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ダーニングにはまった海外在住者、京都の糸屋で散財する

去年の冬にダーニングを始めてから、穴の開いた靴下やスウェットをせっせと直す日々を送っている。好きな色の糸で繕えば、ただの補修が服のアクセントになる。これが楽しい。

で、ダーニングに使う糸を調べていくうちに、刺し子糸がもっと欲しくなってきた。はじめてダーニングの記事にも書いたが、今住んでいるサンフランシスコの手芸店で買える刺し子糸はなんというか、ちょっと悲しい品揃えなのだ。

刺繍糸は色々売っているが、ビビッドな色が多くて、私の好きな中間色でツボをついてくる色があまり見当たらない。オンラインで見る日本の糸メーカーは、いろんなメーカーがいろんな色を出していて、草木染のものもあれば、グラデーションでマルチカラーになっているものもある。

そうしたメーカーのオンラインサイトを眺めては、カートに入れて、合計金額を見て我に返るという日々を過ごしていた。アメリカでこれらを買おうとするとお値段が2〜3倍になるし、送料もかかる。こういう繊細な色は実物をやはり見たいけれど、そう都合良い品揃えのところも見当たらない。

そんな折、ちょうど一時帰国で京都に立ち寄ることになった。これはチャンスなのでは?!


渋い名前だが中は可愛いワンダーランド、手芸用品専門店・山口忠兵衛商店

京都のホテルの近くに手芸店があるのを発見したのは、一時帰国の計画を立てているときだった。山口忠兵衛商店。調べてみると、文政2年(1819年)創業の老舗で、「みすや忠兵衛」の名で知られる手芸用品の卸問屋の直営店だという。200年超えだ。すげー。

京都についたのは夜中だったので、翌日、早速行ってみる。

質量で殴ってくるタイプの山口忠兵衛商店

外から見ると普通の間口なのだけれど、入ってみると奥行きがすごい。京都の商家によくある、うなぎの寝床のような造りだ。見た目より圧倒的に奥行きがある。4階まであるらしいのだが、わたしの目的は1階の刺し子糸コーナー。

入ってすぐのスペースの奥側に、オリムパスの刺し子糸がずらりと並んでいた。単色、グラデーション、ラメ入り、穏やかな中間色。ネットで「いつか買いたい」と思っていた色が、全部ある。

品揃えの暴力

ここで財布の紐を緩めたら終わる。気持ちをおさえに抑えて、実際にダーニングで使いそうな地味色を何色かだけ買って、店を出た。京都にはあと数日いる。ゆっくり考えればいい。

尖った品揃えと、草木染の糸専門店・糸六

翌日、もう少し足を延ばして糸六へ。こちらは明治4年(1871年)創業の絹縫糸の老舗だ。もともとは絹糸の専門店で、150年以上にわたって京都の呉服文化を支えてきたお店らしい。最近はオリジナルの草木染の刺し子糸も出していて、それがどうしても気になっていた。

山口忠兵衛商店から西へ歩いて15分ほど。2つのお店は、染め物や糸を扱う問屋が並ぶ通り沿いにある。

知ってないと素通りしてしまいそうな落ち着いた佇まい

糸六の店構えを見た瞬間、おお、と声が出た。京都の古い商家そのままの佇まいで、看板には「糸六株式会社 ニコニコ絹繍糸」の文字。引き戸を開けると、少し奥まったところから「いらっしゃい」と声がかかった。

絹糸見本。

店内に入ると、商品見本がずらりと並んでいる。糸六は自社製の糸のみを販売しているので、全体の量は圧倒されるほどではないが、目に楽しい美しい絹糸に誘惑される。木綿の刺繍糸が目当てなのでなんとか振り切って見本をじっくりと眺める。

草木染の刺し子糸が色ごとに整然と並んでいるケースを覗き込んで悩むこと10分。楊梅染、柘榴染、五倍子染——ラベルに書かれた染料の名前がいちいち美しい。「へのへのもへの」のトレードマークもかわいい。

糸六オリジナルの、草木染のさしこ糸

ここでは草木染の刺し子糸を4点買った。楊梅染のこげ茶、卯の花の白、真赭のピンク、五倍子染の紫がかったグレー。どれもやわらかくて奥行きのある色をしている。こういう地味色にこころ掴まれてしまうのよ。

購入した4色

最後まで買うか悩んでいた、藍染の12色セットも見せてもらった。藍の濃淡だけで12色。薄い水色から深い紺まで、ため息が出るほど美しい。かなり欲しかったけれど、冷静に考えて絶対に使い切らないし、汗っかきだから使っている間に藍が手について大変なことになるぞ、と自分を説得。見せてもらうだけで抑えた。ここでの自制心だけは自分で自分を褒めてあげたい。

ふたたび山口忠兵衛商店、ついに爆買い

その後、数日用事をこなしつつ京都を楽しんでいたのだけど、荷造りをする段になって、買ったものを色々眺めていたら、「もうちょっといろんな色があっても、いいんじゃない…?」という囁きがどこからか聞こえた。完全に自分の声なんですが。ええ。欲にまみれています。

そういうことで、京都最終日に、また懲りもせず山口忠兵衛商店に行った。あの棚の色彩がずっと頭に残っていたからだ。

今度は好きな色をとりあえず好きなだけ手にとって、その後吟味することにした。初日に買ったこげ茶や紺といった使い勝手のいい色に加えて、今度は自分の好きな黄色やマスタード、セージグリーン。オリムパスのAwai-iro(淡色)シリーズのサーモンピンクやオレンジも。

合言葉は「アメリカで買ったらお値段2〜3倍」。これは節約だ。節約なのだ。

買っちゃいましたね

サンフランシスコに帰ってきて、買い込んだ糸を並べてみた。冷静に数えると、直すべき靴下やスウェットの数より、糸の色数のほうが多い。あと、この糸、一巻20mずつくらいあります。ご近所に分けるほどある。ご近所さんもそんなに繕うものないって。

でもいいのだ。穴はこれからもきっと開くし、糸は勝手に増えないし場所も取らない。そして何より、この糸を見るたびに京都の糸屋の棚を思い出す。

自分の服の穴はもう直しきってしまったので、いまはパートナーの服の穴を見つけては「これ、カラフルにしていい?!」と聞き、「同じ色にしてね」となだめられる日々。

あー、服に穴空かないかな。

この記事で紹介したお店

山口忠兵衛商店

糸六

Googlemap【リストのダウンロードが可能です】

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