パパになって初めてわかったこと。#6|「パパと遊ぶより、友達と遊びたい」と言われた日。
土曜の朝だった。
前の週からずっと、この日を楽しみにしていた。長男とポケモンカードで対戦する約束をしていたからだ。
デッキも組み直してあった。前回負けたので、今度はいけると思っていた。
朝ごはんのあと、僕は当たり前のように声をかけた。
「今日、やろうか」
長男は少し困った顔をして、こう言った。
「今日、◯◯くんちに行く約束してるんだよね」
そのあとに続いたのが、あの一言だった。
「パパと遊ぶより、友達と遊びたい」
悪気はまったくなかったと思う。ただ、そのとおりのことを言っただけだ。
僕は「そっか、いってらっしゃい」と答えた。
声はちゃんと出た。でも、自分でも驚くくらい、寂しかった。
いつまでも「パパ、遊ぼう」と言うと思っていた
少し前まで、長男はよく僕のところへ来ていた。
仕事から帰って、疲れて座り込んでいるところに「パパ、これ見て」と割り込んでくる。「ちょっと待って」と言いながら、結局は付き合う。
正直、面倒だと思った日もあった。
それがいつの間にか減っていた。減っていたことに、その朝まで気づいていなかった。
自分で遊びを決めて、自分で予定を作って、僕がいなくても笑っている。
嬉しいはずなのに、素直に喜べなかった。
親は矛盾している
小さい頃、僕は何度も「早く大きくならないかな」と思っていた。
自分で着替えられるようになってほしい。自分でご飯を食べてほしい。できることが増えてほしい。
それが実際に増えてくると、今度は「もう少し小さいままでいてほしい」と思う。
我ながら勝手だと思う。
でも、たぶんどちらも本音なのだと思う。成長してほしいのも本当だし、寂しいのも本当だ。
親というのは、この矛盾を何度も往復する仕事なのかもしれない。
「パパと遊ばない」は、嫌われたわけじゃない
一瞬だけ、「もうパパと遊びたくないのかな」と考えた。
でも、そうではない。
友達と遊びたい。学校の続きを話したい。自分だけの時間がほしい。
それは僕から離れていくというより、僕以外の世界を持てるようになったということだ。
考えてみれば、僕自身がそうだった。
親と遊ぶのも好きだったけれど、友達とじゃないとできない遊びがあった。親には言わない話もあった。
同じことが、今度は長男の側で起きているだけだ。
頭では分かる。
それでも寂しいものは寂しい。父親だって人間なので、そこは仕方がないと思うことにした。
代打が来た
長男を送り出したあと、僕がリビングでデッキを片付けていたら、次男が寄ってきた。
「じゃあ、ぼくがやる」
年中の次男は、まだルールを半分も分かっていない。攻撃の順番も飛ぶし、途中で違うカードを並べ始める。
対戦としては、まるで成立しなかった。
でも、その日の午後はずっと笑っていた気がする。
そして思った。この子もいつか、同じことを言う日が来る。
たぶん、あと数年もない。
一緒に遊ぶ人から、話を聞く人へ
夕方、長男が帰ってきた。
玄関から入るなり、友達の家であったことを、こちらが聞く前から話し始めた。何をして遊んだか、誰が何を持っていたか、次はいつ行く約束をしたか。
僕はカードを触ってもいないのに、その日いちばん長く長男と話した時間が、それだった。
そのとき、少しだけ分かった気がした。
役割が減ったのではなく、変わったのだと思う。
一緒に遊ぶ相手から、遊んできた話を聞く相手へ。手を引く人から、送り出して待つ人へ。
減っていくように見えていたのは、たぶん僕がまだ前の役割にしがみついていたからだ。
帰ってこられる場所ではいたい
子どもがどれだけ自分の世界を広げても、家だけは安心できる場所にしておきたいと思う。
友達と遊んで、失敗して、嫌なことがあって、それを全部抱えて帰ってきたときに「おかえり」と言える父親でいたい。
話したい日は聞く。話したくない日は聞かない。
ただ「ここにいるよ」という顔をして座っている。
前に出る場面はこれから減っていくのだろうけれど、これだけはずっと続けられる。
今日も、もし「パパ、遊ぼう」と言われたら、できるだけ「いいよ」と答えたい。
明日は言ってくれないかもしれないからだ。
そしていつか本当に言わなくなったとき、寂しさより先に「よく遊んだな」と思えたらいい。
たぶん僕は、それでも何度か寂しがると思う。「もうパパとは遊ばないのか」なんて、冗談っぽく言ってしまう日もあると思う。
それでも、あの子たちが自分の足で出かけていくなら、それが一番いい。
普通の家庭の、普通のパパの話です。
次回予告
第7話|父親になって、自分の時間がなくなった。
仕事があって、家事があって、子育てがあって、副業がある。
やりたいことは山ほどあるのに、一人の時間はほとんどない。
自分の人生も大事にしたい。でも家族を優先したい。
その矛盾の中で、僕がどこに折り合いをつけたのかを書きます。
第7話へ続きます。
