銀幕のふたり、ケチャップの恋
第四話:昭和のデートは命がけ
「でもさ、あの頃のデートは、本当にロマンチックだったなぁ」
茂雄は、遠い昭和41年の空を思い描くように、目を細めた。
「スマホなんて気の利いたものはないから、駅の改札前の伝言板が命綱だった」
「映画館の前の噴水で、おめかしした君が遠くから走ってくる姿は、まるで映画のヒロインのようだったよ」
しずはクスクスと肩を揺らした。
「ヒロインなわけないでしょ。あなたが待ち合わせの時間を1時間も間違えて早く来るからよ」
「私が遅刻したみたいになって、ヒールで慌てて走る羽目になったんだから」
「駅に着いたら、あなたが伝言板にチョークで『待ちきれないので映画館に入ります』って書き残す直前で、本当に頭にきたわ」
茂雄は、当時流行していたオードリー・ヘプバーン風のワンピースを着た、若き日のしずの写真を指さした。
「でも、君は本当に綺麗だった。映画の後の喫茶店で、僕が頼んだコーヒーを君が『苦い』って言って、僕のミルクを少し分けたろ」
「あれが何だか、本当の夫婦みたいで嬉しかったんだよ」
しずは茂雄の顔を覗き込んだ。
「それは、あなたが格好つけて『男はブラックだ』なんて頼んだからでしょ」
「本当はあなたも苦くて飲めないくせに、私がミルクを入れようとしたら『あ、僕も』って便乗してきたの、お見通しだったんだから」
茂雄は降参だというように、ちいさく両手をあげて笑った。
不便だったけれど、すべてが輝いていた、あの頃の特別な時間がそこにあった。
📖エピローグ:https://note.com/juicy_laelia8513/n/n789eeaa2ac92
📖第3話:https://note.com/juicy_laelia8513/n/nc3b2ad9911d4
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