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006 第5章|思ひ出の樹 — あなたがくれたもの —  萩の月と貢茶(ゴンチャ)

※この作品は「#創作大賞2026」「#恋愛小説部門」に応募しています。


01
 
麻美(あさみ)が直樹(なおき)と直樹の入院の為、仙台から東京に来たのはその年の5月のことだった。
 
母の卒寿の祝いで来たのが最後だから、約1年ぶりだった。
 
キャリーケースに直樹と麻美の2人分の荷物を詰め、高速バスで新宿バスタに降り立った。直樹が治療で入院してる間東京にある実家の母の家から、通わせてもらえるように、お願いした。
 
その為に麻美は同居する姉一家と母にあて、手紙を書いた。東京にいるとき麻美は姉一家とよく行き来をしていて、姉は麻美の生活を、よく知っていた。
 
仙台に行ってからも麻美はラインで今の状況、何をして何を感じて子供たちがどうしているのか、そんな事を豆に連絡していたので姉は十分な程、私の考え、思い、痛みを理解してくれていた。そして、それを受け入れてくれる懐の深い姉でもあった。
 
姉の所には30歳になる一人息子がいた。名前は桂(けい)と言った。
 
麻美は実家の総勢4人の家族に向けて銘菓「萩の月」と牛タンをしこたま買い込んで、キャリーケースに詰めて持ってきていた。
 
桂は、男の人には珍しく甘いものが大好きで、特に「萩の月」には目がなかった。特にお歳暮を楽しみにしていたようで、麻美は、桂と姉と母には「萩の月」義兄には「牛タン」毎回同じものを贈るのを自分に許していた。
 
桂は、洋服のデザインを学び、デザイナー、スタイリスト等、色々となれる幅はあったようなのだが、今はアパレルの会社に就職をし、パタンナー(製図を書く人のこと)として働く日々を送っていた。
 
桂は、いつも飄々としている。器の大きい姉の息子らしく、世間の風と違うところにいる。足が病気で歩くのに不自由してしまった直樹と、麻美がよりを戻し結婚した時姉は
 
「あんた苦労するよ」
 
と言って本当の所あまり祝福はしていなかった。
 
麻美が言葉を尽くして説明して、それでも渋々でも納得したのは、この桂が
 
「足がなんだよ。歩けたって、不誠実な奴はいくらでもいる。叔父さんは誠実な人だ」
 
そう一言、言ってくれたので姉は納得してくれたところがあったのは否めないと思っている。
 
 
麻美が実家を出発して、病院に向かおうとしてる朝だった。
 
前の日に病院に直樹に会いに行ってその足で、帰ってきたのだったが仕事が佳境に入っていて帰れなかった桂とは、結局まだ会えずにいた。
 
麻美は残念だなと思っていた。麻美が玄関で白のおじ靴を履いていると、母が麻美の所に来て、こう言った。
 
「行くならこれ持って行きなさい」
 
東京で直樹と付き合っていた時、
 
「止めときなさい」
 
と言って絶対に賛成をしてくれなかった母なのに、そう言って、タッパウエアーに詰まった大根の煮物を持たせてくれた。
 
直樹は麻美の大根の煮物を本当に愛している。
 
その味は母直伝のもので自分の味が母の味と瓜二つになっていることを、麻美は誇らしく思っていた。
 
母の大根の煮物は本当においしいのだ。
 
麻美は母がタッパを持たせてくれた時、玄関のところで思わず深く静かに嗚咽した。母に許してもらえた。それを感じた。
 
母は泣いている麻美の背中を、ただ静かにさすってくれた。
 
その涙が止まるまで、いつまでも。
 
そうして麻美が今しも玄関の引き違い戸を開けようとしていたとき、桂が
 
「良かった間に合った!」
 
そう言って帰ってきた。
 
そして麻美は手に持っている荷物を見た。
 
「荷物になっちゃうかもしれないけどこれ」
 
そう言って手提げのビニール袋を渡してきた。ゴンチャのミルクティータピオカトッピングだと分かった。
 
でも、どうして?これは、言った覚えがない。直樹の好物ではあるけど、桂が知るはずがない。そう思った。
 
「え?なんで?なんで直樹の好物を桂君が知ってるの?」
 
と麻美が問うと、桂は
 
「前に麻美さん、叔父さんが別の店のタピオカが固くて混ぜ物してるんじゃないかって言ってたのよねって。ミルクティータピオカトッピングなら”ゴンチャ”ねって。そう言ってたから」
 
麻美は皆の温かさが嬉しくて、涙することも出来なくなった。
 
「だって、それたった一回なんでしょ?そんな事私があなたに言ったの。それ覚えてたの?」
 
「うん。叔父さんに届けてよ」
 
桂は何か言わなければと考えているらしい麻美のことを、そんなことは良いからという口調で
 
「ほら、行かないと叔父さん待ってるよ」
 
そう言って急き立てるのだった。


第6章 診察とポケゴーへ

思ひ出の樹 — あなたがくれたもの — 目次

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