ピアノを辞めてもいいぞ、と言われた日から、5歳息子が変わった話
息子とピアノ教室に行く時間は、毎週憂鬱だった。
集団レッスンで先生に前に出るように促されても、前に出ない。恥ずかしいと言ってママの後ろに隠れたまま。
家でも練習しない。娘が楽しそうに鍵盤を叩いているのを横目に、息子はどこか他人事のような顔をしていた。
何度言っても直らない態度に、私の我慢も限界に達しようとしていた。
「辞めてもいいぞ」
あるとき、夫が息子に言った。
「前に出ない、レッスンで弾かないなら、もうピアノ辞めてもいいぞ」
叱る、というより、突きつけるような言葉だった。
息子は「嫌だ」と言ったきりしばらく黙っていた。怒ったような、悲しいような顔。
その時、何かが変わった気がした。
小さなピアニストの誕生
それからだった。
息子が、毎日ピアノを弾くようになった。
最初は短い時間だった。でも少しずつ、鍵盤に向かう時間が長くなっていった。
練習して、練習して。
ある日、一曲をちゃんと弾けた。
台所で聞いていて、これを息子が弾いたのかと驚いた。
「よくできたね、頑張ったね」駆け寄って、息子のことをぎゅっと抱きしめた。
息子は照れたような、誇らしそうな、そんな顔で笑っていた。
レッスンで、前に出た
次のレッスンで、息子は前に出た。
ママの後ろに隠れることなく、先生の問いかけに積極的に自分から発言した。
弾き終わったあと、先生に褒められて誇らしげな顔をしていた。あの子が、あんな顔をするとは思わなかった。
正直に言うと、私はもう諦めていた。
この子のピアノは、たぶんここまでだと思っていた。だから、あの瞬間は、予想外だった。
子どもって、すごい
息子が変わっていくのを見ながら、私は何度か泣きそうになった。
子育ての醍醐味って、こういうことなのかもしれない。諦めかけていたところから、子どもが自分で道を切り開いていく。
5歳ともなるともう一人の人間として色々と考えているんだな、親が限界を決めてはいけないんだな、と思った。
子どもには、親が思っている以上の可能性がある。
それをこんなに近くで見られることが、親になって、一番よかったことのひとつだと思っている。
思ったこと
「辞めてもいいぞ」という言葉が、息子を変えたのだと思う。
でも本当は、息子の中にずっと、何かがあったのかもしれない。
夫の一言は、それに火をつけただけで。
一曲弾けた、という小さな成功が、次の練習につながった。レッスンで前に出られた、という経験が、また次の自信になった。
あの日、息子が自分で決めた。
こうして少しずつ、子どもって成長していくんだな。
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