銀幕のふたり、ケチャップの恋
エピローグ:ケチャップと六十年の熱(2026年)
「デートの帰り道も、大変だったな」
茂雄はしみじみと言った。
「君の門限が21時で厳しかったから、駅の改札で見送った後、寂しくてすぐに駅前の赤い公衆電話から君の家の固定電話にかけたろ」
「あれは、僕の熱い気持ちの表れだよ」
しずは、愛おしそうに茂雄の大きな手を撫でた。
「ええ、それは嬉しかったわ。でも、電話のベルが鳴るたびに、奥の部屋で私の父が目を光らせて時計を睨みつけていたのよ」
「あなたが『幸せだなあ、僕は死ぬまで君を離さないぞ』なんて加山雄三の真似をしている間、私は心臓がバクバクしていたんだから」
「プロポーズの時だって、緊張しすぎてナポリタンのケチャップを白いシャツに飛ばしていたくせに」
茂雄は、少し照れくさそうに笑って、しずの手をそっと握りしめた。
「色々言うけれど、あれからもう六十年近くになる。僕の目に狂いはなかった」
「本当に幸せな人生だったよ、しず」
しずは少し照れくさそうに視線を落としたが、その手をしっかりと握り返した。
「……お見合いを押し付けられた時は、どうなることかと思ったけれど」
「2004年のあの夕暮れに、私たちが浅草で手を繋いで歩いたように」「あの不器用なデートの日、私の手を強く握りしめてくれたあなたの手の熱さだけは、今でもちゃんと覚えているわ」
窓の外では、令和八年の穏やかな夕暮れの街並みが広がっている。
九十歳の二人は、今も変わらない互いの手の温もりを確かめ合いながら、あたたかいナポリタンを仲良く分け合った。
📖第4話:https://note.com/juicy_laelia8513/n/n617afbc41137
📖第1話:https://note.com/juicy_laelia8513/n/nc4aa119a1606
🌐英語版:https://note.com/ttukumoo/n/ndcc21ba6b588
