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番外編・前編「“怪しい仕事”の内側から」公認心理師×ラブライフアドバイザーが読み解くNetflix『SとX』

【番外編】 このシリーズ「だれかに聞いてほしい、性のなやみ」では、公認心理師の潮英子先生と、ラブライフアドバイザーのOliviAが、性の悩みを対談形式で読み解いています。
今回は番外編。
Netflixドラマ『SとX』を、実際に性の悩み相談を扱う三人で語りました。

特別ゲストは、とぅるもちさん。
講座の卒業生で、セクシャルウェルネス分野で活動する株式会社Unwindの代表取締役であり、セックスカウンセラー(ラブライフカウンセラー)です。

公認心理師(英子)、セクシュアル・ウェルネスの専門家(OliviA)、そして日々クライエントと向き合う起業家(とぅるもち)。
立場が少しずつ違う三人だからこそ、「作品の答え合わせ」がいくつも出てきました。
世間のイメージと、現場の実際。
そして、プロでも“更新される”瞬間。
前編では、そんな話をお届けします。

潮英子・OliviA・とぅるもちの鼎談回です

※本記事は、Netflix『SとX』全7話の結末までのネタバレを含みます。
未視聴の方はご注意ください。


“怪しい仕事”の内側から

OliviA この作品がまず突いていたのが、「セックスセラピスト=いかがわしい」という世間のイメージでした。作中でも、YouTuberが「僕にもテクニック教えてくださいよ、先生」といった感じに茶化してくる。ああいう見られ方は、実際に働いていても「あるある」だし、「そう見られたくないな」という気持ちが、正直、湧いてきます。
私が肩書きを「セックスアドバイザー」から「ラブライフアドバイザー」に変えたのも、まさにここで。
“セックス”という言葉が前に出ると、「テクニックを教える人」「クライエントと性行為をする人」と思われてしまう。
だから、あえて外したんです。それに、性の相談は、行為の相談だけに限ったことではありません。
「自分は、どうしたいのか」「相手と、どんな関係をつくりたいのか」を、身体・心理・コミュニケーションなど多面的に見ていく仕事なんですよね。

英子 この分野は、医療従事者でなくても名乗れる、独占資格ではないんですね。だから自由度がある一方で、玉石混交。ドラマでも、そう描かれていました。日本性科学会が認定するセラピストもいれば、そうでない人もいる。
「誰が正しい」という唯一の正解があるわけではなく、結局は「自分に何が合うのか」を探していくしかない。そこが、世間には伝わりにくいところです。

とぅるもち 私も、自己紹介の順番ひとつで、相手に壁ができるかどうかが変わる、と感じています。海外では、セックスカウンセラーがコーチング的に「もっと気持ちよさを感じるように」と導く場合もあれば、つらさをゼロに戻す方向もある。日本には、まだその線引きがないんですよね。

OliviA 海外には、クライエントと実際に性的に関わる「サロゲートパートナー」(セックス・サロゲート/恋人代理療法)と呼ばれる実践もあります。ただ、これは制度として公認されているわけではなく、倫理的な議論も続いている領域です。日本には、そうした線引き自体が、まだない。一方で、メンズエステや女性用風俗で「安心して身を委ねられた」という体験者の声も実際にある。民間の性的なセラピーすべてを怪しい、と切り捨てられない部分も、確かにあるんです。

プロの思い込みが、崩れた瞬間

OliviA 現場のリアル、という点で、私自身がハッとさせられたのが、セックスレスの描き方でした。「ある日突然、妻に“無理”と言われて、男として終わった」と感じる、男性の相談者。性行為を断られたことを、自分の存在価値と結びつけてしまう。私は、これを「女性に多い傷つき方」と紹介することが多かったんです。
でも、ドラマでは男性がそう感じていた。
あ、私にもアンコンシャスバイアスがあったな、と。
男性もレスに悩む背景にセクシュアル・アイデンティティがある。

英子 現場では、たしかに女性の相談が多く、自分のアイデンティティと性行為の頻度を結びつける方も女性が圧倒的に多い。だから私も、そう捉えていた部分がありました。
でも、男性も、拒否されて深く傷ついている。

とぅるもち 私は、むしろ逆かもしれません。今、男性の多いビジネスの現場にいることもあって、男性側から「産後、妻に“もう無理”と言われて、そこから何も言えていない」という話を聞く機会が、女性よりも多いんです。

OliviA 同じテーマでも、三人で見えている景色が、少しずつ違うんですよね。ちなみに作中では、女性が拒否した本当の理由が「相手が嫌」ではなく「性交痛」だった、でも言えなかった、という場面もありました。

英子 性交痛は、悪いことではありません。ただ、年齢とともに濡れにくくなったり痛くなったりするのを認めるのは、自分の老いを認めるようで、つらい。プライドとして、言いたくない。だから言えない、ということが、現実にもあるんです。

セルフプレジャーをめぐる温度差

英子 セルフプレジャーも、そうですね。昔は「こんなことをする自分は」と罪悪感を抱く相談がありましたが、今はほとんど聞きません。むしろ最近多いのは、回数への依存。回数が増えすぎて、日常生活に支障が出る、という相談です。世間のイメージと、現場は、もうずいぶん違うんです。

OliviA 作中で女性アナウンサーが「私もしています」と公言する場面を観て、私は「2026年でも、まだ女性が性欲があると口にするのはためらわれるの?」と思ってしまって。

英子 分かってはいるんです。ただ、口にするかしないかの違いで。女性同士なら「あるよね」で済む話が、普段、妻以外の女性と接点のない男性には、届いていない。そこを反映した描写だな、と思いました。

OliviA 現代の性、という意味では、VRの描写も面白かった。私は、身体性を大事にする発信をしてきたので、正直、バーチャルな性行為はまだ理解しきれない自分がいて。

英子 私は逆で、VRがなくても、目をつぶって妄想するだけで“イケる”という方もいると思うんです。想像力さえあれば、あの世界観はありうる。カウンセリングの現場でも、アバターを使うアバターカウンセリングは、もう始まっています。

OliviA ドラマでは夫婦が最後、一緒にVRをする画面がありましたが、英子先生も指摘したように、あれは二人の“温度差”が鍵で。片方が「バカバカしい」と言った瞬間に、成立しなくなる。テクノロジーの話に見えて、実は二人の関係の話だったんですよね。

ボルダリングのシーンが、教えてくれたこと

英子 いちばん「これがセラピーの本質だ」と思ったのが、第1話。マスターベーションに依存した男性を、主人公がボルダリングに連れて行く場面です。「僕は、あなたの代わりにはなれない。一緒に登ってあげることもできない。でも、あなたが落っこちないように支えたり、ルートを指し示すことはできる」。これ、伴走という、セックスセラピーの本質を、そのまま説明していました。実際にボルダリングまではしませんが、あの比喩は、監修の先生の言葉なんだろうな、と。
とても正確でした。

OliviA 私、この作品にちょっと救われたんです。少し前に、カウンセリングがうまく進められなくて、落ち込んでいて。でも、作中で主人公が「一度のセッションで、魔法のようにレスが解消するわけではありません」と説明していた。精神科医のセックスセラピストでさえ、そう言う。
伴走することはできても、魔法ではない。
あそこで、深くうなずきました。

とぅるもち そこは、私もいつも悩むところで。ドラマだと動きがあるぶん、変化が早く見える。でも実際は、もっと時間がかかる。
「1〜2回のカウンセリングで変わる」というイメージが、日本には根強くある気がしていて。
最初に「これくらいの期間で、こう進めていきましょう」と提示した方が、来られる方も安心なのか。そこは、今も試行錯誤しています。

前編のまとめ

世間の「怪しい」というイメージと、現場の実際。プロでも崩れる思い込み。そして、セラピーとは“魔法”ではなく“伴走”であること。この作品を、実際にカウンセリングを行う三人で観ると、「答え合わせ」がいくつも出てきました。

後編では、この作品が正面から描いた「性加害」と「トラウマ」、そして、プロが“あえて、しない”こと。
専門職の倫理と、その根っこにある「傷つき体験」について、踏み込みます。

後編は、こちら。

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