解説★アベノミクス
このnoteでは、アベノミクスについて解説するぞ。
・アベノミクスとは?
アベノミクスとは、2012年に発足し2020年まで続いた第二次安倍政権の経済政策パッケージだ。安倍政権は8年間続いた長期政権であり、その後の自民党の政策にも大きな影響を与えたはずだ。だから、中心的な政策であったアベノミクスを理解すると、近年の日本の政治の見通しが一気にできるようになるだろう。
・アベノミクスのねらい
アベノミクス以前、つまり2012年以前の日本は、1990年ごろのバブル崩壊後から20年以上続いたデフレに苦しんでいた。デフレとは、簡単に言うと、物価と比べて現金の価値が上がっていく状況である。デフレは経済成長を妨げてしまうというのが、一般的な理解のはずだ。なぜかというと、現金の価値が上がっていくデフレでは貯金していた方が得なので、投資や研究開発、人材育成にお金が使われにくくなるからだろう。
一方でインフレだと貯金の価値が勝手に下がっていくので、早くお金を投資しようという流れが発生し、また、購買欲(需要)も刺激されるので、経済が成長しやすいだろう。しかし、過剰なインフレ(ハイパーインフレ)にまでなってしまうと、経済のコントロール能力を喪失してしまうので、逆効果とされるはずだ。例えば来年に自国通貨の価値が半分になってしまうような状況だと、国民は給料をもらうとさっさとドルやゴールドなどに変えてしまうだろう。そのような状況では、自国通貨の金利や供給量を変えたところで、社会のコントロール能力を発揮できないはずだ。
つまり、ほどほどのインフレが一番よいと言える。どれぐらいのインフレ率がほどほどかは、先進国か新興国(途上国)かで変わってくるとされる。成長期の新興国では、人口もGDPも物価も、自然と上がっていくからだろう。そして、先進国ではインフレ率2%が良いと言われる。新興国の目安は難しい議論だが、4%前後の国が多いだろう。アベノミクスの時も、インフレ率2%が目標とされていた。なお、アベノミクス以前の日本のインフレ率は、2011年の値でマイナス0.3%であった。当時は、デフレ脱却というフレーズがよく使われていたはずである。
まとめると、アベノミクスのねらいは、まずデフレを脱却してインフレにし、そして経済成長することだった、と言えると思う。
・三本の矢
アベノミクスは、以下の3つの大型政策のパッケージであるとされる。
1. 大胆な金融政策
2. 機動的な財政政策
3. 成長戦略(構造改革)
一つ目の金融政策とは、中央銀行が金利や現金の供給量をコントロールすることで金融環境を調整する政策だ。ところで、中央銀行の独立性という概念がある。金融政策の運営は政治家ではなく、中央銀行の専門家が行うという意味だ。実際はグレーゾーンに近い側面もあるだろうが、与党が堂々と中心的な政策パッケージの一つ目に金融政策を掲げることから、この中央銀行の独立性が無視されつつある情勢であったことが読み取れるかもしれない。なお、この傾向は日本だけでなく、米国と欧州も似ていたと思う。
二つ目の財政政策とは、国家の財政つまり歳出と歳入に関わる政策である。文字通り解釈するなら、政府が財政政策をやるのは当たり前だろう。だから、正直に言って、三本の矢というフレーズと三つの政策パッケージという何かやっている感のために付け足された印象がある。実態としては、需要創出のための公共投資を積極的にやる、という意味なのだろう。需要とは、ざっくり言うと買い手の多さだろう。買い手が多いと経済がよく回って、価格も上がるからデフレを脱却できるはずだ。
最後の成長戦略(構造改革)とは、主に規制改革と労働改革を指すようだ。規制改革とは、多くの場合は規制緩和を指し、何らかの法律などを撤廃することで経済成長や公共支出の削減を行うことを指すだろう。労働改革も労働に関わる規制改革と言えそうだが、例えば働き方改革や男女共同参画など、どちらかと言うと規制緩和とは対照的なリベラル(穏健、人権、社会保障重視)な改革であるため、分離して扱われることが多いと思う。自民党の中でも安倍派は保守(伝統、秩序、自己責任重視)寄りの派閥でありリベラルとは逆であるが、労働改革のようにリベラルな政策も取り込むことで、幅広い層からの支持率の獲得を目指していたのだろう。
・アベノミクスの影響
さて、アベノミクス開始から13年が経過し、社会に良くも悪くも大きなインパクトを与えたのは一つ目の金融政策であったと思う。今でも毎日のように日銀の利上げが・・、とか、高市政権の国債が・・、というニュースを見ると思うが、これらの話題に対するアベノミクスの一本目の矢の影響は非常に大きいはずだ。
二つ目の財政政策は、そもそも形式的な側面があったように思うが、結果的に需要創出はあまりできていなかったかもしれない。一つ目の金融政策でお金の流動量を増やし、二つ目の政府発の需要創出で勢いをつけるという算段だったのだろうけど。
三つ目の成長戦略は、インパクトが大きかったのはおそらく働き方改革で、改革前と比べてかなり厳しく取り締まるようになったと思う。規制改革は、いわゆる岩盤規制の緩和的な政策は電力自由化ぐらいだろうか。小泉政権の郵政民営化などと比較すると、インパクトは小さかったと言わざるを得ないかもしれない。規制緩和は、例え日本全体で経済がプラスになるとしても、既得権益を壊される業界で働いている人にはマイナスになってしまうから、民主主義社会では簡単には採択されないのだろう。
続いて、最もインパクトが大きかったであろう金融政策について解説したい。
・一本目の矢、大胆な金融政策とは?
金融政策については、詳しく解説した別の記事があるので、詳細はこちらの確認をお願いしたい。
要点をまとめると、不景気になって民間銀行が自社の倒産を恐れて貸し付けを渋るようになると、資金繰りが止まって余計不景気になるので、それを防ぐために民間銀行に大量かつ貸付専用の現金を供給しよう、ということだろう。なお、これは金融政策のうち、量的緩和と呼ばれるはずだ。
もう一つ、質的緩和というのがあって、こっちは金利の操作だ。不景気の時は中央銀行が低金利にすることで、民間企業がお金を借りやすくするとともに、株価を上がりやすくするのが一般的だろう。アベノミクスの金利操作はマイナス金利とかイールドカーブコントロール(YCC)など、単に金利を下げる他に特殊な金融政策も行われてきた。これらは非常に面白いのだが、ざっくりとした効果は単に金利を下げることと似ていると考えてもよいはずなので、解説は今後別のnoteで行いたい。
簡単にまとめると、アベノミクスでは金利を下げて、同時に銀行に大量の貸付用の現金を供給したということだろう。つまり、低コストで借りれる現金がたくさんある。これは一般的には、インフレを引き起こす条件のはずだ。しかし、インフレは思ったより起こらなかったのである。アベノミクス開始直後の2014年こそ、インフレ率2.7%と2%を超える値を記録したものの、それ以降は1%以下になってしまい、2016年に至っては、再びマイナスに転じてしまった。2010年代のインフレ率の平均は年率0.47%であり、目標の2%には届かなかったのだ。果たして、なぜだったのだろうか?
・デフレ脱却ができなかった原因:需要の弱さ
大量に借り入れ用の現金を市場に供給したにもかかわらず、インフレにはならなかった。その原因は、「需要の弱さ」であったと言われる。需要とは、国民目線だと購買欲と思えばよい。車を買いたいな!みたいな感じである。一方で、会社は消費者ではないので、意味合いはちょっと変わってくるだろう。需要とはお金を使いたい気持ちの強さという意味だが、会社は営利になることしかできないので、需要とは設備投資とか研究開発を指すことが大半だろう。なお、雇用は会社から見ればお金を使うが、需要とはみなさないという考えが一般的のようである。
国民の需要はなぜ弱かったのか?理由はとても単純で、給料が上がらなかったからだろう。もともと貯金好きが多い国民性だと思われ、さらに貯金が有利なデフレ時代が20年続いた直後だったから、国民はそう簡単にお金を使わないはずだ。低金利で貸し付け用の現金はたくさんあったので、国民目線だとローンは非常に良い条件になっていたのだが、その程度では家や車をたくさん買おう、という刺激にはならなかったのだろう。
会社の需要はなぜ弱かったのか?それは、バブル崩壊後の20年の間に、会社が借りない体質へと変化していたことが原因と考えられる。会社の倒産の引き金を直接引くのは債務不履行、つまり借金を返せなくなる状態である。だから、倒産の回避を重視するなら、最初から借りなければよいのだ。こういった方針のもとで、コストカットし、利益を溜め込み(内部留保)、銀行からお金を借りずに自社の内部留保で投資をする、というサイクルが日本の会社で形成されていたのだと思う。
これは、一見何も問題が無いと思うかもしれない。営利企業が自分で稼いだお金なのだから、労働法違反とかでなければ、どう使おうと自由なはずだ。しかし、自由競争の世界では、生産性が高ければ、借金した方が有利なのだろう。仮に、100万円の元手を110万円にできる、利率10%のビジネスモデルの確立に成功していたとしよう。ものすごく単純に考えると、1億円借りれば1億1000万円に、10億円借りれば11億円にできて、当たり前だが借りれば借りるほど利益が大きいはずだ。一方で銀行からお金を借りる時に利子が発生するはずであるが、借金の利子が10%を下回っていれば問題無い、ということになるだろう。現実的には利益は使ったお金に比例するわけではないから、どこかで頭打ちになるのだろうが。何が言いたいかというと、どんどん借りては稼ぐ会社の方が、ものすごいスピードで利益を伸ばしていくはずなのだ。借金しまくっている会社の例としてAppleを紹介したい。現在、Appleの借金、つまり負債は約2900億ドル=45兆円程度とされる。
要は、低金利で借りれる現金を大量に用意したが、「借り手などいなかった」のだろう。国民は給料が増えていないために購買欲が無く、会社は借りない体質だったはずだ。ならば、すぐやめればよいのではないか?と思うかもしれない。しかし、アベノミクスの一本目の矢、大規模な金融緩和は、現在に至るまでの約13年の間、継続されたのである。これは、どういうことなのだろうか?
・量的金融緩和の罠:赤字国債への依存
このnoteでは、主に量的金融緩和の市場サイド、つまり大量の借り入れ用の現金の影響について解説してきた。一方で、政府サイドも非常に重要だろう。前述の別記事で解説したように、政府は量的金融緩和の際に国債を発行し、それを最終的に中央銀行が買い取ることで、税収とは別に現金を手に入れるはずだ。
もちろん国債、つまり政府の借金だから後で返済する義務があるのだが、増税をしなくても一時的に現金が手に入るというのは、票を集めないと無職になる政治家からすれば麻薬のようなものだろう。量的緩和をやめるなら、単純に考えると増税か、支出削減をしなければいけないはずだ。どちらにせよ国民の負担になるから、民主主義ではなかなかそのような選択肢は採択されないのだろう。実は第三の選択肢があって、それは大規模なインフレ、あるいは通貨切り下げによる国の借金の帳消しだろう。
個人的な考えでは、日本はすでにこの第三の選択肢を選びつつあると思うのだが、その分析はアベノミクスの解説ではないだろうから、今後、別のnoteで解説したい。
何が言いたいかというと、与党の人気が下がってしまうから、13年間アベノミクスの一本目の矢を撃ち続けるのを、やめられなかったのだと思う。
・誰が、何を望んでいたのか?
これまでの解説を要約すると下記の通りだ。アベノミクスは一本目の矢の金融政策が中心的であり、それはデフレ脱却という大義名分のもとに、おそらく財務省などの反対派の意見を押し切って実行されたはずだ。しかし、金融緩和によって市場サイドには低金利で借りれる現金が大量に用意されたが、そもそも国民は給料が上がっていないため購買欲が無く、会社は倒産を避けるために借りない体質になっており、借り手などいなかったのだろう。そして、結局インフレは達成されなかった。しかし、政府サイドでは増税または支出削減の議論ができず、国債による資金調達のために、デフレ脱却という大義名分のもとで量的金融緩和が13年継続されたのだろう。
財務省などの反対派はずっと反論していたはずだが、おそらくは米国がリーマンショックを量的金融緩和で乗り切ったことが、反対派の勢力を弱める根拠になっていたと推測する。不景気には量的緩和が有効なのだ、これは最新の政策なのだ、という風に・・。しかし、金融格付け商品の不透明性が引き起こしたリーマンショックと、借り手不在の日本の不景気は、原因が同じではないはずだ。
そしてまるで何かしらの陰謀が存在するかのように、こういった背景を正確に説明するのが封じられていた雰囲気さえあったかもしれない。当時のワイドショーなどでは、金融専門家らしき何者かを集めて、中央銀行のバランスシートがどう、とか、債務不履行にならないから、みたいなもっともらしい雰囲気の議論が繰り返されていた気がする。中央銀行のバランスシートや自国建て通貨で債務不履行になるかどうかなど、はっきり言って問題の本質ではないと思うのだが。
この問題の利害関係者は、大きく政府サイドと会社サイドに分類できるはずだ。政府は、先ほど解説したように、資金繰りのために量的緩和をやめられないのだろう。そして、会社は倒産を回避したいので、借り入れや賃上げはしたくないのだろう。これらの洞察から導かれる結末は、既得権益者達は国民に真実に気付いてほしくなかった、ということなのかもしれない。
そうしている間に海外ではインフレと経済成長が進み、インフレをコントロールするために金利が上がったはずだ。一方で日本ではインフレなど起こっておらず、主に景気や不動産市場が潰れるのを防ぐため、金利は上げられなかったようだ。そしてコロナの危機対応で各国が一斉に一時的に低金利になって、問題が顕在化しなかったが、その後に押し寄せたのが、海外のインフレ由来の物価高と金利差による円安のダブルパンチだったのだろう。
そうして結果的にインフレになり、コンビニおにぎりの値段は2倍になったのだろう。しかし、これは狙っていた需要牽引(demand pull)型ではなく、原価上昇(cost push)型のインフレのはずだ。需要牽引型では、購買欲が上がり、投資が進み、給料が上がることで経済の成長が実現されるだろう。しかし購買欲が上がらないまま原価が上昇するのは、単に貧しくなるだけと言える。事実、日本の実質賃金(物価に対する給料の比率)は、インフレの中で下がり続けているはずだ。
結果的に、経済成長ではなく貧しさともにデフレから脱却したと言えるはずだ。雇用はかなり維持されたはずだが、最大の理由は劇的な少子化による働き手不足なのだろう。
・・・いったい誰が何を望んでこうなったのか?
就活をしている学生が、借り入れが無く財務状況が健全な会社を調べて志望していると言っているのを聞いたことがある。すごく勉強していると思うし、何一つ疑っていなさそうな様子であり、何より、日本で働くならそれが一番賢いかも、と思うのだ。でも、Appleは覇権を取るために45兆円の借金を抱えているのだろうし、ChatGPTを生み出したOpenAIは金を借りて稼ぐどころか、2025年の上半期は2兆円以上の赤字だったようだ。米国では全体の生産性のために、きっと今日も解雇が行われているのだろう。
リスクを取って金を借りては稼ぐ海外企業に一つ、また一つと日本のお家芸だった製品や事業は取られてしまい、それを少子化による労働人口の圧縮と実質賃金の低下によるコストダウンで耐え忍んでいるのが、実態なのだろうか。それでも、会社の倒産によって失業率が上がり、就職氷河期のような悪夢が繰り返されるよりは、幸せなのかもしれない。
経済的な強さでは、もう外国には勝てないかもしれないが、貧しくても安心できるなら悪くはない、というのがこの国の意志の平均値なのだろうか?
この国で収入のためにリスクを取るなら、もしかしたら個人投資家が一番、聡明なのかもしれない。
・要約
アベノミクスは金融政策、財政政策、成長戦略の三本の矢で構成されるが、中心的なのは一本目の金融政策だろう。
デフレ脱却を目指して金融政策が開始されたが、デフレの根本的な原因は借り入れのための資金準備ではなくて、借り手の不在であったと思われる。そして、需要牽引のインフレが起こらないまま、金融政策は13年間継続されたはずだ。
近年はインフレが始まったが、アベノミクスで狙っていた需要牽引が原因ではなくて、ほぼ海外のインフレと円安による物価上昇が反映されているだけだろう。
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