「社員が動かない」と思っていた。でも、問題は人ではなかった
「社員が、思うように動いてくれない」
以前、ある経営者からそんな話を聞いたことがあります。
会社としては、もっと事業を伸ばしたい。
売上も増やしたい。
でも、現場がついてこない。
経営者から見ると、そう見えていました。
正直に言えば、最初は私も、
「現場の人たちの能力に問題があるのかもしれない」
と思っていました。
今振り返ると、ずいぶん単純な見方です。
でも、この経験は今の私の経営支援にかなり影響しています。
なぜなら、実際に現場を見てみると、
社員は「動いていない」のではなかったからです。
現場を見ないと分からない
私はまず、
「なぜ売上が伸びないのかは、現場を見ないと分からない」
と思いました。
そこで、社内で話を聞くだけではなく、実際に仕事がどう流れているのかを追いました。
顧客側では何が起きているのか。
現場は何を見て仕事をしているのか。
誰がどんな情報を持っているのか。
誰が何を判断しているのか。
一つずつ確認していきました。
すると、違和感が出てきました。
顧客側で起きていることと、社内で行われている仕事が、十分につながっていなかったのです。
あるところでは必要以上の対応をしている。
一方で、本当に必要としているところには十分な対応ができていない。
会社全体ではかなりの仕事量をこなしている。
それなのに、顧客が求めているものとズレている。
ここで私は、
「これは人の能力だけの問題ではないな」
と思い始めました。
社員はむしろ、働きすぎていた
さらに現場を見ていくと、私の最初の仮説は崩れていきました。
社員は動いていないどころか、かなり働いていました。
目の前の仕事を処理する。
次の仕事が来る。
また処理する。
それを繰り返すだけで一日が終わる。
余裕がない。
だから、
「顧客側では今、何が起きているのか」
「なぜこの仕事をしているのか」
「もっと良いやり方はないのか」
まで考えることが難しくなっていました。
経営者から見れば、
「もっと自分で考えて動いてほしい」
となる。
でも現場からすれば、
「目の前の仕事を終わらせるだけで精一杯」
だったのです。
同じ会社を見ているのに、見えている景色が違っていました。
私が見ていたのは「需要→情報→判断→実行」
今なら、この状態を四つに分けて考えます。
需要
顧客は実際に何を求めているのか。
情報
その需要を、社内の誰が把握しているのか。
判断
その情報をもとに、誰が何を決めているのか。
実行
決めたことを、現場が無理なく再現できる状態になっているのか。
当時の私は、こんなきれいな言葉で整理していたわけではありません。
とにかく現場を見て、
「顧客は本当は何を必要としているんだろう」
「その情報を誰が知っているんだろう」
「誰が仕事量を決めているんだろう」
「現場は、なぜこの作業をするのか理解しているだろうか」
と追いかけていました。
でも今振り返ると、見ていたのは、
需要 → 情報 → 判断 → 実行
だったのだと思います。
このどこかが切れていると、一人ひとりが一生懸命働いていても、会社全体ではおかしなことが起きます。
人を変える前に、つながりを変えた
そこで、「もっと頑張れ」と言うことから始めるのをやめました。
まず、顧客側で起きていることを現場が理解できるようにしました。
何が求められているのか。
今、何がうまくいっているのか。
何がズレているのか。
その情報を仕事につなげる。
同時に、仕事のやり方も整理しました。
人によって違っていた作業を標準化する。
一部の人しかできない仕事を減らす。
必要なところには人員を配置する。
そして定期的に全員で、
「今、現場で何が起きているのか」
「今、何に挑戦しているのか」
「なぜ、それをやるのか」
を確認しました。
特別な経営理論を導入したわけではありません。
顧客と会社、判断と現場をつないだ。
やったことの本質は、それだったと思います。
売上が伸びても、社員は以前より休めるようになった
しばらくすると、数字が変わり始めました。
取扱量が増え、売上も大きく伸びました。
でも、私が今でも重要だったと思っているのは、売上だけではありません。
社員の働き方も改善したのです。
以前より多くの仕事をこなしている。
それなのに、以前より休める。
何をすればいいか分かる。
なぜやるのかも分かる。
同じ仕事を再現できる。
結果も確認できる。
私はこのとき、
売上を伸ばすことと、社員を楽にすることは、必ずしも反対ではない
と実感しました。
人にもっと頑張らせて売上を伸ばすのではない。
仕事の構造を変えることで、同じ人でも出せる結果が変わることがあります。
私も最初は「人」を原因にした
この話で一番書いておきたいのは、私は最初から問題を見抜いていたわけではない、ということです。
私自身、
「現場の能力が低いのではないか」
と思っていました。
実際、人による能力差はあります。
採用や配置を変えるべき会社もあります。
だから私は、
「社員は悪くない。全部仕組みが悪い」
と言いたいわけではありません。
そうではなく、
人を原因だと決める前に、本当にそうなのかを確認する。
これが大事なのだと思っています。
「社員が動かない」
そう聞いたとき、すぐに社員教育や評価制度の話をすることはできます。
でも、その前に確認したい。
必要な情報は届いているのか。
何を基準に判断すればいいか分かっているのか。
顧客で起きていることと、自分の仕事がつながっているのか。
そして、
考えて動けるだけの余白が、その職場にあるのか。
経営者が問題だと思っている場所と、
実際に会社を止めている場所は、
同じとは限りません。
もし今、
「社員が動いてくれない」
と感じているなら、一度だけ問いを変えてみてください。
その社員を変える前に、「需要→情報→判断→実行」のどこかが切れていないでしょうか。
※本記事は、筆者がこれまで関わった事業運営・経営支援の現場で得た経験や問題意識をもとに、経営上の論点が伝わるよう再構成しています。守秘義務および関係者のプライバシー保護のため、個別の出来事をそのまま再現せず、業種・時期・規模・役職・数値・出来事の順序その他の情報を抽象化・加工しています。特定の企業・団体・人物について記述することを目的としたものではありません。
経営の整理 60分
「社員が動かない」
「売上が伸びない」
「組織がうまく回らない」
そう見えていても、それが本当に最初に解くべき問題なのかは、当事者であるほど分かりにくくなります。
私は、経営者に正解を渡すのではなく、
何を実現したいのか。
実際に何が起きているのか。
本当に考えるべき問題は何なのか。
次に何を決め、何をするのか。
を一緒に整理しています。
相談内容をきれいにまとめる必要はありません。
「何かがおかしい。でも、自分でも何が問題なのかうまく整理できない」
その状態で大丈夫です。
今、変えたいと思っていることを一つだけ持ってきてください。
そこから60分、一緒に整理します。
「経営の整理 60分」の詳細は、下記のリンクからご覧いただけます。
熊谷 篤
実戦経営アドバイザー/中小企業診断士
事業承継後の後継者、第二創業、新規事業責任者を中心に、経営者の意思決定整理と実行接続を支援しています。
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