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【小説・ヴィーナス症候群】(706)豊かな町の福祉

福祉分野を専門にするフリーライターの神俣葵は、あの春の嵐のあと、白骨で見つかった男のことが頭から離れなかった。
壁に残された言葉は、制度そのものに向けられた呪いのようだった。(685

おそらくは、自治体に余力がなかったのだろう。そう考えて検索した。
だが表示された数字は、その仮説をあっさり否定した。
財政力は県内でも上位、地方交付税は不交付。
原発があるような市町村と同じくらいには、金はある。

だったらなぜ。

気づいたときには、新幹線の中にいた。
名古屋で降り、在来線に乗り換える。車窓の向こうに、煙突が何本も立っていた。海沿いの工場群。金を生む風景だ。

駅を出て、商店街に入る。
人は少ない。だが、店先だけが妙に整っている。

「月初セール」

カップ麺、レトルト、小分け米。
値札はすべて、同じ“買いやすい額”に揃えられている。

ああ、これは――。

月初。多くの自治体で、生活保護の支給日。
一人暮らしの受給者が、まとめて買う品目。

この町は豊かだ。
工場が税を生み、自治体は潤う。
同時に、その影に引き寄せられるように、困窮者も集まる。
そしてその消費が、商店街をかろうじて支えている。

見えるはずのないものが、はっきり見えた気がした。

だが――。

ではなぜ、あの男は、その流れに乗れなかったのか。

葵は歩きながら、質問を組み立て直す。
制度か、運用か、それとも――。

やがて、庁舎のコンクリートが見えてきた。
自動ドアの向こうに、答えがあるとは思えなかったが、それでも行くしかなかった。

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#神俣葵

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