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〜わさび生い立ち記〜 Vol.5 「教習所からの帰り道」




■【前回までのあらすじ】

母が突然、実家から弟を連れて帰ってくるまでの3か月間、わさびは父と二人、穏やかな日々を送っていた。お習字の道具や絵の具セットを買ってもらい、父と囲む夕食は、これまでにない幸せな時間だった。弟が生まれたことで母もすっかり優しくなり、父の転勤先の新しい土地でも、ご近所や友人に恵まれ、わさびの毎日は明るく変わっていく。ところが、赤ちゃんの誕生にともない預けていたモルモットを迎えに行くと、店主から思いがけない知らせが。散歩中に逃げてしまい、もう戻ってこないというのだ。わさびは、涙が涸れるまで泣いた――。

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モルモットがいなくなってから、しばらくは家に帰るのが少し怖かった。

またいつもの場所に、あの子がいないんだと思うと、 玄関を開ける瞬間、胸がぎゅっとなった。

でも、子どもの時間は残酷なくらい前に進む。

弟の世話でバタバタする母、 毎日賑やかになっていく我が家、 新しくできた近所のお友達――。

気づけば私も、モルモットのことを思い出す回数が、 少しずつ減っていった。

そして、あの「忌まわしい生活」から抜け出した我が家には、 新しい日常が、静かに、でも確実に根付き始めていた。

そんな折、母が自動車学校に通いだした。

むろん、私たち兄弟を連れて。

教習所につくと、母は授業に、 私は、弟のお世話係。

たまに、母が場内を運転しているところも見られたので、 それはそれで、楽しかった。

教習所までは、歩いても行ける距離にあったので、 私たち親子は、いつも歩いて通っていた。

ただ、横断歩道は今ほど整備されていない時代。

道路を渡るときは、いつも母に手を引かれて渡っていた。

そんなある日の、教習所の帰り道。

いつものように道路を渡っていたのだが、 なぜだったのかは、今では覚えていない。

私は、母の手を振り払い、 一人で道路を渡り切ろうとしていた。

しかし、ちょうど、トラックの死角から、 オートバイが飛び出してきて――

私は、跳ねられてしまった。

コロコロと、体が転がった。

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

痛いのか、痛くないのかも、よく分からないまま、 気づけば私は、アスファルトの上に転がっていた。

母が、悲鳴のような声を上げながら駆け寄ってくる。

「大丈夫!? どこか痛いところは!?」

必死な母の顔を見上げながら、 私は、自分の体を触って確認してみた。

……あれ、痛くない。

腕も、脚も、ちゃんと動く。

擦り傷くらいはあったかもしれないが、 オートバイに跳ねられたにしては、拍子抜けするくらい、 私はほぼ無傷だった。

一応、救急車を呼んでもらい、病院へ。

擦り傷の手当てをしてもらっただけで、 その日のうちに、おうちに帰ることができた。

大したケガでもなかったのに、 母は、ずっと私の手を握っていた。

病院に着いてからも、先生の説明を、 食い入るように聞いていた母。

普段は、そんなに構ってもらえることなんて、 なかったから。

オートバイに跳ねられて、 心配して、慌てて、必死になってくれる母を見て、

「ちゃんと、心配してもらえるんだ。」

そう思えたことが、 擦り傷よりもずっと、私の胸に残った。

もしかしたら、跳ねられて良かったとさえ、 少しだけ思ってしまった__



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