高知を綴る、8月のきろく
いつのまにか、蝉の鳴き声が聞こえなくなった。娘の小学校がはじまって、ほっとしているはずなのに、どこか寂しい。高知の8月はあまりにも短い。
今年こそ、よさこいに「踊り子」として挑戦したかったけど、昨年に続き娘の応援…というかお世話係になってしまった。練習の送迎、家でも振りを覚えるよう毎日の声かけ(ほぼケンカ)、当日のヘアメイクや熱中症予防。他のチームも見に行きたかったけど、演舞の空き時間にはトイレに連れて行ったり、アイスを食べさせたり、メダルをもらえないときのメンタルケアにと奔走した。よさこいの本祭では、1日に数カ所まわる競演場ごとに、何人かの踊り子がメダルをもらえる。ずっともらえなくて泣いてしまう子もいる。自分だけもらえないなんて、大人でも悲しいもんね。それでも心から楽しいといった笑顔で踊り続ける踊り子さんたちに、胸を打たれた。
衣装のお直しも大変だった。渡された衣装が小柄な娘には微妙に大きく、裁縫が苦手な私が手縫いで裾上げしたプリーツスカートは、なんとも不恰好な仕上がりになってしまった。
衣装練習はガタガタのまま行ってもらったが、やはりこのまま踊るのはかわいそうだ。本番までは一週間。どうしたものかと考えているとき、ふと、洋服を直してくれそうなお店があったことを思い出した。看板はなく、「洋服のお直しはこちら」といった小さな貼り紙があるだけのお店。ネットを検索してもなんの情報も出てこないが、とにかくのぞいてみようと、自転車を走らせた。
扉を開けて、「こんにちは〜」と声をかけると、奥から背中を丸めたおばあちゃんが、ため息をつきながら、ゆっくりと歩いてきた。
「すみません、娘のよさこい衣装のお直しをお願いしたくて」
おばあちゃんは、またため息をつき「ちょっと、今はね、やってないの。……嫌なことがあってね」と答えた。
「あぁ、そうなんですか」と帰ろうとしたが、なんだか様子が気になって、「嫌なことがあったんですね」と声をかけてみた。
するとおばあちゃんは、その出来事をぽつりぽつりと話し始めた。ここでは詳しく書けないけど、人間関係のトラブルのようだった。しょんぼりしているおばあちゃんの話を聞いていうちに、私までだんだん腹が立ってきて、2、30分くらい話し込んだ。「誰にも話せなかったけど、今話せてよかった」とおばあちゃん。
なぜか私までスッキリして「じゃあ、元気になってそうな頃に、ズボンの裾上げとかお願いしにきますね!」と店を出ようとすると、おばあちゃんが呼び止めてくれた。
「一回見せてくれる?」
衣装を出すと、おばあちゃんの表情が和らいだ。「こんな小さいの!かわいいねぇ」と言いながら、じっくりスカートを眺めて、それから「今の丈でよかったら、ここを縫って、裾上げできるよ」と丁寧に説明してくれた。うれしくて仕方なかった。「ほんとに?!週末には仕上がりますか?」と聞くと「もちろん!」と即答したおばあちゃんは、すごくかっこよかった。
翌々日、「アイロンはあててないけど、それでもよかったら、できたよ」と電話があった。今度は娘も連れて、出来上がったスカートを取りに行った。おばあちゃんは、娘を「かわいい、かわいい」とたくさん褒めてくれた。
スカートは、これ以上ないくらい美しかった。模様に沿って縫われていて、縫い目がまったく見えない。感動を伝えて、お会計をしようとした。そういえば、いくらなのかも聞いていなかった。財布を出して「おいくらですか?」と尋ねる。
「お金はね、もらってないの」
「いやいや!もらってください!払いたいです!」と言っても、「よさこいを頑張る子どもさんのためだから」と受け取ってくれない。押し問答の末、じゃあせめてと千円置いていこうとすると、おばあちゃんはそのお金を娘に渡した。
先月見た光景!!!!娘は、先月とまったく同じ「いいの?」という顔をした。よくない!よくないけど、いいよ。夏のお年玉第二弾。親切にしてもらったことを、ずっと覚えておいてね。お礼を言いながら「よさこい、頑張って!」の声に見送られて、お店をあとにした。
後日、お盆で帰省したお土産を持って、おばあちゃんに会いに行った。とても喜んでくれたおばあちゃんは、手渡したお土産を見つめながらこう言った。「どうしよう!おばあちゃんも何かあげたい!」
私だけじゃない。みんなで応援して、みんなで楽しむよさこい。よさこいがあるから、高知の人たちがまぶしく見えるのか、高知の人たちが明るいから、よさこいがまぶしいのか。いずれにせよ、昔からよさこいに慣れ親しんできた高知の人たちが、やっぱり羨ましい。





























