ダチョウ観察記録㉙ ~偉いね~
我が家にはダチョウがいる。
57歳のオスである。
今日は、子どもたちを連れて都内までミュージカルを観に行った。
ダチョウは休日だった。
しかしダチョウは、観劇などという文化的活動に興味を示さない。
正確に言うと、「子どもたちに一流の芸術を見せる」という発想自体が、あまり存在しないように思われる。
自分が見たいか、見たくないか。
判断基準は、だいたいそれだけである。
私だって、別にミュージカルが大好きなわけではない。
しかし、せっかく縁あって劇団四季の公演を無料で観られる機会に恵まれたのだ。
子どもたちに良いものを見せるのも、教育の一環だと思い、面倒ではあったが出かけることにした。
午前中から動き出し、途中、一悶着ありながらもランチを済ませ、観劇を終えた。
そして17時頃、最寄駅に戻ってきた。
事前に指令を出しておいたため、ダチョウが駅に待機していた。
私はそこで子どもたちをダチョウに託した。
考えてみれば、昨日はダチョウが休日出勤をしていたため、私は一日中、子どもたちの相手をしていた。
今日も昼間は子どもたちを連れて出かけた。
この後、私が一人時間を過ごす権利は、十分にあるはずである。
私は解放感を胸に、コンビニへ向かった。
とはいえ、数日前にダチョウが買ってきた値引きシール付きのピザが冷蔵庫に眠っており、すでに消費期限も過ぎていた。
本当は食べてはいけないのかもしれないが、早急に消費する必要がある。
つまり、今日の食事は完全に「自分の好きなものだけ」というわけにはいかなかった。
体重増加も気になるため、比較的糖質の少ないスイーツを一つ。
あとは20円引きになっていたカット野菜。
一人時間を楽しむための買い物としては、かなり質素な部類だと思う。
帰宅し、それらを食べ始めた。
ピザを食べ終わろうかという頃。
外から車の音がした。
時計を見る。
まだ19時である。
……もう終わりなのか。
ダチョウは、早々に子どもたちとの時間を切り上げてきたのである。
腹が立った。
不公平にも程がある。
子どもたちは、お風呂に入る際、「怖い」と言って、自分たちだけでは風呂場へ行くことができない。
そのため、誰かが脱衣所で付き添わなければならない。
平日はダチョウがいないので、当然、私が担当している。
今日はダチョウにやらせることにした。
先に入るお嬢に、
「とーちゃん呼んできて」
と伝える。
しかし、お嬢はなかなか動かない。
まず、そこでイライラする。
ようやくダチョウのところへ行った。
しかし今度は、ダチョウの動きが悪い。
寝転がっている場所から、なかなか移動しないようである。
さらにイライラする。
やがて、お嬢がお風呂場へ入ったようだった。
私は少し安心した。
その時である。
ダチョウの大きな声が聞こえた。
「偉いね。」
次の瞬間。
「ギャーーー!!」
お嬢の絶叫が響き渡った。
何が起きたのか。
なぜ、このタイミングで「偉いね」なのか。
私には全く理解できなかった。
ただ一つ分かるのは、怖がりのお嬢が、余計に怖くなってしまったという事実だけである。
お嬢は、不機嫌になるとダンゴムシのように丸まる。
その後、二番手の息子が風呂場へ向かうと、ダンゴムシ状態のお嬢が、入れ替わるようにリビングへ戻ってきた。
その目には、憎しみが宿っていた。
怒っているのは分かる。
しかし、その矛先が私に向けられるのは、少々納得がいかない。
ひとしきり泣き、鼻をかみ終えたところで、私は聞いた。
「その後、とーちゃん、何か言った?」
お嬢は答えた。
「……何も言わなかった。」
出た。
必殺、「……」である。
ダチョウは、本当に役に立たない。
何をやらせても、最終的に飼育員が後始末をすることになる。
家事や育児の不公平感を少しでも緩和しようと、ダチョウに仕事を割り振る。
しかし結局、
「最初から自分でやっておけばよかった」
という結論に至るのである。
最近の飼育員は、思う。
関わらないこともまた、一つの飼育技術なのではないか、と。
遠い目になる飼育員であった。
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