長生見度記③~現実社会を茶化した未来記の黄表紙の最終回
「未来記」といいながら未来予想ではなく、現実世界を茶化して皮肉っている江戸時代のマンガ絵本。
黄表紙「長生見度記」は、朋誠堂喜三二作、恋川春町画で、天明三年1783年に蔦屋重三郎から刊行された。
三巻三冊の現代語訳(解説つきの、かなりの意訳)を三回に分けて紹介する最終回。
下巻
十二

未来では、深川遊郭の近くの寺に萩の木を植え、萩寺と、どこかで聞いたような名前をつける。
客は、座敷へ入り、障子を閉め、萩の上を吹く風の音を聞き、風流だと楽しむ。
和尚「水面に風が当たり、ざわざわざわというのは、ちょっともうひとつだ」
客「深川は辰巳の里ともいうので、それでは鹿寺へ行って鹿の声を聞きましょう」
もちろん京都を舞台にした、喜撰法師の歌をふまえている。
わが庵は都の辰巳しかぞ住む世を宇治山と人はいふなり
「しかぞ住む」(しっかりと住んでいる)の「しか」を「鹿」にかけた百人一首の歌。
十三

松尾芭蕉(1644~1694)の俳句が江戸後期にもちょっとブームになっているが、未来ではもっと人気が出て、江戸に芭蕉の記念塚が三十三か所ほどに増えて、霊場巡礼のように、俳人が参詣する。
参詣者「三十三か所も歩くのは、ちょっといやになります。芭蕉塚を一か所にまとめてくれないかな」
参詣者「金の野郎を誘ったら、一昨日神奈川の滝の口へ行ったと言っていました。日蓮の法難の場所へ行くくらいなら、この江戸を歩けばいい。なんとも俗なやつだ」
十四

歌舞伎は江戸の今も人気だが、未来も人気は衰えないだろう。
顔見世の看板が出る。
江戸女形、若女形、娘形 中嶋三甫右衛門
江戸敵役 岩井半四郎
あれれ、悪役で有名な中嶋三甫右衛門が女役をして、女形で有名な岩井半四郎が悪役をやってるぞ。
見物人「天幸が揚巻をやって、助六役は篠塚浦右衛門、意休役は半四郎だそうな。こいつはきっとおもしろかろう」
見物人「近頃は十一月の顔見世といえば助六をするなあ。正月の春狂言の忠臣蔵では、大星由良助役は吾妻藤蔵だろう。いやいや、嵐音八にさせるかなあ」
見物人「市川紋之介という道化役は上方から来た役者か」
見物人「あれは江戸から行った大谷広右衛門といったところさ」
十五

未来の新春正月の店先。
主人「正月用の絵入りの一枚摺りが発売されましたが、いくらくらいの品をお望みでござりますか」
客「大小の暦を百枚くだされ。アイデアは悪くても安いのがいい。二十四節季も載っているものは高いだろうな」
旧暦では大の月(30日)、小の月(29日)、閏月などがある。二十四節季は、立春、雨水、啓蟄、春分……などと一年を二十四にわけたもの。
客「名前を広める名披露目の摺り物は新しいものだね。おいらも名前をかえてみようか」
十六

歌舞伎の大根役者にダイコンではなく、ミカンを投げることがあるが、未来では、そのミカンの皮を買う。ミカンの皮の陳皮を買い歩く。
陳皮は、消化不良などの漢方に使われ、料理にも使われる。ちなみに七味唐辛子の中にも入っている。
売り子「おこし、みかん」
見物人「これ陳皮、ここにもあるぞ」
見物人「今からむく、この皮も売るぞ」
見物人「こんにゃくの残りも売れればいいなあ。おい、これで五文よこせ」
陳皮買い「むちゃをいう。一文一文」
見物人「隣の芝居小屋の入りはとほうもないことらしい。隣とこっちでは陳皮だけでも十貫目(約二百万円)ほどもちがうらしい。お半、長右衛門の芝居以来の入りだと言いやす」
お半、長右衛門の芝居は、人形浄瑠璃「桂川連理柵」のこと。
十七

年末の師走の様子。
鏡餅は五寸、六寸(15~18㎝)、ないし一尺(30㎝)になり、それぞれに注連飾りをつけ、贈答品の塩鮭、破魔矢、羽子板を添えていくら、ゴマメを二つ添えていくらと、注文次第に取りにやる。
ただし、十二月一日より歳暮を贈り、二十日ごろには正月飾りまでこしらえる。二十一日ごろから年忘れの女郎買いがはじまる。
店の客「今年から子どもへ破魔矢を贈るのはやめて、今年生まれた子にだけ贈るとさ」
頭巾の男「このごろは、とんと年忘れで遊び続け、眠れず、眠たくってならぬ。今夜は若い女郎の新造買いで、明日まで泊りにしよう。貴公は例の××であろう。しょせん正月は女郎にいいようにあしらわれる。ええい、いまいましい」
恋川春町 画
最後は黄表紙らしく女郎買いの話でしめくくられて、おちゃらけ未来予想は終わっている。
十二場面で百人一首の歌を紹介しているが、百人一首についてはこちらも、
未来記という趣向はこの後も描かれて、こんな作品もある、
上巻でも紹介しているが、その他の黄表紙の紹介と翻訳はこちらを、
