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空手家パパさんのゴス祭りに参加してみた!――『水没した街で、巫女は物語を踊る』

こんにちは。
惰眠がしたい赤猫さんです。

今回は、空手家パパさんの企画『ゴーストライティン絵画祭』、略してゴス祭に参加してみました。

詳細は、こちらから。


『水没した街で、巫女は物語を踊る』

Momoが描いた「哀」の一枚

制作エピソード

結婚して一年ほど経った頃、Momoは母が昔読んでくれた絵本を、久しぶりに箱から取り出した。
悲しい結末の本ほど、母の声だけは不思議にあたたかかった。
いつか自分も、まだ見ぬ子に物語を読むのだろう。

そう思った夜、彼女は水没した街の上で、ただ一人踊り続ける巫女を描き始めた。
かがり火の橙と月の青を慎重に重ね、袖の模様には細かな物語を忍ばせる。
落ち着いた筆運びの合間に、若い頃のような速い線が一本だけ走った。
完成した水面には、終わった世界よりも、消えずに残る声の気配が揺れていた。

水没した街で、巫女は物語を踊る

満天の星空の下。

鏡のように静かな水面から、沈みきれなかったビル群が突き出している。

その中央に、ひとつだけ残された神社の祭壇。

そこで、一人の巫女が踊っている。

左右のかがり火から伸びる橙色の光が、巫女の顔や袖、袴の下面を照らし、反対側からは月の冷たい銀青色が髪の輪郭を細く縁取る。

空には青い地球と白銀の月。

けれど、この絵で最も明るいのは、どちらでもない。

世界の中央にいる、一人の巫女だ。


滅びた世界の中で、踊り続ける人

この絵を描いたのは、静かな絵本作家「Momo」。

34歳。

柔らかな絵を描く人だけれど、その優しさの底には、いつも少しだけ寂しさが残る。

今回、Momoが選んだ感情は「哀」だった。

ただし、それは泣き崩れるような悲しみではない。

長い時間をかけて、自分の中に沈んでしまった悲しみ。

もう声を上げることもなく、ただそこにあり続けるもの。

だから背景の廃墟も、水没した街も、大きく叫ばない。

静かに沈んでいる。

巫女もまた、誰かに見せるために踊っているようには見えない。

それでも舞を止めない。

この世界で彼女が踊り続けている理由は、遠くから絵を見るだけでは分からない。

その答えは、袖の中に隠されている。


袖に描かれた、小さな物語

この絵でMomoが最も細かく描き込んだのは、巫女の長い袖だった。

羽根。

鳥。

月。

壊れた街。

そして、廃墟の中に立つ小さな少女。

一見すれば装飾模様に見える。

けれど袖を上から下へ追っていくと、それはひとつの物語になっている。

最初に描かれているのは、月夜を飛ぶ鳥。

まだ街が水に沈む前の世界だ。

その夜、一人の母親が幼い娘に鳥の絵本を読んでいる。

物語の結末は、少し悲しい。

それでも母の声はあたたかく、少女はその声を覚えている。

やがて羽根が一枚ずつ落ち始める。

ページをめくるように。

羽根が減るにつれて、模様の向こうにあった街並みも少しずつ崩れていく。

何が起きたのかは描かれていない。

戦争だったのか。

災害だったのか。

あるいはもっと長い時間の末に、世界そのものが沈んだのか。

Momoは、その理由を描かなかった。

ただ、街だけがなくなった。


少女は、やがて巫女になる

袖の下方には、廃墟を歩く一人の少女がいる。

かつて母に絵本を読んでもらっていた子だ。

少女は成長し、水に沈んだ街を歩きながら、一枚の羽根を拾う。

その先で、袖の模様は巫女の舞へとつながっていく。

つまり。

祭壇の上で踊っている巫女は、あの少女の成長した姿でもある。

母親はいない。

絵本も残っていない。

街さえ消えている。

それでも彼女の中には、母の声だけが残っている。

だから巫女は、物語を舞に変えた。

言葉で残せないなら、身体で。

本が失われたなら、踊りで。

誰かが見ているかどうかさえ分からない世界で、それでも物語を忘れないために、彼女は舞い続けている。


一羽だけ、袖の外へ

けれど、袖の物語にはひとつだけ例外がある。

最後に描かれた一羽の鳥だ。

他の鳥が廃墟や月の中に留まっているのに、その一羽だけは袖の端から外へ飛ぼうとしている。

絵の外へ。

まだ描かれていない場所へ。

Momoは、この鳥の行き先を決めていない。

誰かのもとへ届くのかもしれない。

何もない空へ消えてしまうのかもしれない。

ただ、完全には閉じなかった。

それが、この絵に残された小さな救いなのだと思う。

Momoは、悲しい物語から悲しみそのものを消そうとはしない。
ただ、その最後にほんの少しだけ、安心して目を閉じられる余白を残す。

袖の外へ飛ぶ一羽も、きっとそのために残されたのだろう。


34歳のMomoが、この絵を描いた理由

34歳という年齢は、Momoにとって少し不思議な位置にある。

19歳で美術大学へ進み、23歳で絵本制作の現場に入り、26歳で独立した。絵を描く技術は、もう十分に自分のものになっている。

一方で、33歳で結婚した彼女は、これまで「娘」として受け取ってきた物語を、いつか自分が「母」として渡す側になるかもしれないと考え始めていた。

母から自分へ。
自分から、まだ見ぬ誰かへ。

だからこの絵では、滅びそのものよりも、「失われても受け渡されていくもの」が描かれた。

もしもっと若いMomoだったなら、水没した都市や炎を、もっと激しく描いていたかもしれない。
もっと年齢を重ねたMomoなら、さらに静かな絵になっていたかもしれない。

技術はすでに落ち着き、それでもまだ若い頃の衝動が残っている34歳。

この巫女の静かな舞は、そのちょうど中間にいるMomoだから描けたものだった。


落ち着いた線と、一本だけ残った衝動

34歳のMomoは、もう駆け出しの作家ではない。

線の引き方も、色の置き方も、光の扱いも、若い頃よりずっと落ち着いている。

かがり火の橙。

月の銀青。

暗く沈めた廃墟。

そして巫女だけを浮かび上がらせる明暗。

すべてが計算されている。

袖の中の物語も、遠くから見れば装飾として成立し、近づいて初めて意味が現れるよう慎重に組まれた。

けれど、まだ完全に穏やかな絵ではない。

線の中には一本だけ、周囲より少し太さの揺れた筆跡が残されている。

描き直すこともできた。

それでもMomoは消さなかった。

昔の自分なら、もっと強く、もっと速く描いていた。

今は、その衝動を抑える技術を持っている。

けれど、完全にはなくしたくない。

そんな34歳の作家自身が、その一本には残っている。


物語は、誰かへ渡っていく

水没した街も。

祭壇も。

踊る巫女も。

この絵の中では、いつか消えてしまうものなのかもしれない。

それでも、袖の一羽だけは外へ向かって飛んでいる。

母から娘へ。

娘から、まだ見ぬ誰かへ。

物語は、同じ形のまま残るとは限らない。

絵本だったものが舞になり、声だったものが絵になることもある。

Momoが描いたのは、滅びた世界そのものではなく。

消えていくものの中で、それでも次へ渡ろうとする、小さな何かだったのかもしれない。


あとがきと言う名の駄文

いかがでしたでしょうか。
空手家パパさんの企画、まだ始まったばかりですので、興味のある方は参加してみては?

ここまで本編を読んで下さって、ありがとうございました。

……と、その前に。
せっかくなので、ここから少しオマケです。


おまけ――未採用になった二枚

今回は何枚か生成して、その中から記事に使う一枚を選びました。
せっかくなので、未採用になった二枚も置いておきます。

どちらも嫌いではないのですが、今回の記事では「袖の中に隠された物語」が見えてきた一枚を採用しました。

星月の廃神殿で舞う巫女
星空の水鏡に舞う巫女

おまけ2

今回の参加作品は、企画条件に合わせて「静かな絵本作家 Momo」寄りの感性で生まれた一枚でした。
その一方で、同じ題材をもう少し私の好みに近い、紡月寄りの幻想アニメ調でも見てみたくなったので、別バージョンも生成してみました。

星空と水没世界の巫女

同じ「水上の巫女」でも、画風が変わると空気や感情の見え方も少し変わるのが面白いところです。

それでは今度こそ、ここまで読んで下さってありがとうございました。

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