AI比べ
試行錯誤中のLaLaLaです。
これを4つのAIに投げて出た文章を書かせて加工せずにコピペしました。
彼女の影が薄れていくこのタイトルで1500文字のホラー小説書いて
どれが一番よかったでしょうか?
AIの癖を掴むために時々こういう実験をしています。
①・②は同じGeminiですが有料と無料の違い以上に今まで使ってきた壁打ちでどんな文章がLaLaLaが求めているかの違いがあるような気がします。
③ChatGPTは、私は小説書くのは使わない。エッセイやノウハウや解説には使います。一番使うのは、プロット作り、編集者として書いた物語を分析に使っています。
④perplexity昔はいい文章書いていたが最近ChatGPT寄りの文章になって小説には使わなくなった。調べごとやエッセイやノウハウや解説には使います。一番使うのは、プロット作り、編集者として書いた物語を分析に使っています。
⑤notebookデーターの蓄積しているので私の文体を的確に表現してくれる。Geminiを使っているがデーター量が違うのでより私らしい文章を書いてくれる。しかし長編を書くスキルはない。調べごとやエッセイやノウハウや解説には使います。一番使うのは、プロット作り、編集者として書いた物語を分析に使っています。
⑥AI モードGOOGLE検索で登場するAIモード、私は、今回は一番いいと思った。つづきを読みたいと思う文章が一番いい。
あなたはどれが好きですか?
①『彼女の影が薄れていく』(Gemini有料)
六畳間の真ん中に置かれた黒塗りの文机の上に、真鍮製の電気スタンドがひとつ、斜め下に黄色い光を落としている。
机の端には、立ち上る湯気が途切れたばかりの湯呑みがひとつ置かれている。表面に浮かぶ薄緑色の茶葉が、微小な揺れを繰り返しながら底へと沈んでいく。
畳の目に沿って正座した膝の先、およそ二尺ほどの場所に、引き戸の陰が伸びていた。その黒い領域の輪郭は、スタンドの光を背から浴びるかたちで強くくっきりと畳の表に刻まれている。
右手の中指で畳の目線をゆっくりとなぞる。固く編み込まれたい草の節が、爪の先に引っかかる感触がある。そのまま視線を床から少し上げ、引き戸の木枠へと移した。
すりガラスの向こう側に、揺らぐもののない小さな輪郭が立っていた。
肩の傾き、首の曲線、垂れ下がった髪の端。すりガラス越しに落ちる陰影は、スタンドの明かりを受けて、床の畳の上に長い黒い影を横たえている。その影の先端は、正座した自分の右膝の端にわずかに触れていた。
柱に掛かった振り子時計が、コチ、コチ、と規則的な音を立てて振幅を刻む。音がひとつ響くたびに、振り子の真鍮板が光を反射し、壁の隅に小さな光の輪を投げかけた。
湯呑みを右手で包み込む。指先に伝わる陶器の温度は、十数秒前よりも明確に下がっていた。手のひらの内側へ力を込め、茶碗を持ち上げる。首をわずかに傾け、一口だけ口中に含んだ。喉の奥を通る液体は、舌の根元に薄い苦みだけを残して胃へと落ちていく。
湯呑みを再び机の上に戻したとき、コン、と木肌と陶器がぶつかる高い音が部屋の隅に響いた。
その音と同時に、膝の端に触れていた黒い影の密度が変わった。
畳の輪郭を塗りつぶしていた濃い黒が、わずかに揺らぎ、下の青畳の編み目を透かして見せ始めている。まるで墨汁に水を落としたかのように、影の境界線がぼやけ、灰色へと色を変えていく。
右手の指先を伸ばす。畳の上、影の胸にあたる位置へと人差し指を滑らせた。
指の腹に触れるのは、乾燥したい草の硬い質感だけだった。空気の温度は動かない。湿度の変化もない。しかし、人差し指の爪の横に落ちていたはずの黒い影は、すでに半透明の膜のようになり、畳の上の小さなゴミの粒をそのまま浮き上がらせていた。
すりガラスの向こうに視線を戻す。
枠の中に収まっていた人の輪郭は、輪郭線の端からすりガラスの乳白色の中に溶け込み始めていた。頭部の丸みが削れ、肩の線が背景の闇となじんでいく。引き戸の向こうから聞こえるはずの呼吸の音も、衣擦れの摩擦音も存在しない。
コチ、コチ、と時計の振幅が重なる。
正座した足の痺れが、足首から先へと小さな針を刺すような刺激となって広がり始めた。重心をわずかに左へずらし、右の手のひらを深く畳へ押しつける。
押しつけた手のひらのすぐ下に広がる影を見る。
彼女の足元から伸びていた影は、すでに壁の半分ほどまで後退していた。黒かった色彩は薄い灰色の霞のようになり、壁紙の菱形模様をはっきりと描き出している。
息を吸い込む。鼻の奥を抜けるのは、古い紙と畳の乾いた匂いだけだった。
そのまま吐き出した呼気は、黄色い光の輪の中で白く曇ることなく、透明なまま消えていく。
腕を伸ばし、影の消えかかった壁に向かって指を広げた。
手のひらが壁板の冷たさに触れる直前、目の前の空間からすべての陰影が削ぎ落とされた。すりガラスの向こう側には、ただ暗い廊下の木目が透けているだけだった。
壁に押し当てた自分の手のひらの下を見る。
真鍮製のスタンドが照らし出す真っ白な光の中で、自分の手首から先に落ちるはずの影もまた、輪郭を失い、透き通った光の中に消えていた。
②彼女の影が薄れていく(Gemini無料)
廊下の角を曲がる足音が、一週間ほど前から急に軽くなった。
叩きつけるような踵の音が消え、代わりに絨毯の毛先が微かに擦れる擦過音だけが残った。
テーブルの向かいに座る綾乃は、白い磁器のカップを両手で包み込んでいる。窓から射し込む午後の光が、彼女の右腕からテーブルクロスへ向かって斜めの影を落としていた。
その影は、カップの影よりも浅い。
黒ではなく、煙を極限まで薄めたような灰色の楕円だった。テーブルクロスの織り目が、影の輪郭を通り抜けてはっきりと透けて見えていた。
湯気を立てるコーヒーに視線を落とすと、カップの底に自分自身の顔が歪んで映った。向かい側を見る。彼女は黙って、カップの縁に唇を寄せている。液体が揺れ、磁器と歯が触れ合う小さな金属音が響いた。
「どうしたの?」
彼女の声が聞こえた。空気の振動が耳に届く。だが、喉のあたりを注視しても、首筋の皮膚が上下に動く気配がない。
言葉を発せず、ただ右手を伸ばした。彼女の左手、薬指に細い銀の指輪がはまった手の上に、自分の掌を重ねる。
指先が滑った。
皮膚の湿り気や、骨の硬い感触がない。テーブルの表面を滑り落ちるような無抵抗感だけが掌に残った。指を強く握り込もうとすると、拳は彼女の関節を通り抜け、木製の天板に直接ぶつかった。鈍い音が部屋に響いた。
彼女は困ったように眉を下げ、ゆっくりと首を傾げた。その仕草に合わせて、首の背景にある壁紙の草花模様が、彼女の皮膚の向こう側にうっすらと浮かび上がっていた。
「指輪、磨かなくちゃね」
彼女が右手の指先で、左手の指輪を撫でた。指輪だけは金属の光沢を保ち、重々しく指に残っている。しかし、それを支える指の肉は、擦りガラスの向こう側にあるように輪郭がぼやけていた。
立ち上がった彼女がキッチンへ向かう。床板が軋む音はしなかった。
立ち去った後のフローリングに目をやる。午後の強い光が部屋を照らしている。柱の影、椅子の脚の影、観葉植物の影。どれも濃い黒を床に焼き付けている。
しかし、彼女が歩く足元には、影が存在しなかった。
歩行に合わせて伸び縮みするはずの黒いシルエットは影も形もなく、ただ光がそのままフローリングの木目を照らし続けていた。
「綾乃」
名前を呼ぶと、振り返る動作があった。輪郭が光に溶け込んでいる。髪の毛の一本一本、服のシワの境界線が消失し、背景の白い壁紙と一体化しつつあった。彼女の形をした領域だけが、光の屈折によって歪んだ空間としてそこにある。
喉の奥が乾き、息を吸い込むと胸の奥が引きつった。
指先がかすかに震える。
ポケットの中に突っ込んだスマートフォンを取り出し、画面のカメラを立ち上げた。レンズを彼女に向け、シャッターボタンを押す。
電子音が鳴り、画面に写真が保存された。
画面を確認する。そこには、誰もいない部屋の風景だけが写っていた。テーブルの上のふたつのカップ、片方からは湯気が立ち上り、もう片方は冷め切っている。そして、向かいの椅子は誰も座っていないかのように虚空を指していた。
画面から目を上げると、目の前に指輪だけが浮いていた。
細い銀のリングが、床から一メートル五十センチほどの高さで静止している。指輪のすぐ後ろにあった本棚の背表紙の文字が、何の遮りもなく読み取れた。
指輪が、ゆっくりとこちらへ向かって移動してきた。
空間が歪み、冷ややかな空気が皮膚の表面を撫でる。指輪の背後から、吐息のようなかすかな空気が漏れ出していた。
指輪が僕の胸元で止まり、小さな金属音が響いた。銀のリングが服の布地に触れ、そのままゆっくりと床へ向かって落下していく。床に落ちた指輪は甲高い音を立てて転がり、テーブルの脚にぶつかって止まった。
部屋の中には、ただ自分自身の影だけが、長く、濃く、床の上に伸びていた。
廊下の方から、再び絨毯を擦るような音が聞こえ始めた。今度は玄関からではなく、自分のすぐ後ろ、影の先端からその音は立ち上っていた。
③彼女の影が薄れていく(ChatGPT)
最初に気づいたのは、写真だった。
夕方、仕事から帰った僕は、冷蔵庫の横に貼ってある写真を一枚ずつ眺めていた。旅行先で撮ったもの、近所の公園で撮ったもの、二人で食べた料理の写真。
その中に、去年の夏に撮った写真があった。
海辺で、僕と彼女が並んでいる。
「変な顔」
彼女が笑った声が、背後からした。
振り返ると、彼女はソファに座っていた。
「どこが」
「全部」
そう言って、彼女は写真を指差した。
僕は笑って、写真を冷蔵庫から外した。
そのときだった。
彼女の足元を見て、手が止まった。
部屋の照明は天井から真っ直ぐ落ちている。ソファの脚にも、テーブルにも、僕の足にも影がある。
けれど彼女の足元だけ、床の色が少し濃くなっている程度だった。
「どうしたの?」
「……いや」
僕は写真に視線を戻した。
海辺の彼女には、ちゃんと影があった。
翌朝、僕は写真を撮った。
朝食を作る彼女を、スマートフォンで何枚か撮影した。
「勝手に撮らないでよ」
「昨日の写真、見せたくて」
「じゃあ、あとで」
彼女が振り向いた。
スマートフォンの画面には、彼女の姿が映っていた。
ただ、足元の影だけがなかった。
僕は画面を閉じた。
もう一度開いた。
やはり同じだった。
「ねえ」
「なに?」
「昨日の写真、もう一回見せて」
「いいよ」
彼女が近づいてきた。
その瞬間、床に落ちた彼女の影が、ほんの少しだけ薄くなった。
まるで消しゴムで擦ったように。
僕は写真を見せるのをやめた。
その日から、僕は彼女の影を確認するようになった。
朝。
昼。
夜。
玄関の明かり。
洗面所の蛍光灯。
街灯。
どこに行っても、彼女の影は少しずつ薄くなっていた。
「最近、変じゃない?」
彼女にそう言われた。
「何が?」
「私を見るとき」
彼女は鏡の前で髪を結んでいた。
鏡には僕が映っている。
彼女も映っている。
でも、その足元には何もなかった。
僕は鏡から目を逸らした。
「疲れてるだけだよ」
「そう」
彼女は髪を結び終えた。
そして鏡の中の僕を見た。
「じゃあ、明日は大丈夫?」
その言葉の意味を、僕は聞き返せなかった。
翌朝、彼女の姿はなかった。
ベッドは二人分。
歯ブラシも二本。
玄関には彼女の靴。
冷蔵庫には、彼女が好きだったヨーグルト。
なのに、部屋の中に彼女だけがいない。
スマートフォンを見ると、写真が一枚ずつ消えていた。
旅行の写真。
公園の写真。
食事の写真。
そして最後に、海辺の写真が消えた。
僕は冷蔵庫に手を伸ばした。
何か一枚、貼ってある。
昨日までなかった写真だった。
そこには、僕が一人で写っていた。
海辺だった。
僕の隣には、誰かが立っていたらしい。
砂浜には、二人分の足跡が残っている。
けれど、その人物だけが写真から消されていた。
写真の裏には、鉛筆で一行だけ書かれていた。
――次は、影じゃない。
その夜。
部屋の電気を消した。
窓から入る街灯で、床に僕の影が伸びた。
僕は壁に手を当てた。
影も手を上げる。
一歩動いた。
影も動いた。
そこで気づいた。
僕の影の隣に、もう一つ影がある。
誰もいない場所から伸びている。
細い肩。
長い髪。
そして、僕の影より少しだけ薄い輪郭。
僕が振り返る。
誰もいない。
床を見る。
二つの影がある。
次の瞬間、隣の影が僕の影へ重なった。
そして、耳元で彼女の声がした。
「やっと、同じになったね」
電気をつけた。
部屋には誰もいない。
ただ、壁に映った僕の影だけが、
僕より一歩先に、
笑っていた。
④彼女の影が薄れていく(perplexity)
最初に気づいたのは、写真の中の彼女が少しだけ透けていたことだった。
窓際に立つ真帆の肩越しに、白いカーテンの柄が見えていた。花弁の輪郭が、彼女の髪を通り抜けている。
私は写真を指で拡大し、画面を何度も撫でた。
「加工したんじゃない?」
隣で真帆が笑った。テーブルの上には、飲みかけの紅茶と、彼女が途中まで書いた手紙が置かれていた。便箋の右下に、黒い影のような染みがある。
「私、写真写り悪いから」
「そういう問題じゃないだろ」
「じゃあ、消して」
真帆はスマートフォンを取り上げ、写真を削除した。
その夜、私は夢を見た。真帆が駅のホームに立っている。電車が入ってくるたび、彼女の足元から影が薄くなっていく。呼びかけても振り返らない。最後には顔だけが残り、それも白い光の中へ溶けた。
目を覚ますと、枕元に真帆のスマートフォンがあった。
画面には、知らない写真が表示されていた。
古い団地の廊下。蛍光灯の下に、真帆が立っている。撮影した覚えはない。写真の中の彼女は俯き、足元の影だけが壁に伸びていた。
私は電話をかけた。
『なに?』
「これ、どこで撮った?」
『どれ?』
「団地の写真」
しばらく沈黙が続いた。
『その写真、まだあるの?』
声が低かった。
「ある。誰が撮ったんだよ」
『見ないで』
「真帆」
『お願いだから、消して』
通話が切れた。
翌朝、真帆は大学に来なかった。昼休みに部屋へ行くと、玄関の鍵は開いていた。
室内には、彼女の靴が揃えてあった。机の上の紅茶は乾き、便箋には途中で途切れた文字が並んでいる。
――影を踏まないで。
窓の外で、子どもが笑った。
私は廊下へ出た。向かいの壁に、細長い影が映っている。誰もいない場所から伸びた影だった。
影はゆっくりと動き、真帆の部屋のドアの下へ入り込んだ。
私は後ずさった。背中が手すりに当たる。
そのとき、階段の踊り場に真帆が立っていた。
「真帆!」
彼女は返事をしなかった。顔の右半分が、壁の白さに重なっている。輪郭が曖昧だった。
「どこにいたんだ」
「帰って」
「何があった?」
真帆は一歩、階段を下りた。
足元に影がない。
「私の名前を呼ばないで」
「どうして」
「呼ばれるたびに、少しずつ消えるから」
彼女の声が、階下から聞こえた。
目の前にいる真帆は唇を動かしていなかった。
私は階段を駆け下りた。踊り場には誰もいない。床に、黒い髪が一本落ちている。
部屋へ戻ると、机の上の便箋が増えていた。
――次は、あなたの番。
文字は真帆の筆跡だった。
その夜から、私の部屋の写真に彼女が写り込むようになった。
食卓の椅子。浴室の鏡。閉じたカーテンの隙間。
どの写真にも真帆がいる。
そして毎日、彼女の影だけが短くなっていった。
一週間後、私は最後の写真を撮った。
画面の中には、私の部屋と、空っぽの椅子があった。
床には、私の影が二つ伸びている。
一つは私の足元から。
もう一つは、椅子の下から。
その影の先で、真帆が笑っていた。
⑤彼女の影が薄れていく(notebook)
西日が、古い木造住宅の縁側に長い影を引いていた。
浩介は、居間の畳に座り、座卓の上に置かれた一枚の写真を見つめていた。一年前、婚約者である律子と上野の不忍池で撮ったものだ。写真の中の律子は、紺色のワンピースを着て、眩しそうに細めた目でカメラを見つめている。彼女の足元からは、濃く、はっきりとした黒い影が地面に伸びていた。
「お茶、淹れたわよ」
台所から、律子の声が届いた。
浩介は視線を上げ、茶托を両手で持って歩いてくる彼女の姿を目で追った。畳の上を進む彼女の足元に、浩介の目は自然と吸い寄せられた。
西日が彼女の背後から差し込み、その輪郭を白く縁取っている。しかし、彼女の足元から畳の上へ伸びるべき影は、水で薄めた墨のように淡かった。畳の細かな網目が、その影を透かしてはっきりと見えている。
「ありがとう、律子」
浩介は湯呑みを受け取った。陶器の肌から、熱が指先に伝わる。しかし、それを手渡した律子の指先が不意に触れたとき、浩介の皮膚は氷を押し当てられたように強張った。彼女の指先は、まるで熱を持たない陶器の破片のようだった。
浩介は喉の奥が砂を噛んだように渇き、一口茶を飲み込んだ。熱い液体が喉を通る音だけが、静まり返った居間に不自然に響いた。
律子は、浩介の正面の座布団に腰を下ろした。
彼女の身体が畳に触れる瞬間、衣服が擦れる摩擦音がしなかった。ただ、衣類が自重で沈み込む視覚的な動きだけがあった。
「どうしたの? そんなに見つめて」
律子が首を傾げた。その仕草に合わせて、彼女の髪が肩の上で滑る。
浩介は、もう一度彼女の足元を見た。西日の角度はさらに浅くなり、部屋の中のあらゆる物の影が、長く、太く、壁に向かって伸びていた。座卓の脚の影は黒々と畳を割り、浩介自身の影もまた、背後の障子に巨大な輪郭を投影している。
しかし、律子の影だけは、さらに希薄になっていた。
いまや、それはただの灰色の霧のようだった。青畳の緑色が、彼女の影の輪郭を完全に侵食している。影の端は、光に溶けるようにして輪郭を失いつつあった。
浩介は右手を伸ばし、座卓の上に置かれた彼女の手を包み込もうとした。
指先が、彼女の皮膚に触れる。
かすかな抵抗があった。しかし、それは肉の弾力ではなかった。何重にも重ねた古紙を撫でているような、乾いた、カサカサとした感触だ。力を込めると、彼女の指は抵抗なく平らにつぶれ、浩介の指の骨が、その下にある畳の硬さを直接感じ取った。
「律子、君の身体……」
浩介の声が、小刻みに震えた。
律子は微笑んでいた。その口元は穏やかだが、両目の奥には光がない。黒目が、濡れた石のようにただそこにあるだけだった。
「私、少し疲れているだけよ」
彼女はそう言って手を引いた。浩介の手のひらに、細かな皮膚の粉のようなものが、白い塵となって残った。
西日が山の端に沈み、居間の一角に影が溜まり始めた。
部屋の四隅から、黒い染みが滲み出すようにして闇が広がっていく。
浩介は立ち上がろうとしたが、膝の筋肉が鉛を流し込まれたように重く、強張って動かなかった。うなじの皮膚が、不自然な冷気を感じて一斉に逆立っていく。
律子は座ったまま、窓の外の夕闇を見つめていた。
彼女の輪郭が、部屋の暗がりにじわじわと溶けていく。頭、肩、そして胴体。彼女の存在そのものが、薄い半透明の膜へと変わっていく。
「ほら、見て」
律子が畳を指差した。
彼女の指差す先、もはや影と呼ぶこともできないほどの、極限まで薄れた「それ」があった。
彼女の足元にあった淡い影の領域が、完全に透明になった瞬間。
畳の隙間から、みしり、と不快な摩擦音が響いた。
床板が持ち上がるような感覚が走り、浩介は座卓の縁を両手で強く掴んだ。指先が白くなるほど爪に力を込める。
律子の身体が、完全に消失した。衣服だけが、中身を失って畳の上にするりと崩れ落ちた。
だが、異変はそこで終わらなかった。
彼女の影が消え去ったその畳の表面に、別の「影」が、下から這い上がってきたのだ。
それは人間の形をしていなかった。
平らな畳の目から染み出すようにして広がった黒い染みは、節くれ立った、異様に長い複数の指の形を成した。その指先は、まるで鋭利な鉤爪のように曲がり、ゆっくりと浩介の足元に向かって畳の上を這ってきた。
浩介は呼吸を止め、座布団の上で両足を抱え込んだ。
床下から、ギリ、ギリ、と、固い木が軋む音が規則正しく響いてくる。
それは、彼女の身体を内側から食い破り、ついにその影さえも奪い尽くした「何か」が、今度はこの床板を突き破って這い上がろうとする、湿った呼吸の音だった。
⑥彼女の影が薄れていく(AI モード)
木造の床板が自重できしむ音だけが、古い平屋の居間に響いていた。
午後三時の傾いた陽光が、応接卓を斜めに切り裂いている。卓上には、琥珀色に濁った麦茶のコップが二つ。一つは結露した水滴が輪を作り、もう一つは、先ほどから一滴の水気もまとっていない。
「ねえ、聞いてる?」
正面のパイプ椅子から声がした。麻の白いワンピースを着た真由が、前髪を指先でいじりながら笑っている。
その指先が、背後の飾り棚にある茶器を透かしていた。真由の形をした輪郭の内側は、まるで磨りガラスだ。光の粒子が彼女の胸元を通り抜け、背後の壁紙に貼られた色褪せたカレンダーの数字を歪んで映し出している。
「ああ、聞いているよ」
聡は乾いた喉を震わせ、声を絞り出した。右手の指先が細かく脈打つのを隠すため、膝のズボンを強く掴む。
一週間前から始まった。最初は、夕暮れの散歩道だった。アスファルトに伸びる真由の影が、妙に薄いことに気づいた。街灯の下に立っても、彼女の足元には、水で極限まで薄めた墨汁のような、頼りない輪郭しか残らなかった。
三日前には、彼女が触れた新聞紙が、音を立てずに指先をすり抜けた。
「今日の夜、村の広場で集会があるんだって。おばあちゃんが言ってた。新しいお神楽を奉納するから、よそ者は絶対に覗いちゃいけないって」
真由の唇が動く。しかし、言葉と口の動きが、わずかにずれている。古い映画の吹き替えを見ているような、数ミリ秒の遅延。彼女の言葉が部屋の空気を震わせるたび、その身体の不透明度が、一段階ずつ下がっていくのが分かった。
聡は卓上のコップに手を伸ばした。冷えたガラスの感触が、手のひらに現実を繋ぎ止めてくれる。
「その集会に、君も行くのか」
「うん。だって、私はこの家の娘だもの」
真由が微笑む。その笑顔の向こう側、彼女の胸のあたりに、壁の柱に刻まれた古い傷跡がはっきりと見えた。彼女の存在そのものが、この部屋の景色に侵食され、吸い込まれようとしている。
立ち上がろうとして、聡は踏みとどまった。ここで取り乱せば、何かが完全に壊れてしまう。
彼は呼吸の回数を数え、椅子の背もたれに視線を移した。真由が座っているはずのパイプ椅子のビニールクロスは、重みで沈んでいない。平らなままだ。
「真由、少し歩かないか」
「いいよ。でも、遠くには行けないよ」
真由が立ち上がった。彼女の足が床を踏む音がしない。ただ、彼女が動いた軌跡の空気が、かすかにひんやりと冷えるだけだった。
二人は玄関を出て、錆びた鉄格子の門をくぐった。
周囲を這うように囲む山々は、濃い緑というよりも、黒に近い色調で沈んでいる。この集落の空気には、いつも腐った果実と濡れた土が混ざったような、特有の匂いが滞留していた。
土手を歩く。真由の白いワンピースが、午後の光の中で発光しているように見えた。いや、光を通しすぎているのだ。彼女の身体の境界線は、すでに陽炎のように揺らめき、背景の杉林の黒に溶けかかっている。
「聡くん」
真由が振り返った。その顔には、目も鼻も口もある。しかし、それはまるで、誰かが記憶を頼りに空間に描いた精巧な素描のようだった。彼女の瞳の奥にあるはずの光彩が、ただの灰色に変色している。
「私ね、自分がここにいるのか、よく分からなくなるの」
彼女が右手を差し出した。
聡は自分の右手を伸ばし、その手をつかもうとした。
指先が、冷たい霧のようなものを割り進んだ。
触覚がない。ただ、指の皮膚の表面だけが、じっとりと冷える。掴んだはずの彼女の手は、聡の指の隙間から、煙のように溢れて消えた。
「ほらね」
真由は怒るでもなく、ただ淡々と、そのかすんだ唇を歪めた。
彼女の足元を見る。アスファルトには、もう何の影も落ちていなかった。完全な空白。彼女という存在をこの世界に繋ぎ止めるための、最後の杭が引き抜かれたかのようだった。
遠く、山の斜面にある神社の方から、微かに鈍い鐘の音が響いてきた。
ゴォン、と重苦しい音が空気を叩く。
その音と同期するように、真由の足元から、白いワンピースの裾が、パラパラと灰のように崩れていくのが見えた。剥がれ落ちた破片は、地面に落ちる前に消える。
「時間がきたみたい」
彼女の声は、もう耳元ではなく、頭の真ん中で直接響くような、奇妙な残響を伴っていた。
「真由!」
聡は両腕を伸ばし、彼女の細い肩を抱きしめようとした。
衣服の擦れる音。しかし、彼の腕が閉じられたとき、そこにあったのは空虚な空間だけだった。腕の中に残ったのは、ただ夕暮れの、急速に冷え込んでいく風の塊。
振り返ると、真由の姿は、濃い霧の向こうにある人影ほどにまで薄れていた。
顔の造作はもう分からない。ただ、白いワンピースの輪郭だけが、最後の抵抗のように空間にとどまっている。
「忘れないでね」
それが、最後の、大気にかすれた振動だった。
次の瞬間、神社からの二度目の鐘の音が響き渡り、彼女の輪郭は完全に霧散した。
土手の上には、聡が一人、両腕を突き出した奇妙な姿勢で立ち尽くしている。
彼の足元には、自分の影が、長く、黒々と伸びていた。
しかし、その黒い影のすぐ隣、何も無いはずの草むらの上に、くっきりと一対の「足跡」の形をした、深い、夜のような影だけが、ぽつりと取り残されていた。
その影は、ゆっくりと、聡の方へ向けて歩みを進め始めた。

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