【第4話】『忘却の魔法と、消された王国の名』(歴史王国編)
【前回までのあらすじ】
異世界「歴史王国(ヒストリア)」で、国王・雪也の「語り部」となった
女子高生・悠(はるか)。彼女は、自らの赤点テストに記された日本の
覇王・織田信長の物語を紐解く。
特権を破壊する「楽市楽座」や、合理性の追求が生んだ「鉄砲三段構え」。日本の革新的な歴史は雪也たちを驚愕させるが、悠はその光の裏にある
「焼き討ち」や「裏切り」、そして勝者によって塗りつぶされた敗者の沈黙という歴史の「闇」にも気づき始める。
「知識」が富や力に直結するこの国で、悠の語る言葉は単なる物語を超え、世界の均衡を揺るがす火種となりつつあった。13点のテスト用紙には書か
れていない、真実の探求が始まる。
前回のお話はこちら
『未来を拓く鍵か、破滅の炎か』
「……だから、信長は恐れられたんです。
神の力さえ否定し、自分の理想とする『八紘一宇』
――世界を一つの家族にするという夢のために、既存のすべてを焼き払った。彼は、歴史の破壊者であり、創造主でもあったんです」
語り終えた私の声が、広い城内にしんと響く。
雪也は組んだ指に顎を乗せ、深い思考の海に沈んでいた。
拓夜くんは、信じられないものを見るような目で、
テーブルの上の13点のテスト用紙を見つめている。
「……信長、か。凄まじい男だね。
だが悠、君の話を聞いていて、僕はふと恐ろしくなったんだ」
雪也さんが、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、知的好奇心とは別の、冷たい鋭さが宿っていた。
「既存の歴史を焼き払い、新しい世界を強制的に上書きする。
……それは、この世界の『魔法』に似ている。
悠、君がさっき言った『闇に葬られた歴史』の話、
それはこの世界では現実(リアル)なんだ」
「え……?」
「無限王国(むげんおうこく)。……聞いたことはないか?」
雪也の口から漏れたその名は、なぜか私の胸をざわつかせた。
聞いたこともないはずなのに、どこか懐かしく、そして悲しい響き。
「名前だけは、記録の隅に残っている。
だが、そこがどんな国で、誰が治め、なぜ消えたのか。
……僕たち『歴史王国』の人間ですら、その詳細を何一つ思い出せない。
まるですっぽりと、そこだけ地図から切り取られたように」
「それは……尚秋(なおあき)のせいだ」
拓夜が、苦々しく吐き捨てた。
「魔法王国の王、尚秋。あいつの『忘却の魔法』のせいだ。
あいつは都合の悪い存在を、歴史から、そして人々の記憶から根こそぎ
消し去る。
……無限王国も、あいつの手によって、最初から存在しなかったことに
されたのかもしれない」
私は、背筋に氷を押し当てられたような戦慄を覚えた。
島根の学校で習った、誰かの手で整えられた「13点の歴史」。
そして、この世界で魔法によって消された「無限王国の歴史」。
(……繋がっている。情報の改ざん、記憶の抹消
。形は違えど、本質は同じだ。
日本で歴史が教科書から消されるのと同じことが、
ここでは『魔法』で強制的に行われているんだ……)
窓の外では、異世界の星々が冷たく輝いている。
私は手元のテスト用紙を強く握りしめた。
(……信長が手にしたのは、未来を拓く鍵だったのか。
それとも、すべてを焼き尽くす破滅の炎だったのか)
もし、尚秋がこの世界の「勝者」として歴史を書き換えているのだとしたら。
魔法の影響を受けない「外の世界」から来た私の知識は、その偽りの平穏を壊す「毒」になるのか、それとも真実を照らす「光」になるのか。
「雪也さん。……私に、その『無限王国』について調べさせてください。
魔法で消されたのなら、魔法を知らない私の目なら、何かが見えるかもしれない」
雪也さんは、ニッと不敵な笑みを浮かべた。
「面白い。13点の語り部が、魔法王の作った『正解』に挑むというわけだね。……いいだろう。
拓夜、明日から悠を城の地下書庫へ案内しろ。
あそこには、忘却を免れた『塵』のような記録が眠っているはずだ」
「……へっ、面倒なことになりそうだな。だが、お前ならやりかねねえか」
拓夜くんが呆れたように笑う。
夜の静寂の中、私たちは静かに誓った。
消された歴史の、その先にある真実を暴くことを。
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