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🦋メイとカレン(完)|森に届いた新しい名前

森の小道に、やわらかな光が落ちていた。

木々の間から差し込む緑の影を踏みながら、一つの足音が、静かに進んでいく。

(……やっと言えるかしら。今日こそ)

小さく息を吸って、また一歩。

屋敷を出てからしばらく経つのに、
「お嬢様」という肩書きだけは、まだ体にまとわりついていた。

けれど、自分の手で暮らしてきた時間や、
メイと過ごした日々が胸に灯りを残していた。



メイの家の前で、ひとつ深呼吸をした。

扉をノックすると、中から
“ガサガサッ…ドサァッ” と豪快な音が響いた。

「あら、メイさん? 大丈夫ですの?」

少し驚いて扉を開けると、散らかった部屋と、床でひっくり返っているメイの姿。

「あ、いらっしゃい! って違うのこれは!
片付けようとしたのに、気づいたらこうで!」

メイは慌てて服を抱え込みながら苦笑いする。

「でっ……お嬢様、なんかあった?
今ちょっと取り込み中で〜」

慌てふためくメイを見て、カレンはふわりと微笑んだ。

「……メイさん、あのね」

「わたくしのこと、これからは“カレン”と呼んでほしいの」

メイの手が止まった。
「え? どうしたのお嬢……じゃなくて──」

カレンは首を横に振る。
その表情は、どこか決意を含んでいた。

「わたくし、もう屋敷を出てしばらく経つでしょう?ここから先は、自分の足で立っていきたいの。だから──」

ひと呼吸置いて、ふわっと微笑む。

「もう、お嬢様じゃないの。
これからは カレン と呼んでくださるかしら」


メイは瞬きをしてから、にやりと笑った。

「……カレン、ね。可愛いじゃん!」

カレンは頬をほんのり染め、少し照れた声で返す。
「ええ。これからはそう。よろしくね」

「え、じゃあさ」

「私のことも、呼び捨てでいいよ。
これからは、変に気ぃ使うのなしね」

メイは少し照れ隠しみたいに笑った。
その言葉に、カレンの中で張りつめていたものが、少しだけゆるんだ。

森の小道に、やわらかな光が落ちていた。
風が葉を揺らし、どこからか小さな声が弾む。

「カレン〜」

その名前は、笑い声みたいに森に溶けていった。



メイとカレン編

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