「推し活」は中小企業の売上を変えるのか



――顧客を「買う人」から「応援する人」へ変える経営

「推し活」と聞くと、アイドルやアニメ、スポーツ選手などを応援する活動を思い浮かべる人が多いかもしれません。

好きな人や作品を応援する。グッズを買う。イベントに参加する。SNSで魅力を発信する。そして、友人や知人にも勧める。

しかし、この「推す」という行動を少し違う角度から見ると、中小企業経営にとって非常に興味深いヒントが見えてきます。

なぜなら、推し活とは単なる消費ではないからです。

「買いたい」だけではなく、

「続いてほしい」

「もっと多くの人に知ってほしい」

「成長するところを見たい」

という感情が、購買や紹介、情報発信へとつながっています。

この構造を企業経営に取り入れることができれば、顧客との関係は大きく変わります。

目指すのは、「商品を買ってもらう会社」から「応援してもらえる会社」への転換です。

顧客は「買う人」だけではない

一般的なマーケティングでは、

「どうすれば商品を知ってもらえるか」

「どうすれば購入してもらえるか」

が重要になります。

もちろん、それは必要です。

しかし中小企業にとって、本当に大きな価値を持つのは、購入した後の顧客との関係ではないでしょうか。

一度購入して終わる顧客。

何度も利用してくれる顧客。

家族や友人に紹介してくれる顧客。

SNSで店や商品を紹介してくれる顧客。

新商品が出れば真っ先に購入してくれる顧客。

同じ「顧客」でも、企業にとっての価値はまったく違います。

ここに「推し活」の考え方を取り入れる意味があります。

顧客を単なる購入者として見るのではなく、

「応援者になってもらう」

という視点を持つのです。

中小企業は、実は「推されやすい」

推し活というと、大企業や有名ブランドの方が有利に思えるかもしれません。

しかし、むしろ中小企業の方が「推される会社」を作りやすい面があります。

理由は、人が見えるからです。

たとえば、小さな飲食店なら、料理を作っている店主の顔が見えます。

美容室なら、担当する美容師の技術や人柄が見えます。

自動車整備工場なら、自分の車を整備している整備士が見えます。

建設会社なら、実際に施工している職人の姿を見ることができます。

そこには、大企業には表現しにくい「物語」があります。

なぜこの店を始めたのか。

なぜこの商品を作ったのか。

どんなことを大切にして仕事をしているのか。

どんな失敗があり、どのように改善してきたのか。

そして、これから何を目指しているのか。

人は、完成されたものだけに惹かれるわけではありません。

挑戦している姿や成長していく過程そのものを応援することがあります。

ここに、中小企業ならではの強みがあります。

「売れる理由」だけでなく「推される理由」を考える

企業は通常、「なぜお客様は当社を選ぶのか」を考えます。

価格が安い。

品質が高い。

技術力がある。

立地が良い。

接客が良い。

もちろん、これらは重要です。

しかし「推される会社」を作るなら、もう一つ質問を加えたいところです。

「なぜ、この会社を応援したくなるのか」という質問です。

たとえば美容室なら、「カットが上手」という理由だけでは他店と比較されます。

一方で、

「スタッフが技術を磨いている姿を応援したい」

「この夫婦が経営している店を長く続けてほしい」

「地域を大切にしているこの店が好きだ」

という感情が生まれると、単純な価格比較から少し離れることができます。

商品やサービスの機能的な価値に、感情的な価値と関係性の価値が加わるからです。

顧客は「購入者」から「推し客」へ進化する

顧客との関係を段階で考えると、さらに分かりやすくなります。

最初は、会社や店を「知っているだけ」の人です。

そこから商品を購入する。

何度か利用して常連客になる。

さらに店や商品を好きになる。

そして最終的には、

「この店を誰かに紹介したい」

「この商品をSNSで紹介したい」

「新しい挑戦を応援したい」

という状態になります。

ここまで来ると、顧客の役割は大きく変わります。

単に売上を作ってくれる人ではありません。

新しい顧客を連れてきてくれる人になります。

つまり、「売上を作る顧客」から、「売上を連れてくる顧客」へ変わります。

この違いは、中小企業の経営にとって非常に大きな意味を持ちます。

推し活は「値引き」に頼らない集客につながる

多くの中小企業が集客で悩んだとき、最初に考えがちなのが値引きです。

クーポンを出す。

キャンペーンを行う。

期間限定で価格を下げる。

もちろん短期的な効果はあります。

しかし、値引きによって来た顧客は、さらに安い店が現れれば移ってしまう可能性があります。

一方、「この店が好きだから来る」という顧客は違います。

価格だけではなく、

店の雰囲気、スタッフ、商品、考え方、物語、

そして店との関係そのものに価値を感じています。

推し活型の経営は、価格競争から完全に抜けられる魔法ではありません。

しかし、少なくとも、「安いから選ばれる」だけではない理由を作ることができます。

飲食店なら「推しメニュー」を作る

飲食店であれば、比較的取り入れやすい方法があります。

たとえば「推しメニュー」です。

単なる売上ランキングではありません。

お客様に、「私はこの店の○○推し」と言ってもらえる状態を作ります。

人気投票を行ってもいいでしょう。

期間限定の「推しメニュー総選挙」を行うこともできます。

一位になったメニューの開発秘話を紹介したり、常連客に「おすすめの食べ方」を投稿してもらったりすることもできます。

するとメニューは単なる商品ではなくなります。

顧客が参加できるコンテンツになります。

そして非常に面白いのは、「一番売れるメニュー」と、「一番人に勧めたくなるメニュー」が必ずしも同じではないことです。

売上、粗利、注文数だけでは見えなかった価値が見えてきます。

美容室なら「美容師推し」だけで終わらせない

美容室は「推し活」と非常に相性の良い業種です。

お客様が特定の美容師を信頼し、「この人に切ってもらいたい」

と思うことは珍しくありません。

しかし、ここには経営上の注意点があります。

特定の美容師だけが強い人気を持つと、その人が退職したときに顧客まで一緒に流出する可能性があります。

そこで重要になるのが、「○○さん推し」から、「この美容室推し」へ広げていくことです。

この店の技術教育が好き。

スタッフ同士の雰囲気が好き。

この店のヘッドスパが好き。

この店の考え方が好き。

こうした複数の「推される理由」を作ることで、個人への依存を会社の価値へ変えていくことができます。

自動車整備業にも「推し」は作れる

自動車整備業と推し活。

一見すると遠い組み合わせに見えます。

しかし実際には、非常に相性が良いと考えています。

整備士を単なる「車を修理する人」として見せるのではありません。

「お客様の愛車を守る人」として見せるのです。

整備の様子を紹介する。

普段見ることのできない作業の裏側を発信する。

なぜこの部品を交換する必要があるのかを整備士が説明する。

長く安全に乗るためのポイントを発信する。

こうした情報が蓄積されると、「車検だからどこかに出す」

という関係から、「この人に車を見てもらいたい」という関係に変わります。

価格競争から信頼関係の競争へ移ることができます。

推し活の本当の強さは「参加」にある

ここまで考えると、推し活の本当の強さは「好きになってもらうこと」だけではないことが分かります。

重要なのは、「参加してもらうこと」です。

新商品の名前を顧客と一緒に決める。

試作品のモニターになってもらう。

人気投票を行う。

新しいサービスのアイデアを募集する。

周年イベントを一緒に祝う。

店の成長を顧客と共有する。

こうした取り組みによって、顧客は「見る人」から「参加する人」へ変わります。

企業が一方的に価値を提供するのではなく、企業と顧客が一緒に価値を作る関係になります。

これは小さな企業だからこそ実現しやすい関係でもあります。

ただし、「社長推し」には注意が必要

中小企業が推し活を取り入れるとき、一つ注意したいことがあります。

それは、

社長だけを「推される存在」にしないことです。

社長がSNSで有名になる。

社長目当てのお客様が増える。

社長が接客すると売れる。

一見すると成功に見えます。

しかし、

社長が投稿しなくなれば売上が落ちる。

社長が店にいなければ顧客が来ない。

社長が引退すれば顧客も離れる。

という状態になれば、会社としては逆に弱くなってしまいます。

だからこそ、社長推しから、
スタッフ推し、商品推し、店舗推し、会社推し、理念推しへと広げていく必要があります。

最終的に目指すべきなのは、「この社長が好き」だけではなく、

「この会社が続いてほしい」と思われる状態ではないでしょうか。

推し活は「感覚」で終わらせない

そして、ここからが経営として重要になります。

推し活というと、

「ファンが増えた気がする」

「SNSで盛り上がっている」

「最近口コミが増えた」

という感覚的な話になりがちです。

しかし、経営に取り入れるのであれば、それだけでは不十分です。

売上と結び付けて見えるようにする必要があります。

たとえば、

何人の顧客がリピーターになっているのか。

何人が家族や友人を紹介しているのか。

紹介経由でいくら売上が発生しているのか。

推し商品を購入する顧客は年間いくら使っているのか。

イベント参加者は通常顧客より再来率が高いのか。

SNSで紹介してくれた顧客はどれくらいいるのか。

こうした数字を見ることができれば、

推し活は単なるSNS企画ではなく、

「経営戦略」になります。

「推し活ダッシュボード」という考え方

そこで考えてみたいのが、推し活ダッシュボードです。

通常の経営ダッシュボードでは、売上、客数、客単価、原価、利益などを管理します。

そこに、

リピート率、紹介件数、紹介売上、推し客数、推し商品売上、イベント参加率、SNS投稿数、顧客LTV、推し活経由売上、

といった指標を組み合わせます。

たとえば、「今月の売上は500万円」だけではなく、

「そのうち120万円は紹介顧客から生まれている」

「推し客85人が売上の28%を作っている」

「推し客1人あたりの年間購入額は一般顧客の2.3倍」

といったところまで見えるようにします。

こうなると、「推し活をやったら盛り上がりました」

で終わりません。

何が売上につながり、誰が会社を応援し、どの施策がファンを増やしているのかを判断できるようになります。

「人気店」ではなく「推され続ける会社」へ

推し活を経営に取り入れる目的は、一時的に話題になることではありません。

フォロワーを増やすことでもありません。

目指したいのは、顧客との関係を企業の資産に変えることです。

知ってもらう。

買ってもらう。

また来てもらう。

好きになってもらう。

誰かに勧めてもらう。

一緒に会社を育ててもらう。

そして、その関係を数字で把握し、特定の人に依存せず、会社の仕組みとして蓄積していく。

そこまでできれば、「推し活」は単なる流行語ではなくなります。

中小企業にとって、新規顧客獲得、リピーター増加、紹介増加、客単価向上、LTV向上、価格競争からの脱却、さらには事業承継や企業価値向上までつながる可能性があります。

これから中小企業が考えるべきなのは、「どうすれば売れるか」

だけではないのかもしれません。

もう一つ、「どうすれば、応援したくなる会社になれるか」を考える。

その答えの一つが、「推される会社をつくる経営」なのではないでしょうか。

そして次に考えたいのが、その「推されている状態」を感覚ではなく数字で確認する仕組みです。

売上、リピート、紹介、LTV、推し客数、推し商品、SNS、イベント参加。

これらを一つの画面で見えるようにした、

「推し活経営ダッシュボード」

を作れば、かなり面白い経営ツールになるはずです。

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