aは「1つ」、theは「その」じゃない。冠詞は「共有情報」を管理している。
今回で一区切りです。冠詞です。最初に目次を作った時に最後に冠詞なのが伏線回収っぽくていいなと思ってたんですが、伝わったら嬉しいです。
↑前回記事です。
4.3 冠詞:「共有情報」を管理するアクセスシステム
第 4 章では、情報を聞き⼿へ効率よく届けるための仕組みを⾒てきた。
接続詞では、出来事同⼠の関係を明⽰することで、聞き⼿が情報を整理しやすくした。
分詞構⽂では、⽂脈から復元できる情報を省略することで、背景情報の中⼼を保ちながら、よりコンパクトに伝えた。
では、話し⼿は「何について話しているのか」を、どのように聞き⼿へ伝えているのだろうか。
その役割を担うのが冠詞である。
学校⽂法では、冠詞は“a / an”は「⼀つの」 、
“the”は「その」などと教えられることが多い。
しかし、これだけでは、なぜ
I bought a book.
の次が
The book was expensive.
になるのか。
あるいは、
Open the window.
のように、初めて登場する名詞でも the が使われるのかを⼗分に説明できない。
冠詞が管理しているのは、単なる「数」だけではない。名詞がどのような単位で捉えられ、聞き⼿がその対象を特定できる状態にあるかを⽰しているのである。
会話には「共有リスト」がある
会話では、話し⼿と聞き⼿は、お互いの頭の中にある情報を少しずつ共有しながら話を進めている。
例えば、
I bought a book.
と⾔われたとき、聞き⼿は「本」という存在は理解できる。しかし、どの本なのかはまだ知らない。
つまり、 「本が⼀冊ある」という情報だけが、新しく共有された状態である。そこで次に、
The book was expensive.
と⾔えば、聞き⼿は、 「さっき出てきたあの本だな」と理解できる。
つまり、
“a”は新しい対象を共有世界へ導⼊し、
“the”は、すでに共有されている対象へアクセスしているのである。
a/an は「新しい対象」を登録する
まず、会話の中へ具体的な対象を導⼊する場合から考えよう。例えば、
I saw a dog.
という⽂では、聞き⼿は、 「⽝を⾒た」ということは分かる。しかし、どの⽝なのかはまだ知らない。つまり話し⼿は、聞き⼿の認知へ、新しい対象を⼀つ導⼊しているのである。
だから、次の⽂では、
The dog was sleeping.
と⾔える。その⽝は既に⼆⼈の間で共有されているからである。重要なのは、“a”が単に「⼀つ」という数だけを表しているのではないということである。聞き⼿にとって新しい対象を、⼀つの個体として導⼊しているのである。
the は「共有されている対象」へアクセスする
⼀⽅、“the”は、必ずしも前に登場した名詞だけに付くわけではない。
例えば、
Open the window.という⽂を考えてみよう。この窓は前の⽂で⼀度も登場していない。それでも“the”が使われる。なぜなら、話
し⼿も聞き⼿も、「この部屋の窓」がどれなのかを共有できるからである。⼆⼈とも同じ場⾯を⾒ているため、
その対象を特定できるのである。
つまり、“the”が表しているのは、
前に出た名詞
ではなく、
聞き⼿が特定できる対象
なのである。
だから前に登場していても、聞き⼿がどれか分からなければ“the”は使えない。逆に、初登場でも共有できる対象なら the が使えるのだ。本書では、話し⼿と聞き⼿が対象を特定できる状態を、広い意味で「共有されている」と捉える。
冠詞を付けないという選択
Water is essential.
Dogs are friendly.
ここでは、特定の⼀つの⽔や⽝を共有世界へ登録しているわけではない。water は物質として、dogs は種類全体として捉えられている。
つまり、冠詞を付けない形は、対象を⼀つの個体として切り出したり、特定の対象へアクセスしたりせず、物質・種類・概念として⼀般的に提⽰する選択なのである。
このように、a/an は新しい個体を導⼊し、the は特定可能な対象へアクセスし、冠詞を付けない形は対象を個別化せずに提⽰する。
第 0 章とのつながり
ここで、第 0 章を思い出してほしい。英語では、
聞き⼿がすでに知っている情報(旧情報)
から、
まだ知らない情報(新情報)
へ向かって⽂を組み⽴てる傾向があることを⾒た。冠詞もまた、この考え⽅に従っている。
“a/an”は、聞き⼿にとって新しい対象を導⼊する。
“the”は、すでに共有されている対象へアクセスする。
冠詞を付けない形は、対象を新旧の個体として扱わず、物質・種類・概念として⼀般的に提⽰する。
つまり、冠詞とは、名詞そのものではなく、話し⼿と聞き⼿の認知状態を⽰しているのである。
可算・不可算は「登録単位」の違い
ここで初めて、可算名詞と不可算名詞の話が理解できる。
可算名詞として⽤いられるとき、話し⼿は対象を⼀つ⼀つ独⽴した個体として捉えている。
不可算名詞として⽤いられるとき、対象は明確に区切らず、連続した物質や概念として捉えられている。
つまり、可算・不可算とは、対象そのものに固定された性質というより、話し⼿がその対象を個体として区切って共有世界へ登録するのか、連続した物質・概念として捉えるのかという違いなのである。
冠詞の本質
学校⽂法では、冠詞は名詞に付く細かなルールとして扱われることが多い。しかし、本質はそこにはない。
冠詞とは、話し⼿と聞き⼿の間で、
「この対象はもう共有されているのか」
「今、新しく共有する対象なのか」
を管理するための仕組みである。“a/an”は、聞き⼿の認知へ新しい対象を導⼊する。
“the”は、すでに共有されている対象へアクセスする。
冠詞を付けない形は、対象を個別化せず、物質・種類・概念として提⽰する。
つまり冠詞とは、対象をどのような単位で捉え、どの程度特定可能なものとして提⽰するかを管理する、認知上のアクセスシステムなのである。
対象をどのような単位で捉えるか決める
↓
新しい個体として導⼊する/⼀般的な概念として提⽰する
↓
特定可能になった対象へアクセスする
↓
話し⼿と聞き⼿が同じ対象を共有しながら会話を進める
第 4 章のまとめ
第 4 章では、情報を聞き⼿へ効率よく届けるための仕組みを⾒てきた。
接続詞は、出来事同⼠の論理関係を明⽰し、聞き⼿が情報を整理しやすくするシステム。
分詞構⽂は、⽂脈から復元できる情報をあえて省略し、中⼼となる背景情報を保ちながら、より少ない表現で伝える情報圧縮のシステム。
そして冠詞は、話し⼿と聞き⼿が対象をどのような単位で捉え、どこまで特定できるかを管理し、共通の認識へ適切にアクセスするためのシステムであった。
⼀⾒すると、それぞれ異なる⽂法項⽬に⾒える。しかし、その⽬的は共通している。聞き⼿が、できるだけ少ない負荷で、正確に情報を理解できるようにすることである。英語は、ただ⽂法規則に従って単語を並べているのではない。必要な情報は明⽰し、明⽰する必要のない情報は省略し、共有されている情報を適切に管理することで、情報伝達を最適化しているのである。
みなさまご愛読ありがとうございました。アクセス数など、大変参考になったというか視聴率という点では貴重なデータでした。インプレ数とビュー数見られるようになったので、入り口が良いのか記事内容がいいのかも分析できてgood.
何分初稿なので、理論的に危ういところ、今読み直すと多々あります。ご容赦ください。
ひとまず今年の総合探究学習終了でございます。
