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集中力が切れるのは「やる気」のせいじゃない。作業療法士16年目が教える、判断もメンタルも整える"身体の声"の聞き方

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プロローグ——高速道路で、私の脳は静かに眠りかけていた

高速道路を、何時間も運転し続けたことがあるだろうか。

最初は快調だ。でも、しばらくすると、なんだか頭がぼーっとしてくる。景色は流れているのに、意識はどこか遠くにある。気づけば肩は内側に巻き込まれ、ハンドルを握る手には、じんわりと汗をかいている。喉が渇いてくる。なぜか無性に、ガムやお菓子が食べたくなる。

これは、私の意志が弱いからでも、運転が下手だからでもない。

「ハイウェイ・ヒプノシス(高速道路催眠現象)」と呼ばれる、れっきとした脳の現象だ。信号も歩行者もない単調な景色、エンジンの一定の振動と走行音——これらが、波の音や心拍と同じ「1/fゆらぎ」というリズムを持っていて、リラックスを司る副交感神経を刺激する。さらに、窓を閉め切ってエアコンを内気循環にしていると、車内の二酸化炭素濃度が上がり、脳は軽い酸欠状態になる。

目を開けて運転しているのに、脳の一部は眠りかけている。

そして、ここが今日の本題だ。

このとき私が感じていた「喉の渇き」「お菓子が食べたくなる感覚」「巻き肩」「手の汗」——これらは全部、私の身体が脳に向かって送っていた、小さなSOSだった。

私は作業療法士16年目、特養で機能訓練指導員をしているHSP・ISFJだ。これまで100人近くの方の最期に立ち会い、認知神経リハビリテーションという、脳と身体の関係を扱うリハビリ理論も学んできた。

今日書きたいのは、「集中力が続かない」「夕方になると判断がブレる」「気づくとどっと疲れている」——そんな、働くすべての人が抱える悩みの、意外な正体についてだ。

結論から書く。

集中力が切れるのは、あなたの「やる気」が足りないからじゃない。自分の身体の声を、脳が聞き取れなくなっているからだ。

そして、その声をもう一度聞けるようになると、集中力も、判断力も、メンタルも、驚くほど整っていく。

第1章——「内受容感覚」という、いちばん身近で見えないセンサー

まず、今日のキーワードを紹介したい。

「内受容感覚(ないじゅようかんかく)」という言葉だ。

聞き慣れないかもしれない。でも、誰もが毎瞬、無意識に使っている感覚だ。

私たちは普段、外側の世界を感じるセンサーをよく知っている。見る(視覚)、聞く(聴覚)、触る(触覚)。これらは「外受容感覚」と呼ばれる、外側の情報をキャッチするセンサーだ。

それに対して内受容感覚は、自分の身体の内側を感じるセンサーだ。

心臓がドキドキしている。お腹が空いた。喉が渇いた。呼吸が浅い。肩が張っている。なんだか疲れている。トイレに行きたい——こういう、身体の内側から湧いてくる感覚のすべてが、内受容感覚だ。

このセンサーは、ただ「お腹が空いた」を教えてくれるだけの、地味な機能ではない。

実は、私たちの「感情」や「判断」と、深く結びついている。

たとえば、緊張して心臓がドキドキする。その心拍の高まりを脳が感じ取って、初めて「自分は今、緊張しているんだ」と気づく。お腹のあたりがざわつく。それを感じ取って「なんだか不安だ」と認識する。

つまり、私たちは身体の状態を手がかりにして、自分の感情を読み取っている。

内受容感覚が鋭い人は、自分の感情や疲労の変化に早く気づける。だから、無理をする前にブレーキを踏める。逆に、このセンサーが鈍っていると、自分が疲れていることにも、不安を抱えていることにも気づけないまま、突っ走ってしまう。

そして、現代を生きる私たちのほとんどが、このセンサーを鈍らせている。

なぜか。次の章で、その仕組みを書く。

第2章——集中すると、なぜ身体の声が消えるのか

私には、もう一つ分かりやすい実体験がある。テニスだ。

私は中学からずっとテニスを続けている。試合で本気で集中しているとき、自分の身体に、はっきりとした変化が起きる。

まず、呼吸が浅くなる。いや、正確には、ボールを打つ瞬間、無意識に息を止めていることすらある。

そして、視野が狭くなる。

ボールだけを極限まで見続けると、周りの景色や観客、相手の細かい動きが、すうっと意識から消えていく。これは「トンネルビジョン(視野狭窄)」と呼ばれる現象だ。

人間の目は、焦点がぴったり合う「中心視」と、ぼんやり全体を捉える「周辺視」に分かれている。ボールの回転やスピードという詳細な情報を処理するために、脳は処理能力の限界を超えないよう、周辺の情報を「ノイズ」として意図的に切り捨てる。カメラのレンズをズームしたときのように、一点だけがクローズアップされ、周りが暗くぼやけていく。

ここで起きているのが、内受容感覚のシャットアウトだ。

脳が一度に処理できる情報量には、限界がある。テニスでボールの軌道を追うような「外側の情報」に脳のメモリを100%割り当てると、自分の身体の内側から来るSOSを処理する余裕が、なくなってしまう。

パソコンで重い動画編集ソフトを動かしていると、裏で動いているシステム通知が表示されなくなる——あの状態に近い。

さらに、「戦い」のスイッチが入ると、脳はアドレナリンや、モルヒネの数倍の鎮痛作用があるといわれるエンドルフィンを分泌する。これが強力な麻酔のように働いて、筋肉の悲鳴や疲労感を覆い隠してしまう。

だから、集中している間は、身体の限界を無視して無理ができてしまう。

問題は、集中が切れた瞬間だ。

ポイントの合間や試合終了後、車から降りてフロー状態が途切れた瞬間、脳は内受容感覚の処理を再開する。すると、せき止められていたダムが決壊するように、

「こんなに息が上がっていたのか」 「口の中がカラカラだ」 「足が棒みたいに重い」

——といった感覚が、一気に押し寄せてくる。

これは、テニスのコートだけの話ではない。

会議に集中していて、終わった瞬間にどっと疲れる。資料作成に没頭して、気づいたら夕方で頭が回らない。あなたが日常で感じている「夕方の判断力の低下」「急に襲ってくる疲れ」は、まさにこのメカニズムで起きている。

集中している間、あなたの脳は、身体からのSOSを切り捨て続けていた。その代償が、後からまとめて返ってくる。

第3章——楽しい仕事ほど危ない。私がExcelで肩を壊しかけた話

ここで、最近の私自身の失敗を、正直に書いておきたい。

私はパソコンを触るのが好きだ。特養には専属のSEがいないから、ICT系の困りごとは、なぜか私のところに集まってくる。

先日も、ある書類を自動化する作業を頼まれた。条件付き書式やマクロを、AIに相談しながら組み上げていく。RPGのダンジョンを攻略本を見ながら進めるような感覚で、これがもう、楽しくて仕方がない。

朝一番に取りかかって、気づいたら、かなりの時間が経っていた。

そして、作業を終えて立ち上がった瞬間。

肩が、ガチガチに固まっていた。

「楽しい」という強い集中、つまりフロー状態に入っていた私の脳は、その間ずっと、肩の張りという内受容感覚を切り捨て続けていた。だから、固まっていることにすら気づけなかった。

ここで大事なのは、これが「楽しい作業」で起きたという点だ。

苦痛な作業なら、人は「つらい」「休みたい」という身体の声に、まだ気づきやすい。でも、楽しくて没頭しているときほど、エンドルフィンの麻酔が効いて、身体のサインが完全に消える。

楽しい仕事ほど、身体を壊しやすい。

これは、自分の状態を「ランナーズハイモード」だと自覚している私のような人間には、特に刺さる教訓だ。

ちなみに、そのときの私が、どうやって立て直したか。

朝一番の出来事だったので、リセットには少し苦労した。まずトイレに立って、頭の中で「今、自分の身体はどうなっているか」を描き直す作業をした。肩はどこにある。背中はどう丸まっている。呼吸は浅い。そうやって身体の地図を意識的に描き直してから、深呼吸をして、壁を使って巻き込んだ肩をゆっくりほぐしにいった。

このリセット法の中身は、後の実践パートで詳しく書く。

第4章——身体の声を「聞けない人」を、現場で見てきた

内受容感覚の話を、もう少し深いところまで書きたい。

私が働く特養には、自分の身体の声を、うまく聞き取れなくなっている方が、たくさんおられる。

たとえば、喉が渇いていることに気づけない方。お腹が空いた、トイレに行きたい、という感覚が鈍くなっている方。あるいは、どこかが痛いのに、それを「痛い」とはっきり認識したり、言葉にしたりできない方。

これは、ご本人がサボっているわけでも、わがままなわけでもない。加齢や病気によって、内受容感覚というセンサーそのものが、鈍くなっているのだ。

身体の声が聞こえなくなると、何が起きるか。

水分が足りなくても気づけず、脱水になる。痛みのサインを拾えず、不調が手遅れになる。自分の疲れに気づけず、転倒につながる。

つまり、内受容感覚は、生きていくための土台になっている感覚なのだ。

そして、これは高齢者だけの話ではない。

冒頭の運転中の私も、Excelに没頭した私も、構造はまったく同じだ。脳が外側の情報や強い集中に占領されて、身体の内側の声を聞き取れなくなっている。違うのは、それが一時的か、慢性的か、という点だけだ。

私はかつて、認知神経リハビリテーションという、脳と身体の関係に着目したリハビリ理論を学んだ。少しだけ、その現場の話をさせてほしい。

回復期のリハビリで、片方の手足に麻痺が残った、若い患者さんを担当したことがある。

その方は、麻痺した側の腕をテーブルに乗せようとするとき、肩を大きくすくめ、体を横に傾けながら、なんとか手を持ち上げていた。動作としては、できている。でも、本来の自然な動きとは、明らかに違う。「代償動作」といって、別の部分の力を使って、無理やり目的を達成している状態だ。

私は、この余計な動きを減らしたかった。

そこで使ったのが、「感じる」ことへのアプローチだった。硬さの違うスポンジを腕の下に置いて、「今、どっちのスポンジに触れていますか」と問いかける。動かすことより前に、自分の腕が今どこにあって、何に触れているかを、脳に感じ取ってもらう。ぼやけた身体の地図を、もう一度クリアに描き直す作業だ。

5か月、一緒に取り組んだ。代償動作はかなり減った。でも、正直に書くと、完全に元通りにすることは、私の技術では叶わなかった。

同い年の先輩が、この理論のマスターコースまで学んでいて、いろいろ教わったけれど、それでも私の力は及ばなかった。

ここで何が言いたいか。

身体を変えるには、「動かす」だけでは足りない。「感じる」ことを通じて、脳の中の身体の地図を描き直す必要がある。これは、麻痺の回復という特別な場面だけでなく、私たちが日々、肩こりや集中力や疲労と付き合っていくうえでも、まったく同じことが言えるのだ。

第5章——身体の声を聞けると、判断とメンタルが整う理由

ここまで読んで、「で、結局それが集中力や判断とどう関係するの?」と思った人もいるかもしれない。

つなげて書く。

第1章で書いたとおり、内受容感覚は、感情や判断と深く結びついている。

自分の身体の状態を細かく感じ取れる人は、「あ、今ちょっと焦ってるな」「お腹のあたりがざわついてるから、この決断は不安なんだな」と、自分の心の状態を早く正確に読み取れる。

すると、どうなるか。

焦ったまま勢いで判断を下す、ということが減る。「今は冷静じゃないから、少し待とう」と、ブレーキを踏めるようになる。これが、判断力が整うということだ。

メンタルも同じだ。

自分の不安やイライラに、それが小さいうちに気づける。気づければ、対処できる。深呼吸をする。少し休む。誰かに話す。気づけないまま膨らませてしまうから、ある日いきなり爆発したり、燃え尽きたりする。

そして集中力。

これが面白いところで、内受容感覚を整えると、かえって集中力が長持ちするようになる。

ずっと身体の声を無視して走り続けると、ダムが決壊するような反動が来て、結局そこで集中が完全に切れる。でも、こまめに身体の声を拾って、小さくリセットを挟めば、決壊する前に回復できる。長く、安定して走れるようになる。

テニスでいえば、私はポイントとポイントの合間に、必ず呼吸をリセットしている。できるだけ速く、元の呼吸状態に戻す。そして「今、足はどうだ。肩はどうだ。あとどれくらい動けるか」と、自分の身体に問いかける。

これこそが、内受容感覚にアプローチするということだ。

身体の声を聞くことは、自分をいたわる優しい行為であると同時に、長く高いパフォーマンスを保つための、きわめて実用的な技術でもある。

第6章——今日からできる、内受容感覚をひらく3つのワーク

理論はここまで。ここから、デスクや会議の合間にできる実践を3つ紹介する。どれも道具はいらない。数十秒から数分でできる。

ワーク1:30秒、身体の「実況中継」をする

集中作業を始める前と、一段落したタイミングで、目を閉じて30秒だけ、自分の身体を上から下まで「実況中継」してみる。

「肩が、少し前に丸まっている」 「奥歯を、無意識に噛みしめている」 「呼吸が、思ったより浅い」 「お腹のあたりが、少し緊張している」

評価しなくていい。直そうとしなくていい。ただ、今どうなっているかを、言葉にして確認するだけだ。

これだけで、シャットアウトされていた身体の声が、脳に戻ってくる。私がExcelの後にトイレでやった「身体の地図を描き直す」作業が、まさにこれだ。

ワーク2:「呼吸のリセット」を、集中の区切りに入れる

人は集中すると、必ず呼吸が浅くなる。だから、作業の区切りごとに、意識的に呼吸をリセットする。

やり方は簡単で、鼻から4秒吸って、口から長めに、6〜8秒かけて吐く。これを3回だけ。

ポイントは、吐く息を吸う息より長くすること。吐く息は、リラックスを司る副交感神経を優位にする。浅い呼吸で交感神経に偏った身体を、ニュートラルに戻してあげるイメージだ。

テニスの私が、ポイント間に必ずやっていることの、デスク版だと思ってほしい。

ワーク3:休憩は「静けさ」より「心地よい刺激」でもいい

最後は、休憩のコツだ。

理想を言えば、休憩は静かな環境でとるのがいい。でも、現実はそうもいかない。

私は昼休み、車の中でストレッチポールに乗ってから仮眠をとる。ところが、職場では他の人も車で休む人が多くて、エンジン音がうるさいときがある。

HSP気質の私は、気になる音が鳴っていると、もう眠るどころではなくなる。神経が、その音だけを拾い続けてしまう。

そこで、私はある時から、発想を変えた。

苦手な音に神経をすり減らされるくらいなら、いっそ「自分が選んだ心地よい音」を聞いているほうが、ずっと楽だ。だから今は、イヤホンでヒーリングミュージックを流すようにしている。

これも、内受容感覚を守るための工夫だ。HSPの人は、外側の刺激に脳のメモリを奪われやすく、その分、内側を感じる余裕がなくなる。だったら、外側の刺激を「自分でコントロールできる、心地よいもの」に置き換えてあげる。それだけで、脳は内側に意識を向けやすくなる。

本当は静かな環境がいい。でも、整わない環境の中でも、工夫次第で自分を守れる。完璧じゃなくていい。

エピローグ——身体は、いつもあなたに話しかけている

私たちは、つい「気合い」や「やる気」で、集中力や判断力をコントロールしようとする。

でも、本当の鍵は、もっと静かなところにある。

自分の身体が、今どうなっているか。呼吸は浅くないか。肩は固まっていないか。お腹のあたりは、ざわついていないか。

身体は、いつもあなたに話しかけている。集中しているときほど、その声は、脳のメモリ不足で聞こえなくなる。だから、意識的に、耳を澄ます時間をつくる。

それだけで、判断はブレにくくなり、メンタルは早く立て直せて、集中力は長持ちする。

高速道路で頭がぼーっとしてきたとき、無理に気合いで乗り切ろうとせず、サービスエリアに入って、車から降りて、深呼吸をする。

その小さな「立ち止まり」こそが、いちばん速く、いちばん遠くまで走るためのコツなのだと、私は思っている。

明日も私は特養に立つ。利用者さんの身体の声に耳を澄ませながら、誰かの隣に座る。そして家に帰る前に、自分の身体にも、ちゃんと問いかける。

「今日、お前はどうだった?」と。

あなたの身体は今、あなたに何を話しかけていますか。

その声に、少しだけ、耳を澄ませてみてください。


プロフィール

作業療法士16年目|特養・ユニットケア勤務|元認知症ケア指導管理士|HSP・ISFJ|中学からテニス継続|7歳娘の父|アドラー心理学13年実践|106kgから77kgへ減量|うつ・対人恐怖を経て、薬なしで生きられるようになった現場ベースの発信を続けています。


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#集中力 #内受容感覚 #作業療法士 #自律神経 #セルフケア #働き方 #メンタルヘルス #健康習慣


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