98. お客様が黙って去る店には共通点がある
さよならの言葉さえ、もらえないということ。
怒りの声よりも怖いのは、誰の目にも触れない「あきらめ」の積み重ね。
加納光|40年間、誰よりも「選ばれない理由」と向き合い続けてきたからこそ、伝えたいこと
人一倍努力しているのに、なぜか思うように評価が追いつかない。
そんなもどかしさを抱えている人には、ある共通点があります。
それは、決してあなたの力が足りないからではありません。
ただ、心を配る「ピント」が、ほんの少しだけずれているだけなのです。
「何も言われない」のは、愛されている証拠ではありません。
客足が遠のき始めたとき、経営者の方々は戸惑いながらこう口にします。
「最近、お客さまの心が掴めないんだ」
「苦情を言われたわけでもないのに、いつの間にか人が減っている」
「目立った落ち度はないはずなのに、二度目が訪れない」
こうした光景を、私は40年という月日のなかで何度も目にしてきました。
忘れてはならないのは、多くのお客さまは、たとえ心に小さなしこりを感じても、それを言葉にすることなく、そっと立ち去ってしまうということです。
感情を露わにして伝えてくれる人は、まだ「期待」という縁を繋いでくれています。
本当に寂しいのは、何も告げられずに、いつの間にか忘れ去られてしまうときなのです。
たとえば、あなたにもこんな記憶はありませんか。
料理は、それなりに美味しい。
店員さんの振る舞いも、決して失礼なわけではない。
けれど、
お水がなかなか運ばれてこない。
呼びかけたくても、なかなかこちらに気づいてもらえない。
テーブルの隅に、わずかな汚れが残っている。
お会計を済ませるまでに、余計な時間を取られてしまう。
どれも、声を荒らげるほどの大きな問題ではないかもしれません。
けれど、「また次もここに来よう」という気持ちを削り取るには、それだけで十分な理由になってしまいます。
人は、激しい怒りだけで離れるのではありません。
日々の生活のなかで感じる、ほんの些細な「もどかしさ」が積み重なったとき、心は別の場所へと流れていくのです。
それは、美容室のような場所でも同じことが言えるでしょう。
鏡に映る仕上がりには、不満はない。
けれど、毎回のように予約の時間から待たされる。
何の断りもなく担当が変わる。
何気ない会話に、どっと疲れを感じてしまう。
文句を言うほどではないからこそ、何も言わずに、ただ次は別の扉を叩く。
私はセミナーを通して、この「無言の別れ」の正体を説き続けてきました。
思うようにいかない組織ほど、劇的な理由を探そうとします。
「ライバル店が強力だからだ」
「景気が冷え込んでいるせいだ」
「もっと派手な宣伝を打たなければ」
けれど、その情熱を燃やす前に、まず見つめ直すべき足元があります。
相手の大切な時間を、奪いすぎてはいませんか?
寄せられた期待を、長く待たせすぎてはいませんか?
隅々まで心を配るという誇りを、忘れてはいませんか?
もてなす心に、その日暮らしのムラはありませんか?
相手を迷わせるような、独りよがりの言葉を使っていませんか?
ずっと支えてくれた人を、空気のように扱ってはいませんか?
選ばれない原因は、こうした目立たない隙間のなかに、ひっそりと息を潜めています。
実際、あるお店では、苦情はひとつもないのに客足が鈍っていました。
調べてみると、お会計を待たせる時間がわずかに増え、
入り口の佇まいがどこか荒んで、
忙しさを理由に、お客さまへのひとことが減っていたのです。
ただそれだけを丁寧に繕っただけで、人々の足取りは驚くほど戻ってきました。
新しい目玉商品を作ったわけではありません。相手の胸に芽生えた「小さな違和感」を、ひとつずつ摘み取っただけなのです。
あなた自身も、そうではありませんか。
不機嫌な対応をされた場所には、二度と近づきたくない。
使いにくいサイトは、二度と開こうとは思わない。
大切にされていないと感じた相手とは、そっと距離を置く。
私たちは、いつだって黙って去っていく側なのです。
だから、思うようにいかないときほど、大きな対策を急がないでください。
お客さまが飲み込んでしまったはずの、ささやかな溜息が、どこかに残っていないか。
その「無言の想い」に気づけたとき、停滞していたすべては、緩やかに変わり始めます。
