[第一話①]石動墓石店の宇宙錬金術 〜地球人の悪意、回収します〜【AI創作小説】
石動墓石店の宇宙錬金術 〜地球人の悪意、回収します〜
第1話「じいちゃんの石」
「ちょっと! 周! 昨日ゴミ出すって言ったよね!?」
朝から石動(いするぎ)家に朝美の声が響く。
蓮は自室で制服のボタンを留めながら、ふう、と小さく息を吐いた。
――また始まった。
いつものことだ。何時何分に朝美の雷が落ちるか、蓮はもう体感で分かるようになっている。
今日は少し早い。
「ごめんごめん、朝美さん。忘れてた」
階下から聞こえてくる周の声は、まるで怒られていることを楽しんでいるかのように呑気だ。
「忘れてたじゃないでしょ!
燃えるゴミの日、逃したらまた一週間置いとくことになるのよ!」
「そうだね。ごめんね」
その口調には、反省のかけらもなかった。
トーストを咥えたまま、目は新聞のスポーツ欄に落ちている。
「誰のせいよ!」
ガタン、と椅子を引く音。
朝美の声はさらに大きくなる。
蓮は制服の第二ボタンまで留め終えると、鏡も見ずに前髪だけ軽く直した。
台所からは、味噌汁の匂いと、朝美の怒声と、周の笑い声が同時に漂ってくる。
おかしな取り合わせだが、これが石動家の朝だった。
蓮が階段を下りていくと、朝美はフライパンを片手に持ったまま、周に向かって説教を続けていた。
それでも、その隣にはちゃんと蓮の弁当箱が二つ、綺麗に包まれて置いてある。
「蓮、おはよう。今日は少し早めに出なさい。
傘、持った? 午後から降るって言ってたわよ」
説教の合間に、朝美はそう言って蓮の方を見た。
声のトーンはさっきまでと変わらず高いが、目だけはちゃんと蓮の忘れ物がないかを確認している。
「……おはよう。傘、玄関にある」
「ならいいわ」
そう言うと朝美はまた周に向き直り、
「それで周、今日こそゴミ出しなさいよね!?」と再燃した。
周は「はいはい」と笑いながら、
朝美の肩を後ろからそっと揉みはじめる。
「もう! 揉めば誤魔化されると思って!」
「思ってないよ。ただ、朝美さんは肩に力入りすぎだから」
朝美はそれ以上何も言わず、
しかしフライパンを持つ手からは少し力が抜けたようだった。
蓮はその光景を横目に見ながら、黙って食卓につく。
この家では、これが「いつも通り」なのだ。
朝食を終え、蓮が玄関で靴を履いていると、
庭に面した作業場から石を削る音が聞こえてきた。
ギィィィ……ギィィィ……
規則正しく、迷いのない音。
祖父の源造が、いつもの通り朝から仕事をしているのだ。
「蓮」
低い声に呼び止められる。
振り向くと、源造は作業台に向かったまま、こちらを見ずに手だけを止めていた。
「行ってきます」
「ちょっと待て」
源造はゆっくりと椅子を回し、蓮の方を向いた。
作業着の胸ポケットから、緑色の小さな石を取り出す。
表面は艶やかで、ところどころに濃淡のある縞模様が浮かんでいた。
「またお守り?」
蓮が聞くと、源造は無言のまま石を差し出した。
「持っとけ」
「学校で落としたら?」
「知らん。落とすんじゃねえぞ」
会話はそれだけだった。
蓮はいつものように、石を制服のポケットに滑り込ませる。
そのとき、源造の目が一瞬だけ、蓮のポケットのあたりに落ちた。
まるで、そこに何かがちゃんと収まっているかを確認するように。
「……じゃあ、行ってきます」
「おう」
蓮が背を向けて歩き出すと、源造はまた作業台に向き直り、石を削る音が再開した。
ギィィィ……。
孫の性格を知り尽くした祖父が、今日も朝の日課をこなしているだけ――蓮にはそうとしか見えなかった。
門を出るとき、蓮はポケットの上から石の存在を軽く確かめた。
ひんやりとした感触が、布越しに指先へ伝わってくる。
別に、何かが起こると思っているわけではない。
ただ、いつもそうしているだけだった。
学校に着いてから、蓮の行動にはいくつかの決まりがある。
人の少ない裏階段を使うこと。
廊下は端を歩くこと。
教室に入るタイミングは、チャイムぎりぎりまでずらすこと。
誰かと目が合いそうになったら、先に逸らすこと。
誰かに教わったわけではない。
気づけば、そうするようになっていた。
その日も、蓮はいつも通り裏階段から二階の廊下に出た。
あと少しで教室
――そう思った瞬間、
足元の段差に爪先が引っかかった。
体が前に傾く。
手にしていた教科書が、廊下に派手な音を立てて散らばった。
「うわ、だっせぇ」
聞き覚えのある声。
振り向かなくても分かる。
滝沢拓海だった。
蓮は落ちた教科書を拾おうと屈みながら、視界の端で拓海の姿を捉えた。
その瞬間、頭の奥で小さな違和感が疼く。
――また、だ。
拓海の目が、妙に大きく見える。
まばたきの間隔がおかしい。
白目の部分に、うっすらと血の色が滲んでいるようにも見えた。
口元の輪郭が、笑っているはずなのにどこかたわんで見える。
耳の形がいつもよりわずかに尖り、輪郭の縁が薄く透けているようだった。
肌の質感がざらつき、頬から首筋にかけて、生気のない灰色がかった色が差している。
指先だけが不自然に長く伸びているように映り、教科書を蹴る爪先の音までもが、やけに湿った響きを帯びて聞こえた。
蓮は知っていた。
これは自分にしか見えていないものだと。
他の生徒たちは、誰も気にせず通り過ぎていく。拓海は、ただの拓海のままだ。
「お前なんでそんなにおどおどしてんだよ」
その声は、普段の拓海の声とはどこか違う。
低い部分に、耳障りな響きが混じっている。
まるで、声そのものの後ろにもう一つ別の音が重なっているような、そんな厚みのある不快さだった。
キーン。
耳の奥で、細い金属音のようなものが鳴った。蓮は思わず眉根を寄せる。
「うざっ」
キィン――ッ。
音が一段高くなる。頭の芯が痺れるような感覚。蓮は拾いかけた教科書を抱えたまま、うつむいて立ち上がった。
「……すみません」
それだけ言って、蓮は拓海の横をすり抜けるように歩き出す。反論はしない。戦わない。ただ、この場から離れることだけを考える。
拓海が何か言いかけたが、蓮はもう振り返らなかった。廊下の角を曲がった瞬間、耳鳴りが少しだけ和らいだ気がした。
気づけば、蓮の手は制服のポケットの上に置かれていた。
指先に触れる、小さくてひんやりとした感触。
いつからそうしていたのか、蓮自身にも分からなかった。
<キャラクター紹介>


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