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本当に怖いのは、「失敗」ではなく、対処できないという思い込み。



世界トップクラスの精神科医、Steve Peters教授がある問いに答えた。

「アスリートが本番で力を出せない最大の原因は何か?」

彼の答えはこうだった。
 

「失敗を恐れている選手は、ひとりもいない」


えっ!そうなの?

そう思ったなら、
少し立ち止まって考えてみてほしい。


あなたが失敗を「怖い」と感じるとき、
本当に怖いのは一体なんだろう。


——失敗そのもの。

——転ぶこと。

——負けること。

——うまくいかないこと。

それを恐れているのだろうか。


それとも、

「失敗したあとの自分が、それに耐えられない」

というイメージを恐れているのだろうか。


Peters教授はこう続ける。

「彼らが恐れているのは失敗じゃない。

失敗したあとの結果に、自分が耐えられないと
思い込んでいることだ」


脳は「起きていないこと」に反応できない


これは脳科学的にも興味深い話だ。

人間の脳は、
起きるかどうかわからない出来事そのものには反応しない。


反応しているのは、

その先に想像された

「対処できない自分」

というイメージだ。

僕は25年以上、
身体と向き合ってきた。

呼吸。

ファシア。

体性感覚。

それらを観察し続けて気づいたことがある。

身体もまったく同じ原理で動いている、
ということだ。


身体が固まるのは、未来の映像に反応しているから


筋肉が緊張するとき、

体内で何が起きているのだろうか。

脳は、

「これから危ないことが起きるかもしれない」

という予測を立てる。

そして身体は、
それに備えて収縮する。

つまり、

まだ起きていない未来への反応として、

今この瞬間の身体が固まっているのだ。

呼吸が浅くなる。

ファシアが緊張する。

体性感覚が鈍くなる。

本番で体が動かない。

いつも通りできない。

それは技術や体力の問題ではなく、

脳と身体が作り出した
予測的な防衛反応なのかもしれない。


一流の指導者がやっていること


Peters教授はこう言う。

「一流の指導者は、選手に『失敗するな』とは言わない」

「代わりに、失敗したらこう動こう、とリカバリープランを徹底的に共有する」

すると不思議なことが起きる。

不安が減り、
本番のパフォーマンスが上がる。

なぜか。

身体と神経系に、
着地点が生まれるからだ。

脳は、

「最悪の事態が来ても、自分はこう対処できる」

という見通しを持った瞬間、

予測的な防衛反応を弱め始める。

呼吸が深くなる。

筋肉の緊張が抜ける。

体性感覚が戻ってくる。

これは精神論ではない。

神経系の働きとして起きていることだ。

コーチングで先にゴールを決めることにも、
どこか似ている。


僕が施術で見てきたこと


クライアントが施術台に乗るとき、

多くの人の身体は固まっている。

痛みへの恐れ。

また悪くなるかもしれない不安。

それらは言葉にならなくても、

呼吸やファシアのパターンに刻まれている。

僕がまずやることは、

「何が起きても、こう動きます」

という見通しを、

言葉と触れ方を通して伝えることだ。

すると身体は変わり始める。

時には、
まだ触れていない段階から変わることもある。

これは安心させているのではない。

神経系に、

「予測可能な世界」

を届けているのだと思う。

すると身体は、

防衛ではなく適応を選び始める。


消すべきものを間違えていた


Peters教授はこう言う。

「動けない人ほど、失敗そのものを消そうとする」

「でも本当に消すべきは、失敗したあとの自分が対処できないというイメージだ」

これは身体にも当てはまる。

痛みを消そうとするのではない。

痛みが来ても対処できる感覚を育てること。

恐怖を消そうとするのではない。

恐怖が来ても戻ってこられる感覚を育てること。

呼吸を使う。

身体感覚を磨く。

ファシアを整える。

それは、

身体に「着地できる」という記憶を刻み込む作業なのだと思う。


「何が起きても、なんとかできる」という確信


Peters教授はこう締めくくる。

「何が起きても、自分はなんとかできると心の底から信じられた瞬間、人生のほとんどの恐怖は消える」

僕はこれを、
身体から育てることができると思っている。

頭で言い聞かせるのではない。

呼吸を通して。

身体感覚を通して。

神経系レベルで、

「対処できる自分」

を育てていく。

それが、
この25年以上かけて取り組んできたことでもある。


恐怖の正体は、失敗ではない。


対処できない自分、
というイメージだ。

だとすれば、

答えは失敗をなくすことではない。

対処できる自分を育てることにある。

そしてそれは、
身体から始められる。

失敗を積み重ねるのではない。

経験を積み重ねるのだ。

経験が増えるほど、
リカバリープランも増えていく。

するといつの間にか、

「何が起きても、なんとかなる」

という感覚が育っている。

自信とは、

成功した回数ではなく、

戻ってこられた回数なのかもしれない。



参考:The Diary Of A CEO|E96「How To Take Full Control Of Your Mind: Prof. Steve Peters, The Chimp Paradox」(2021年9月)

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