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新規事業を仕事にしている人でも、自分の事業は進まない

「別の人にも相談しているんですが、なかなか具体的に進まないんです」

以前、そんな相談を受けたことがあります。

その方は、会社員として新規事業に関わる仕事をしていました。

つまり、新規事業について何も知らない人ではありません。

顧客の話を聞くことも知っている。

仮説検証が必要なことも知っている。

事業モデルを考えなければいけないことも分かっている。

自分なりに勉強もしていました。

さらに、自分の事業について、すでに別の支援者にも相談していました。

それでも、本人が期待するようには事業が進んでいなかった。

そのことに、本人自身もかなりモヤモヤしていました。

私は話を聞きながら、少し不思議に思いました。

新規事業を仕事にしている人が、なぜ自分の事業になると進まないんだろう。


アドバイスは間違っていなかった

それまでの支援について聞いてみると、

「顧客にもっと話を聞いた方がいい」

「仮説を検証した方がいい」

といった話をしていたようです。

どれも間違っていません。

むしろ、新規事業では大切なことです。

本人も、それを理解していました。

ただ、話を聞いているうちに、私は少し違和感を持ちました。

顧客インタビューをどうするか。

仮説をどう検証するか。

そういう話より前に、確認したいことがあったのです。

「そもそも、この人は何を実現したいんだろう?」

顧客インタビューは手段です。

仮説検証も手段です。

事業計画を作ることも手段です。

ところが、手段の話をしているうちに、

「何のために、今これをやっているのか」

が曖昧になることがあります。

経営相談をしていると、これは意外とよくあります。

毎回ちゃんと話をしている。

アドバイスも受けている。

本人も納得している。

でも、しばらく経っても同じような話をしている。

そこで私は、いったん手法の話から離れました。


「短期間で、何を達成したいですか?」

その方には、ちょうど一つ、挑戦してみたいことがありました。

自分の事業を外部に出し、さらに成長させていくための機会です。

うまく進めば、資金調達や外部との連携など、その先の可能性も広がります。

本人はそこに挑戦したいと考えていました。

しかも、期限が迫っていました。

そこで私は聞きました。

「では、この短期間で、何を達成したいですか?」

ここから支援を始めました。

「事業を成功させる」

では大きすぎます。

逆に、

「顧客インタビューをする」

では手段になってしまいます。

期限までに、どんな状態になっていればいいのか。

何が決まっていればいいのか。

何が形になっていればいいのか。

まず、そこを具体的にしました。

ゴールが決まると、そこから逆算できます。

何を考える必要があるのか。

何を決める必要があるのか。

何を形にする必要があるのか。

そして、次に本人が何をするのか。

それまで頭の中にバラバラに存在していたものに、少しずつ順番がつき始めました。


「相談する」から「作って持ってくる」へ

そこからは、短い間隔でディスカッションを重ねました。

最初に整理したのは、

「誰の、どんな問題を解決する事業なのか」

です。

ターゲットを考える。

その人が抱えている問題を考える。

提供する価値を考える。

どうやって事業として成立させるのかを考える。

それぞれをバラバラに考えるのではなく、全体としてつながっているかを見ていきました。

最終的には、それを第三者にも伝わる形にしていきました。

ただし、私が資料を作ったわけではありません。

基本的には、本人に作ってきてもらいます。

そして一緒に見る。

「この人が本当にターゲットですか?」

「この人は、何に困っているんでしょう?」

「この課題と、提供するものはつながっていますか?」

「相手がお金を払う理由は何でしょう?」

問いを投げる。

本人が考える。

作り直す。

また持ってくる。

またディスカッションする。

その繰り返しです。

私は、考え方や見るべきポイントは伝えます。

でも、最後に決めるのは本人です。

私がきれいな事業計画を作って渡しても、その人自身が事業を動かせるようにはならないからです。


なぜ、それまで進まなかったのか

その後、その方の事業は、それまでより具体的に動き始めました。

でも私は、このケースで何か特別なことをしたとは思っていません。

画期的なアイデアを出したわけでもない。

私だけが知っている新規事業の手法を教えたわけでもない。

そもそも本人は、新規事業についてかなり知識を持っていました。

では、何が変わったのでしょう。

私は、

ゴールと、今決めることと、次にやることがつながった。

そこが大きかったのだと思っています。

それまでも考えていた。

相談もしていた。

知識もあった。

でも、

「どこへ行くのか」

「そのために今何を決めるのか」

「次に何をするのか」

が一本につながっていなかった。

だから、考えてはいるけれど、現実があまり変わらない状態になっていたのだと思います。


「考えている」と「進んでいる」は違う

経営相談をしていると、

「それはずっと考えています」

と言われることがあります。

会議もしている。

資料も作っている。

専門家にも相談している。

本も読んでいる。

本人としては、かなり時間を使っています。

それでも、しばらく経ってから話を聞くと、状況がほとんど変わっていないことがあります。

そういうとき、私は、

「もっと考えましょう」

とはあまり言いません。

むしろ確認するのは、

「前回から今回までに、現実世界で何が変わりましたか?」

です。

誰かに話したのか。

何かを作ったのか。

顧客の反応を確認したのか。

数字を見たのか。

何かを決めたのか。

何かをやめたのか。

考えることは重要です。

でも、考えること自体が目的になると、

「考えているから、進んでいる」

という状態になりやすい。

実際には、現実世界では何も変わっていない。

これは、能力が低い人だけに起きることではありません。

むしろ今回のように、仕事で新規事業を経験している人にも起きます。


他人の事業なら見える。でも、自分の事業になると見えない

私は、このケースがずっと印象に残っています。

なぜなら、

新規事業を仕事にしている人でさえ、自分の事業になると見えなくなる

からです。

他人の事業なら、

「ターゲットが曖昧ですよね」

「まずここを確認した方がいいですよね」

「次はこれをやった方がいいですよね」

と冷静に考えられる。

でも、自分のことになると違います。

自分のやりたいことが入る。

これまで考えてきた時間が入る。

仕事との兼ね合いが入る。

期待が入る。

不安が入る。

勉強してきた知識も入る。

いろいろなものが、同時に頭の中に存在します。

一つひとつは分かっている。

それでも、

「今、本当に決めるべきことは何か」

が見えにくくなる。

私は、これは能力の問題ではないと思っています。

当事者だからです。


他の支援を受けているのに、なぜか進まない

私は、すでに誰かの支援を受けている経営者や新規事業責任者から相談されることがあります。

「コンサルタントにも相談しています」

「専門家からもアドバイスをもらっています」

「社内でもずっと議論しています」

それでも、

「なんか進まないんです」

と言う。

私は、そういうときに、

「その支援者をやめた方がいい」

とは思いません。

必要な専門知識があるなら、その専門家に聞いた方がいい。

実務をお願いしたいなら、その実務が得意な人に頼んだ方がいい。

ただ、

いろいろなアドバイスを受けている。

自分でもかなり考えている。

それなのに、

「結局、自分は何を決めればいいんだろう」

となっているのであれば、少し話は違います。

そこに、さらに新しいアドバイスを足しても、かえって頭の中が複雑になることがあります。

必要なのは、

「何を知るか」ではなく、「何を決めるか」を整理すること

かもしれません。


「もっと早く話せばよかった」

支援が一区切りしたとき、その方から言われた言葉があります。

「もっと早く熊谷さんと話せばよかったです」

ありがたい言葉でした。

ただ、私はこれを、

「前の支援者より私の方が優れていた」

という話にはしたくありません。

支援には、それぞれ役割があります。

知識を教える支援。

専門的な助言をする支援。

実務を代行する支援。

そして、

経営者自身が考えていることを整理し、自分で決めて、具体的に動ける状態をつくる支援。

今回、その方に必要だったのは、最後の支援だったのだと思います。

私は答えを渡したわけではありません。

本人の頭の中にあったものを一緒に並べ、

ゴールから逆算し、

今考えるべきことを決め、

具体的な行動につなげただけです。

でも、自分のことになると、その「だけ」が意外と難しい。


もし今、

誰かに相談している。

アドバイスももらっている。

自分でもかなり考えている。

それなのに、何か月経っても同じところをぐるぐる回っている。

そんな状態なら、一度だけ確認してみてください。

その支援を受け始めてから、現実には何が変わったでしょうか。

そして、

2週間後に何が変わっていれば、「前に進んだ」と言えるでしょうか。

答えがすぐに出なくても構いません。

むしろ、

「いろいろ考えているけれど、自分でも何が問題なのか整理できていない」

という状態でも大丈夫です。

私は、そういう経営者や新規事業責任者の方と、最初の60分で、

何を目指しているのか。
今どこにいるのか。
本当に考えるべきことは何なのか。
次に何をするのか。

を一緒に整理しています。

相談するために、きれいな事業計画を作る必要はありません。

今、変えたいと思っていることを一つだけ持ってきてください。

そこから一緒に整理します。

「経営の整理60分」については、下記の記事からご覧いただけます。

連絡先メールアドレス:info@jissenstrategy.com

※本記事の事例は、守秘義務に配慮し、一部内容を変更・再構成しています。


熊谷 篤
実戦経営アドバイザー/中小企業診断士

事業承継後の後継者、第二創業、新規事業責任者を中心に、経営者の意思決定整理と実行接続を支援しています。

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「相談するほど整理できていない」という段階でも大丈夫です。
むしろ、何が問題なのか分からない状態を整理するところから始めます。

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