Metaはメタバースを諦めたのか。AIグラスを調べて見えてきた「次のメタバース」
どうも、久我レイジです。
2026年8月26日、Metaが日本で「Meta Glasses」の販売を開始しました。
価格は50,600円から。カメラやスピーカーだけではなくMeta AIを搭載し、自分が見ているものについてAIに聞いたり、撮影したり、通話したりできるメガネです。
Meta自身も現在、AIグラスをかなり重要なハードウェアとして位置づけています。
このニュースを見たとき、僕が最初に思ったのは、
Metaって、もうメタバースよりAIなのかな。
ということでした。
2021年、Facebookは会社名をMetaへ変更しました。
当時はQuestを中心に、VRヘッドセットをかぶり、アバターになって仮想空間へ入る未来がかなり強く語られていました。
それから約5年。
最近Metaから聞こえてくるのは、メタバースよりAIという言葉の方が明らかに多い。そしてハードウェアでも、目立つようになってきたのはQuestだけではなく、普通のメガネに近いAIグラスです。
それなら、Metaはメタバースを諦めたのか。
気になって少し深く調べてみました。
すると、最初に僕が思っていた「VRからAIへ方向転換した」という見方は、少し修正した方がよさそうだと分かってきました。
Metaはメタバースを縮小している。でも、VRを捨てたわけではない

MetaがVR周辺の事業を整理しているのは事実です。
2026年には、法人向けMeta Questの商用モデルやHorizon managed servicesの新規販売を終了しました。
Reality Labsでも事業の見直しが続いています。 数字だけを見ると、その理由も分かります。
2026年第2四半期、Reality Labsの売上は4億3100万ドル。それに対して営業損失は46億1900万ドルでした。
2026年上半期では、営業損失が86億4700万ドルに達しています。
ものすごい金額です。
これだけ赤字が続けば、「これまでと同じやり方を続ける」という判断にはならないでしょう。
一方で、MetaはVR自体から撤退すると発表したわけではありません。
法人向けサービスの整理を発表した際にも、VRには長期的に取り組み続け、消費者向けのVRハードウェアやソフトウェアへ集中すると説明しています。
ここを見て、僕の考えが少し変わりました。
最初は、MetaがメタバースからAIへ逃げ始めたようにも見えていたんです。
でも実際には、VRを全部捨てて別の事業へ移っているわけではない。
むしろ、これまでReality Labsの中で広げすぎたものを整理しながら、どこへ資金を集中させるのかを変えているように見えます。
「Metaはメタバースを諦めた」と一言で片づけるには、少し雑なんですよね。
調べてみると、Metaは最初から「ゴーグルだけ」を見ていなかった

もうひとつ、今回調べていて面白かったことがあります。
僕の中では長い間、Metaのメタバース=Quest
という印象がかなり強くありました。
当時のニュースや映像を思い返しても、VRヘッドセットを装着して仮想空間へ入り、アバターになって仕事をしたり遊んだりする姿が強く記憶に残っています。
だから最近AIグラスが前面に出てくると、「方向転換した」と感じるのも自然だと思います。
ところが2021年にマーク・ザッカーバーグが公開した文章を改めて確認すると、当時から未来像はVRだけではありませんでした。
完全に仮想世界へ入るVRだけでなく、ARグラスを使って現実世界とデジタル情報を重ねたり、スマートフォンやパソコンから参加したりする構想もすでに語られています。
つまりARグラスは、AIブームが来たから急に出てきた逃げ道ではなかった。
最初から未来図の中にあったんです。
2024年には、本格的なARグラスの試作機「Orion」も公開されました。
透明なレンズ越しに現実世界を見ながら、その中へデジタル情報を重ねて表示するデバイスです。
Orionはまだ一般販売されていません。
その途中に位置するような製品として、2025年にはディスプレイを搭載した「Meta Ray-Ban Display」も登場しました。
現在のMetaのグラス系製品を眺めると、
カメラとAIを搭載したメガネがあり、その先に表示機能を持つメガネがあり、さらに先には本格的なARグラスがある。
そういう流れが見えてきます。
ここまで調べて、僕は「MetaはVRを捨ててAIグラスへ移った」という最初の見方をやめました。
もっと近いのは、Questだけに未来を賭けるのをやめて、複数の入口から同じ未来へ向かおうとしている。
という見方だと思っています。
メタバースドラマを3年以上作ってきた僕には、「入口が変わる」という話がかなり気になる

僕は3年以上、メタバースでドラマを作ってきました。
『クロスロード』では61人が制作に関わりました。
役者がアバターになって仮想空間へ入り、その中にセットを作り、演技をして、カメラを回す。
僕にとってメタバースは、投資用語でも一時期流行した横文字でもありません。
実際に人と出会い、作品を作ってきた場所です。
だから「メタバースは終わった」と言われても、あまりピンとこないところがあります。
僕がclusterへ行けば今でもイベントが開かれていますし、人が集まり、音楽を聴いたり、話したり、何かを作ったりしています。
VRChatでも世界中でワールドやアバター、ゲーム、イベントが作られ続けています。
中にいる側から見ると、別に終わってはいません。
ただ、メタバースが一般の人まで大きく広がったかと言えば、そこは簡単ではなかったと思っています。
VRゴーグルを買う
充電する
頭に装着する
アプリを起動して、アバターになって仮想空間へ入る。
慣れてしまえば普通ですが、触れたことがない人にとっては、やっぱり入口が重い。
ここは長くメタバースにいるほど、逆に見えなくなりやすい部分かもしれません。
それに対して、メガネはかなり違います。
日常生活の中でかけることができます。
Ray-Ban Metaなど、MetaとEssilorLuxotticaが展開してきたAIグラスは、すでに世界で数百万台規模まで販売されています。
この違いはかなり大きいと思っています。
VRでは、人間の方がデジタル世界へ入っていく。
でもARグラスまで進めば、今度はデジタル世界の方が人間の日常へ入ってくる。
僕は、この方向の違いがこれからかなり重要になると思っています。
映画の場合、観客はスクリーンのこちら側にいて、物語は向こう側にあります。
メタバースドラマでは少し違います。
観客自身がアバターになり、物語が存在する空間の側へ入ることができます。
僕自身、『クロスロード』を作りながら、この違いは何度も感じてきました。
ではARグラスが普及したらどうなるのか。
今度は、物語の側が観客のところまでやって来る。
この変化は、ドラマを作る側から見るとかなり面白いんです。
次のメタバースでは、ドラマが画面から出てくるかもしれない

ここからは、確認されている事実ではなく僕の予測です。
まず、VRはなくならないと思っています。
完全に別世界へ入り込める没入感は、現在のメガネ型デバイスとはかなり違います。
ゲーム、ライブ、舞台、ソーシャルVR。
そして僕が作ってきたメタバースドラマにも、VRだから成立する表現があります。
だから「これからは全部ARになる」とは考えていません。
ただ、ARグラスが一般へ広がった場合、物語の置き場所はかなり変わると思っています。
例えば、
自分の部屋にドラマの登場人物がいる。
街を歩いていると物語が始まる。
ある場所へ行った人にしか見えないシーンがある。登場人物から声をかけられて、それに自分が答える。
AIまで組み合わされれば、全員がまったく同じセリフを聞く必要すらなくなるかもしれません。
見る人の行動や会話によって、少しずつ違う物語になる。
今までは映画やドラマの中へ観客を連れていく方法を考えてきました。
でもARグラスでは逆になる。
どうやって物語を観客の日常へ入り込ませるのか。
ドラマ監督として考えると、僕はこの方がかなり気になります。
もちろん、技術的にも社会的にも問題は山ほどあります。
常時カメラを身につけることへの抵抗。周囲の人のプライバシー。価格やバッテリー、重さ。
人間が本当に一日中デジタル情報を視界へ出しておきたいのかという問題もあります。
Orionも、現時点では市販されていません。
だから僕は、「数年後には全員がARグラスをかけている」とは考えていません。
ここはまだ分からない。
それでも、2021年から2026年までのMetaの動きを並べて見ると、僕にはひとつの流れが見えます。
僕らが2021年に強く意識したメタバースは、「ゴーグルを被って仮想世界へ行くもの」でした。
でも、Metaが本当に狙っていたものは、それだけではなかった。
VRもあり、AIグラスもあり、その先にはARがある。
僕はこれからのメタバースを、単に「仮想世界へ入る技術」だけでは考えない方がいいと思っています。
現実とデジタルの境界そのものが、少しずつ薄くなっていく。
その途中で、「メタバース」という言葉自体が今ほど使われなくなる可能性もあります。
僕はこれからもメタバースでドラマを作ります。
ただ、その「メタバースドラマ」という言葉が5年後も今と同じ意味なのかは、もう分かりません。
僕らが仮想世界へ入りに行く物語も残るでしょう。
その一方で、物語の登場人物が僕らの部屋や街へやって来る作品も生まれてくるかもしれない。
だとしたら僕がこれから考えるべきなのは、「メタバースは終わるのか」ではない気がしています。
その次に、物語をどこへ置くのか。
今は、そっちの方がずっと気になっています。
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