利府街道の鬼火サーカス
第四話:『新十郎からの贈り物』
「で、おじいちゃん、肥溜めに突っ込んだ署長はそのあとどうなったの?」
歩は身を乗り出し、おじいちゃんの顔を見つめた。 十九おじいちゃんは、お茶を嬉しそうにすすり、アハハと愉快そうに笑った。
「それはもう、大騒ぎさ。肥溜めから這い上がった署長は、全身から凄まじい臭いを放ちながら、ガタガタと震えていたよ」
「『あのヤミ米のトラックはどこへ消えた……』と、泥まみれで真っ青になった署長が、力なく呟いたんだ。だがな、署長もさすがに今回は身に沁みたらしくてね」
「『十九、俺が欲を張りすぎたせいだな……。土地の神様が怒ったんだ』と、しょんぼりしながら、自分の欲深さを本当に反省していたよ」
いつものいばり散らす威勢はどこへやら、自分の非を認めてしょんぼりする署長の姿を見て、十九もそれ以上は何も言えなかった。 それに、自分が勝手に欲をかいて肥溜めに突っ込んだのだから、他人のせいにできるはずもない。
署長はね、部下にも、消えたトラックの運転手にも、誰にも責任を負わせないように、自分にとって都合がよくて、なんともおかしな調書(報告書)を書き上げたのさ。
「『深夜の激しい突風(旋風)により、トラックの荷台から米俵が川へ流失。署長自ら川に飛び込み救助を試みるも、暗闇と泥に足を取られ失敗、やむなく捜査を断念す』ってな」
「誰も犯人に仕立て上げず、誰の責任にもしない。署長なりの、精一杯の言い訳だったんだろうな」
歩は思わずクスクスと笑ってしまった。
「他人のせいにしないで、そんなおかしな調書で一件落着にしたんだ。署長さん、いばっているけれどどこか憎めない人だね」
「ああ、あの肥溜めダイブで、少しは頭が冷えたんだろう。怪異のおかげで、署長も少しだけ丸くなったのさ。だがな、神様の粋な計らいは、それだけでは終わらなかったんだ」
そう言って、おじいちゃんは楽しそうに語りを続けた。
事件から数日後、仙台市内の防空壕跡から、突如として誰も見覚えのない、頑丈にロックされた謎の金庫が発見された。 警察の警戒のもとでその金庫をこじ開けたとき、署長も、ベテランの刑事たちも、全員が息を呑んだ。
金庫の中にあったのは、あの日、利府街道でトラックごと消えたはずのヤミ米と、進駐軍の物資の一部だった。 署長が若い部下たちから横取りしようとした物資は、神様の力によって、署長の欲深い手から安全な場所へと「避難」させられていたのだ。
金庫の中、山積みの米俵の隙間には、大量の「光る黄金の狐の毛」が敷き詰められていた。 その上には、古い直筆の書状が、ひらりと一枚置かれていた。
『この地の民を飢えから救うため、物資は預かった。人間との約束を守る者――新十郎』
「おじいちゃん、神様は署長に手柄を渡さず、おじいちゃんたちの代わりに米を飢えた人たちに届けるために、金庫に隠したんだね!」
歩は興奮して声を上げた。
「その通り。その後、金庫の米は、なぜか飢えに苦しむ仙台の子供たちの配給にこっそりと混ぜられた」
「手柄を横取りしようとした署長は、結局、何一つ手に入れることはできなかったけれど、あの調書のおかげで誰もお咎めなしさ。神様は全部お見通しで、みんなが傷つかないようにしてくれたんだねぇ」
おじいちゃんは、優しく微笑んで歩の頭を撫でた。
「実を言うとな、新十郎狐が救ってくれたのは、米だけじゃなかったんだよ」
📖 エピローグ:https://note.com/juicy_laelia8513/n/n0a56358fc1c9
📖第3話:https://note.com/juicy_laelia8513/n/n6830fe4300bc
🌐 英語版:https://note.com/ttukumoo/n/n18c447376796
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