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【短編小説】「偽善」Ⅶ

【前編 後半】

そんな俺の考え方が変わったのは、ちょうど中学進学前の事だ。
確か、その日も雨が降っていた。

【前編からの続き】

うちの朝は早かった。
おふくろは毎朝5時には起きていた…と思う。
正直なところ、俺はおふくろが何時におきていたかは知らない。
100件近くの新聞配達をやって、家に戻ってくるのが8時前だったから、
そう思ってただけだ。
姉は6時におきて、家族の朝ごはんの支度をしていた。
姉が起きる時間は目覚ましが鳴っていたから、たぶん間違いない。

あれは俺が小学6年 11月、いつもの秋と同じように公園脇の道路に銀杏が落ちていた頃だ。
『銀杏って食べると旨いのに、道に落ちてるやつはなんで臭いんだろう。』
そう思い続けながら、調べはしない。踏まないようにするだけだ。
あいつは臭いだけじゃなく、踏むと【滑る】からだ。
これは実体験から学んだ。
『臭いうえに滑るなんて、最低じゃねえ?』
今でも俺はそう思っている。

俺と弟は朝が弱い。 毎朝、姉の
「ほら、いつまで寝てんの!遅刻するよ!」でやっと起きる。
でも、その日は姉の声がなかった。
布団からのそりと抜け出ると、俺は台所へ行った。
そこには、まな板の上に切りかけの大根と包丁が放置されていた。
みそ汁を作っている鍋には、まだ何も具が入ってなかった。

『飯作ってる途中で、腹でも痛くなったのかな?しょうがねぇな…。』と
俺は玄関を出た。 うちのトイレは家の外。共同便所だ。
あくびをしながら、家を出てトイレに行っても姉の姿はない。
用を足して家の方に向かってると、隣のおばさんが青い顔して俺をおっかけてきた。
「ちょっと、あんたんとこのお母さん、さっき救急車で運ばれたとよ!」
「えっ、なんて!」
まだ、普通の言葉さえ受け入れ態勢の整ってない状態。 
俺は単純な返答しかできなかった。
「お姉ちゃんから、頼まれたとよ。あんたと弟に知らせてって!」
「で、姉ちゃんは?」
「お母さんが運ばれた病院に行くってタイ!」

俺はおばさんからの説明を受けて、そのまま家に帰った。
台所に行って、切りかけの大根を刻んでみそ汁の鍋に入れた。
それぐらいは一人でできる。
ただ、一人じゃどうしようもできない事もある。
そして思った。
『またかよ…。』
(続く)

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