ナイト・ドライブ_2
この記事はマスクドnote企画投稿作品です。
【ピリスタチーム 2 小説】

「久しぶりに、行こうか。ドライブ」
ドアを開け、机に向かっていた耕太に声をかけた。仕事の忙しさで誤魔化し、息子の成長を目の当たりにしなくなって数年が経っていた。春になれば学年が上がり、それなりに学校行事には顔を出していたはずなのに、日々のことは全く知らなかった。
「…あ、そうだ…ね」
驚いていたけど、何かを思い出したように言葉の速度が遅くなっていた。もしかしたら、なにか課題でも出ているのだろうか。それともテストが近いのか。
「いや、だったらいいんだ。無理に、というわけじゃないし」
早合点し作り笑いを向け、返事を聞かずにドアを閉めた。
まだ子どもなんて呼べないような、ふにゃふにゃした赤ん坊の頃を思い出す。夜泣きが激しく、俺が夜に帰宅してもよく泣いていた。疲れ切った妻から、その温かくも騒々しい命を受け取って、地下駐車場から乗り込んでドライブに出かけたものだった。
生まれるのに合わせて買った新車のリアシートには、ベビーシートが不釣り合いに収められていた。地下駐車場に響く泣き声が、何か責められているようで堪えた。誰が聞いているわけでもないのに、逃げるように車に乗り込んだ。
妻は、日中もずっと泣いている、とこぼした。「泣くのが仕事っていっても、パパみたいにはならないでよ」なんて、まだ言葉もわからない彼に薄く笑いかけていた。
エンジンが始動すると、その泣き声がひときわ大きく聞こえた。寝ないぞ!と気合いを入れているようで、微笑ましい。ドライブで寝かしつけなんて、そんな都合のいいことあるか、と初めて彼を乗せた夜、地下駐車場を出た途端、スースーと寝息が聞こえてきて驚いた。
「父さん、行かないの?」
背後から声をかけられて、我に返る。寝かしつけなんてあっという間に必要なくなって、大きくなっていた。運転が好きだから、というのは口実で、話す場所がほしかった。「久しぶりだからって、ほどほどにね」妻は車に酔いやすいから、ほとんど一緒にでかけない。
「いつから助手席に座れたんだっけ」
2年前の誕生日の夜だ。二人だけのドライブのときは、ふだん妻がいる席に息子が座る。俺に気を遣っているのか、音楽はかけない。景色の邪魔だからと、カーナビの画面も消すのは彼の流儀だ。
「学校で、ちょっとあって。高速に乗ってよ」
「何があったんだ?」と聞き返したい衝動を抑えるように、アクセルをぐっと踏み込んで、緑色の看板の先へ向かって車を走らせる。
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