利府街道の鬼火サーカス
第三話:『板挟みの咆哮と、鬼火のサーカス』
「な、なんだこれは! 狐の顔をした火の玉が、俺の懐を噛みついてくるぞ!」
湧き上がった鬼火たちは、口を大きく裂けるように開き、鋭い牙を剥き出しにした「野狐」の姿となって署長に飛びかかった。 それは人間が持っている大切なご馳走や持ち物に飛びかかって奪うという、昔からの化け狐のイタズラそのものだった。
鬼火たちは、署長の懐中時計や、手柄を自慢するための手帳に群がり、強引に奪い取ろうとする。
「ひぃっ! 俺の時計が! 俺の手帳が!」
署長が悲鳴を上げて暴れ回る中、十九は不思議と、その光の中に宿る温かい「神様の意思」を感じ取っていた。
(現代の歩の指先に、じわりと熱が宿る。手の中の真鍮の警笛が、ドクドクと鼓動しているかのようだった。)
十九はポケットから真鍮の警笛を強く握りしめた。
「神様、あのいばり署長をお仕置きするんですね。だったら、私に手を貸させてください!」
十九は警笛を口にくわえ、夜の街道を引き裂くような大音響を吹き鳴らした。
――ピーーーッ!
甲高く鋭い音が、霧の中に響き渡る。 その音に呼応するように、野狐の鬼火たちが一斉に黄金色に輝き、激しい渦を巻いた。
そして、署長が奪おうとした「十九の手柄(伝次のトラック)」を霧の中に隠すように、街道を真っ白な光で包み込む。 同時に、黄金の鬼火たちは、署長から奪い取った懐中時計や手帳を、街道沿いの田んぼの奥へと放り投げた。
「ああっ! 俺の宝物が! 待て、逃げるな!」
署長はよだれを垂らし、目を血走らせながら、時計を追いかけて深い霧の中へとダイブした。 だが、そこは時計の幻にカモフラージュされた、田んぼの肥溜め(肥やし)だった。
「ぶはっ! べ、べちょべちょする……! 臭い、臭いぞ十九! 助けろ!」
頭から泥と肥やしに突っ込み、バタバタと暴れる署長。十九は心の中で「ざまあみろ」と小さく呟いた。
眩しい光の霧の向こうに、いたずらっぽく微笑む、巨大な白狐「新十郎」の姿が見えた。 新十郎は十九にウインクをすると、そのふさふさとした長い尾を大きく一振りした。
「おい、伝次! 今だ、走れ!」
十九が叫んだ瞬間、伝次のトラックは、黄金の光に包まれて音もなく霧の彼方へと消え去った。
ハッと息を呑み、歩は目を開けた。 視界に広がったのは、静かな和室の畳と、手の中にある古びた真鍮の警笛だった。
おじいちゃんは静かに微笑みながら、歩の様子をじっと見つめている。
「神様はな、弱い部下をいじめて手柄を奪うような欲深い奴が大嫌いんだよ。だから、あのお茶目な鬼火たちを使って、私と一緒に署長を懲らしめてくれたのさ」
📖 第4話:https://note.com/juicy_laelia8513/n/n1471f896d9aa
📖 第2話:https://note.com/juicy_laelia8513/n/na41a0963ec5e
🌐 英語版:https://note.com/ttukumoo/n/ne121f06b9367
