまえも茶番はいい加減にしろ。
グループLINEを出て、若香との履歴を読み返す。
『新大久保駅ですよ。山手線です。 岩上19:19』
『あの人が多いほうが普通の駅では人が不足することはないはずです。 朱婧瑶19:21』

『新大久保駅のほうが、大久保駅よりも若干人が多いですね。 岩上19:22』
『そうだったのか。カフェで外の人の往来を見ている。今日はいい天気ですね。 朱婧瑶19:26』
よし…、そろそろ龍顕先生に詐欺の事を話すか。
いや、詐欺でと決めつけないで、金取引の事でこうなっているという話し方をしたほうがいいだろう、
これまでの取引サイト上で、八十万円の利益を上げていた俺。
裏稼業で継続して働いている事は伝えてあったので、ひょっとしたらようやく人生の上昇気流に乗れたかもしれないと笑顔で報告。
途端に険しい顔立ちになる龍顕先生。
「岩上さん…、楽して儲かる仕事なんて、この世に一つもありませんよ」
あの百合子の実家で初めて会った時の険しく威厳のある目。
自身の邪で醜い片隅まで見られ、心の中まで見透かされた感じがした。
若香に嫌われるのが嫌で、本来見なきゃいけなかった部分を見ようとしなかった自分に気付く。
分かっていた事だが、やっぱり詐欺だよね……。
どうしてこうも、俺は種類が違うとチョロいんだろう。
身に降りかかる直接的な火の粉なら、防ぐ事はいくらでも可能。
しかし遠隔操作と異性の誘惑といった目に見えない間接的なものに対し、これまでの俺の経験などは何の役にも立たなかった。
あ、叔父に演技するの忘れていたっけ。
【グループLINE】『ご教授いつもありがとうございます。 岩上20:04』
時刻を見て八時を過ぎていた事に気が付く。
昼の二時から会って六時間も、シュベールにいるのだ。
いくら一万円といっても、これじゃもう仕事というよりボランティアになってしまう。
会って聞きたかった事は聞けた。
俺は先生に頭を下げ、追加料金も取って下さいと懇願する。
「いえいえ、料金は変わらずで構いませんよ。岩上さんもこれから色々大変でしょう」
「……。すみません…。では、せめてここの料金ぐらいは払わせて下さい」
シュベールでの会計八千円は、ちょっと痛かったが仕方ない。
目の前の新大久保駅まで見送ると、若香へLINEを打った。
『今、友人を見送り、これから部屋に戻りますね。 岩上20:05』
『今日は友達とカフェで午後いっぱい座ったよ。友達は川越に帰りましたか? 朱婧瑶20:07』
まあここは正直に言っても分からないだろうから問題ないだろう。
『川越でなく町田に住む人なんですよ。 岩上20:07』
『あなたの実家の友達だと思っていました? 朱婧瑶20:09』
今、俺は一生懸命演じながら詐欺師と会話をしているんだな……。
『地元の友達ではなく、俺より十歳以上年上の男性ですよ。 岩上20:10』
『イチローの年長者ですか。知恵があふれている。イチローは今も資金を統合していますか? 朱婧瑶20:12』
うん、やはり金に繋げてくるか。
残念ながら今回はカウンセリングであって、俺がお金を払って相談に来てもらったんだよ、若香君。
『話してはいるのですが、中々難しい状態ですね。 岩上20:12』
『借りにくいですか。イチローは分散して借りることができますね。一度に何百万も借りないでください。それはきっと人を困らせるよ。主に借金をして何に使うのか。車を買うとか。一ヶ月ぐらいで彼らに返せばいいですね。その時になったら彼らにもう少し利息をあげてください。利息がかからなければプレゼントを送ります。 朱婧瑶20:32』
何を言ってんだ、この詐欺師?
本当に馬鹿なのか?

相手にするのも阿呆らしくなり、自称俳優マンションへ到着するとすぐ横になって眠った。
タイマーで目を覚まし、十時過ぎにLINEを返す。
俺はまだ演技を続け、自分の金を取り戻さないといけない。
『若香さんごめんなさい。気付いたら寝てました。仕事行く準備しますね。 岩上22:03』
大きく息を吐き出す。
これから仕事かよ……。
できれば休みを取りたかったけど、今さら無理だもんね。
身支度を整え駅へ向かう。
新宿駅に着くと、いつものようにあえて写真を撮った。
『ゴールデンウィーク中日なので、人がヤバいです。 岩上22:23』
何かどうでもいいから、ヤバいという言葉を本当に多用しているな。
小説家へ復帰なんて、まだまだ先の話になりそうだ。
『相変わらず人が多い。イチローは今晩仕事をした後。明日は休んでもいいでしょう。 朱婧瑶22:24』
何回言っても分からない馬鹿だなあ。
急にシフト変更なんてできる訳ねえだろ、雇われの身で。
インカジ『レディ』に到着。
まずサイトにあるクレジットを、どうにかして現金に変えないといけない。
それには何かいい言い訳が必要だ。
『明日も仕事ですよ。次の休みは五月七日の火曜日です。シフト制にしてるから、急に休んだりできないんですよ。 岩上23:17』

何かいいアイデアはないか?
怪しまれないように金を引き出せるものが。
あ、詐欺師へ連絡を入れないと怪しまれるな。
『わかったよ。それはお疲れ様でした。若香は先に寝た。また明日ね。おやすみなさい。 朱婧瑶23:33』
分かったよって、俺様にタメ口利いてんじゃねえよ、クソ人間が。
『おやすみなさい。ゆっくり休んで下さいね。 岩上23:58』
さて、時間は限られている。
五月で叔父が金取引から手を引くと言っている以上、こちらも何かしらの対策を立てないといけないのだ。
詐欺師が喜び飛びつきそうな話を……。
色々考えている内に、時計の針は十二時を指した。

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