[第一話②]石動墓石店の宇宙錬金術 〜地球人の悪意、回収します〜【AI創作小説】
石動墓石店の宇宙錬金術 〜地球人の悪意、回収します〜
「じいちゃんの石」
◆前回のあらすじ
石動(いするぎ)家の朝。周と朝美のにぎやかなやり取り、祖父・源造(げんぞう)が無言のまま、蓮(れん)にお守りのような石を差し出す――そんな、ちょっとおかしな日常のひとコマ。
学校では、なぜか人目を避けるように行動している蓮。そんな中、拓海と遭遇する。拓海の発言をきっかけに、蓮は自分にしか見えない拓海の異形と、耳鳴りのような深い音に襲われ、体調を崩してしまう。
保健室のベッドは、いつも同じ場所が空いている。
窓際、カーテンで仕切られた一番奥。
蓮はそこに倒れ込むように腰を下ろした。
「また耳鳴り?」
養護教諭が、こちらを見もせずに聞いてくる。
書類仕事をしながらの、慣れた口調だった。
「……大丈夫です」
「大丈夫そうに見えないけど」
それ以上は追及されなかった。
カーテンが引かれ、静かな空間だけが残される。
蓮はベッドに横になり、天井の染みをぼんやりと見つめた。
耳の奥では、まだ小さくキーンという音が続いている。
さっきよりは弱いが、消えてはいない。
蓮は無意識に、ポケットの中の石を握りしめた。
指先に伝わる冷たさが、じんわりと掌に広がっていく。
――少しだけ、楽になった気がする。
耳鳴りが、わずかに和らいだような感覚があった。
気のせいかもしれない。
でも、いつもそうだった。
この石を持たされた日は、いつもより少しだけ、頭の痛みが軽い。
「……やっぱり、これ」
言いかけて、蓮はそれ以上を口にしなかった。
何が「やっぱり」なのか、自分でもうまく言葉にできない。
ただ、握った手の中の石だけが、ひんやりとした重みで、蓮の掌に確かに存在していた。
放課後、校門を出たところで、蓮のスマホが震えた。
〈今から迎えいくから、そこ動くな〉
紅葉(くれは)からのメッセージだった。
返事をする間もなく、五分と経たないうちに、見慣れた自転車が校門前に滑り込んでくる。
「蓮~、待った?」
紅葉はスマホの画面から目を離さないまま、片手でハンドルを操っていた。器用というより、慣れすぎているのだろう。
「……危ないよ、それ」
「平気平気、余裕だし。てかこれ見て、今日もマジで一人論破したから」
紅葉が得意げに画面を見せてくる。
文字がびっしりと並んだ投稿と、その下に連なるコメント欄。
蓮には正直、何が起きているのかよく分からない。
「またやってるの?」
「正しいこと言ってるだけっしょ。あっちが勝手にキレてきただけだし」
紅葉はそう言って、また画面に視線を戻す。
口の悪さも、強気な態度も、いつも通りだった。
そのときだった。
紅葉のスマホの端で、小さく光っていた緑色のランプが、ふっと赤に変わった。
「……あれ?」
紅葉の表情から、すっと色が抜ける。
「熱っ……ちょっと、なにこれ」
スマホを持つ手を、慌ててもう片方の手に持ち替える。
画面に触れるたび、「あちっ」と声が漏れた。
「紅葉?」
「蓮」
さっきまでの余裕はどこにもなかった。
紅葉の声が、明らかに震えている。
「な、何」
「帰る」
「どこに」
「じいちゃんのとこ! 早く!」
紅葉は蓮の手首を掴むと、自転車を押しながら猛烈な勢いで歩き出した。
「ちょ、待って、押さないでよ!」
「無理、これ無理、はやく、はやくして……!」
さっきまでの「炎上レスバ女王」はどこへやら、紅葉は半泣きの顔で蓮を急かし続けた。
すれ違う生徒たちが二人を振り返るが、紅葉はそれどころではないようだった。
蓮はわけも分からないまま、ただ紅葉に手を引かれて歩調を速めるしかなかった。
石動墓石店の引き戸を、紅葉は蹴破るような勢いで開けた。
「じいちゃーん! 石ぉ!」
作業場から顔を出した源造は、その様子を見ても驚く気配もなかった。
「またか」
たった一言。
けれどその「またか」には、これが初めてではないという響きがはっきりと滲んでいた。
「はやく、はやくぅ……もう無理、これほんとに無理……」
紅葉はスマホを両手で抱えるようにしながら、目にうっすら涙を浮かべていた。
さっきまでの強気な姿はどこにもない。
源造は無言のまま奥の棚に手を伸ばし、小さな石を一つ取り出す。
「ほら」
「ありがとぉ……じいちゃん大好き……」
紅葉は震える手でスマホのケースを開け、内側に石をはめ込んだ。
カチリ、と小さな音。
数秒後、赤く点滅していたランプが、ふっと緑に戻る。
「……あ、直った」
紅葉の声から、さっきまでの震えが嘘のように消えていく。
目元を軽く拭うと、いつもの表情に戻っていた。
「はぁ、マジ焦った。じいちゃんいなかったらどうなってたか」
「知らん」
源造はそっけなくそう言うと、また作業台に向かって歩き出す。
蓮はその一連のやり取りを、ただ黙って見ていた。
「……何それ」
蓮が聞くと、紅葉はちらりとこちらを見て、それから軽く肩をすくめた。
「知らないほうがいいよ、蓮には」
「そうだな」
源造が作業台の方から、振り返りもせずにそう言った。
二人の声には、蓮を突き放すような響きはない。
それでも、蓮だけがこの家の何かから外されている――そのことだけは、はっきりと伝わってきた。
蓮は何か言いかけたが、結局、言葉にはならなかった。
その声が聞こえたのは、紅葉がスマホをポケットにしまい直した直後だった。
「……あ、いたいた」
引き戸の外に、拓海が立っていた。
息が少し上がっている。走ってきたのだろう。
「お前、さっき逃げたよな?」
蓮の背筋が、一瞬で強張った。
拓海は店の敷居をまたいで中に入ってくる。
その姿は、廊下で見たときよりも、さらにはっきりと歪んで見えた。
目の奥が、じっとりと濡れたように光っている。
「なんだよ、こんなとこ……墓石屋? しょぼ」
キーン。
耳の奥で、また音が始まる。蓮は思わず後ずさった。
「うわ、うるさ」
紅葉が顔をしかめる。
表情には出さないようにしていたが、その声には明らかな不快感が滲んでいた。
紅葉にも、この不快なノイズは届いているらしい。
「ちょっと、なんなのこいつ」
紅葉が一歩前に出ようとしたときだった。
「――帰れ」
低い声が、店の奥から響いた。
源造だった。
作業台の前から、ゆっくりと立ち上がる。
その動きに、今までの軽妙な空気は一切ない。
店の中の時間が、一瞬だけ止まったような気がした。
拓海は源造を見て、一瞬だけたじろいだ。
それでも、虚勢を張るように口を開く。
「は? なんだよジジイ。関係ないだろ」
源造は何も言わなかった。
ただ、蓮の前に立ち、拓海と正面から向き合う。
表情は変わらない。
怒っているようにも、威嚇しているようにも見えない。
それなのに、その場にいるだけで、空気の重さが変わった気がした。
蓮は源造の背中越しに、拓海の姿を見ていた。
恐怖は、まだ消えていない。
だが、さっきまでとは違う種類の緊張が、体の芯にあった。
――じいちゃんが、いる。
それだけで、少しだけ息がしやすくなった気がした。
「はぁ? だからなんだよ」
拓海はまだ引かなかった。
源造を睨みつけたまま、蓮の方に視線を移す。
「お前さ、いつもそうやって誰かの後ろに隠れて」
キィィィィィン――ッ!
耳鳴りが、今までで一番大きく鳴った。
蓮は思わずその場にしゃがみ込みそうになる。
「うざいんだよ、マジで」
視界が歪む。拓海の輪郭が、さらに濃く、さらに醜く滲んでいく。
蓮は胸のあたりを押さえた。
いや――違う。
ポケットだ。
制服のポケットを、両手できつく握りしめていた。
源造の目が、ちらりと蓮のポケットに向いた。
そして、次の瞬間。
パキンッ。
小さく、けれどはっきりとした音が響いた。
静寂。
耳鳴りが、嘘のように止んだ。
拓海の表情から、すっと力が抜けていく。
目の焦点が合っていない。
「……あれ?」
その一言で、少しだけ意識が戻ったようだった。
拓海は自分の手を持ち上げ、指を一本ずつ確かめるように見つめる。
それから腕、袖口、足元――自分の体をなぞるように視線を落とし、最後に店の中をぐるりと見回した。
「?…俺、何してたんだっけ……」
<キャラクター紹介>

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