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エミリー・レムラーがボッサ・タッチで描く『Afro Blue』

エミリー・レムラー Emily Remler(1957–1990)は、1980年代のアメリカ・ジャズ・シーンにおいて、確かな存在感を放ったギタリストです。バークリー音楽大学で学び、ビバップやハード・バップを基盤にしながら、ラテンやボッサ・ノヴァの感覚を自然に取り入れた演奏で高く評価されました。彼女のプレイは、明快なタイム感と端正なフレージング、そして音楽全体を俯瞰する構築力を兼ね備えています。彼女のキャリアを紹介した過去の記事がございますので、良かったらそちらもご参照ください。

『Afro Blue』は、キューバ出身の打楽器奏者であるモンゴ・サンタマリア Mongo Santamaríaが1959年に作曲した楽曲です。アフリカ由来のリズム感覚をジャズの文脈に持ち込んだこの曲は、3対2のクロスリズムを基調とし、反復するベースラインが独特の浮遊感を生み出します。ジャズとアフロ・キューバン音楽の結節点として、多くの名演を生んできました。

なかでもジョン・コルトレーン John Coltraneによるスピリチュアルな解釈は広く知られていますが、エミリー・レムラーの『Afro Blue』は、コルトレーンとは異なる静かな魅力を備えています。彼女のアプローチは、強靭なリズムの押し出しよりも、ボッサ・ノヴァの柔らかさと間合いを大切にしたものです。リズムは深く揺れながらも、表情はあくまでしなやかで、音楽全体に透明感が漂います。

この演奏では、ギターのコードワークが重要な役割を果たしています。原曲が持つアフロ・キューバンのリズム構造を尊重しつつ、ボッサ・タッチの和声感覚によって、楽曲に新たな陰影を与えています。ソロでは、流麗なシングルノートとリズミックなアクセントが交互に現れ、過度に感情を煽ることなく、曲の流れの中で自然に物語を紡いでいきます。

エミリー・レムラーの『Afro Blue』は、スタンダードを技巧で塗り替える演奏ではありません。リズムとメロディ、そして空間の呼吸を丁寧に整えながら、曲そのものが持つ魅力を静かに引き出しています。アフロのリズムとボッサの感触が溶け合い、深いブルーの色調を帯びたこの演奏は、彼女の音楽的成熟を端的に示す一曲と言えるでしょう。

参考までに『Afro Blue』を採譜した映像がありますので、彼女の奏法に興味のある方はご覧ください。


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