カラクリ探偵団 18テレビの歴史
M5が寝転がってテレビを見ています。「トムとジェリー」がブラウン管カラーテレビに映っています。昭和レトロ空間にタイムスリップしたようです。表紙の画像はGoogle Geminiで生成しました。
前回の「カラクリ探偵団17 2次元フーリエ変換」でデジタル圧縮技術と日本の民生AV家電の衰退の関係を説明しました。今回は「過去の栄光:化石化したアナログ信号処理技術の歴史」を紹介します。将来信号処理の勉強にきっと役立つと思います。
アナログテレビとデジタルテレビの違い
現在のデジタルテレビはフラットパネル(液晶や有機ELなど)とデジタル受信回路と外部ストレージ(HDDなど)で構成されていますが、アナログテレビはブラウン管(CRT)とアナログ受像器とテープデッキ(VCR)で構成されていました。
原理的な違い
アナログテレビでは左図の電子ビーム走査線を水平/垂直制御しブラウン管の蛍光塗料の残像効果を利用し動画像表示するのに対して、デジタルテレビでは右図のブロック画像情報を合体し高速に全画像構成し表示します。

アナログテレビ技術
1960~70年代に音声ラジオ放送から音声と映像を受信するテレビジョン放送が発展しました。ブラウン管は電子ビームをヨークコイルで走査し陰極蛍光体を2次元発光させる真空管です。テレビジョン放送は人間の視覚特性(時間応答性や角度分解能や色覚)をもとに、5[MHz]程度帯域幅中に走査線数約500本と約30[フレーム/s]の映像・音声情報を詰め込んでVHF帯に周波数変調送信する高度アナログシステムでした。初期放送はモノクロ映像でしたがRGB3極カソードやシャドウマスク+3原色蛍光体を持つカラーブラウン管が登場しカラーテレビジョン放送が始まりました。モノクロテレビ方式と互換性を保ちカラー情報を5[MHz]帯域幅に追加するため映像信号高域側に色副搬送波帯域とカラーバースト信号(色副搬送波用参照波)が水平帰線期間バックポーチに追加されました。1980年代にVCR(Video Casset Recorder)技術やNHK主導の衛星アナログハイビジョン(MUSE)技術が発展しました。当時テレビジョン放送の規格は3種類あり、北米と日本はNTSC方式(National Television System Committee),欧州と中国はPAL方式(Phase Alternating Line),ソビエト連邦(現在のロシア)と東欧はSECAM方式(Sequential Couleur a Memorie)でした。PAL方式はNTSC方式よりも10年後に生まれたので色副搬送波変復調や画素数など工夫がみられます。
技術や規格のデジタルテレビへの継承
しかし1990年代からJPEGやMPEGなど画像や動画のデジタル圧縮技術が発展しアナログテレビジョンシステムは衰退していきました。現在では地上波も衛星放送もデジタルテレビジョンシステムに入れ替わりました。アナログテレビジョンシステムからデジタルテレビジョンシステムへの移行の際には、新旧互換性を保つため古い概念がいまだに残っています。
後ほど詳しく説明しますが、水平/垂直同期(H/Vsync),輝度/色差信号(Y/R-Y/B-Y)など人間の視覚特性に起因する考え方は共通です。
VBS信号(廃絶)と水平/垂直同期信号(継承)
アナログテレビジョン放送ベースバンド信号はVBS信号(Video Baseband Signal)と呼ばれ、テレビジョンの走査線と連動しています。

水平同期期間に帰線ブランク(ブラウン管中の電子ビームのフライバック時にカソードから電子を放出しない)期間とアンブランク(1ライン分映像信号を輝度変換する)があり、ブランク期間中に水平同期信号(シンクチップ)とその前後のフロントポーチとバックポーチ期間があります。
VBS信号をバンドパスフィルタ処理しシンクチップを検出しダイオードクランプ回路でDC情報を再現(バックポーチクランプ)し、バックポーチカラーバーストをもとにPLLで復調用(連続)色副搬送波を生成します。
垂直同期期間は60フィールド(=30フレーム)ごとに9水平期間長の独特波形(放送業界ではサレーションと呼ぶ)があり、時定数の大きなバンドパスフィルタ処理し垂直同期信号と垂直帰線ブランクを再現します。これら水平と垂直の同期信号やブランク信号を基準にブラウン管中の電子ビームの走査をおこなっていました。
カラー副搬送波と変調/復調技術(廃絶)
初期アナログテレビジョンシステムでは、送信放送局のビジコン(真空管式走査撮像管)のRGB映像信号,同期信号,カラーバースト信号をVBS信号に束ねるカラーエンコード処理が必要でした。水平同期,垂直同期,色副搬送波は同一発振器(原振)で高精度・高安定性が求められるため温度管理されたルビジウム発振器を用いていました。またテレビジョン受信器ではVBS信号からカラーブラウン管用にRGB信号へ変換するカラーデコード処理が必要でした。

人間の視覚特性(網膜の細胞密度など)をもとに色度よりも輝度の角度分解能が良いことから、輝度成分(Y信号)と2種類の色差成分(R-Y信号,B-Y信号)に変換します。モノクロ(Y成分のみ)の映像信号にカラー情報を付加するため色副搬送波周波数(fsc=約3.6[MHz])で、色差信号に重みをつけて2相直角平衡変調し加算+バンドパスフィルタ処理後、Y信号に重畳します。ここで注意すべきは、色信号が3.6±0.6[MHz]の帯域を占めこの帯域のY信号と干渉することです。このクロスカラーと呼ばれる現象を低減するため、fsc=227.5・fH(水平同期周期の奇数倍の半分)に色副搬送波周波数を設定していました。(放送業界では周波数インターリーブと呼びます。)
次にVBS信号をRGB信号に復調するカラーデコード処理を説明します。VBS信号をフィルタで分離し色信号を色副搬送波で復調し重みをつけ色差信号を取り出し、輝度成分と色差成分をRGBに変換します。テレビジョン送信機材の水平同期,垂直同期,色副搬送波の周波数精度や相互同期安定性には全く問題がないのですが、VCRなど記憶再生装置ではフライホイールの機構回転速度基準とするため周波数精度や安定性が劣化し、相互同期もとれない問題がありました。B2の経験から、ブラウン管モニタ同期引込み回路はロバスト設計されているため、記憶再生装置の副搬送波周波数を最優先としPLL回路で同期し新たな水平同期,垂直同期を個別に生成するのが得策でした。
FM放送技術(FSKで継承)
1980年代地上アナログテレビジョンシステムでは、VBS信号をベースバンドとしVHF帯やUHF帯に周波数変調をかけて約6[MHz]バンド幅で複数チャンネル放送を実現していました。地上波アナログテレビジョンの周波数帯域を下図に示します。FM方式なので側波帯の余裕も見ておかなくてはならないのですが、映像搬送波周波数fCHと音声搬送波周波数fAUD間4.5[MHz]です。水平同期周波数fHは4.5[MHz]の286分周,色副搬送波周波数fSCはfHの227.5分周(NTSC方式の場合455/2:周波数インターリーブのため),垂直同期周波数fVはfHの262.5分周(NTSC方式の場合525/2:フレームインターレース60[Hz]のため)の関係があります。

VCRの変調/復調技術(廃絶)
VCR誕生以前にはテレビ番組は新聞番組表を見て、見たい番組の時間とチャンネルに従ってテレビジョン受像器の前で鑑賞するしかありませんでした。例えばB2小学生時代は、毎週土曜の夜「8時だヨ!全員集合」が放送され、多くの小中学生がテレビジョン受信器の前に釘付けになっていました。ところがVCR誕生後には予約録画して好きな時間に見たい番組が見れるようになり、時間の制約から解放された一種の革命でした。
1990年代にインターネットの普及により時間からも場所からも解放されました。現在ではリモートワークも普及し、科学技術者にとっては良い世の中になったとB2は感じています。
アナログビデオレコーダー技術(廃絶)
下図はVCRの録画/再生信号処理ブロック図です。録画時にはVBS信号をYC分離し、Y信号をfFM(4[MHz]付近)で変調幅±0.5[MHz]で周波数変調をかけ、C信号をfSCからfLSCへ低域シフトし磁気テープに記録します。磁気テープはfVに同期したヘリカルスキャンのため、1フィールド約6[m/s]の相対速度を持つテープに記録されます。
再生時はフライホイールの回転速度が基準となるためfSCの周波数精度や安定性は劣化し、fHとの周波数インターリーブも精度上実現困難なので再生時Y信号の帯域はfSC以下に狭まり、画像分解能や解像度が低下します。

B2が1980年代試作開発したカラー超音波診断装置用PAL方式(欧州向け)
電子回路のエンコード性能とデコード(VCR再生装置含む)性能の比較例。
アナログテレビ技術の遺産(継承)
カラー画像画質
VBS方式ビデオデッキには、JVC社,Panasonic社主導のVHS方式とSONY社主導のβ方式がありました。VHS方式は分解能と色調のバランスが良く、β方式は分解能が良い特徴がありました。最終的には前者がデファクトスタンダードとなってしまいました。
2000年代初期にデジタルカメラブームがあり、SONY社は輝度と色度の
バランスの良いライカ社製カメラレンズを、Panasonic社は逆に輝度分解能の高いカールツアイス社(顕微鏡メーカ)製レンズを採用していました。
B2の推測ですが、それぞれビデオデッキ方式をめぐる反省があるようです。
カラー動画像の輝度・色差信号方式(継承)
B2は1980年代にVBS信号基準ビデオデッキとは別に、Y+同期信号とC信号が分離したS-VHS方式や、Y+同期信号とR-Y信号とB-Y信号を直接記録再生するM-II方式の高画質ビデオ用カラーエンコーダ/デコーダ電子基板も開発・製品化しました。M-II方式はその後デジタル4:2:2方式を経てモニタ表示方式や記録方式に引き継がれているようです。
カラクリ探偵団の本質解説
とても長い記事になりましたが20世紀に隆盛を極めたアナログテレビジョン信号処理技術を紹介しました。
高精度アナログ回路や機構技術を駆使した日本技術も、デジタル技術のパラダイムシフトで衰退しました。当時B2が加入していたテレビジョン学会も後に映像情報メディア学会に名称が変わりました。
科学技術者を目指すみなさんにとって、B2の体験がひとつの教訓になれば
幸いです。またアナログ時代の高度な信号処理技術が将来何かの役に立つかもしれない「温故知新」と思い記事にしました。
https://bookway.jp/modules/zox/index.php?main_page=product_info&products_id=1725
ヘンテコな絵本Part2の英語版もあります。
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