接続詞は「文と文をつなぐ語」じゃない。
前回仮定法の話でした。
公開してるのは書き切った瞬間の版というか修正前の荒い原稿なんですが、やっぱ穴というか言い過ぎというか結構多いですね。まあいいや。
【第 4 章 情報伝達の最適化システム:整理・圧縮・共有】
第 3 章では、英語が組み⽴てた出来事を、現実世界のどこへ位置付け、どのような視点から捉え、そこへどのような⼼的態度を加えるのかを⾒てきた。
まず、出来事を⾔語世界の中へ位置付ける。これが時制である。
次に、その出来事をどのような⾓度から眺めるかを決める。これが相である。
そして、その出来事に対する推量・義務・可能性・⾮現実性など、話し⼿⾃⾝の⼼的態度を加える。これがモダリティである。
ここまでの操作によって、⼀つの英⽂を作るために必要な情報は、ほぼ完成したことになる。しかし、現実のコミュニケーションは、⼀つの完成した⽂を相⼿へ放り投げれば終了、というほど親切にはできていない。私たちが実際に伝えたい内容は、いくつもの出来事や判断が連なったものである。
例えば、次の⼆つの⽂を考えてみよう。
It was raining.
The game was canceled.
「⾬が降っていた。」 「試合は中⽌になった。」それぞれの⽂が表す内容は明確である。しかし、この⼆つの出来事がどのような関係にあるのかは、まだ⽂法的には⽰されていない。
⾬が降ったために、試合が中⽌になったのかもしれない。
⾬が降った後に、試合が中⽌になったのかもしれない。
⾬が降ったときに、試合の中⽌が発表されたのかもしれない。
⼆つの出来事を並べただけでは、聞き⼿はその関係を⽂脈から推測しなければならない。もちろん、⼈間はある程度なら推測できる。毎回すべてを説明しなければ会話が成⽴しないほど、我々の脳も絶望的には作られていない。
しかし、伝える情報が⻑く複雑になるほど、聞き⼿へ推測を丸投げすることには限界がある。
次に来る情報は、前の内容に追加されるのか。
反対⽅向へ展開するのか。
原因を説明するのか。
条件を提⽰するのか。
それとも、話し⼿と聞き⼿の間ですでに共有されている情報なのか。
こうした情報の関係を整理し、必要に応じて圧縮し、聞き⼿との共有状態まで管理するのが、本章で扱う
「情報伝達の最適化システム」である。
本章では、次の三つの仕組みを⾒ていく。
接続詞:情報同⼠の論理関係を可視化し、次にどのような展開が来るのかを案内するシステム
分詞構⽂:⽂脈から復元できる情報を省略し、複数の情報を圧縮して届けるシステム
冠詞:名詞が話し⼿と聞き⼿の間で共有されているかを管理するシステム
第 2 章では、複雑な内容を部品へ整形し、⽂の中へ組み⽴てた。
第 3 章では、その出来事を現実世界へ位置付け、話し⼿の捉え⽅や⼼的態度を加えた。
そして第 4 章では、完成した情報を、聞き⼿が迷わず、無駄なく、正確に処理できる形へ調整していく。
ここで扱うのは、新しい出来事を作るための⽂法ではない。すでに作られた情報を、どのように相⼿へ届けるかを設計する⽂法である。英語という情報処理 OS の、いわば最終出⼒の段階へ進もう。
4.1 接続詞:「論理を可視化する」脳内ナビゲーションシステム
学校⽂法では、接続詞は「語と語、句と句、⽂と⽂をつなぐ語」と説明されることが多い。もちろん、これは形式上正しい。and は追加、but は逆転、because は理由、if は条件を⽰す語として覚える。⼆つの⽂を⼀つにつなげるための語として、⽳埋め問題や並べ替え問題にも頻繁に登場する。
しかし、接続詞の働きを単に「⼆つの⽂をくっつける接着剤」として捉えるだけでは、なぜ接続詞が必要なのかという、もう⼀段深い部分が⾒えてこない。接続詞が本当に⾏っている仕事は、⽂を物理的につなぐことではない。⼆つの情報が、どのような論理関係にあるのかを聞き⼿へ⽰すことである。
章序で⾒た⼆⽂に because を加えてみよう。
The game was canceled because it was raining.
すると、⼆つの情報の間にある「原因と結果」という関係が明確になる。
試合が中⽌になった
↓ なぜなら
⾬が降っていたから
because は新しい出来事を作ったわけではない。「⾬」と「中⽌」という⼆つの情報は、もともと存在している。because が追加したのは、両者の間にある論理的な⽮印である。
つまり、接続詞とは、情報と情報の間にどのような道が通っているのかを⽰す道路標識のようなものだと考えると分かりやすい。
and が現れれば、聞き⼿は「前の情報に何かが追加される」と予測する。
but が現れれば、「ここから予想とは反対⽅向へ進む」と⾝構える。
because が現れれば、「これから理由や原因が説明される」と分かる。
if が現れれば、「これから⽰される条件の中で話を理解すればよい」と準備できる。
接続詞は、次の情報が到着する前に、その情報をどのように処理すべきかを聞き⼿へ予告しているのである。
接続詞がなければ、論理の道筋は⾒えにくい
次の三つの⽂を⾒てみよう。
Tom studied hard.
He failed the exam.
He did not give up.
それぞれの英⽂は単純であり、意味も分かる。
トムは⼀⽣懸命勉強した。
彼は試験に落ちた。
彼は諦めなかった。
しかし、三つの情報がどのようにつながっているのかは明⽰されていない。聞き⼿は、常識や⽂脈を頼りに関係を組み⽴てることになる。ここへ接続表現を加えてみよう。
Tom studied hard, but he failed the exam. However, he did not give up.
トムは⼀⽣懸命勉強したが、試験に落ちた。しかし、彼は諦めなかった。
but が現れた時点で、聞き⼿は「⼀⽣懸命勉強したなら合格するだろう」という⾃然な予想が裏切られることを知る。
さらに However が現れると、「試験に落ちた」という否定的な流れから、再び別の⽅向へ展開することが予告される。
情報の内容そのものは⼤きく変わっていない。しかし、読み⼿が進むべき論理の道筋は、はるかに⾒えやすくなった。これが、接続詞や接続表現による論理の可視化である。
なお、厳密な⽂法分類では、but は接続詞であり、however は接続副詞と呼ばれる。両者は⽂の中での振る舞いが異なるため、英⽂を実際に作る際には区別する必要がある。ただし、情報処理という視点から⾒れば、どちらも「これから論理の向きが変わる」と聞き⼿へ案内する働きを持っている。本節では必要に応じて、接続詞だけでなく、⽂と⽂の論理関係を⽰す接続表現にも触れていく。
接続詞は、次の情報を予告する
⽂章を読むとき、私たちの脳は、⽬の前にある単語だけを⼀語ずつ処理しているわけではない。前の内容を踏まえながら、次にどのような情報が来るのかを予測している。
例えば、
He was tired, but ...
と聞いた時点で、聞き⼿は後ろに単なる追加情報が来るとは考えにくい。
He was tired, but he continued working.
のように、「疲れていた」という内容から⾃然に予想される結果とは反対の情報が続くと準備する。
⼀⽅、
He went to bed early because ...
と聞けば、「早く寝た理由」がこれから⽰されると予測する。
He went to bed early because he was tired.
because を聞いた時点で、聞き⼿の脳内には「理由を受け取るためのスペース」が⽴ち上がっている、と考えることができる。
接続詞は、後ろの情報がすべて到着してから関係を判断させるのではない。接続詞が現れた瞬間に、その後の情報をどの⽅向へ整理すべきかを先回りして⽰す。
つまり、
接続詞
↓
次に来る論理関係を予告する
↓
聞き⼿が情報を処理する準備を整える
↓
複数の情報を迷わず理解できる
という流れである。
接続詞とは、単なる連結記号ではない。読み⼿・聞き⼿の脳内へ、これから進む論理の⽅向を⽰すナビゲーションシステムなのである。
接続詞が⽰す四つの基本⽅向
接続詞が案内する論理関係は⾮常に多い。しかし、まずは⼤きく四つの⽅向から考えると整理しやすい。
① 追加・並列:同じ⽅向へ情報を⾜す
Tom plays soccer, and he also plays tennis.
and は、前の情報と同じ⽅向へ、新しい情報を追加する。
トムはサッカーをする。
↓ さらに
テニスもする。
聞き⼿は and を聞いた時点で、前の内容を否定したり、理由を説明したりする情報ではなく、同じ話題に関する情報が追加されると予測できる。
and の基本的な働きは、⼆つの情報を対等な位置へ並べることである。ただし、and が⽰す関係は、単純な追加だけとは限らない。
He opened the door and entered the room.
この⽂では、「ドアを開けた」「部屋へ⼊った」という⼆つの出来事が並べられているが、通常はその語順から、前者の後に後者が起きたと理解される。and ⾃体が常に「その後」を意味するわけではない。⼆つの出来事
の性質と並べられた順序によって、時間的な流れが読み取られるのである。ここは、and を機械的に「そして」と訳すだけでは⾒えにくい部分である。
② 逆転・対⽐:予想とは違う⽅向へ曲がる
He was tired, but he continued working.
普通に考えれば、疲れていれば仕事をやめるか、休むと予想される。しかし実際には、彼は仕事を続けた。
but は、前の情報から⽣まれる⾃然な予測と、後ろの事実との間にずれがあることを⽰している。
疲れていた。
↓ 普通なら休むはず
しかし
↓
仕事を続けた。
つまり but は、単に⼆つの反対語を結ぶ接続詞ではない。聞き⼿の中に⽣まれた予測を修正し、論理の進⾏⽅向を切り替える標識なのである。
同じような⽅向転換は、although や though にも⾒られる。
Although he was tired, he continued working.
この⽂では、最初に although が⽰される。そのため聞き⼿は、「疲れていた」という情報を最終的な結論として受け取らない。後ろに、それを乗り越える内容が続くとあらかじめ予測できる。
but が途中で進⾏⽅向を曲げる標識だとすれば、although は⽂の⼊⼝で、「この内容から普通に予想される結論
とは違う⽅向へ進みます」と案内する標識だと考えられる。
③ 因果:原因と結果を結ぶ
The game was canceled because it was raining.
この⽂では、「試合の中⽌」が結果であり、「⾬」が原因である。because は、後ろの情報を前の出来事の理由として処理するよう聞き⼿へ指⽰する。
⼀⽅、
It was raining, so the game was canceled.
では、「⾬」という原因が先に⽰され、so によって「その結果」が後ろに続くことが予告される。because と soは、どちらも原因と結果を結ぶ。しかし、情報の流れる⽅向が異なる。
• because:結果 → 原因
• so:原因 → 結果
The game was canceled because it was raining.
「試合は中⽌になった。なぜなら⾬が降っていたからだ。」
It was raining, so the game was canceled.
「⾬が降っていた。その結果、試合は中⽌になった。」
話し⼿がどちらの情報を先に提⽰し、どちらを後から説明したいかによって、選ばれる形が変わる。
ここでも接続詞は、単に⽂をつないでいるのではない。原因と結果のどちらから論理を展開するのかを設計しているのである。
④ 条件・場⾯設定:主節を理解する枠組みを作る
If it rains, the game will be canceled.
if は、「これから述べる内容は、ある条件が成⽴した場合の話である」と聞き⼿へ知らせる。
⾬が降る
↓ この条件の中では
試合が中⽌になる
if が⽂頭に置かれると、聞き⼿はまず条件となる世界を設定し、その範囲の中で主節の内容を理解する。
同じように、
When I got home, my mother was cooking dinner.
では、when 節が後ろの出来事を理解するための時間的な場⾯を設定している。
私が帰宅したとき
↓ その時間的な場⾯では
⺟が⼣⾷を作っていた
if や when の従属節は、主節と対等に新しい出来事を並べるというより、主節をどの条件・時間・状況の中で理解すべきかを⽰す背景として働く。
第 2 章で扱った副詞化を思い出してほしい。副詞節は、主節が表す出来事全体へ、理由・条件・時間などの背景情報を外付けする部品だった。本節では、そこからさらに⼀歩進み、その副詞節を導く接続詞が、聞き⼿へどのような論理関係を案内しているのかを⾒ているのである。
等位接続と従位接続:並べるか、背景を作るか
学校⽂法では、接続詞は⼤きく「等位接続詞」と「従位接続詞」に分けられる。この区別も、情報操作として捉えると分かりやすい。and や but などの等位接続詞は、基本的に⼆つの情報を対等な⾼さへ並べる。
Tom was tired, but he continued working.
「疲れていた」と「仕事を続けた」は、どちらも⽂の中⼼となる情報として提⽰されている。
⼀⽅、because, if, when, although などの従位接続詞は、⼀⽅の情報を、もう⼀⽅を理解するための背景や条件として組み込む。
Because Tom was tired, he went to bed early.
中⼼となるのは、「彼が早く寝た」という主節の出来事である。「彼が疲れていた」という because 節は、その出来事の理由を⽰す背景として働いている。
つまり、
等位接続:⼆つの情報を対等に並べる
従位接続:⼀⽅を中⼼に置き、もう⼀⽅を背景として組み込む
という違いである。これは単なる⽤語上の分類ではない。話し⼿が、⼆つの情報をどのような関係として聞き⼿へ⾒せたいかの違いである。
接続詞を置く位置と情報の流れ
従属節は、主節の後ろだけでなく、前に置くこともできる。
I stayed home because it was raining.
Because it was raining, I stayed home.
どちらも「⾬が降っていたので、私は家にいた」という因果関係を表している。しかし、情報の提⽰順は異なる。
I stayed home because it was raining.
では、まず「家にいた」という中⼼的な出来事を提⽰し、その理由を後から説明している。
Because it was raining, I stayed home.
では、最初に「⾬が降っていた」という理由を背景として提⽰し、その上で「家にいた」という出来事を⽰している。
前者は、起きた出来事を先に⽰してから「なぜか」を説明する流れである。
後者は、聞き⼿が主節を理解するための背景を先に⽤意する流れである。
接続詞の意味が同じでも、節をどこへ配置するかによって、聞き⼿が情報を受け取る順番は変わる。ここにも、第 0 章で扱った情報構造の考え⽅が働いている。
英語は、単に⽂法的に正しい節を並べているのではない。話し⼿は、聞き⼿がどの情報を先に知っている必要があるのか、どの情報を中⼼として受け取ってほしいのかに応じて、情報の順序を調整することができる。
ただし、従属節を前に置けば必ず旧情報になり、後ろに置けば必ず新情報になる、と機械的に決まるわけではない。実際の焦点は、⽂脈や強勢によって変化する。
本書で重要なのは、「前ならこの意味、後ろならこの意味」と新しい暗記項⽬を増やすことではない。節の位置もまた、聞き⼿が情報を処理する順序を設計するために選ばれているという視点である。
接続詞の本質
ここまで⾒てきたように、接続詞は単に⼆つの⽂をつなぐ記号ではない。
and は、情報が同じ⽅向へ追加されることを⽰す。
but や although は、聞き⼿の予想とは異なる⽅向へ論理が転換することを⽰す。
because や so は、⼆つの情報を原因と結果として結び付ける。
if や when は、後ろの出来事を理解するための条件や場⾯を設定する。
それぞれが表す関係は異なる。しかし、共通する働きは⼀つである。接続詞は、次の情報をどのような関係として処理すべきかを先回りして⽰し、聞き⼿の理解を導いている。
つまり、接続詞とは、
情報 A
↓
接続詞によって論理の⽅向を⽰す
↓
情報 B をどのように理解するか予告する
↓
聞き⼿が迷わず処理できる
という情報伝達システムである。
学校⽂法では、接続詞ごとの訳語や⽂法形式を学ぶ。当然、それらを正確に使い分けるためには、形を覚えることも必要である。しかし、その背後には⼀貫した設計思想がある。
接続詞とは、⾔葉と⾔葉を機械的に接着する部品ではない。第 0 章では、英語は情報を聞き⼿が処理しやすい順に並べる⾔語であると⾒た。接続詞は、そこへさらに情報同⼠の論理関係を⽰し、聞き⼿が次の内容をどう受け取るべきかを案内する。つまり、複数の情報の間にある論理を可視化し、読み⼿・聞き⼿を次の情報まで導くナビゲーションシステムなのである。
次回分詞構文です。
