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小学四年生の息子が、火力発電所で「電力会社で働くには、どんな勉強をすればいいんですか」と聞いていた

夏休み、十歳の息子が火力発電所に興味を持った。きっかけは、よく分からない。

帰省先で祖母が見学を予約してくれて、当日の見学者は祖母と息子の二人きりだったらしい。

案内してくれた人に、息子が聞いた。

「電力会社で働くには、どんな勉強をすればいいんですか」

電気、機械、化学。いまならコンピューターサイエンスもある。そう教えてもらったと、帰ってきた息子が話した。

十歳が、大学で何を勉強するかを聞いてきた。

それを学べる大学を、一緒に見に行こうと思った。

日程を調べているうちに、気がついた。僕は、オープンキャンパスに行ったことがない。

行くという発想がなかった。僕の通った高校では、学園長が折に触れて同じことを言っていた。東大へ行け、国立大学へ行け、医学部へ行け、最低でも早慶だ。毎年、百人近くが実際に東大へ行っていた。見に行く必要は、どこにもなかった。

校内模試の結果が返ってくると、偏差値が出る。みんな、その数字で行く大学を決めていた。僕が受けると言った大学は、進路指導の先生に無理だと言われた。

キャンパスを初めて見たのは、現役で受験した当日だった。

一年、浪人した。その間、十五年分の赤本を集めるために、早稲田の近くの古本屋によく通った。二度目に受験したときには、もう知らない街ではなかった。

息子は、順番が逆だ。火力発電所があって、そこで働く人がいて、電気と機械と化学があって、それを学べる大学を探している。

動画サイトを開くと、道ゆく学生に大学名を聞いて、偏差値で笑いを取る動画が流れてくる。三十年前の校内模試が、かたちを変えて、まだ再生されている。

調べると、九月に早稲田の理工キャンパスで見学ツアーがあった。学生が一時間、実験室まで案内してくれるらしい。小学生でも参加できる。

満席だった。

母校である。浪人して、受かった。ただ、理工キャンパスの中は、僕も詳しくない。息子と一緒に初めて見るつもりだった。その予約が、取れない。

AIに頼んだ。

「キャンセルが出たら、教えて。十二月の回が受付になったら、それも」

一時間ごとに予約ページを確認して、動きがあれば知らせてくれるという。

まだ、通知は来ない。

息子は、火力発電所で働いている人に、どんな勉強をすればいいのかを聞いた。

祖母が予約した発電所は、二人きりだった。

僕がAIに見張らせている母校のキャンパスツアーは、今日も満席である。

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