【創作絵本】一枚のクッキー


ある街の丘のふもとにフラワーカフェがありました。
フラワーカフェのマスターはココアというトラ猫で、毎日こだわりの美味しいコーヒーを一杯ずつ丁寧にいれていました。
フラワーカフェの2階には、
動物たちが一緒にくらしていました。
そこは昼間はカフェ、
夜はみんなの家でした。

そんなフラワーカフェに毎日文句をいうお客さんが1人だけいました。
そのお客さんは、痩せていて小さくて意地悪なネズミのおばあさんです。
「あー、やだねぇ、この店は!
毎日来てるのに、客にまともなコーヒーもだせないのかい。」
おばあさんは、もううんざりだという顔で今日も皆んなに聞こえるようにいいました。
そんな時には決まってココアは答えます。
「すみません、明日はもっと美味しいコーヒーをいれますね」
おばあさんは鼻で「ふんっ」と返しました。

ねずみのおばあさんはフラワーカフェに毎日歩いて来ます。
そして、コーヒーを一杯だけ飲んで、
少しの間 本を読んだり、ぼんやり窓の外を眺めてから、また一人で歩いて帰っていくのです。

「あー、やだねぇ、この店は!
こんなにうるさいと、ゆっくり本が読めないじゃないか!
もうちょっとばかし、静かにできないのかね。」
今日もネズミのおはあさんが文句を言っているところにクマさんが通りかかりました。

「なんだい、バァさん、また文句かい。」
くまさんは、笑いながら
「ばあさん、気をつけて帰れよ」
と言って、店から出掛けていきました。
ネズミのおばあさんは、
「ふんっ」と鼻で言って、また本を読みがらコーヒーを飲んで、帰っていきました。

ある日のこと、いつものようにネズミのおばあさんはやってきましたが、
いつもはコーヒーしか注文しないのに
その日は何故かケーキも注文しました。
そういえば、去年までこの時期になると
おじいさんがケーキを2つ買いに来ていたことをココアは思い出しました。

それで
ココアはおばあさんにコーヒーとケーキを出すときに、
「今日は皆さんにサービスでクッキーを付けてます。よかったらどうぞ。」
とクッキーを差し出しました。
ネズミのおばあさんは、
「私は歳だから歯が悪くてクッキーなんてたべれないよ。あんたは本当に気が利かないねぇ!」
といいましたが、コーヒーとケーキを食べた後に、もらったクッキーを紙で包んで鞄に入れて持って帰りました。

おばあさんは家に帰ると、カップを1つ用意して紅茶をポットから注ぎました。
そして、カバンからクッキーを取り出して、
おじいさんの写真の前に置きました。
「ふんっ、クッキーなんて。」
時計の音だけが聞こえていました。
おばあさんはしばらく
クッキーを見つめていました。

次の日の朝もおばあさんはいつも通りにフラワーカフェにやってきて、
コーヒーを一杯だけ注文しました。
ココアもいつも通りにコーヒーをいれて
おばあさんのテーブルにコーヒーを置きます。
すると、おばあさんは読んでいる本に目をやったまま、今日は何も文句を言いませんでした。
窓の外では、わすれなぐさが風に揺れています。
おばあさんは、
しおりを一枚はさんで本を閉じました。
おわり
【あとがき】
このお話を書きながら、
私はあることを思い出していました。
それは、
誰かが自分のことを覚えていてくれた時のことです。
名前を覚えていてくれたこと。
前に話したことを覚えていてくれたこと。
自分が大切にしていることを覚えていてくれたこと。
そんな小さな出来事に、
私は何度も救われてきました。
人は一人では生きていけないと言いますが、
本当に寂しいのは一人でいることではなく、
誰にも気にかけられていないと感じることなのかもしれません。
この絵本が、
誰かの心を少しだけ温める
一枚のクッキーになれたら嬉しいです。
かみつれ ちひろ

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